【魔女ローゼマリー伝説】~これって、王女の立場を捨てた私が最強天才魔女になって、愛する人と一緒に英雄伝説になるまでの冒険劇なんですよね⁉~

ハムえっぐ

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第1章 復讐の魔女

プロローグ

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 昔々、この大陸に突如魔界の門が開いて、空より魔族が降臨して大地を蹂躙し、人々を恐怖のどん底へと陥れた時代があった。
 人々はそれに抵抗し、魔族と壮絶な戦いを繰り広げた。
 だがその戦いも終わりの時を迎えた。
 その戦争を終結に導いたのは7人の英雄であった。

「わあ~。アニスって凄いんですねお母様」

 王宮の寝室にて、古い本を読み聞かせて貰った小さな女の子は目を輝かせる。
 少女は金色の髪をしており、あどけない顔はまだ幼さを残していた。

「ローゼマリーはアニスがお気に入りよね。
 やっぱり魔女に憧れるのかしら?」

 ローゼマリーと呼ばれた少女の母親、この国ベルガー王国の妃ローラは、女の子の頭を撫でながら微笑む。

「はい、お母様。アニス様みたいな、すごい魔女になりたいです。
 悪い魔族をやっつけて、みんなを守る英雄になりたいです」

 母親に向かって、力強く宣言するローゼマリー。

「ハッハッハ、ローゼマリーよ。
 魔族は千年前に大陸から駆逐されたのだ。悪い魔族とは会えないなあ」

 ローゼマリーの父、国王カエサルは豪快に笑いながら娘の頭を撫でた。

 ローゼマリーは母親譲りの美しい金髪と、父親から受け継いだ碧眼を持つ5歳の少女だ。
 顔立ちはまだ幼いが、その容姿は美しく整っており、将来美人になると容易に想像出来る少女だった。

 大国であるこの国の第一王女であり、王位継承権第一位にして、時期女王候補である彼女は今日が5歳の誕生日。

 プレゼントに何が欲しいかと問われたローゼマリーは、両親に今日の夜は一緒に寝たいとお願いしたのだ。

 普段は忙しくて親子の時間をあまり取れないこともあり、娘の可愛いおねだりに両親はすぐに了承した。

 そして、今夜は親子3人で仲良く寝ることになったのだ。
 ローゼマリーは両親の寝室にある、大きなベッドの中心で幸せ一杯に寝ていた。
 隣には母がいて、父の温もりも感じられる幸せな空間を彼女は満喫していた。

 夕食の誕生日パーティーでは、貴族たちに誕生日を祝って貰いプレゼントも沢山貰った。
 今は夕食の満腹感と、両親に挟まれて寝るという安心感で彼女はとても幸せだ。

 しかしそんな幸せな時間は終わりを告げることになる。

「もう遅いからランプの灯を消しますよ。
 ローゼマリー、さあ寝ましょうね」

 ローラが優しく言って、部屋のランプの灯りを消そうとする。
 それを見たローゼマリーは急に眠くなって来て、抵抗する気力もなく素直に頷いて目を閉じた。

 それから何時間程経ったのだろうか?

 パーティーでジュースを沢山飲んだ所為か、トイレに行きたくなり目を覚ましたローゼマリー。
 起き上がって両親を起こそうとするも、寝顔を見て起こすのを止める。
 1人でトイレに行くのが怖いので両親を起こそうと思ったが、気持ち良さそうに寝ているのを見て諦めたのだ。

