上 下
93 / 107
第3章 公爵令嬢の選択

第14話 学校へ行こう

しおりを挟む
 陽の光が差し始めるのがようやく遅くなり、涼やかな風も吹き始めた秋の朝。
 
 相変わらずリョウは早く起きて、朝の稽古で剣の鍛錬に余念がない。
 
 エマさんも同じく朝早いがリョウには負けたようで、ビュンビュンと鳴る音に敵襲かと勘違いして、寝ている私たちに報告に来たのが午前5時過ぎの出来事。
 
「申し訳ございません!勘違いしてしまいました」
 
 叩き起こされて急行する私たちだったけど、リョウの剣の稽古だったことに、エマさんは平謝りし、リョウもバツの悪そうな顔をする。
 
「リョウ様、稽古は立派ですが早朝です。ご配慮を」
「ま~ったく、傭兵ってば、何時から起きてるのよ~。
 私の眠りを妨げた罪は重いんだからね!」
「まあ、リョウ様で良かったっす。
 いや、良くないっすけど。……寝るっす」
 
 う~む。リョウの女子たちからの評価がまた下がっちゃったぞ。
 はあ~、後でフォローしとかないとな。
 
 朝食を頂いた後、私とリョウは用意された王立学校の制服に袖を通す。
 
 女子用は白のブラウスと紺のスカート。それに黄色のカーディガンだ。
 え?あんまいつもと変わってないって?
 そんなことないぞ~。全然違うぞ~。
 
 男子用は黒のブレザーに白のスラックス、ネクタイが基本らしいが別にしなくても良いそうだ。
 
 フフン♪この制服着るのって、幼ない時の憧れの一つだったんだよね~。
 まさかこんな展開で夢が叶うなんてね♪
 
「ローゼもリョウ様もお似合いですよ」
「ありがとヴィレッタ♪ヴィレッタも似合ってるよ♪」
 
 はしゃぐ私と対照的なのはリョウ。
 マナー講座をエマさんに開かれて、顔を引きつっている。
 さらに学校にいる間は剣をエマさんに没収されるそうで、わかりやすく落ち込んでいった。
 
「学生の帯剣は認められておりませんので、仕方ありません。貴族の子弟が通う学校ですから」
「学校の中では教師や警備兵にお任せして大丈夫かと。
 馬車の準備をしてきますので暫しお待ち下さい」
 
 ヴィレッタとエマさんの説明に、リョウはため息を吐いた。
 
「ふ~ん。ローゼは馬子にも衣装ね!
 傭兵はなんかやっぱり似合わないわね」
 
 と、ベレニスが悪気なくリョウを見て笑う。
 
「ベレニスとフィーリアは商業ギルドに行くんだっけ?
 もう行くの?」
「私はもうちょい遅くても良いけど、屋敷に鍵かけて出かけるって面倒でしょ?
 だから、ローゼたちが出るタイミングで行くことにしたわ」
 
「まあ、エルフは目立つっすからねえ。
 無人の公爵邸から自分らが出て行って、変に疑われるのも面倒っすから」
「商業ギルドでどんな調べ方をするんだ?」
 
 リョウがフィーリアに疑問を投げかけた。
 
「公爵令嬢、それも王の側室となると発表されたヴィレッタさんを狙う暗殺未遂っす。
 ですんで、裏で金の流れもおかしな点があると思うっすよ。まずはそこから調べるっす」
「よろしくお願いします。無理はせず危険と感じたらすぐに逃げてください」
「大丈夫だってヴィレッタ。この私がフィーリアと調べるんだから♪」
 
 自信たっぷりなベレニスだけど、不安だ。
 まあフィーリアがいれば大丈夫だと思うけど。
 
 馬車の準備が整い乗ろうとしていると、馬を走らせてくるラシルの姿が見えてきた。
 
 ん?朝っぱらからなんだろう?
 切羽詰まった感じではなさそうだけど。
 
「良かった。出発前に間に合ったようだ」
「ラシル殿下、おはようございます。
 何か進展あったのでしょうか?」
「いや、そちらは申し訳ないがまだだ。
 ……少しアラン傭兵団のリョウ殿を借りていいかな?彼に用がある」
 
