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第3章 公爵令嬢の選択

第22話 ローゼ=ローゼマリー王女?

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 応接室では、ヴィレッタとアデルが向き合って座り、エマさんはティーセットを用意して、扉の前で待機の姿勢。
 ベレニスとフィーリアが窓際で待機。
 私とリョウが、ヴィレッタの背後に立った。

 邪教は街に協力者を用意するという情報、フィーリアとベレニスが襲撃された直後の夜。
 万が一を考慮したリョウの防衛布陣であった。

 私たちの配置に、刺客と疑われていると察したアデルが、剣気を消していった。
 私がリョウに視線を向けると、彼も剣気を消した。

 アデルは、ヴィレッタに深く頭を下げたあと語り始める。
 
「ヴィレッタ様が民間の冒険者を雇ったと耳にし、もしやと思って参った次第です。
 軍に籍を置く身として、公爵令嬢様、それも陛下に嫁ぐ御方に何かあれば一大事ですからな」
「わざわざありがとうございます。
 ですが、まだ学生の身ですので、軍のお力を借りるつもりはございません。
 陛下にも了承を得て、私費にてこの方々を雇っております」
 
 ヴィレッタは平静に対応しているが、内心はどう思ってるのだろう?う~ん、読めない。
 
「少年。アラン傭兵団の皮鎧を着ているな。
 その昔、儂もアラン傭兵団に所属していたことがある」

 おや?アデルの興味が、リョウの方へ向いていったぞ。
 
「はっ。存じております。俺の名はリョウ・アルバース。
 以後お見知り置きを」
「うむ。いい面構えだ。
 娘のオルタナから手紙で聞いておる、何でもとても腕が立つそうだな。
 そちらのお嬢さんが魔女のローゼさん。
 エルフのお嬢さんがベレニスさん。
 ビオレールでは娘が世話になったと聞いている」
「いえいえ、どっちかと言うとお世話になったの私たちでして。……まあ、酷い目にも遭いましたけど」

 後半はボソッと囁く。

 純粋に戦闘を愉しみたいとリョウと一騎討ちした時は、ホント肝を冷やしたし。
 
「奇縁だな。王都でこうして、娘と縁があった者たちが公爵令嬢様の護衛をしているとは」

 アデルは微笑してお茶に口をつける。
 ヴィレッタも、カップを手に取り優雅に啜る。
 
「ところで、もう一つ、ちと気になる噂を耳にしましてな。10年前の先王陛下の病死に関する疑惑の噂です」

 アデルの耳にも入っているということは、相当噂が広まっているということなのかも。
 
「わたくしも噂を耳にしております。
 王女殿下は、実は生存しているとも」
「……いかが思われますかな?
 葬儀の時に、レスティア公爵令嬢様が王女殿下の棺に花を捧げた際、こう叫んだのを思い出しましてな。
『ローゼ様ではない』と」

 え?そうなのヴィレッタ。
 
「幼き頃の、仕える主を喪った錯乱により発した戯言です。お忘れください」

 ヴィレッタは、強い意志を感じさせる口調で否定した。

 アデルは苦笑し、私は安堵するが……
 
「ローゼ様……ローゼマリー様だから愛称として、そうお呼びしてましたなあ。
 在りし日を懐かしく思います。
 ……ところで、そなたもローゼと呼ばれているが愛称なのかね?」

 アデルの視線が私へと向けられる。
 
「いえ、ローゼ・スノッサがフルネームです」

 そう告げた私に、アデルは視線をヴィレッタへと戻す。
 
「ヴィレッタ様は、この魔女ローゼをいかがお思いですかな?」

 これは、私に疑惑を抱いて訪れたのだと確信する。
 ただ疑惑止まりなのだろう。
 確信したならば、こんな問答をアデルはしてこないはずだ。

「彼女は魔女であり、優秀な護衛者であると認識しております」

 ヴィレッタはカップを置き、アデルの目を見据えて告げた。
 
「ははあ、なるほど……魔女ローゼさんに最後に一つ質問よろしいかな?
 もし王女殿下が生存しているなら、野心を抱き王政に介入を企むであろうか?
 似た名前のよしみで答えてくれないかね?」

 嘘はつけない。
 本心で話そう。
 
「……生存説があるにも関わらず、未だ存在を確認できないのは生存説そのものが間違いか、王女様自身に野心はなく、王族の身分を放棄しているのかと思います」

「ははあ、なるほど」

 アデルが納得したかどうかはわからなかった。
 ただ、夜分失礼しましたと告げて去るアデルの後ろ姿は、昔と変わらず頼もしく見えた。

 ふひ~、疲れた~。
 
「アデル・アーノルド殿が襲撃者ではなくて良かった。
 さすがはオルタナ殿の父君で、団長と並び称される七剣神。万に一つも勝てる気がしない」

 リョウも、どっと疲れた表情を浮かべていた。

「あんまり自分のことを喋らないから、嘘を言ってるかよくわかんなかったわ。
 邪教の協力者って、どこにどう潜んでるかわかんないのが難点ね」
「アデル準男爵の立場が単身で現れたっす。
 何か他に意図があったと考えておくべきっすね」

 ベレニスとフィーリアも緊張の糸を解いた。 
 
「左様な疑いを、あの御仁にしたくはございませんが……何もなくて安心いたしました。
 さて、皆様。もう遅い時刻です。
 お休みして明日に備えて下さい」

 ヴィレッタが明るく振る舞いながら告げると、ベレニスとフィーリアが大きな欠伸をした。

 ***
 
 一方、アデルはレスティア公爵邸を出るとポールとオルガと合流する。
 
「如何でしたかな?アデル殿から見て、魔女ローゼと名乗る者はローゼマリー王女で間違いなかったですか?」

 ポールが問いかけると、アデルは首を横に振った。
 
「いえ、別人でしょう。
 王女殿下の幼馴染であった、レスティア公爵令嬢の振る舞いも観察しました。
 ですが王女を匿って何かを企んでる様子も、裏の組織と繫がってる様子もございません。
 陛下も了承して、魔女ローゼを雇っているとも申しておりました。
 ならば陛下の手の者も、あの冒険者たちを調べてるはずです。
 本物の王女殿下でしたら、とっくに陛下が動いてるでしょう」
 
「そうですかい。アデルの旦那がそう言うのであれば、残念だがそうなんでしょうねえ。
 王女生存という吉報を、民衆に届けられなくて残念でさぁ」
「急な申し出を引き受けていただき感謝します。
 アデル殿、何かあればルインズベリー家を頼ってください。
 出来うる限り、お力になりましょう」
「いえいえ公爵家のお力添えなど、儂には分不相応です。
 お気持ちだけ頂きます。ではこれにて」

 アデルはそう答え一礼して帰路に着いた。

 その後ろ姿を、ポールとオルガは口元を歪ませて見送るのだった。
 
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