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第1章 復讐の魔女

第9話 宿屋にて

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 ビオレールの冒険者ギルドの横に宿があるのは、やはり冒険者の宿泊を狙ってのことだろうか。
 宿屋は木造3階建ての建物で、1階が酒場と宿の受付になっている。

「お代は1人小銀貨2枚よ。
 一応言っておくけど、めっちゃ重そうな男を背負ってるけど、酔わして部屋連れ込んでベッドに寝かせて、起きたら犯されたんだから金よこせなんてのはなしにしてくれよ」

 宿の受付に座った20代半ばぐらいの女性から、とんでもないことを欠伸交じりで言われた。
 どうしたらそんな発想になるんだっての。

「ローゼ。私お金ないわよ」
「はいはい、じゃあ小銀貨6枚出します」

 ベレニスに適当に相槌打ってから、受付の女性にお金を渡す。

「部屋は一つしか空いてないからね。
 ベッドを汚したら追加で金貰うよ」

 部屋の鍵を受け取り、軽く頭を下げてから宿の受付を後にする。
 場所は3階の一番奥にある部屋。
 鍵を差し込んで開けると、小さな部屋でベッドが一つだけ置いてあった。
 一応シーツとかは新しいみたい。

 リョウをベッドに寝かせると、ふうっとため息が自然と出てきた。

「風魔法をずっと発動させて運ぶなんて、面白いことするのねローゼ。
 それにこの男を眠らせた魔法もさあ、あれ多分ゴーレムにも効くわよ。
 てかそんな強大な魔力を浴びたんだし、これいつ目覚めるかわかんなくない?」

 ベレニスがリョウの顔の前で、手をヒラヒラと振りながらあっけらかんと言う。

「いやいやいや、ゴーレムって無機物だし」
「ふ~ん、まあいいわ。
 それで?これからどうすんの?」
「まあ見てて」

 杖に意識を集中させてゆく。
 回復魔法は得意ではないけど、睡眠魔法を解くのは出来るはず。
 要は魔法を解くか、もしくは眠気を追い払うイメージで魔力を解放させれば良いのだ。
 そう考えて杖に魔力を流し込むと、リョウの体がピクリと動く。

「目覚められてもなんか面倒になりそうだし、縛っておいたほうがよくない?」
「いやいや、縛ったら目覚めた時にもっとめんどくさいよ」

 ベレニスが木製のロープを持って、リョウの体を縛り始めようとするので慌てて止める。

 私はベッドの端に座り込んで意識を集中させる。
 そして杖に魔力を流し込みながら、ついでに初級魔法であるライトを発動して部屋の中を照らす。
 闇を払う光、それがライト。
 光属性を持っていなくても使える魔法で、私もたまに夜寝る前にベッドサイドランプ代わりに使っている。

 眩しくしたら起きるでしょ。

「うっく……ここは?
 ……何がどうなってんだ?」

 ようやくリョウの意識が戻ったらしく、上半身を起き上がらせて私とベレニスの顔を見てから、クソっと悪態をついて項垂れる。

「うわ~、これだから男ってのは。
 素直にお礼言ったらどうなのよ」

 ベレニスが腕を組みながら、呆れたようにリョウを見下ろしてゆく。

「お礼だと?」
「あんた城の前で、お偉いさんたちに斬りつけようとか考えてたでしょ?
 やっていたら死んでたわよ。
 特攻するバカなんて初めて見たわ」
「……その場で勝っても数千のビオレール兵に追われ、王国全土に指名手配される。
 結果、待ってるのは無惨な死。
 ……そんなこともわからないリョウじゃないでしょ?」

 私がそう言うけど、リョウはフンと鼻を鳴らし、そっぽを向く。

「うわ~何その態度、超ムカつくんだけど。
 ローゼ、こいつ追い出そうよ。
 てかベッド一つしかないし、寝ないならどいてほしいんだけど」

 ベレニスがリョウに、今にも蹴りを入れそうな感じで言う。

「話したくないなら無理に聞かないけど、命を無駄にしてほしくないかな?
 ほら?偶然出会ったのも何かの縁だしさ。
 それにリョウは悪い人じゃないって私は思うし」

 私がそう話すとベレニスが、はあ~っと深いため息を吐いてから頭を左右に振るう。

「女にこんなこと言わせる男なんて最低ね。
 でもここから何も話さない男はもっと最低よ」

 ベレニスの言うことも一理あるけど、私はリョウが何か理由があってこんな行動をしたと信じてる。

 だから……

 私がベッドの端に座ると、その横にベレニスも座る。

 そして私とベレニスは、じーっと無言でリョウを見つめるのだった。

「はあ……わかったよ、話せばいいんだろ話せば」

 リョウは諦めたかのように深いため息を吐くと、ポツリポツリと話し出した。
 
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