52 / 107
第2章 英雄の最期
第11話 ドワーフの里
しおりを挟む
野宿を挟みつつも旅は順調に進み、ザガン領間近の渓谷へとさしかかる。
谷底を流れる川の幅は広く、ゆったりとした流れの水面は底が見えるほどに澄んでいた。
「あ、リョウ様、そっちじゃないっす。
自分が帰るドワーフの里はこっちなんで、ここからは自分が先導するっす」
「ここら辺にドワーフの里なんてあったんだ。びっくりかも」
渓谷から見上げる空は広く、奥のほうは見えない。
鉱山も近くにあるようで、硫黄の臭いも漂っていた。
私の呟きに、フィーリアは苦笑した。
「まあ、隠れ里っすからねえ。
ローゼさんが知らなくても無理はないっすね」
「人との接触はしないのか?」
「いえいえリョウ様、出稼ぎはよく出てるっすよ。
里に来るドワーフの商人もいるっす。
ただ人は入れてないっすね」
谷底には川が流れているが、所々に大きな岩があり足場になっている。
川の流れも一定なので歩きやすい。
少し進むと川の両側に大きな崖が見えるようになるが、フィーリアは臆することなくヒョイヒョイと進む。
「いいの?私たちを連れて行って」
「ん~、本来ならザガンの街で待っててもらう手筈にするつもりだったっすけど、まあ今更っすよ。
ローゼさんにもリョウ様にも貸しがあるっすからね」
「ちょっとぉ、私は?」
「ハハ、ベレニスさんはエルフっすから別にいいっすよ。
一応エルフは信用できるっすから」
その回答にムフンと胸を張るベレニス。
そんなもんなのか?
ドワーフとエルフの関係性はわからんなあ。
てかベレニス、ドワーフだらけの場所でこれだからドワーフはとか言わないでね、マジで。
獣道のような細い道を抜け、少し開けた場所に出る。
するとそこには小さな集落があった。
その内の1人がこちらに気づくと、他のドワーフも気づいたようで、ワラワラと集まってきた。
皆一様に髭もじゃで背が低い。そして筋肉質だ!
そして斧を背中に背負っているのが何人かいる。
あれは戦う時に使うのかな?
……あれえ?なんか斧を構えだしたぞ?
「ちょっ!自分っす。フィーリアっす!
5年ぶりにフィーリアが帰ってきたんすよ‼」
慌てるフィーリアに、ガルルとしてるベレニス。
リョウも腰の剣に手を伸ばす。
「フッフッフ、ハッハッハ、冗談じゃよ。
よく無事で戻ってきたのお」
ドワーフの1人が笑いながらフィーリアに近づき、ポンポンと肩を叩く。
「痛っ、痛いっすゲッペンさん!もう!びっくりしたっすよ」
「ま~たっく、これだからドワーフは。冗談のセンスが最悪」
って!ベレニス!初っ端から喧嘩腰はやめて!
ただドワーフの戦士たちは気にしてないみたい。
「エルフに、人間の若い男女のう。
一応フィーリアを拐かして、我らの里に悪さしに来た輩かもしれんからな。
ちょいと試したのじゃ」
ゲッペンと呼ばれたドワーフのおっさんは、顎髭を撫でながら目を細めて言う。
「拐かしって自分は自分の意思で旅に出たっす!
