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第1章 復讐の魔女

第34話 決着

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 私、ローゼは見る。
 ディアナさんの過去の続きを。

 ***

「キヒ♥初めましてぇ。ここ良い?」
「あら?お客様ね。
 どういった占いを御所望かしら?」

 ベルガー王国北東の街ビオレール。
 ここにいれば魔女ディルと改竄魔法の何かがわかる。
 そう占いで出た結果、私は住み着き、占い師と冒険者をしつつ滞在していた。

「それよりぃ♥あんたノエルに拾われたんだってぇ?」

 ピクっと眉毛が動いた気がした。
 ついに来たんだ。
 私を……私が生きる目的を……復讐する目的が。

「ババア共から聞いたんだよねぇ。
 この漆黒の剣の前の持ち主の由来♥
 そしたらぁ、面白いこともいっぱい聞いちゃった♥キャハ♥」
「そう……全部教えてくれるかしら?
 仲間にしてくれると嬉しいわ」

 そう告げると、その女、ジーニアは、歪んだ笑みを私に見せたのだった。

「世界は好きぃ♥」
「大嫌いよ」
「ならぁ♥協力してぇ♥なぁに、ほんのちょっとぉ、時々占ってくれれば良いから。
 そしたらぁ、ぜえんぶ、お・し・え・て・あ・げ・る。キャハ♥」

 彼女が欲する占いは、魔獣より上の存在を呼び出すのに、どう行動すれば効率的かだった。

 私は二つ返事で引き受けた。
 私がいらない世界を、絶望に満たす事が出来るのだから。
 
 ジーニアは私に、ノエルが邪教の魔女の誘いを拒否した結果、庇護していた私たち孤児を人質にされていた話をしてくれた。

 1年以上、いいなりだったようだ。
 最初は小さな依頼で、報酬を渡す。
 徐々に悪事に加担させる、古典的なやり口。

 ノエルを利用した老婆も必ず殺してやる。
 それまではジーニアの信頼を得る努力をしよう。
 安心してジーニア。
 この世界が大嫌いなのは、事実なのだから。

 翌日、冒険者ギルドに入って驚いた。
 あの金髪、碧眼、容姿。十年振りでも、5歳が15歳になっていても見間違えるはずがなかった。
 ローゼマリー王女に間違いない。

『なんかすみません。私はローゼって言います。
 魔女ディルの弟子で今日ビオレールに来ました。
 ほらベレニスも挨拶して』

 そう告げられた時、私は小躍りした。
 魔女ディルにローゼマリー王女は匿われていた。
 ということは、ノエルの実行した王と王妃を殺した偉業が、改竄魔法でなかった事にされたのも間違いない。

 ふと脳裏に計画が浮かび、実行する手順を組み立てる。  
 ジーニアが殺した者の魂も利用すれば可能と。

 気取られないように、さりげなくその時まで、魔女ローゼを名乗るこの娘の信頼を勝ち取ろう。

 私はスッと水晶玉を覗き、出ていった少年を占った。
 占いは、運命の女神の盟約に則り嘘は言わないわ。
 でも私の知っている事は教えてあげない。
 精々頑張りなさいな、ローゼマリー王女様。
 私の復讐の糧にしてあげるわ。

 ***

 そこまではっきりとディアナさんの記憶とリンクして、ディアナさんの感情や境遇が手に取るようにわかってしまう。

 怒り、憎悪、恨み……
 それらが溢れ出すようで、酷い頭痛と吐き気で頭がガンガンする。

 私の両親を殺し、私を誘拐するようにノエルに指示した、ディルの知り合いらしい老婆の魔女の情報も衝撃的すぎた。

 それでも私は魔女ローゼとして、ディアナさんを止めてみせる!
 現実に戻り、絶叫する彼女へと対峙してゆく。 
 
「何が中興の祖、カエサル王よ」

 ディアナは血走った目で叫んだ。

「貧民を救ってくれた救世主ノエルは、どれだけ頑張っても貴族たちから虐げられ、邪魔をされた。
 結局は私のような者を食べさせる為に唆され、王暗殺という大罪に手を染めた!」

 ディアナの叫びは続く。

「……なのに、ディルに暗殺はなかったことにされ、お金も貰えず、捨てられ、死んでしまった。
 ……私はノエルが果たした偉業をなかった事にした世界を許さない‼
 それが悪行だとしても生きていた証なのだから!
 必ず世界に認知させる!
 例え、この命が尽きようと‼」

 本から放たれる魔法の威力が増していく! 

「それが、ディアナさんの願い?
 それも違うんじゃないですか?」

 私の言葉に、ディアナさんは本に魔力を送り込みながらも鋭い視線を向ける。
 まるで視線だけで刺し殺すかのような眼力だ。

 だが私は続ける。

「貴女の願いはノエルとずっと一緒に生きていたかった!
 誰も傷つけず!誰にも利用されず!
 ただノエルがいてくれればそれで良かった!」

 ディアナさんは一瞬、ほんの一瞬だけ動揺する。
 私はその隙をついて詠唱を開始する。

『我が魔力全て放出せよ。
 我が魔力と引き換えに魔法陣を消滅させよ。
 我は万物の根源たる魔力の遣い手なり!
 魔力足りぬなら我が生命も燃やせ!
 我が魔力よ、我の望むままに爆ぜよ‼』

 眩い金色の光が私を包み、その光はその場にいた全ての人を覆ってゆく。

 ディアナさんの放つ禍々しい魔力を飲み込んでゆく、金色の光。

「ディアナさんの苦しみ、理解できます。
 ……でも、だからこそ……救ってみせます。
 魔女ローゼ・スノッサの名にかけて‼」

 リョウが、ベレニスが、オルタナさんが、バルドさんが、トールもヴィムさんも、衛兵たちも、みんながこう思ったそうだ。

 美しい、と。 

 そして……

 上空を旋回し魔力弾を撃ち込んでいた本は消滅し、禍々しい贄の魔法陣も、光と共に消え去った。

「かはっ……私の魔法が……消えるなんて……」

 ディアナさんはよろめき、その場に倒れそうになり私は慌てて駆け寄り、抱き留める。

 はあ……はあ……と肩で息をするディアナさんは意識朦朧としているようだ。
 でもなんとか生きてはいるようだと安心する。

 すると私の視界はグニャリと歪む。
 あれ?立っていられないや……
 まあ、いっか。
 やりたい事は上手く出来たし……

 リョウとベレニスの呼ぶ声が聞こえる気がするけどごめん……後はお願いね。

 私はそのまま意識を手放した。
 
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