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第2章 英雄の最期
第12話 フィーリアの事情
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ドワーフの里にも広場があるみたい。
そこで私たち3人は、今後の方針を決めるべく話し合いをすることになった。
木で出来た長椅子に腰掛けて、私はリョウとベレニスにさっき聞いたユーリアさんの話についてどう思ったのかを尋ねた。
「べっつにい、フィーリアが決めればいいんじゃない?」
身も蓋もないなあ、ベレニスは……
「フィーリアに先に雇われていて、契約内容は王都ベルンまでだ。
だからフィーリアが反故にしない限り、俺は母親の頼みは受けん」
う~ん、律儀というか、頭が固いというか。
まあ傭兵としてリョウが出す回答はそうなるか。
「ローゼはどうなのよ?」
「5年も家出してた娘が、また旅に出るってなったら親としては心配だろうし。
私はユーリアさんの気持ちがわかるかな」
私は両親に先立たれているし。
死んだからには二度と会えない。
一度旅に出ればいつ死んでもおかしくない御時世である以上、やはり親としては心配だろう。
でも……
「ユーリアさんから聞いた、フィーリアが5年前に旅に出た理由が、ちょっと気になるかな……」
フィーリアとフィーリア父が気絶している中、教えてくれたユーリアさんの話。
フィーリアが6歳で両親に置き手紙して、その時に訪れていたドワーフの商人の荷馬車に隠れて旅に出た理由。
『フィーリアの父のクルトは、ドワーフでは珍しく学者をしていてね。
ドワーフの文化や歴史、鍛冶技術なんかを調べて本に纏めてたんです』
ドワーフは手先が器用で腕力に優れ、鍛冶師や戦士としてなら優秀だ。
だが反面、ドワーフ族は頭脳労働には向いていないらしく、学者になりたがる者は珍しいらしい。
ただ、クルトさんの学者は趣味らしく、本職は鍛冶師であるとのことだった。
クルトさんは幼いフィーリアにも、子守唄替わりに色々な知識を語って聞かせていたようだ。
フィーリアも父親が語る様々な知識に目を輝かせては、質問を重ねて喜ばせたようだった。
……けれど、5年前のフィーリア旅立ちの直前。
『クルトは空の星の輝きが、千年前の魔王による大陸侵攻の時と酷似していると呟いてしまった。
それを聞いたフィーリアは、どう行動すればいいのかを訊ねてしまった』
クルトさんはこう返したそうだ。
『闇の力強まる時、また光も強く輝く。
闇が世界を包む時、光もまた世界を包む。
その時を待て』
ただ、フィーリアは聡すぎた。
父親の表情から、光は小さく、何も手を打たなければ闇に飲まれ消滅してしまうと。
だからフィーリアは旅に出た。
旅の中で魔王復活の兆しを探ろうとしたのだそうだ。
闇を打ち払う英雄を探し、その手助けとなる知識も身につけるために。
「魔王ねえ。魔族以前に人間があっちこっちで争ってて、そんな時に魔王とか復活されたら悲惨よね。
ま、私にとってはどうでもいいけど。
最終的に大陸を手に入れるのは私だし」
って、おい。ベレニス……軽い口調だったけど結構マジで言ってない?
ただベレニスも、フィーリアのこれまでの行動については理解したようだった。
ん?