置き手紙もしたっすよ!」
「クルトもユーリアもそう思っておらんぞ」
「あ~父ちゃんも母ちゃんも元気っすか?」
「早く行って確かめるがいいさ」
「わかったっす。それじゃ皆さん、自分ちに案内するっす」
走り出すフィーリアについて行く私たち。
ドワーフの家々は丈夫な石造りで、工房らしき建物から絶えず煙が立ち上っていた。
ドワーフたちは背が低く、筋肉質な体つきが特徴的で、多くが斧を武器にしているようだった。
そして石造りの一際大きい家に辿り着く。
そこでフィーリアが大声でただいまーっす!と言いながら入って行くので私たちも続く。
家の中には2人のドワーフがいて、目を見開いていた。
1人は髭もじゃで背の低く、灰色の髪を肩まで伸ばし、切れ長の目が特徴的な男の人。
もう1人は女性で、長い緑髪を後ろで束ねている美人さん。
ちょっと横幅あるけど。
「フィーリア!無事に戻って来たのね!」
「えへへ、母ちゃん、父ちゃんただいまっす!」
そしてフィーリアを抱き締める母。
う~ん、感動の再会だねえ。
「フィーリア……」
「ちゃーんと、5年経つ前に戻ってきたっす父ちゃん」
そして父とも抱き合う娘……と思いきや。
「置き手紙だけで出ていきやがって!このバカ娘が!」
フィーリアを持ち上げるや、そのままグルグル回し始めるドワーフ父。
「ちょっ!やめるっすやめるっすよ~!」
「あなた、客人もいるんですよ!」
ゴチン!と母の鉄拳が父に落ちる。
ズシンと倒れる音と、ぐるぐる目を回してるフィーリアを見て、愉快そうにプププと笑うベレニス。
なんていうか、カオスだ。
「フィーリアの母のユーリアです。
皆様がずっとフィーリアと旅を?」
フィーリアの母は倒れた夫をどかし、姿勢を正して訊ねてくる。
「いえ、この人たちはビオレールで自分が雇った冒険者の人たちっす」
「それはそれは娘がお世話になりました。
無事に娘を送り届けて頂き感謝します」
深々とお辞儀をするユーリアさん。
「皆さん、暫く里でゆっくりするっす。
部屋はあるんで好きに使って下さいっす」
「良いんですか?フィーリアのお母さん?」
親の許可を取らずに勝手に決める娘だったので、念の為に確認する。
するとユーリアさんはニコリと笑う。
「ユーリアでいいですよ。
フィーリアが連れてきたのです。遠慮は要りませんよ」
そうなんだ?ならゆっくりしていこうかな。
「そっすよ。
一通り用事を終えるまで1週間てとこっすかね。
それが終わったら、また旅立つっすよ」
そう告げるフィーリアだったが、ユーリアさんの鉄拳が頭上から降った。
にこやかな笑顔のままで。
ドゴン!と鈍い音が響いた。
ユーリアさん、強ぇ……
フィーリア、完全に伸びてるよ……
「やっぱり、また旅立つ気なのねこの子は。
……お願いできますか皆さん!
どうか、この子がもう二度と旅に出ないように説得してくれませんか?報酬もお出しします」
お辞儀するユーリアさん。
ベレニスは伸びてるフィーリアの顔を、永久に脳裏に刻もうとするかのように、グリグリと指を押し込んでる。
そんな中、私とリョウは顔を見合わせたのだった。
谷底を流れる川の幅は広く、ゆったりとした流れの水面は底が見えるほどに澄んでいた。
「あ、リョウ様、そっちじゃないっす。
自分が帰るドワーフの里はこっちなんで、ここからは自分が先導するっす」
「ここら辺にドワーフの里なんてあったんだ。びっくりかも」
渓谷から見上げる空は広く、奥のほうは見えない。
鉱山も近くにあるようで、硫黄の臭いも漂っていた。
私の呟きに、フィーリアは苦笑した。
「まあ、隠れ里っすからねえ。
ローゼさんが知らなくても無理はないっすね」
「人との接触はしないのか?」
「いえいえリョウ様、出稼ぎはよく出てるっすよ。
里に来るドワーフの商人もいるっす。
ただ人は入れてないっすね」
谷底には川が流れているが、所々に大きな岩があり足場になっている。
川の流れも一定なので歩きやすい。
少し進むと川の両側に大きな崖が見えるようになるが、フィーリアは臆することなくヒョイヒョイと進む。
「いいの?私たちを連れて行って」
「ん~、本来ならザガンの街で待っててもらう手筈にするつもりだったっすけど、まあ今更っすよ。
ローゼさんにもリョウ様にも貸しがあるっすからね」
「ちょっとぉ、私は?」
「ハハ、ベレニスさんはエルフっすから別にいいっすよ。
一応エルフは信用できるっすから」
その回答にムフンと胸を張るベレニス。
そんなもんなのか?
ドワーフとエルフの関係性はわからんなあ。
てかベレニス、ドワーフだらけの場所でこれだからドワーフはとか言わないでね、マジで。
獣道のような細い道を抜け、少し開けた場所に出る。
するとそこには小さな集落があった。
その内の1人がこちらに気づくと、他のドワーフも気づいたようで、ワラワラと集まってきた。
皆一様に髭もじゃで背が低い。そして筋肉質だ!
そして斧を背中に背負っているのが何人かいる。
あれは戦う時に使うのかな?
……あれえ?なんか斧を構えだしたぞ?
「ちょっ!自分っす。フィーリアっす!
