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第1章 復讐の魔女

第12話 邪教の影

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 5時間ぐらい歩いたところで山に入り、途中休憩を挟みながら進むと、小高い丘の上に教会が建っているのが見えた。
 教会は石造りの古い建物で、既に役目を終えて誰も使用していない。

「古い神話の本によると、この教会はかつて邪神を崇拝していた者たちが建てた場所と記されています。
 ただ古い神話であり真偽は定かではありませんがね」

 と、出発前にバルドさんが教えてくれたけど、外観はまさにそれっぽい。
 入口に辿り着くと巨大な門は開け放たれたままで、中は草が生え放題となっていた。

「とっととロック鳥倒して街に帰りましょ?
 フフーン♪お金入ったら何買おうかしら」

 ベレニスは上機嫌で鼻歌混じりにそう言うと、教会の中に入る。
 私たちは警戒しながら教会の中を進む。

 すると祭壇の後ろの壁が突然崩れて、中から巨大な白い鳥が現れた。

 あれがロック鳥⁉
 でかっ!全長5メートル以上あるかな。
 リョウが剣を、ベレニスがレイピアを構えて戦闘態勢に入る。

「それじゃ行くわ!
 風の精霊よ、我が剣に集え!」

 ベレニスが呪文を唱えると、彼女の持つレイピアの剣身に風が纏わりつき始める。
 そしてロック鳥に向かって走り出すと、風を纏ったレイピアで斬りつけた。
 
 しかしロック鳥は翼を羽ばたかせるや、突風を巻き起こしてベレニスを吹き飛ばしてしまう。
 吹き飛ばされたベレニスは空中で一回転して華麗に着地したけど、ぷくうと頬を膨らませる。

「ちょっと傭兵!ちゃんと援護してよね!」
「聞いてない戦いの仕方をするからだ」

 リョウの正論に、ベレニスはフグみたいに口を膨らましてムキーとしている。
 まあ戦闘中に説教されるほど頭にくることってないよね。

 ロック鳥は鋭い嘴で私たちへ連打で突いて来るけど、それを避けてリョウは剣を横に薙ぎ払う。
 ロック鳥の白い羽が散って、苦痛の声を上げる。
 それから私は炎の魔法をロック鳥に向かって放つけど、命中したにも関わらず、まるで効いていないようだった。

 しかしそれで良いのだ!何故ならば……
 私が放った炎は着弾場所から弧を描いてゆき指をパチンッと鳴らすと、炎の膜が一気に燃え上がる!
 
 炎に包まれたロック鳥は、雄叫びをあげて羽をばたつかせる。

「今ね!とりゃあああああ!」

 ベレニスのレイピアがロック鳥の右目を貫き、ズシンとロック鳥は倒れ伏す。

 こうして私たちの初任務が、無事完了したのだった。

 私とベレニスはハイタッチをするけど、リョウだけはスッと私たちから距離を取ってしまう。

「陰気よね~。
 道中も私とローゼのお喋りにも加わってこないし、ホント暗い奴」
「あはは、リョウ手を前に出してみて」

 私がそう言うと、リョウは言われた通りに手を前に出す。
 そこに私は手をパンと叩くように合わせる。

「やったねリョウ!
 ほら、こういうのも悪くないでしょ?」

 私がニカッと笑いかけると、リョウも「ああ」と頷いてくれた。

 ベレニスは欠伸してるけど帰り寝ないでよ?
 運ぶのは御免被るぞ。

 教会に巣くっていたのはロック鳥一体だけみたいで良かった。
 もし他の魔獣まで住み着いてたら、面倒臭いことになってたし。

「……でもなんで一体だけ、こんな人里からも魔獣の群れからも離れた場所に住み着いたんだろ?」

 ロック鳥は本来、魔獣や魔物の住む深い森で暮らす生き物だ。
 単純に肉食であるので、餌である魔獣や獣を喰らうのに適してるからだ。
 人里に現れる事例も時々あるが狙いは家畜、人も食べるけど牛や豚のほうが好み。
 こんな人里離れた教会に住み着いたのは何故なんだろうか?

