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第1章 復讐の魔女

第20話 狂気に満ちた少女

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「まだ教会内への立ち入りは禁止のはずだが?」

 私たちに気づき、厳しい顔を向ける司祭。
 その顔には驚きの表情が浮かび上がる。
 私たちにではない。

 先程殺されたはずの兵が、無傷でリョウに抱えられているからだ。

「……何故そいつを貴様らが!
 ……まさか。いや、そんな馬鹿なことが……」

 司祭は最初こそ驚きの表情だったが、すぐにある考えに辿り着いたようで表情を歪める。

「魔女が!幻影魔法でも使ったのか!
 おのれっ!いつから忍び込んでおった!」

 司祭の大声で、シスターたちが駆けつけ、長槍を手にして私たちを囲む。
 そこにはジーニアと呼ばれた少女も、漆黒の剣を手にし、ニヤニヤして立っていた。

「……結構最初から。
 あの奥の部屋の魔法陣、南の山にあった邪神崇拝の教会にあったものと同じですね。
 まさか同じ物があるなんて……」

 私は少し呆れたような声でそう話す。

「領主が確認しているのも見た。
 あれは人の血肉で魔法陣を描き、災いを呼び寄せるらしいな。
 ……まさかそんな代物を呼び寄せようとする領主や司祭がいるとは」

 そう話すリョウは、すでに剣を抜いていた。
 その刃の輝きを見て、司祭が後ずさる。

「もう遠慮なくやっちゃっていいんでしょ、ローゼ?
 てか傭兵もよく我慢したわね。
 さ、チェックメイトよ。
 兵士や領主もこの場にはいないから、もう暴れても問題ないわよね」

 ベレニスもレイピアを抜く。

「ジーニア!このたわけが!
 斬り殺したのが幻影だと気づかなかったのか!
 いや!それ以前にこいつらを中に侵入させてどうする!
 この役立たずめ!」

 司祭は罵倒するが、ジーニアはニヤニヤしたまんまだ。

 ……やっぱり。

「気づいてたのよね。
 ……単刀直入に聞くけど何者?
 その漆黒の剣も気になるから、由来教えてくれると嬉しいかな?」
「な、何だと⁉気づいて見逃していただと⁉
 ええい!お前ら何をしている。
 早くそいつ等を始末せよ!」

 司祭の叫びに、ジーニア以外のシスターたちが一斉に動くが、リョウとベレニスの剣技の敵ではなく、あっという間に峰打ちで倒れていった。

「キャハ♥強いつよーい、司祭様逃げてぇ♥
 お城から衛兵呼んだほうが良くなぁい?
 出ないとこの人たちに殺されちゃうぞぉ♥」

 ジーニアは司祭を見下しながら、心底楽しそうに喋る。
 その目は狂気に満ちていた。

 私はそんなジーニアに問いかける。

「もう一度聞くけど、あなたは何者?」

 私がそう聞くと、ジーニアはコテンと首を傾げ、にんまりすると嬉しそうに笑う。

 司祭は逃げようとするが、入口側にいるのは私たちだ。

「こんなところで死んでたまるか!
 儂がどれだけハインツに投資したと思ってるんだ!
 ええい!邪魔だ!
 こっちにはフェロニア以上の神がついておるのだ!」

 なんて言ってる司祭だけど、ベレニスの風魔法であっさり壁に飛ばされ、気絶した。

 司祭もシスターも、俗な考えの小物だったっぽいかな……大物は……

「助けないんだ。……不気味ね。
 てっきり護衛なのかと思ったんだけど」

 私はジーニアに警戒しながら言う。

「護衛は正解。
 まあ、南の山のロック鳥のような存在って思ってくれていいよぉ♥」
「つまり、魔法陣を守るのが任務?」
「ヒャハ♥質問ばっかりでつまんなぁい。
 ねえ女の子2人はどいててくれなぁい?
 一目惚れなんだよねえ……そこのお兄さん。
 ねぇ?同じような剣を持ってるし一対一で戦わなぁい?」

 ジーニアはリョウに剣先を向ける。

「うわっ……傭兵に一目惚れって頭おかしいんじゃないのこの女」

 って!ベレニス!そこまでドン引きするな!
 ていうか一目惚れの意味合いが違うと思うぞ。

「リョウ……」
「わかってる。こいつは強い。
 だが指名されたなら仕方ないだろう。
 ローゼ、ベレニス、ここは任せてくれ」

 私は不安そうな声を出すが、リョウは応えるように頷いてくれた。
 剣戟は瞬く間に始まり互いの剣が火花を散らす。
 壮絶な撃ち合いが延々と続くかのような錯覚を覚えながら、私は2人の戦いを見ていた。
 
