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第1章 復讐の魔女

第23話 疑わしきは魔女

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 前日の夜、領主の寝室。
 領主ハインツは女を抱いていたが、クソっと悪態をついて、女を下がらせた。

(司祭やシスターまで捕まるなんて、おのれ魔女のローゼとやらめ!
 魔法陣を封じやがって!)

 ハインツの野望はビオレールから大陸へ覇を狙うことだ。
 そこに思わぬ妨害が現れた。
 老婆の魔女の指示が、ふざけたものであることに憤慨していた。

(派遣したのが、ジーニアという小娘とロック鳥だけとは!)

 老婆の魔女。
 それはハインツに近づき、魔獣を呼び寄せて使役する術を教えた人物。
 ロック鳥を古びた教会に置き、魔法陣を護るように仕向けたのも彼女の指示であった。

 だが魔女の少女・傭兵の少年・エルフの少女に魔法陣の存在を暴かれ、窮地に陥った。

(まあ良い。司祭もシスターも使い捨ての駒よ!
 俺が知らぬ存ぜぬを貫けば何とかなる!)

 ハインツはベッドから起き上がり、不敵に笑う。

 ここ領主の寝室は、警備の衛兵に常に護られているだけではない。
 一度ここに入った者以外は侵入不可の、特殊な魔導具が仕掛けられている。
 この寝室に攻め入るなんて、誰もできないのだ。

(それにしても、トール・カークスめ。
 俺が教会に行った日、女を抱いていると思っていたが、証言から何か俺の城で探しているようだな)

 探されて困る物は山ほどある。
 特に邪教に関連する魔法陣は危険だ。
 すでに王国騎士の何人かは、トールに指示されて動いているようだと、情報も耳にしている。

(……宰相に告げ口しておくか。
 トールは伯爵領を乗っ取り、謀叛を企んでいたと。
 それで失脚してくれれば、俺にとって都合の良い展開だ)

 忌々しい魔女ローゼとやらの存在も脳裏に浮かぶ。

(クソッ!恥をかかせよって。
 必ず魔獣召喚の魔法陣を新たに構築させ、アンナと同じようにしてやる!)

 悪態をついた後、彼はベッドに入り、就寝した。

 ***

 ハインツの首にナイフが突き刺さった。
 最期に目にするは、暗闇の寝室に光る三日月の口。

「っ…………コヒュッ!」

 ハインツの喉にナイフを突き刺した影は、そのまま転移魔法で去っていった。 

 ***

 領主のハインツ伯爵が殺されたという報せは、瞬く間にビオレール中に広がった。

「え~、ビオレール領に住まう領民に告ぐ」

 戦時でもない現状で起きた異常事態。
 ビオレール城の城壁から、集まった民衆に演説する人物を見てリョウの顔色が変わり、殺意を隠そうと必死になる姿で悟る。
 あの白髪混じりの中年男が、宰相の側近である元パルケニア王国貴族、トール・カークスなのだと。

「すでに噂が広まっているようなので簡潔に話す。
 領主ハインツ・ビオレールは何者かに殺された。
 伯爵の家族は無事である。
 だが世継ぎは幼年である為、政務を行うのは難しい」

 そこで間を置くトール。 

「よって伯爵の側近の貴族や騎士、王国から派遣されている騎士たちと協議の結果、暫くの間、私がビオレール領主代行として務めることとなる。
 陛下と宰相閣下が、より相応しき代行者を送ってくださるまでであるがな」

 ざわつく民衆。
 当然だろう、演説の内容は領主の地位を奪う乗っ取りではないかと。

「ああ、心配しなくてよい。
 このトール・カークスが皆の不安を取り除き、必ずや良き領政を約束しよう。
 時節が来ればハインツ伯爵の長男リヒター殿が領主となる。それも約束しよう」

 民衆のざわつきが強まった。
 いきなり現れた悪評高き人物が領政を担うのだ。
 不安でしかない。

 演説するトールの左横は、銀製の鎧や兜を纏った騎士たちに、貴族と思われる面々の青褪めた顔。

 あ、カルデ村で盗賊引き渡した時のムカつく貴族もいた。

 右横には黒鎧の面々。王国軍の騎士たち。
 オルタナさんも端っこの方にいるのが見えた。

 ……こっち側は平然としてる……か。

「殺したのは誰で、どうやって殺されたんだ!」

 民衆の中から声が上がる。

「寝室で絶命していたゆえ、寝込みを襲われたと思われる。
 犯人は未だ不明だ。
 このトールが必ずやその罪に相応しい報いを与える」

 民衆はまたまたざわめく。

「そんなの、魔法を使える奴が伯爵を殺したに決まってるじゃないか!」

 民衆の1人が叫び、それに呼応する『そうだ』という合唱。

「マズい流れかも。
 まるで過去の歴史であった魔女狩りの発端にそっくり」

 私の呟きにベレニスも警戒感を強める。
 現状このビオレールの街で、人を殺せるほど強い魔力を持ってる人物は、私とベレニスとディアナさんぐらいだ。

 真っ先に魔女狩りの対象にされてもおかしくない。

「教会での騒動で行方をくらました、ジーニアという者も魔女だったんだろ?
 そいつが犯人じゃねえのか?」

 またも民衆から飛ぶ声。
 その声にトールは首を横に振り否定する。

「今は憶測は控えるべきであろう。
 だが情報提供は大歓迎だ。
 教会での騒動に関わりがあるかないかに関わらずな」

 民衆のざわめきが、さらに一層強くなった。

 この演説が切っ掛けとなり、ビオレール領では不穏な空気が漂い始めるのだった。

 その日の夜、私はディアナさんから2人きりで話をしたいと告げられ、郊外にある彼女が泊まる宿へと足を運んだ。

「大変なことになったわね。
 ベレニスちゃんは暴れてない?大丈夫かしら?」
「あ~大丈夫です。
 ご飯食べてお風呂入って、宿のベッドですぐに爆睡しましたんで。
 リョウが隣の部屋にいますし、何かあっても対処はしてくれると思います。
 ……それでディアナさん。
 私と2人っきりで話したいことってなんですか?」
「今後についての相談よ。
 ローゼちゃんも魔女狩りのことは知ってるでしょ?
 もし起こったら、どうする?」

 ディアナさんは真剣な表情で聞いてきて、私はそれに対してうーんと唸る。

「まあ……逃げて旅をするかもですね。
 前にディアナさんに占ってもらった、私の両親を殺したノエルという魔女。
 ……死んでいたとしても、どういう人物だったかを辿るのも悪くないかなって」
「クスッ。ローゼちゃんらしい答えね。
 その旅には傭兵君もベレニスちゃんも、当然ついてきてくれると思っている。違うかしら?」
「それは……」

 甘い考えしてるって思われてるのかな?
 確かに、リョウとベレニスを頼りにしたい気持ちもある。
 俯いて考えてしまう私に、ディアナさんは微笑んだ。

「ローゼちゃん。
 別の選択肢を取らないかしら?」
「えっと……何か良い方法あるんですか?」

 さすがは運命の女神に愛されし占い師。
 頼りになるなぁと期待の眼差しを向ける私。

 そして……
 
 バアァァァァン!!

 突然、部屋の窓が勢いよく開け放たれた。

 そこにいたのはジーニア。
 修道服姿で漆黒の剣を片手に、狂気の笑みを浮かべて立っていた。
 
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