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第1章 復讐の魔女

第11話 冒険者デビュー

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 チュンチュンという小鳥の囀りと、暖かい春の陽射しが窓から注ぎ込む中で、目覚める私が最初に目にしたのは、細長くて柔らかい足だった。

 続いて聞こえるのはベレニスの寝息。
 お~いベレニス?何故に反対向きで寝てるんだ?
 私の足に顔埋めて……

 私はベレニスの足をそっと退けると、ベッドから降りて伸びをする。

 ん~っ!いい朝だ! 下着姿の私とベレニスだけど、全然寒くない。
 今日は冒険者デビューするし、身支度してギルドに行かなきゃ! 
 服に袖を通すと、ベレニスを揺すり起こす。

 ふわぁ~とあくびをしながら、ムクッと起き上がったベレニスは、下着姿でキョロキョロすると、またコテッとベッドの上に倒れる。

「まだ早い……あと10時間……」
「って!単位がおかしい!
 もう、ほら起きて。
 朝食はギルドの酒場で食べよ。
 早く行かないとベレニスの分も私が食べちゃうよ?」

 ベレニスが被ったシーツをガバッと剥がすと、彼女は観念して起き上がる。

 身支度を整えた私たちは、ギルドの酒場へとやって来た。
 結構いるなあ……あっ、昨日出会ってリョウについて助言してくれた、占いが専門っていうディアナさんもいる。

 よかった、リョウもいる。
 一緒にいる人は……?あれはたしかギルドマスターのバルドさんだっけ?
 何か話してるけど何だろ?

「ローゼ、先に食事にしましょ。
 ふかふかのパンが食べたいわ」

 ベレニスに手を引かれてカウンター席に座ると、私は2人分の朝食を頼んだ。

「あら2人共、昨日はギルドに戻って来ないから心配したわ」

 隣にディアナさんがいて、私たちに話しかけてきた。
 私はパンを頬張りながら、すみませんでしたと謝る。

「傭兵君も無事なようで何よりね。
 でもちょっとだけビックリ。
 私が昨日彼を視た時、彼は今日死ぬ運命と視えたから。
 ……ねえ?何があったのか教えてくれないかしら?」

 ディアナさんが興味本位で尋ねてくるが、私はベレニスと目を見合わせる。

 死ぬ運命だった?それはこっちも驚くぞ。

 でもビオレール城前で暗殺を企てたなんて言ったら、衛兵が来かねないからなあ。

「占いでわかるんじゃないの?」
「そこまでは無理ね。
 私が視えるのはあくまでその人に起こりうる運命だけ。
 だから昨日の傭兵君の死は、運命の分岐点だったようね」

 ベレニスの疑問にディアナさんは答えると、クスッと笑う。

「ふうん?ならローゼも占って貰ったら?
 ディアナ、ローゼって復讐したい相手がいるんだけど、その人の情報がなくて困ってるの。
 ディアナなら占えるでしょ?」

 ベレニスの提案に、私はパンを喉に詰まらせそうになる。

 ちょ……ちょっと⁉いきなり何言い出すのだ!
 昨日寝る前にざっくり話した私の復讐動機を、寝ぼけ眼で聞いてたくせに。

 私の動揺をよそに、ディアナさんは興味深そうに目を覗き込んでくる。

「そうね。時と場所や、他にも知っている情報があれば正確な占いは出来るけど。
 ……ローゼちゃんが復讐したい相手は、どんな人物なのかしら?」
「えっと10年前の今頃の季節で場所は王都ベルンです。
 殺されたのは両親で、犯人の特徴は長い黒髪に漆黒の剣を所有した、黒いフードを被った魔女。
 ……当時の年齢は20歳ぐらいだったと思います」
「10年前の王都?ちょうど先王様と先王妃様、それに王女様が流行り病で亡くなった頃ね。
 そんな殺人事件あったかしら?
 まあいいわ。占ってあげる。
 お代として大銀貨3枚ね」

 ええ⁉お金取るの?
 ディアナさん、昨日の酒場で私たちに助言しててくれた時はタダだったのに。
 しかも大銀貨3枚って高すぎる!

「フフ、じゃあ今日の夜にしましょうか?
 その時には……」

 とまで言われた時に、リョウとギルドマスターが近づいてくる。

「仕事だ。ローゼ、ベレニス、ギルドに登録をしてきてくれ」

 おお~。初仕事が選ぶんじゃなくて、選ばれるとは!

 いや、わかってますよ。
 アランの傭兵というリョウの肩書で回ってきた仕事だってのは。

「どんな仕事なの?」
「南のボルガン山岳地帯にある、今は使われていない教会に魔物が住み着いてしまいました。
 ギルドで調査したところ、どうやらロック鳥らしいのです」

 と、バルドさんが答えてくれる。
 ロック鳥は巨大な白い鳥の姿をした魔物で、その嘴と爪は岩をも砕く。
 魔獣と呼ばれていて人間を襲うことはあるが、基本的に人里から離れた場所に巣を作り繁殖する習性がある。

 なので滅多なことで、人間の住む場所まで降りてくることはないはずなんだけど……
 それで退治してほしいってことか。

「報酬は小金貨3枚です。いかがなさいますか?」

 そんなギルドマスターの問いに、私とベレニスは同時に答える。

「その依頼、引き受けます!」
「フン!受けてあげてもいいわよ」

 受付で冒険者登録の書類に記入して、今回の依頼の用紙にもサインした私たちは、早速南の山にある教会へと向かったのであった。
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