 ⁉……違和感はこれか‼

「ローゼ、今のうちに魔法陣を壊すわよ。
 傭兵なら大丈夫でしょ?
 剣の重さもスピードも傭兵が勝ってるし、体力も傭兵が上ね」
「……ベレニス動かないほうがいいかも。
 やられた。足元見て」
「はあ⁉なにこれ?」

 一対一でリョウに戦いを挑んだ時から数秒、私とベレニスの意識がリョウに向かったのは確かだ。
 だがその隙に魔法が放たれていたようだ。

 足元には魔法陣。
 邪神崇拝の本で読んだことがある紋様が見える。

「これは恐らく生贄の魔法陣ね。
 それも出ようとした瞬間に発動し、中にいる者を魔法陣の贄とする類い。
 ……ロック鳥がいた教会より、より精密かも」

 私の推測に、ベレニスは絶句する。

「ホント何なのあの女?
 漆黒の剣を持ってて魔女?
 ローゼの両親を殺したっていうのと同じ⁉」

 私たちの異変に気づいたのか、リョウの剣がブレる。
 瞬時にジーニアの剣が、リョウの右肩から血飛沫をあげる。

「リョウ!」
「かすり傷だ!」

 態勢を立て直し、私たちの側まで来るリョウ。

「人質とは卑怯だな」
「人質ぃ?ヒャハ♥別にあたしはお仕事しながらあんたと戦ってたってだけぇ。
 で、どうするぅ?
 その魔法陣はあたしを倒さないと消えないよぉ?」

 青い修道服に身を纏う少女の狂気の瞳。

「ローゼ、ベレニス。待ってろ。
 すぐにあいつを倒す!」
「待って!一つだけ答えてジーニア、仕事って言ったけどそれって他の場所でもやってたりする?
 ……例えば10年前から……王殺しとか」

 リョウを制止し私はジーニアに聞く。
 その質問が意外だったのか、それとも私の声が震えていたからだろうか。

 ジーニアはキョトンとした顔をした後に、お腹を抱えて笑いだした。
 まるで嘲るような笑い声だ。

 リョウも警戒を解かずに剣を向ける。

「スゴイ♥ねえどうしてそう思ったのぉ?
 魔女の……えっと名前何だっけ?」
「ローゼ。ローゼ・スノッサよ」

「聞いたことない名前。
 でも覚えておいてあげるぅ♥
 だってあたしの知る限り、10年前からって単語を出したのはローゼが初めてぇ。
 しかも歴史に残らない、とある王の死!
 こつこつやってる上もビックリする発言♥
 ねぇ?仲間にならなぁい?
 ローゼならすぐに幹部待遇で迎えられると思うけどぉ」

「……碌でもないとこっぽいからお断り。
 全部話してもらう。
 ……10年前に私の両親を殺した理由も何もかも全てを」
「あん?両親?なに言ってるのあんた」

 真顔になるジーニアだが、やがて目の色が変わる。

『我が魔力を糧にし、消滅させよ!』

 魔法陣を打ち破る解除の魔法を、私が口にしたからだ。

「……あんた?なにもん?」

 リョウの剣とベレニスの風魔法、そして私の炎魔法が同時にジーニアへ放たれる。
 そして剣が交わる剣戟音一つを残し、ジーニアは消えた。

 転移魔法、か。
 ……全く自分もだけど魔女ってのはホントに厄介すぎる。

 でも今はそれより……
 私はすぐさまリョウに駆けより傷の具合を見る。
 右肩がざっくりと切られ、おびただしい血が流れている。

 自分の服が血で汚れることも構わず、私は傷口に手を当てて回復魔法を使用する。

「回復魔法は得意じゃないけど……」
「教会の連中って神聖魔法使えるのも多いんでしょ?
 司祭やシスターたち起こしてやらせる?」

 ベレニスの提案に私は首を振る。
 リョウは軽く笑う。
 私の回復魔法で血は止まっているが、痛みはまだあるのだろう。
 その笑みは引き攣ってるようだし、冷や汗も流れている。
 そして私の肩を叩くとゆっくりと立ち上がった。

「オルタナ殿に報告だな。
 ギルドマスターにも報告したほうがいいだろう。
 城の連中に察知されないうちにやったほうがいい」
「まあ、まずは魔法陣の破壊ね。
 てかローゼ!魔法陣破れるならさっさとしてよ。
 焦ったじゃないの!」

「う~ん。咄嗟に上手くできたっていうか、私もここまで上手くいくとは思ってなくて」
「何それ?ローゼってホント面白いわね」

 ベレニスは呆れた目で私を見た。
 私は何故か少し照れた。
 
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