「うわあ、エルフだ。耳長いね」
「エルフってドワーフ食べるんでしょ?こわ~い」
私たちの目の前から聞こえる話し声。
フィーリアより小さなドワーフの女の子2人が、こっちを見ながらヒソヒソしてた。
「誰がドワーフなんて食べるかあ!食べちゃうぞお!」
ベレニスが駆け出し女の子たちを追う。
キャーキャーしながら、広場で追いかけっこを始める女の子たち。
ベレニス……めっちゃ遊ばれてるなあ。
「俺も特に魔王とか魔族はどうでもいいな。
依頼があれば戦う。それだけさ」
リョウは英雄譚とかに興味ないみたい。
フィーリアが旅をしてまで調べようとしていることについて、関心がないようだ。
名声欲とか出世欲とか物欲に、ちょっと欠けたところがあるリョウ。
そんなリョウに、フィーリアが残念がってたけど、その気持ちがわかる気がする。
「昔、さ。七英雄の頃のお話なんだけど、ドワーフの王でシュタインって人がいてね」
リョウはピクリと反応して私の方を向く。
人の話を聞こうとする姿勢は良いんだよね。
私は七英雄の話を語って聞かせた。
七英雄は大昔、魔王を倒すために集まった英雄たちだ。
種族が違えども結束し、そして絆を深め、彼らはついに魔王を倒し世界を救ったのだ。
「名匠と呼ばれたシュタインも、当初は戦いに参戦しないで、ドワーフを護るのみに徹するって言ってたんだ。
降りかかる火の粉のみを払うって感じで。
でも人間はシュタインの造る武具を欲して、力ずくで奪おうとしたんだ」
「……そいつは酷いな」
「当然、ドワーフは激怒して徹底抗戦の構えを取った。
一触即発で人間とドワーフ、両方に大勢の犠牲者が出る寸前。
でもドワーフ側に人間2人とエルフが1人加わったんだ。
後に七英雄と呼ばれる剣士レイン、魔女アニス、エルフの女王フォレスタが」
「……」
「3人はシュタインと人間を説得し、人間は酒と食料を提供、ドワーフは武具を提供することで和解したんだ。
……まあ何が言いたいかというと、アニスたちは依頼なんてされてない。
むしろ人間側からドワーフとの戦いに参戦するように依頼されてたんだ。
でも結果は話した通りで彼らは自分がしたいと思った通りに動いた。
リョウも依頼でどう動くとか考えないで、こう動きたいって思っていいと思うかなってね」
「……そうか」
短く呟いたリョウが、どう思ったのかはわからなかった。
でもちょっと心が動いたのがわかるかも。
ドワーフの少女たちや、追っ駆けるベレニスを静かに見つめる目は、優しい目だったから。
そこで私たち3人は、今後の方針を決めるべく話し合いをすることになった。
木で出来た長椅子に腰掛けて、私はリョウとベレニスにさっき聞いたユーリアさんの話についてどう思ったのかを尋ねた。
「べっつにい、フィーリアが決めればいいんじゃない?」
身も蓋もないなあ、ベレニスは……
「フィーリアに先に雇われていて、契約内容は王都ベルンまでだ。
だからフィーリアが反故にしない限り、俺は母親の頼みは受けん」
う~ん、律儀というか、頭が固いというか。
まあ傭兵としてリョウが出す回答はそうなるか。
「ローゼはどうなのよ?」
「5年も家出してた娘が、また旅に出るってなったら親としては心配だろうし。
私はユーリアさんの気持ちがわかるかな」
私は両親に先立たれているし。
死んだからには二度と会えない。
一度旅に出ればいつ死んでもおかしくない御時世である以上、やはり親としては心配だろう。
でも……
「ユーリアさんから聞いた、フィーリアが5年前に旅に出た理由が、ちょっと気になるかな……」
フィーリアとフィーリア父が気絶している中、教えてくれたユーリアさんの話。
フィーリアが6歳で両親に置き手紙して、その時に訪れていたドワーフの商人の荷馬車に隠れて旅に出た理由。
『フィーリアの父のクルトは、ドワーフでは珍しく学者をしていてね。
ドワーフの文化や歴史、鍛冶技術なんかを調べて本に纏めてたんです』
ドワーフは手先が器用で腕力に優れ、鍛冶師や戦士としてなら優秀だ。
だが反面、ドワーフ族は頭脳労働には向いていないらしく、学者になりたがる者は珍しいらしい。
ただ、クルトさんの学者は趣味らしく、本職は鍛冶師であるとのことだった。
クルトさんは幼いフィーリアにも、子守唄替わりに色々な知識を語って聞かせていたようだ。
フィーリアも父親が語る様々な知識に目を輝かせては、質問を重ねて喜ばせたようだった。
……けれど、5年前のフィーリア旅立ちの直前。
『クルトは空の星の輝きが、千年前の魔王による大陸侵攻の時と酷似していると呟いてしまった。
それを聞いたフィーリアは、どう行動すればいいのかを訊ねてしまった』
クルトさんはこう返したそうだ。
『闇の力強まる時、また光も強く輝く。
闇が世界を包む時、光もまた世界を包む。
その時を待て』
ただ、フィーリアは聡すぎた。
父親の表情から、光は小さく、何も手を打たなければ闇に飲まれ消滅してしまうと。
だからフィーリアは旅に出た。
旅の中で魔王復活の兆しを探ろうとしたのだそうだ。
闇を打ち払う英雄を探し、その手助けとなる知識も身につけるために。
「魔王ねえ。魔族以前に人間があっちこっちで争ってて、そんな時に魔王とか復活されたら悲惨よね。
ま、私にとってはどうでもいいけど。
最終的に大陸を手に入れるのは私だし」
って、おい。ベレニス……軽い口調だったけど結構マジで言ってない?
