上 下
49 / 116
第2章 英雄の最期

第8話 私の評価

しおりを挟む
 え~っと、なになに?

『ローゼ。魔女。性格は仲裁型で、場の空気に流されやすい。
 問題に対し、常に正面から向き合おうとしている姿は尊敬に値し好感が持てる。
 武器は白銀の杖。魔女の腕前は上位。
 ただ、まだ底がしれない』

 ……えっと、仲裁型って⁉流されやすいって⁉
 いやいやいや、でも次からの文は褒められてるよね。

 はあ……良かった。
 ……悪口雑言なら泣いてたよ。

 そして次の文は……っと。

『立ち居振る舞いや整った容姿から、どこかの王侯貴族の出身と推察する。
 冒険者としては優しすぎる思考。
 他者との関り合いから学びを得て改善しようとする姿勢。
 驕り高ぶりは皆無な点から、苦労はしているものの衣食住に悩まされる生活は経験していないようだ。
 気になる点は多々あるが、最大の懸念は魔女としての資質だ。
 伝承に聞く魔王アリスと同じく、闇に飲まれる可能性がある。
 魔力が暴走し、人の身に余る程の魔法を行使する可能性を考慮すれば放置は危険である。
 アラン傭兵団が魔女をリストアップしてるのはたしかだろう。
 そのためにリョウ・アルバースも彼女の側にいるのではなかろうか?
 要注意人物と判断する』

 …………え?
  リョウが私と一緒にいる理由……何それ…………

 それに力に呑まれるって……魔王アリス? 
 え?魔王ってそんな名前なの?

 どの文献にも出てこない魔王の名前……
 それに……私が魔王になる可能性があるってどういうこと?

 放心していると、ムクリと起きたフィーリアが、私の手に日記帳があるのを見て慌てふためく。

「よ、読めるんすか?ローゼさん?」

 コクリと力なく頷く私。

「あちゃー油断したっす。
 この文字はドワーフぐらいしか使ってないっすからね」
「ごめん……読んじゃって」
 
「まあ、自分も、うたた寝しちゃったっすからね。
 ……にしてもビックリっす」
「これって人物評だよね」

 私はフィーリアにそう確認すると、コクリと頷かれる。

「旅で得た商人としての知識や、各地方の特産品や気候や住んでる人の好みの把握。
 それから、出会った人物を評価する手記っすね。
 あ~、気にしなくっていいっすよ?
 自分が思っただけを書いた手記っすから」

 私はフィーリアにそう慰められると、日記帳を閉じて返す。

「アラン傭兵団が魔女をリストアップしていて、リョウが私の側にいる理由って……」
「いやいや、マジで気にしないでほしいっす。
 自分の想像ですし、リョウ様の性格っすからねえ。
 ……ガチで何も考えてない可能性もあるっすよ」

 私が落ち込んでる姿を見せると、フィーリアは慌てて元気づけようとしてくれる。

 うん。この話題は後日に持ち込むとして、もう一つ聞きたいのがある。

「魔王アリスって?」
「あ~、人間では、魔王軍を追い出した後の大乱で記録が失われたんすよねえ。
 ……魔王アリス。
 それが魔族をこの大陸に呼び寄せ、服従させ、大陸の人口を十分の一に激減させた張本人っすよ」

 フィーリアの説明に私は驚く。
 人間が魔族を服従させた⁉
 そんなのは信じられないと、否定しようとする私にフィーリアが続ける。

「千年前の魔王軍との戦い。
 自分らドワーフの代表として、当時の王様のシュタイン様が七英雄として名を残してるのは知ってるっすよね?」
「名匠シュタイン。
 大いなる武具を作り出した英雄王」
「そっす。
 シュタイン様がドワーフに伝えし伝承だと、仲間である魔女アニスのお姉さんが、魔王アリスだったそうっす」

 フィーリアの言葉に私は衝撃を受ける。

 アニスは七英雄の1人であり、最初に魔王に国を滅ぼされた姫。
 と言うことは……

「ディンレル王国第一王女アリス。
 元々は誰からも、魔法からも愛されていたという話っすね。
 ……すいませんっす。自分も細かくは知らないんすけど、たしか愛する騎士が殺されてから人格が崩壊したと伝承にあるっす。
 里に詳しい学者がいるんすけど、着いたら紹介するっすよ。詫びっす」
「うん……ありがと」

「詫びついでにローゼさんの日記帳っすけど、それ激レア魔導具っすね。
 記述した体験を、他の人間が経験値として追体験出来る魔道具っす。
 それを与えたローゼさんの師匠って、相当ヤバいと思うっすよ」
「ああ~。まあ、なんとなくは理解してたけど。
 そういう人だったから。
 多分私が死んだら回収する気なのかも。
 でも、それは別にいいかなあって。
 その前に再会して、お祖母ちゃんも書いてるんでしょ!
 だったら読ませて!って言おうと思ってたから」

「……ローゼさんて、やっぱり変な人っすね。
 これはいい意味っす」

 ホ、ホントかなあ?

「フィーリアが魔女をよく思ってないのって、魔王になる危険性があるから?」
「まあ、それもあるっすが、話を聞かない人が多いんすよ。
 おまけに魔導具に強欲すっからね。
 大体が自分が強くなれればいいって人ばっかだったっすから、何度か危険な目に遭ったんすよ。
 その点ローゼさんはお人好しの善人ですので、よく思ってるっすよ」

 ホ、ホントかなあ?

「うるさいわねえ。
 あんたたち、まだ起きてるの?
 これ以上私の睡眠の邪魔したら……明日のご飯……全部貰っちゃう……から……ね。スピー」

 ベレニスの寝言に私たちは顔を見合わせて笑う。

 そして、明日の旅に備え、灯りを消してベッドへと潜った。

 とにかく今は寝よう。明日も山道だし盗賊や魔獣も多く出るらしいし。

 翌朝、私のほっぺたにフィーリアとベレニスの足が引っ付いていて、目を覚ました私は身動き出来ないことに気づく。

 おにょれベレニス!
 だからどうしていつも隣のベッドで寝たのに、私が起きたら私の寝てるベッドで、反対側を枕にして寝てるんじゃあああああ。

 フィーリアは同じベッドで寝たし、初犯だし可愛い足裏だから許す。

 とりあえず強引に起き上がって、2人を起こした。

 外ではビュンビュンと剣を振って、朝の鍛錬しているリョウ。
 ベレニスが相変わらず理解できないという顔をし、フィーリアも疲れないんすかねあれ、と呆れている中、出立の準備をする。

 さて、今日はどこまで行けるかなあ?
 なにはともあれ、私もドワーフの里に行く用事ができたのだ。

 逸る気持ちを胸に私たちは宿を後にした。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

処理中です...