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第3章 公爵令嬢の選択

第19話 進路

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 貴族の子弟が通うだけあって、王立学校の食堂はテーブルには純白のクロスが掛けられ、椅子も木製で、脚の部分に金の装飾が施されている豪華な造りだ。
 
 食堂の奥には厨房とカウンターがあり、そこで学生は料理を受け取る仕組みのようだった。
 
 今は昼時で多くの学生で賑わっている中、私はサーモンのムニエルに、パンとスープがついたものを注文する。
 ヴィレッタは鴨肉のローストにサラダとバケットを付けたものを選び、リョウは肉オンリーなメニューを注文した。
 
 いやいや、それどう見ても怪しい肉だぞ。
 値段もめっちゃ安いし、他の学生で頼んでいる人いなさそうなんだけど。
 てか野菜も食え、野菜も。
 
「そんな料理なのですね。初めて見ました。
 時々、裏メニューであるとは耳にしてましたが」

 ヴィレッタが興味深そうに、リョウの皿に盛られた牛でも豚でも鶏でもない、謎の肉を見て呟く。
 
「それって何の肉なの?料理名、何だっけ?
 ていうか、お肉だけじゃなく野菜も採らなきゃ駄目っていつも言ってるのに」

 空いている席に座ってから私が注意すると、リョウは目線を逸らした。
 ……子供か!
 
「これは俺の故郷ではよく食べられてる馬肉だ。
 まさかこんなところで食べられるとは思わなかった」

 リョウが牛でも豚でも鶏でもない謎の肉の正体を教えてくれる。
 馬肉!え?馬を食べるの?
 
 後で聞いたけど、偶に王立学校で不要になった馬の処分で、料理として提供されているらしい。
 そこそこ人気があるそうだ。
 
「東方のパルケニアやレアードでは有名ですね。
 リョウ様はそちらの出身でしたか」

 優雅に食事をしながら呟くヴィレッタ。
 フォーク捌きが様になってるなあ。
 
「ああ、パルケニアの農奴出身だ」

 って!リョウ!そんな容易く、どうでもいいかのように暗い過去を匂わせる発言するなっての。
 
 ほれ見ろ。微妙な空気になっちゃったじゃないか。
 
「ま、まあ今はアラン傭兵団の一員だし、とまあそんなことは置いておいて楽しく食事しようよ。
 せっかくの美味しい料理が冷めちゃうし」

 微妙な空気を払拭するために明るく言う私に、ヴィレッタは同意するように頷いた。
 
 うーん♪このムニエルの絶妙な焼き加減。
 パンもふわふわで最高!スープもコンソメ風で美味しい。
 
「ここ、いいかしら?」

 舌鼓をうちながら食べていると、シャルロッテがやって来た。
 ここの食堂のテーブルは4人掛けだし、残り一つ空いてる状態だから誰が座ろうが文句はない。
 
 シャルロッテは、テーブルにステーキとパンのセットを置いて座る。
 
 そして、じっと私を見つめてくる。
 めっちゃ見てるんですけど……あの、シャルロッテさん? 
 
 しばし見つめ合った後、彼女は口を開いた。
 
「貴女……やっぱり似てるわね」
「に、似てるって誰にですか~」
「さあて、誰かしらね」
 
 そう言ってシャルロッテはクスッと笑う。

 私が王女なのでは?と、シャルロッテも想像してるのかな?

 正解だと教えたいけど、それは、まだできない。
 せめてヴィレッタの問題を解決してからでないと……

 その時まで、幼馴染2人に嘘を付き続けるのかと、私は心の中で愕然としてしまった。
 
 リョウが何か言いたそうにしていたけど、私が大丈夫と合図すると黙って料理を食べ続ける。
 
「ヴィレッタ様、陛下との婚姻おめでとうございます。
 まあ、貴女なら納得の人選よね」
 
 ちょっと刺を感じる言い方でシャルロッテは言った。
 
「ありがとうございます。シャルロッテ様にも良き縁談が訪れますよう、お祈りしております」

 ヴィレッタがそう返すと、シャルロッテは肩を竦めた。
 
「私はどうでもいいわ。家は兄が継ぐし、卒業したら王国から去るつもりだもの」
 
 王国から去る?ええ⁉ 
 
 意外すぎて驚く。
 シャルロッテって、貴族の誇りとかに拘るタイプだったから。
 
「なぜそのようなことを?」
「公爵令嬢として生きていたって、私の望みは叶わないもの」

 ヴィレッタの疑問に、シャルロッテは断言して言った。

 望み?なんだろう?
 公爵令嬢では叶わない望みなんて、自由に生きるぐらいしか思い浮かばない。
 
「それはそうと、ヴィレッタ様。
 何故、民間の冒険者を護衛にしているんです?
 陛下の配慮とも考えたのですが、どうも違うようなので興味を惹かれました」

 この反応を見るに、ヴィレッタが教会で暗殺されかけた事件の背後関係について、シャルロッテも探るを入れている感じだ。
 
 シャルロッテだけではなく、誰もがそうなのだろう。
 テスタ宰相の嫡男であるウイルヘルムも、典型的なボンボン馬鹿貴族なだけで事件とは無関係に思える。
 生徒の中に、犯人に連なる存在はいないようだった。
 
「この方々とは縁があって、わたくしが直接雇いました。
 陛下とは関係ありません」

 ふーん、と面白くなさそうに私たちを見つめるシャルロッテ。

「アランの傭兵に魔女。どうして一緒に旅をしているのかも興味を惹きますね」
「えっと、腐れ縁ってところですかね?」
「そうですか、腐った世を変えるために旅をしているのかと思いましたが……少々残念な答えでした」

 ガッカリされた⁉

「魔女ローゼさん、私は貴女に似ている人が、腐った世を変えるために立ち上がれば協力するつもりです。
 もし旅路で出会ったら伝えてくださるかしら?」

 それって……やっぱり王女である私のことだよね。
 シャルロッテの気持ちは嬉しいけど、私は他人を巻き込んだ戦いなんてしたくない。

 ごめん、シャルロッテ。
 そう心の中で囁やき、私は話を変えることにした。
 
「わかりました。もし会えたら伝えておきます。
 それでシャルロッテ様は、卒業後どうされるおつもりでしょうか?剣が得意なようですし、冒険者に?」

 シャルロッテは首を振った。
 じゃあ魔女かな?でも公言してないみたいだし口にするのはな~、と思っていると彼女はこう続けた。
 
「誘われてるとこがあるのよ。それは言えないけどね」

 意味深過ぎるけど、どこだろ?何かのギルドか、あるいは他国へ渡るのかな? 
 
「口外すれば一大事になる発言です。
 シャルロッテ様、お気をつけ下さい」
「ヴィレッタ様は相変わらず臆病ね。でも、まあいいわ。
 一応告げておかないといけないと思ったのよ。
 ……同じ王女の側近だった者として」

 意味深に告げるシャルロッテに、私の心臓の鼓動が早まる。

 ヴィレッタは立ち去るシャルロッテを、愁いを秘めた目で見送っていた。
 
 それから、この日の午後の授業は特に何も起こらず、淡々と時間は過ぎ去ったのであった。
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