「さあ?縄張り争いにでも負けたんじゃないの?」
「でも餌はどうしてたんだろ?
 う~ん。魔獣生態学も興味あるんだよね~。
 ちょっとだけ教会の中調べてもいいかな?」

 私がそう言うと、ベレニスはしょうがないわねと肩を竦める。
 そして私たちは、教会の中を調べることにしたのだった。

 教会内部をくまなく探したが、ロック鳥の餌になるような肉片や骨などは見つからなかった。
 ただ気になるのは、祭壇の裏に隠されるように地下へ続く階段を見つけたことだ。
 私たちは互いに顔を見合わせた後、頷き合ってゆっくりと階段を降りていった。

 すると、そこには巨大な空間が広がっていた。
 天井までの高さは10メートル以上もある。
 奥行きも20メートルぐらいあるのかな? 
 そして床全体に魔法陣が描かれているけど、これって……

「あっちに人骨がある。多いな」

 奥の方を指差しながら言うリョウ。
 そこにはロック鳥が食べたと思われる人骨が、ゴロゴロと散乱していた。
 その光景を見てゾッとした私は、思わず後ずさってしまう。

「ふうん。ご丁寧に誰かさんが餌として人間を与えてたみたいね。
 となるとロック鳥も、その誰かさんがここに連れてきたとかだったりしてね」

 ベレニスが苛立ちながら言うけど、それが真実なら胸糞悪い話だ。
 でもこの床全体に描かれてる魔法陣。
 これは……

「死にゆくものの無念や嘆き、恐怖の感情を吸い取る魔法陣。
 邪心崇拝の教会だったっていうけど、こんなものまであるなんてね」
「こういうのは大昔の物でも起動するのか?」
「魔力を込めればね。
 相当腕が立って知識も豊富な奴じゃないと難しいだろうけど」

 リョウの疑問に答える私。
 問題は人骨の真新しさと、ロック鳥の目撃情報がつい最近という事実。

「これ以上調べてもわかんなくない?
 遺品らしい物も見当たらないしギルドに報告すれば?」

 ベレニスは飽きてきたのか投げやりな口調で言う。
 確かにこれ以上の情報はない気がするし……

「そうね。でもちょっと待ってて」

 邪を払う女神の加護を受けた、神聖魔法の使い手なら浄化出来たんだろうけど、私は私のやり方で魔法陣の起動を妨げよう。

『我が魔力よ。起動せし者の魔力を封ぜよ』

 右手の手の平を魔法陣に向け、そう唱えると魔法陣は輝きを失い光を失う。

「これで、ひとまずは大丈夫。
 じゃあ戻ろっか」

 街に戻る頃には日が暮れそうだし、急いで帰らないと。

 後は戻って報告して、お風呂入って食事して寝て明日の仕事を探さないと。

 そうだ。ディアナさんに占ってもらう約束もしてたんだっけ。

「ねえローゼ、転移魔法使えないの?
 また歩くの?疲れた~」
「使えるけど使ったら、私1人だけ戻っちゃうかも。
 2人も一緒じゃないと」

 転移魔法は行ったことのある場所を、私がイメージした場所にしか飛べない。
 やれば恐らく、王都ベルンまででも行ける自信はある。
 もっともイメージ出来る場所が王宮内部だけだから、やったら即衛兵に囲まれて詰みそうだからやらないけど。

「転移魔法って、かなり卓越した魔女しか出来ないって聞いたことがあるな」
「まあ私の場合は修行時代魔獣の群れに放り出されて、がむしゃらになってたら覚えたというか。
 だからあんまり使い勝手よくないんだよねえ」

 リョウの疑問に私は苦笑いする。

「それになるべく自分の足で歩いて、景色や匂いとかを楽しんだほうが記憶に残るしね」
「……ローゼって本当に変わってるわよね。
 魔女って感じしないわ」

 ベレニスは呆れてるけど、私はこういう生き方が性に合ってるんだ。
 そう、そして自分の足で歩いて辿り着いた先で、人生を豊かにしていきたい。
 それも私の旅の目的でもあるのだ。

 そんなこんなでギルドに戻ると、すっかり日が暮れていたのであった。
 
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