 仕方なくローゼマリーは1人で寝室を出る。
 外の廊下には王の親衛隊長のアデル・アーノルドが控えている筈であり、彼に頼ろうと考えたのだ。

 扉を開けると、ちゃんとそこには熊のような巨体の赤い髪が特徴のアデルが、他2名の親衛隊と共に警護していた。
 彼は国王の信頼も篤い兵士であり、頼りになる存在だ。

「これは姫殿下、どうかしたのですか?」

 ローゼマリーが扉から出て来たのを見て、アデルは声を掛けて来た。
 身長に合わせ、しゃがんでローゼマリーと目線を合わす彼は優しい笑顔を浮かべる。

「あのねアデル、トイレに行きたいの」

 アデルを見て安心したローゼマリーは、素直に要件を述べた。
 それを聞いたアデルは、すぐに部下2人に顔を向けて頷く。

「それでは儂がお連れいたしましょう。
 お前たち、陛下と妃殿下を頼んだぞ」

 アデルは部下の2人にそう告げると、ローゼマリーを抱き上げ、廊下を歩き始めた。

「アデルは眠くならないの?ずっと起きてて大丈夫?」
「ハッハッハ、大丈夫ですよ姫殿下。
 このアデル、陛下と妃殿下と姫殿下をお守りする為ならば、一睡もせずとも戦えますからな」

 心配そうに尋ねたローゼマリーに、アデルは豪快に笑う。
 そんな彼を、ローゼマリーは頼もしそうに見上げた。
 そしてすぐに彼女はアデルの太い腕に抱かれて、トイレへと連れて行かれるのだった。

 こうして彼女の楽しい誕生日の夜は過ぎていく……のはここまでだった。

 ローゼマリーがトイレで用を足して、寝室に戻ろうとした時、アデルは胸騒ぎを覚えていた。

(おかしい。静かすぎる。人が起きてる物音が一切せぬ。
 いくら姫殿下の誕生日パーティーの直後の夜とはいえ、他の当番兵の気配がまるでないのは異常だ)

 やがて寝室に戻ると、部下2人が地面に倒れ伏しているのが見えた。
 その寝室の扉が開け放たれているのを見て、アデルは驚いた。

「陛下!王妃様!」

 彼はローゼマリーを抱えたまま部屋に向けて駆け出すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
 廊下では全く聞こえなかった剣戟音が、王と何者かで交わされており、王妃は肩から血を流して倒れていたのだ。

「王妃様!」

 叫び、剣を抜き向かおうとするアデルであったが、どういうわけか部屋に入れない。

 透明な膜に弾かれるのであった。

「な!」
「アデル!ローゼマリーを連れてお逃げなさい!
 これは何者かの陰謀よ!アデル、貴方が頼りです!」

 駆けつけたアデルにローラは叫ぶ。
 彼女は肩を斬られているが、それでも王妃としての誇りで立ち上がり杖を向けていた。
 それは即ち王と国の未来を守る王妃としての行動である。
 王妃が自分の命を盾にしてでも、ローゼマリーだけは逃がそうとしていることをアデルは悟った。

「妃の言う通りだ!アデルよ!
 ローゼマリーを、娘を連れて逃げて生き延びるのだ!」

 王妃の隣では、王が愛用の剣を構えてアデルに叫ぶ。
 だが彼も足や腕から血を流しており、明らかに不利な状況なのは明白であった。
 それは長年戦場を駆け回った経験で、王にも感じ取れていた。

 しかし彼は国王として、親として、逃げずにここで敵と対峙する選択をしたのだ。
 王の目の前に立つのは、フード付きマントを羽織った謎の人物であり、手には漆黒の剣が握られている。

