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第2章 英雄の最期

第27話 ドワーフの秘宝

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 ボヤケた視界がクリアになる。
 木々に覆われた、ドワーフの隠れ里が見下ろせる格好の高台……だと?

「どうしたんですかい?ルシエンさん。
 それより合図頼みますぜ」

 弓矢を構えた盗賊どもの姿。

 見下ろした先には黒竜を倒し、集まって話をしているドワーフどもとリョウ・アルバース。
 それに……我らが神?

 ……なんだこれは?

「ヘヘ、青ざめてふらつくなんて、ルシエンさんも人なんですなあ。
 まあ安心してくだせえ、標的の傭兵はちゃんと殺しますよ。
 そんでドワーフを皆殺しにして、里のお宝ぜ~んぶいただくって約束は守って貰いやすぜ」

 さっきまでのは夢?でも何故、私はここに? 
 ……わからない。

 警戒心の強すぎる標的に、何重にも張り巡らせた策の最高の結果。

 ドワーフどもに駒で不要の盗賊どもを始末してもらい、副産物として我らが神の復活という大戦果。

 なのにここは? 
 私の思考はぐちゃぐちゃだった。

 何なのだこの現状は?
 私はどう判断すればいいのだ?

 わからない、わからない、わからない! 

 改竄魔法?いやあり得ん!死は変更できない!
 殺された盗賊どもが、何も知らずに弓矢を構えているのが証拠!

 なら……時が戻った?
 あり得ない、あり得ない‼
 そんな魔法は存在しない!
 私は何を見ている?
 これは現実なのか⁉夢なのか⁉

「散開しやしたぜ。
 ヘヘ、人間の女がふらついて倒れやしたぜ。
 格好の的だ」

 同じだ。知ってる光景と全く同じ。

 なら迷うな!もう一度繰り返せばいい!
 リョウ・アルバースの次にドワーフの小娘を始末する!
 絶対に絶対に絶対に‼

 私が手を挙げると、一斉に矢が放たれた。
 ドワーフどもは気づいていない。

 気づいたのはやはりリョウ・アルバースだけ。
 走れ。護れ。そして死ね!

 ああ、やはりさっきのは正夢だ!
 我らが神の復活が我が手で行われるという、我らが神の啓示だったのだ!

 さあ今度こそ世界に混沌をお願いします!
 魔王ローゼマリー様‼

 しかし……
 放った矢は一本も刺さらない。

「ぎゃあああ」
「おのれええええ。ヒエッ」
「た、助け……俺たちゃあの魔女に騙されて……ぐはっ」

 盗賊どもの血飛沫が舞う。

 何だ?何が起きている?
 何故だ、何故……矢の先に誰もいない‼

「何故‼貴様らがここにいる‼ドワーフども!
 それに……リョウ・アルバースううううううううう!」
「魔女ルシエンだな。投降し、全てを話せ」

 リョウ・アルバースが剣を構える。
 何故だ!何故⁉
 盗賊どもは手筈通り矢を放ったはず……私の合図で矢を放つはずだった。
 そしてこの男に命中するはずだったのに! 

 背後からも、私の首筋に切っ先が当たる。

「チェックメイトよ。観念しなさい」

 この声、エルフか。

「どういうことだ!貴様は私がこの手で倒したはずだ‼」
「は?私があんた如きに負けるはずないでしょ」

 エルフの少女は不敵に笑う。
 わからないわからないわからない!
 やはり時が戻ったとでもいうのか‼
 ドワーフどもも斧を構えて包囲してくる。
 盗賊どもめ!役立たずが‼

「通してください」

 ドワーフどもの後ろから我らが神の声がする。
 淡い期待で私は神を見る。
 金色の髪を靡かせて、碧き瞳の美しい少女がそこにいた……

 だが、禍々しい魔力をその身に纏っておらぬ、ただの魔力切れを起こして今にも倒れそうな魔女ローゼとして。
 その横にあのドワーフの小娘!

「貴様あああああああ!何をしたあああああああああ!」

 ドワーフの小娘は恐れもせず、私に視線を向ける。

「さっきの記憶を持ってるのは自分とベレニスさん。
 それとローゼさんとあんただけっす。
 記憶が共有されたという感じっすかね」
「何を言ってい……る?時を戻したとでも言うのか‼」

 ドワーフの小娘はニヤリと笑う。

「まさか、そんなことは出来ないっすよ。
 この魔導具、ドワーフの秘宝『時の瞳』はこれから起こる得る事象を体験させるだけっす」

 その魔導具は、ドワーフの小娘の手元で音を立てて崩れ落ちた。

「……すいませんっす。そしてありがとうっす」

 ドワーフの小娘が崩れ落ちた魔導具へ、小さく呟いた。
  
「体験……だと?」

 その秘宝とやらは消えた。
 ならば勝機はあると、懸命に策を練る私であったが……

「私が教えてあげるわ」

 得意げな声で、エルフが語り始めた。

「ドワーフの里に急いで戻る私とフィーリアが、隠れ潜んでいるあんたらを見つけられないとでも?
 黒竜を利用して身を隠す魔法で気配消してたっぽいけど、御生憎様、木々はエルフの味方なのよね。
 精霊は、この私に違和感を教えてくれるのよねえ。
 このペンダント見えるかしら?
 これはドワーフが私のために作ってくれた魔導具。
 私の精霊力を増幅してくれるのよ!
 それにこのレイピアも見えるかしら?
 これはドワーフが私のために作ってくれた超軽くて超斬れ味凄いのよ♪ムフン♪」

「まあベレニスさんは、よくわかんないムキーってなったっすから、自分の魔導具で場所特定したっすけどね」
「ちょっとフィーリア!
 私、そんなムキーとかなった覚えないわよ!」

 エルフがドワーフの娘に食ってかかる。

「見つけて単身で奇襲しようとした、ベレニスさんの単細胞を止めるのにも苦労したっすぅ~」
「はあ?あの時点で私1人で全部始末してたわ!
 あんな雑魚ども、私1人で楽勝よ!」

 エルフとドワーフの娘の口論が始まる。

 なんなんだこいつらは⁉ 
 何故だ……何故こんなことになったのだ……
 私の計画は完璧だったはずだ、こんな理由のわからない失敗など認められるか!

 私は奥歯を強く噛み締めながら、打開策を考えていった。
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