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第1章 復讐の魔女

第32話 物語のように

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 リョウとオルタナの戦いも、決着の時を迎えようとしていた。

 剣を弾かれ、そこに繰り出された蹴りを寸での所で躱そうと身体を捻るも、間に合わず、頬に受けてしまうリョウ。
 衝撃で一瞬意識が飛ぶも、何とか踏みとどまる。

 そこへ衛兵が大勢駆けつけてくる。

「この騒ぎ、兵舎爆発があったというのに遅い到着ですな」

 不敵なオルタナの笑み。

「何を抜かすか、轟音や剣の交わる音がしたのは今しがただ。
 その者が賊か?」

 その中にいた、領主代行のトール・カークスの問い。

 息を切らした衛兵も多く、その言葉通りに今しがた気づき慌ててやってきたのだろう。

「賊は虫の息のようだな。
 オルタナは休まれよ。
 後は他の者に任せたまえ」

 トールの指示の元、衛兵たちが動く。

 だが……

「待たれよ。獲物を横取りする気ですかな?
 腹を空かせた猛獣が暴れたら被害甚大ですぞ?」

 オルタナは寄ってくる衛兵を眼光のみで怯ませる。

「トール様!あちらでディアナ殿が魔女と戦っておられるようです!
 あの耳長は……エルフが魔女の加勢に向かってる模様!
 ご指示を!」
「ハインツ伯爵を殺した連中か。
 ふむ、そちらの傭兵はオルタナに任せて、ディアナ殿の援護に向かうが良い」

 オルタナを残し、その場を去る衛兵たち。

「ほう?ジーニアという魔法剣士を撃退したか。
 だが服がボロボロで見るに耐えんな。
 アランの傭兵リョウ・アルバースよ。
 勝負は預けておこう。
 だが、次の勝負は決着がつくまで離してやらんから、そのつもりでな」

 不敵な笑みを浮かべつつトールの横に立ち、何かを告げ走る去るオルタナ。
 瞬時にベレニスの横に到着し、自身のマントを彼女の肩にかけた。

「女の娘が肌を露出させてはいけないからね」
「オルタナって、ホント紳士ね。
 どっかの傭兵と大違い。
 んで?私はこれ捕まったの?」

 その光景を見ながら、リョウはフラつきながらも未だに膠着状態のローゼの元へと向かう。

「リョウ・アルバース。
 デリム出身のアランの傭兵がいるとの噂は聞いていた。
 この街にいたとは奇遇だな」
「……奇遇じゃない。だが今は後回しだ」
「ふむ。話ぐらいは聞いてやる」

 トールの目に映る、庇護されたディアナという魔女の足元にある禍々しい魔法陣。
 それに抗っている金色の髪を持つ魔女の少女。
 そこに向かうエルフの少女と傭兵の少年。

「ハインツ伯爵を殺したのがあの3人?
 ふむ。なるほど、たわけた話だな」

 まるで、いにしえの物語の1ページを垣間見たかのように、トールはその光景を目に焼き付けた。

 ***
 
 ディアナの上空を漂う本から放たれた魔法は、私を捕らえようとやってきた衛兵たちにも容赦なく襲いかかる。
 魔法障壁を展開して何とか防ぐが、衛兵の数に比例して降り注ぐ魔法は増え、ついには限界が来る。
 ディアナが狂気に満ちた顔を浮かべると同時に、最大級の魔法攻撃が降り注ぐ。

 もうダメだ!そう思ったその瞬間。

「やっぱりローゼって私がいないとダメダメね♪
『風の精霊よ、全てを護る突風を舞い上げよ!』
 とりゃあああああああああ!」

 声と共に放たれた風魔法が、私と衛兵たちの間に立ちはだかり、その壁によって大魔法から護られる。

 声の主の方を振り向くと、そこには予想通りの人物がいた。

「ベレニス!それにリョウ!」

 マントで身体を覆われているベレニスと、全身血塗れのリョウがそこにはいた。

「リョウ!その怪我⁉」
「致命傷はない。俺も加勢しよう。
 ローゼがやりたいことを好きにやればいい。
 俺はそれを守る」

 そう言うとリョウは、魔法がもう飛んでこないと踏んで、任務遂行しようと襲いかかってくる衛兵たちを一蹴する。

 衛兵さんたちめ、頭でっかちだなあ。
 なんていうか、誰が護ってるのかわかってほしいぞ。

「ビオレール兵及び王国騎士諸君よ!
 戦場の状況をよく確認したまえ!
 あの魔法陣を諸君らはどう見る!
 見よ!あの禍々しさを!
 君たちが護るべきはディアナではない‼
 あの魔法陣と戦っている魔女ローゼたちである‼」

 オルタナさんの声が響き渡った。

 それを聞いてビオレール兵たちは戸惑うが……

「オルタナ隊長!
 そんでもって何すりゃいいんですかい?」
「ヴィムよ目覚めたか、だがバルド殿の肩を借りてるようではまだまだだな」

 軽口を叩きながらも、オルタナさんの顔は真剣そのものだ。

「ただ邪魔せず被害に遭わず目撃者となればいいのさ。
 だろ?オルタナ・アーノルドさんよお」

 バルドさんの軽口に、オルタナさんは苦笑いする。

 領主代行のトールが静かに告げる。

「全権指揮を王国騎士団百人隊隊長のオルタナ・アーノルドに一任する」

 トールの言葉により、場は一気に引き締まる。

 さて、出番だぞ私。

「……せっかくの渾身の改竄魔法だったのに、何故こうも上手くいかないのかしらね。
 この場にいる人間全てがローゼちゃんの味方で私の敵。
 ノエルに拾われる前にそっくり……」

 ……これは幼い頃のディアナさん? 

 魔力持ちとして売られ、逃げ出し、王都ベルンで乞食として生き延びた惨めな自分。
 ノエルに拾われ、初めて優しい温もりを感じた日々が走馬灯のように頭をよぎる。
 どれだけ努力しても報われず、他者に利用され続ける人生だったと自嘲する。

 ディアナさんの想いが、無念が、記憶が、ぶつかった魔力がうねり、混じり、私の脳へと直接入り込んでいった。
 
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