 リョウはヴィレッタの頷きを確認してから了承する。
 
 少し離れた場所に移動し、何やら軽い感じでリョウの肩をパンパンしながら話してるが一体何だろ?
 リョウは警戒感は持ってるけど、なんか私たちといるより肩の力が抜けてる気もするし。
 
 ぐぬぬ、ラシルめ。
 リョウを引き抜こうとかだったら許さんぞ。
 リョウが戻ってきて馬車に乗り込むと、ラシルは一礼して去っていった。
 
「それじゃあ私たちも行くわ」
 
 ベレニスとフィーリアも移動を開始し、エマさんが御者を務める馬車も動き出す。
 
「リョウ、ラシル……殿下とはどんな話をしたの?」
「わたくしも気になります。お話出来ないことでしょうか?」

「ああ、単にこの手紙を王立学校の教師、テシウス・ハーヴェスト殿に届けて欲しいと頼まれただけだ」
 
 揺れる馬車の中、私とヴィレッタのジト目にも関わらず、リョウは動ずることも言って懐から手紙を見せてきた。
 
 無記名の封……
 なるほど極秘のメッセンジャーって訳か。
 アランの傭兵のリョウが、今日学校へ護衛者として向かうから都合良く利用したって感じかな?
 
 テシウス・ハーヴェスト……どこかで聞いた名な気がするけど誰だったかなあ。
 
「テシウス先生にですか。……ラシル様も最上級生の時に1年お世話になってるはずですね。
 接点としてはそれくらいでしょうか?」
「ああ、恩師だと言っていた。
 ヴィレッタ嬢ではなく俺に託したのは、いざとなったら切り捨てるのに、都合の良い存在だからだろう。
 もしくは一蓮托生にする気なのかもな」
 
 リョウも、この手紙が単なる手紙ではないと気づいてるみたい。
 ただ私はともかく、ヴィレッタはリョウを疑り深い根暗って思わないか心配になる発言だぞ。
 
 もうちょい言葉選べってのに、もう。
 
「テシウス先生ってどんな人なの?」
「専門は歴史の教師ですが、あらゆる事象に精通しており、政治経済に軍事、さらに各国のあらゆる文化にも精通した、まさに天才ですね。
 よく他の教師が不在の時に駆り出されて、授業を代わりにやっています」
 
 それは凄い。そんな人が学校の教師ってそれはそれで問題な気もするけど。
 
「君と同じ平民出身だから気楽にって言われたな」
「ええ、15年前に王国で民間から幅広く人材募集した時に採用され、文官として王宮で働いてました。
 平民出身では、武のアデル、知のテシウスと並び称された方でございます。
 わたくしの父がもっとも信頼し、常に側に置いていたそうです。
 ……もっとも10年前の先王陛下に王妃殿下、王女殿下が身罷われる少し前、本人の家庭の都合もあって休職し、帰郷されたのです。
 政変で失職扱いにされ、その後、旅に出られたのです。
 今から3年ほど前に王都に戻ってきた際、アデル準男爵の推薦で教師職に就かれたと聞いています」
 
 アデルの推薦か。それに、10年前……ね。
 
「王宮で雇わなかったのが不思議な経歴だな」
「リョウ、昔のこの国ならそうかもだけど、この国は現状、テスタ宰相の貴族主義による独裁政治。
 多分、平民の教師を雇うことに対しても難色を示したと思うよ」

 そんな私の解説に、ヴィレッタは少し悲しげな表情をした。
 
「そこは色々あったと聞いております。
 今でも生徒の中には、テシウス先生を毛嫌いしてる人がいるのも事実です。
 ですがローゼ、それにリョウ様。貴族にも貴族主義を良しとしない人もいます。
 それだけは忘れないでくださいませ」
 
 馬車に揺られること10分程、目的地である王立学校の敷地へと到着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...