「お母様!お父様!嫌です!
 私もお父様とお母様の役に立ちたい!」

 両親の覚悟を知ったローゼマリーは泣き叫ぶが、アデルは抱き上げたまま両親に背を向ける。

「アデル離して!お母様の所にいかせて!」

 力一杯暴れるローゼマリー。
 しかしアデルの力は強く、彼女は逃げ出すことが出来なかった。
 王と漆黒の剣の持ち主の剣戟が交わされてゆく。

「魔女ディルを頼るのです。
 アデル……娘を……ローゼマリーをお願いします」

 ローラはアデルの腕の中で、もがき暴れる娘を少しでも安心させようと優しく微笑む。
 彼女の後ろで、王の振るう剣が弾かれるのが見えた。

「くっ‼陛下……王妃様……姫様は必ずや‼」

 アデルは叫ぶと同時に、ローゼマリーを片手で抱えたまま走り出そうとする。

「いやあああああ!離してアデル!お母様!お父様!」

 アデルに抱えられながらも、ローゼマリーは叫び続ける。

「ローゼマリー。幸せにね、強く生きるのよ」

 ローラは最後の力を振り絞って立ち上がり、アデルに抱かれながら泣き叫ぶローゼマリーへと杖を向けた。

 同時にカエサル王に振り下ろされる漆黒の剣。

 ローラの魔法で身体が光り、何処かへ転移させられる直前、ローゼマリーは見た。

 父が隠し持っていたナイフで、敵のフードを切り裂くのを。
 そして父が漆黒の剣に切り裂かれる瞬間を。

「おのれ!転移だと⁉小癪な真似を!」

 母の背中を貫く、敵の吐き捨てた言葉と音色を。

 剣と同じく漆黒の髪、そして無機質な黒瞳と無感情な言葉を発する女。
 女は、ローラの転移魔法で消え失せたローゼマリーのいた場所を睨みつけて、憎々しげに叫んだ。

 その女の素顔を、ローゼマリーは忘れることはないだろう。
 何故ならそれは自分を今まで愛し、育ててくれた両親を殺し、自分の幸せを奪った仇だったのだから。

 こうしてベルガー王国北部にある、禁断の地と呼ばれるスノッサの森で物語は始まる。

 魔女ディルを頼れという言葉だけを胸に秘め。
 暗闇の鬱蒼たる森の中で、ローゼマリーは王都ベルンの方角へ瞳を向けながら思う。

 スノッサの森には魔獣や魔物たちが住んでおり、人は決して寄り付くことはない禁断の地とされている。
 しかし、その森には魔女と噂される者が住み着いているという。

 誰も見た者はいないけれど、たしかに存在するというその人の名は……

「こんな時間に何ぞね?
 おチビに大男かい。嫌な予感しかせぬのう」

 それは老いを感じさせるようなしゃがれた声。
 老婆の声が2人の背後より響いてゆく。

「貴女がディルね。
 私に!このローゼマリー・ベルガーに魔法を授けて欲しいの!
 復讐の為に!」

 その声を耳にして、ローゼマリーは振り返って叫ぶ。
 そこに立つのは背の低い金髪の老婆であり、どこにでもいそうな老婆。
 纏うは黒のローブ、頭にはとんがり帽子。
 しかしローゼマリーは、不思議と警戒心を抱いていなかった。

「ホッホッホ、金色の髪を長く伸ばし、青い瞳で小柄な少女。
 その身に纏う衣服は白く美しいドレスか。
 まるで絵本に出てくるようなお姫様といったようじゃのう。
 復讐のう……復讐ねえ。
 それで誰を復讐するんだい?」

 老婆はローゼマリーの姿を見て高らかに笑った後、静かに問い掛ける。

 その質問には、一切の殺気や悪意といったものが感じられない。
 だからこそローゼマリーも、正直に答えようと口を開く。

 しかしそこにアデルが割って入った。

「お初にお目にかかる。
 それがしはベルガー王国親衛隊長アデル・アーノルドと申します。
 貴殿が魔女ディル様でよろしいか?」

 彼は丁寧にお辞儀をして自己紹介を行うと、真っ直ぐに老婆の瞳を見つめる。

「さてのう。どうじゃろうのう」

 とぼけて見せるディルに、アデルは瞳を細めた。
 老婆は剣呑な瞳で睨み返されるも平然としている。

「アデル。このお婆さんがきっと魔女よ。
 だって身体から魔力の渦が溢れてるもの」

 ローゼマリーは確信めいた口調でアデルに告げた。

「ほう…おチビに見えても、さすがはカエサルとローラの娘といったところかのう。
 この魔力の渦を感じ取るとは」

 感心して頷くディル。
 ローゼマリーは、老婆の反応に気を良くして笑みを浮かべる。

 だが次の瞬間にはディルの笑みが消え去り、厳かな口調で告げた。

「儂の魔法を授かりたいじゃと?良かろうて。
 10年間、そこのアデルという無骨そうな臣下からも離れ、たった1人で儂の住んでるこの小屋に来て、儂の教えを請うのなら教えようぞ。
 魔法も人を殺す術も全てな」