ただベレニスも、フィーリアのこれまでの行動については理解したようだった。
ん?
「うわあ、エルフだ。耳長いね」
「エルフってドワーフ食べるんでしょ?こわ~い」
私たちの目の前から聞こえる話し声。
フィーリアより小さなドワーフの女の子2人が、こっちを見ながらヒソヒソしてた。
「誰がドワーフなんて食べるかあ!食べちゃうぞお!」
ベレニスが駆け出し女の子たちを追う。
キャーキャーしながら、広場で追いかけっこを始める女の子たち。
ベレニス……めっちゃ遊ばれてるなあ。
「俺も特に魔王とか魔族はどうでもいいな。
依頼があれば戦う。それだけさ」
リョウは英雄譚とかに興味ないみたい。
フィーリアが旅をしてまで調べようとしていることについて、関心がないようだ。
名声欲とか出世欲とか物欲に、ちょっと欠けたところがあるリョウ。
そんなリョウに、フィーリアが残念がってたけど、その気持ちがわかる気がする。
「昔、さ。七英雄の頃のお話なんだけど、ドワーフの王でシュタインって人がいてね」
リョウはピクリと反応して私の方を向く。
人の話を聞こうとする姿勢は良いんだよね。
私は七英雄の話を語って聞かせた。
七英雄は大昔、魔王を倒すために集まった英雄たちだ。
種族が違えども結束し、そして絆を深め、彼らはついに魔王を倒し世界を救ったのだ。
「名匠と呼ばれたシュタインも、当初は戦いに参戦しないで、ドワーフを護るのみに徹するって言ってたんだ。
降りかかる火の粉のみを払うって感じで。
でも人間はシュタインの造る武具を欲して、力ずくで奪おうとしたんだ」
「……そいつは酷いな」
「当然、ドワーフは激怒して徹底抗戦の構えを取った。
一触即発で人間とドワーフ、両方に大勢の犠牲者が出る寸前。
でもドワーフ側に人間2人とエルフが1人加わったんだ。
後に七英雄と呼ばれる剣士レイン、魔女アニス、エルフの女王フォレスタが」
「……」
「3人はシュタインと人間を説得し、人間は酒と食料を提供、ドワーフは武具を提供することで和解したんだ。
……まあ何が言いたいかというと、アニスたちは依頼なんてされてない。
むしろ人間側からドワーフとの戦いに参戦するように依頼されてたんだ。
でも結果は話した通りで彼らは自分がしたいと思った通りに動いた。
リョウも依頼でどう動くとか考えないで、こう動きたいって思っていいと思うかなってね」
「……そうか」
短く呟いたリョウが、どう思ったのかはわからなかった。
でもちょっと心が動いたのがわかるかも。
ドワーフの少女たちや、追っ駆けるベレニスを静かに見つめる目は、優しい目だったから。
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