5年ぶりにフィーリアが帰ってきたんすよ‼」
慌てるフィーリアに、ガルルとしてるベレニス。
リョウも腰の剣に手を伸ばす。
「フッフッフ、ハッハッハ、冗談じゃよ。
よく無事で戻ってきたのお」
ドワーフの1人が笑いながらフィーリアに近づき、ポンポンと肩を叩く。
「痛っ、痛いっすゲッペンさん!もう!びっくりしたっすよ」
「ま~たっく、これだからドワーフは。冗談のセンスが最悪」
って!ベレニス!初っ端から喧嘩腰はやめて!
ただドワーフの戦士たちは気にしてないみたい。
「エルフに、人間の若い男女のう。
一応フィーリアを拐かして、我らの里に悪さしに来た輩かもしれんからな。
ちょいと試したのじゃ」
ゲッペンと呼ばれたドワーフのおっさんは、顎髭を撫でながら目を細めて言う。
「拐かしって自分は自分の意思で旅に出たっす!
置き手紙もしたっすよ!」
「クルトもユーリアもそう思っておらんぞ」
「あ~父ちゃんも母ちゃんも元気っすか?」
「早く行って確かめるがいいさ」
「わかったっす。それじゃ皆さん、自分ちに案内するっす」
走り出すフィーリアについて行く私たち。
ドワーフの家々は丈夫な石造りで、工房らしき建物から絶えず煙が立ち上っていた。
ドワーフたちは背が低く、筋肉質な体つきが特徴的で、多くが斧を武器にしているようだった。
そして石造りの一際大きい家に辿り着く。
そこでフィーリアが大声でただいまーっす!と言いながら入って行くので私たちも続く。
家の中には2人のドワーフがいて、目を見開いていた。
1人は髭もじゃで背の低く、灰色の髪を肩まで伸ばし、切れ長の目が特徴的な男の人。
もう1人は女性で、長い緑髪を後ろで束ねている美人さん。
ちょっと横幅あるけど。
「フィーリア!無事に戻って来たのね!」
「えへへ、母ちゃん、父ちゃんただいまっす!」
そしてフィーリアを抱き締める母。
う~ん、感動の再会だねえ。
「フィーリア……」
「ちゃーんと、5年経つ前に戻ってきたっす父ちゃん」
そして父とも抱き合う娘……と思いきや。
「置き手紙だけで出ていきやがって!このバカ娘が!」
フィーリアを持ち上げるや、そのままグルグル回し始めるドワーフ父。
「ちょっ!やめるっすやめるっすよ~!」
「あなた、客人もいるんですよ!」
ゴチン!と母の鉄拳が父に落ちる。
ズシンと倒れる音と、ぐるぐる目を回してるフィーリアを見て、愉快そうにプププと笑うベレニス。
なんていうか、カオスだ。
「フィーリアの母のユーリアです。
皆様がずっとフィーリアと旅を?」
フィーリアの母は倒れた夫をどかし、姿勢を正して訊ねてくる。
「いえ、この人たちはビオレールで自分が雇った冒険者の人たちっす」
「それはそれは娘がお世話になりました。
無事に娘を送り届けて頂き感謝します」
深々とお辞儀をするユーリアさん。
「皆さん、暫く里でゆっくりするっす。
部屋はあるんで好きに使って下さいっす」
「良いんですか?フィーリアのお母さん?」
親の許可を取らずに勝手に決める娘だったので、念の為に確認する。
するとユーリアさんはニコリと笑う。
「ユーリアでいいですよ。
フィーリアが連れてきたのです。遠慮は要りませんよ」
そうなんだ?ならゆっくりしていこうかな。
「そっすよ。
一通り用事を終えるまで1週間てとこっすかね。
それが終わったら、また旅立つっすよ」
そう告げるフィーリアだったが、ユーリアさんの鉄拳が頭上から降った。
にこやかな笑顔のままで。
ドゴン!と鈍い音が響いた。
ユーリアさん、強ぇ……
フィーリア、完全に伸びてるよ……
「やっぱり、また旅立つ気なのねこの子は。
……お願いできますか皆さん!
どうか、この子がもう二度と旅に出ないように説得してくれませんか?報酬もお出しします」
お辞儀するユーリアさん。
ベレニスは伸びてるフィーリアの顔を、永久に脳裏に刻もうとするかのように、グリグリと指を押し込んでる。
そんな中、私とリョウは顔を見合わせたのだった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる