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第1章 復讐の魔女

第28話 助っ人

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「要は、おっさんだけ、何故か私たちのことを正確に記憶してるってわけね。
 まずさあ、そこが怪しいのよねえ。
 他の人たちに、おっさんみたいな人はいなかったんでしょ?
 てか、何でここがわかったの?」

 一通り説明し終えた後、ベレニスがバルドさんに質問をする。

 まあ気になるところだよね、私もそう思うし。

「魔法の原理なんて俺は知らん。
 だから俺がお前らを覚えている理由は不明だ。
 ここにいると当たりをつけたのは、衛兵共や冒険者の連中が探しても、見つからない場所。
 ……ならば、夜中は使用されてない家屋が妥当だと考えたからだ」

 なるほど、理屈としてはおかしくない。
 冒険者ギルドのマスターである彼にとって、ビオレールの街の構造は知り尽くしてるだろう。
 私たちがここにいる可能性を考慮し、探しに来たってことね。

「まあ、嘘はついてないようね。
 で、聞いた感想を聞かせてくれるかしら?
 このまま私たちにつくか、それとも領主殺しの犯人として私たちを売るか」
「待ってベレニス。
 ……私たちの現状、お話した通りです。
 力になってくれると助かります」

 私はベレニスを制止し、バルドさんに話しかける。

「10年前に、病死したとされるローゼマリー王女か。
 ……なるほど、お前さんらの話も、嘘ではなさそうだ」

 バルドさんは私をじっと見てくる。

「……10年前、ちょうど俺は王都で冒険者をやっていてな。
 今でも先王様と先王妃様、姫殿下が病死したとの報に愕然とし、涙を流す人々の光景を覚えている」
「おっさんは泣かなかったの?」
「一介の冒険者だったからなあ。
 だが、死して知る偉大さよ。
 先王様たちが健在ならば、この国の未来は安泰だったとな」

 盗賊や魔物の被害が拡大したのは、貴族政治による民衆への搾取が原因だ。
 そして今、貴族政治の弊害が国中に根付いているのだ。

「バルド殿、貴殿は驚かれてないのですな。
 ディアナ嬢がこの件の首謀者の1人だったと」

 リョウの疑問は最もだ。
 バルドさんは私の説明で、ディアナが教会に潜り込んでいたジーニアという魔女と仲間だったと伝えても、彼は眉をピクリとも動かさなかった。

 ギルドで占い師として信頼の厚かったディアナ。
 そのディアナが邪教関係者と知っても、バルドさんは微動だにしなかったのだ。
 それどころか、納得したかのような態度を見せている。

「彼女には、ボルガン山地でロック鳥に殺されたと思われる人骨の調査依頼と、逃亡したジーニアの捜索を依頼していたのはお前らも知ってるな。
 彼女の能力なら、何かしらの結果をすぐに出せたはずだ。
 なのに何も結果を出さなかった。
 無論、そういう時もあると最初は考えていたが、な」
「私たちの話を聞いて変わった感じ……でもなさそうですね」

「ああ。ディアナは人当たりが悪くはないが、他人と深く関わるタイプではなかった。
 目立たずひっそりとギルドで仕事をこなして、1人で生活するタイプだ。
 だがお前さんらが現れてから何かが変わった。
 お前さんらを時折見る目は、今まで見たことのない強い決意に満ちていた。
 まるで、何かに飢えているかのようにな」

 そうだったのか……
 でも、私は初めての出会いを感謝している。
 あの時ディアナさんに後押しされなければ、リョウは死んでいただろうから……

「バルド殿、お願いできるだろうか?
 ローゼとベレニスを護ってはもらえないだろうか?」

 リョウはバルドさんに深く頭を下げる。

 ま~たこいつは、って目をベレニスがしていて、私もムッとしてリョウを見る。

「それでお前さんは城に乗り込むか。
 案としては悪くない」
「ちょ、ちょっとバルドさん!」

 まさかリョウの提案を飲むなんて⁉ 

 後押しされたらリョウが何を言い出すかわからなかったので、私は慌ててバルドさんに声をかける。

「術者を殺せば塗り替えられた現実を元に戻せる。
 ディアナはビオレール城に庇護された。
 だからお前さんは城に乗り込む。
 だが、それは陽動でお嬢ちゃん2人を街から脱出させる時間稼ぎ。
 これで合ってるか?」

 リョウは迷いのない目で頷き、バルドさんも頷く。

「どうなんだ?
 それでその後、お嬢ちゃんたちは何とか出来るのか?」

 私へ目線を移すバルドさんの問い。

「ディアナとジーニアの所属している邪教集団を探り、潰していく手段ぐらいしか思いつきませんけど、そうなると何年かかるか……
 リョウの案を実行したとして、捕虜となったリョウを助けるのは厳しいです」
「まあ、ローゼなら処刑場で大暴れするのが目に浮かぶわ」

 ベレニスが愉快そうに笑う。
 そこ、笑わない!事実だけどさ……
 リョウも呆れ気味に私を見てるし……

 そんな私たちを見たバルドさんは深くため息をつき、組んでた腕を解き口を開く。

「成功率と生存率と言ったが、成功率を選択したお前さんは傭兵として正しいだろうよ。
 だがな、成功率を高めつつ生存率も高めたいなら俺が力を貸してやる」

 バルドさんはニヤリと笑って私たちを見てくる。
 その言葉を受け、私もベレニスも驚きに目を見開くのだった。
 
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