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第3章 公爵令嬢の選択

第3話 王都ベルン

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 これが王都の風景かあ。
 ビオレールとそんなに変わらないかな?
 白い壁の家屋が密集していて整然と並んでいる。 
 でもやっぱり王都だけあって、商人の馬車がいっぱい通っている。

 私は王都の街並みを、興味深く見ながら歩いていく。
 5歳の誕生日まで王都に住んでいたけど、王宮から出たことはなかった。
 
 実は憧れてたんだよねえ、王都を自由気儘に見て回るの。

 街から観る王宮……ていうかお城って大きいんだなあ。
 壮麗でいて、荘厳で、威圧感もあって、でもどこか優しい空気を纏ってる。

 私が今いる場所は、王都外側に一番近い大衆が暮らす街。
 王都は城を中心に放射線状に広がっていて、内側に近づくほど身分の高い人が暮らす場所になっている。

 王城、公侯伯子男の貴族街、騎士や兵士街、商人街、ギルド街、職人街、平民街とざっくばらんだけど区分けられている。

 王都の中央には王城が聳え立ち、そのお膝元に貴族街がある。
 そこは、貴族以外は許可がなければ立ち入りできない。
 貴族たちも、領地に戻る時以外は平民街を通らないらしい。

 20万人が暮らす王都だけあって教会も5つもあるようだ。
 大陸に根強く信仰されている女神フェロニアを祀る教会は、貴族街に1つと、平民街の東西南北に1つずつ。
 
 ビオレールの教会のように、邪教が侵食しているかチェックして回らないとね。

 それに父と母を殺したノエルという魔女がどう生きて、どういう経緯で邪教に利用され、そして死んだのかも調べるつもりだ。
 
 冒険者ギルドで仕事をして、路銀も稼いだりしないといけないから、当分は王都に滞在することになるかな?

 フッと、遠くに聳える王城を見上げる。
 あの王城に住んでたんだよなあ。

 10年前に、突然の惨事で失った両親。

 もし何も起こらなければ、今も私はあの城に住んでいて、今頃は王立学校に通っていて、王女として皆にちやほやされていたのだろうか? 

 別に王女の身分が恋しいわけではないけど、学校に通いたかったのは本音。
 同年齢の友達は欲しかった。
 
 友達といえば幼い頃、よく私の遊び相手になってくれた2人の女の子はどうしてるかな?
 元気でやってるといいな。

 私を庇護した、師である魔女ディルの魔法によって、両親も私も病死となった。

 両親を殺害したノエルを操った者の企みは、今も闇の中のままだし、私を王女だと認識している人物は王国に存在しない。

 宰相の暴政で凋落する王国の現状や、現在の王であるサリウス叔父さんや、親衛隊長だったアデルの心配は尽きない。
 けれど、まずは私が王女ではなく、今の私ができる最善の手を打たないと。

 考えながら歩いてると、良い匂いがするお店にフラフラ~と吸い寄せられるように入っていく。
 王都にある、美味しい食事の店のチェックもしないとね♪

 おお!魚を塩で焼いている良い匂い。
 何のお魚かなあ? お!肉炒めもある!パンに挟むのも良いよね~。
 甘いお菓子もあるなあ、ケーキにクッキーかな? テイクアウトできるかな?

 ベレニスが私1人だけで食べたらギャーギャー騒ぐだろうし、お土産持って帰らないとね♪
 その前に味見だけしよっと♪

 お店に入り席に座って、ルンルン気分で待っていると、背後の席に2人の男の人が座ったらしく、大きな声で喋り始めた。
 
 うるさいなあ。もう少し低い声で話せば良いのに。

「お待たせしました。こちら、チーズケーキ、レモンケーキ、紅茶のセットになります」

 店員さんが、私の前に頼んだものを持ってきてくれた。
 すぐにナイフとフォークで切り分けてパクっと食べる。
 
 おお!美味しい♪さすが王都♪まだまだ捨てたもんじゃないね♪
 
 蕩けるほっぺたを押さえながら、チーズケーキとレモンケーキを交互に味わう。
 
 その間にも背後の2人の男の会話は続き、気にしないようにしても、ついつい耳は反応してしまう。

「だから俺は言ってやったのさ、魔獣なんざほっとけってさ。
 戦場で死体食ってりゃ満足すんだから、刺激すんなってな」
「ヒエッ。戦争はやっぱおそろしい。
 魔獣も戦死した人間を狙うってのがまたおっかない」
「まあな。だがよ、金は稼げるんだぜ。
 俺のような、はみだしもんにはもってこいよ」

 戦争?魔獣? 聞き捨てならないワードが聞こえてきたので、気になってきたぞ。

 どうやら1人は歴戦の戦士っぽい。
 もう1人はこの王都の住人で、2人は古くからの知り合いっぽいな。

「ところで話は変わりますが、オルガさん、こんな話が王都で噂になってるの知ってますか?」
「あん?何だよ、革命でも起きるんか?」
 
「いやいや、10年前にこの国の王様とお妃様と王女様が、同日に病死したってのは覚えてますよね?」
「……そりゃあな。話題になったからなあ」
「……実は王様とお妃様は殺されたって話が、最近になって巷で噂になってるんです」

 なぬ?どういうこと⁉
 ふ、振り向きたい。振り向いて2人の人相風体を確認したい!
 ていうか会話に参戦して、知っている全てを吐かせたい! 

 でも、ここで私が反応するのはおかしいよね?
 我慢だ我慢。
 とにかく怪しまれないよう、ケーキを食べながら会話を盗み聞きする。
 
 これはこれで、ちょっと密偵役みたいで楽しいかも。

「あん?王女さんが殺したんか?」

 なわけあるかああああ。
 オルガって人!10年前の王女の年齢考えろやああああ。

「さあ、そこまでは。
 ただローゼマリー姫殿下は死んでないんじゃ?
 ってのも噂になってます」

 ……なんとね。何故にそんな噂が?
 これは私に都合がいいのか悪いのか、どう転ぶんだろう。

「へえ~、火のないところに煙は立たねえからな。
 違ったとしても陰謀の臭いがしやがる。
 俺が王や宰相だったとして、その噂を聞いたら間違いなく調査するぜ」
「となると?」
「でっかい額の金も動くってもんよ!」

 その言葉と同時に席を立つ音が聞こえ、慌てて私も立ち上がり、後を追おうとするが……

「ちょいとお客さん。お代!」

 それを言われると、ピタリと止まらざるをえない。
 ……残念。

 見えた後ろ姿。
 1人は赤髪で長身の男の人、古びた冒険者風の装備だが、あれはミスリル?とんでもなく貴重な素材からできる武具だ。
 ただそんなに強そうには見えない。
 金持ちの道楽ってところかな?

 もう1人の男は茶色い髪の短身痩躯だが、全身から溢れる凄まじい剣気。
 着ているのはリョウと同じ黄土色の皮鎧で、アラン傭兵団の一員であることが一目でわかった。
 
 お代を払って外に出たけど、すでに雑踏の中に紛れていて、2人がどこに行ったのかを確認することはできなかった。
 
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