 ディルの言葉に、ローゼマリーは心が揺らぐのを感じた。

 少女はまだ、これからどのような生き方をしていけば良いのか分からない。
 だが少女は復讐という目的がある。ならば多少の困難など乗り越えてみせねばなるまい。

 覚悟を決めたローゼマリーは、父譲りの青い瞳で真っ直ぐとディルを見つめ返すと頷いた。

「待ってくだされ姫様!
 ディル様お願いします。それがしも共に姫様の元で!」

 しかしアデルがすぐに異議を唱える。
 彼はローゼマリーが、1人で魔女の元に行くのは危険だと判断したのだ。

「ううん。アデル。私なら大丈夫。
 魔女ディルの元で魔法を学んで必ず強くなってお父様とお母様の仇を取る。
 そしてこの国を守るわ」

 だがローゼマリーは首を縦には振らない。
 彼女は静かに首を横に振り、アデルへと振り返ると笑顔を見せて答える。
 それは凛とした表情であり、既に彼女は覚悟を決めていたのだとアデルにもわかった。

 その決意の強さに、アデルは自分が間違っているのだと悟るしかない。

「ディル様。どうかローゼマリー姫殿下をお頼み申す。
 それがしは王都へ帰還し、見たありのままを皆へ伝えます」

 アデルはその場で跪くと、魔女ディルへと頭を下げて懇願した。

「ホッホッホ、誰も信じず、お主が王と王妃を殺害し、姫を何処かへ連れ去ったと考えるであろうな。
 まあ処刑されるじゃろうて」

 ディルの言葉にローゼマリーは驚いた。

「なんで⁉なんで誰もアデルの話を信じてくれないの⁉」
「姫様、御安心くだされ。
 このアデル、例え命を落とそうとも姫様のことは御守りします!
 それだけは信じてくだされ」

 まるで彼の熱い想いが伝わったかのように、ローゼマリーの瞳に涙が浮かぶ。

「なんとかならないの⁉魔女なんでしょ!アデルも助けて!」
「ホッホッホ、注文の多い我儘なおチビさんじゃのう。
 どれ、ならば約束せよ。修行で命を落とすならその魂を儂に預けると。
 その覚悟がお主にはあるのかい?」

 ディルはニヤリと笑みを浮かべると、懐から短剣を取り出し渡し、ローゼマリーの覚悟を問う。
 彼女はその言葉に少しだけ思案した様子を見せるも、行動は素早かった。

「姫様!」

 驚くアデルが止める間もなく、ローゼマリーは長い金色の髪を自らの手で斬ったのであった。
 幼い少女の復讐心は燻ったままであり、両親の仇を討ちたいという気持ちは止まらない。

 ならば迷う必要などないのだ。

「良かろうて」

 その言葉と同時に、ディルの持つ杖から眩い光が溢れアデルを包む。
 母ローラにより転移させられた時よりも妖しく、そして美しい光が周囲を漂い包み込む。

「このまま王宮に戻れと言うことですな。
 姫様……幾久しくお健やかで」

 光に包まれながら、アデルはローゼマリーへと深くお辞儀をし、彼女の幸せを願う言葉を告げた。

「アデル!」

 その光が消えた時、アデルの姿はそこにはなかった。

 ディルは杖の切っ先をローゼマリーへと向け、詠唱を唱える。

 すると杖の先から黒き魔力が溢れ出し、ローゼマリーを包み込んだのだ。
 その黒い魔力は、まるで意思を持つかのようにローゼマリーの体内を駆け巡り始める。

「な、なにこれ⁉」
「ホッホッホ、ベルガー王国のローゼマリー王女とやらとカエサル王ローラ妃は病により急逝した。
 今頃王宮では眠るようにベッドで寝てる3人の遺体に、全てを忘れた先程の男が泣き崩れているだろうて。
 ……さてお主は今後ローゼ・スノッサと名乗るがよい」

 ディルの言葉にローゼマリーの意識は遠退き、そして彼女は倒れ伏したのだった。

「ホッホッホ、良い素材が手に入ったわい。
 さて、おチビ。これから辛い日々が続くぞい。
 それでも儂の元で修行をする覚悟はあるかのう?」

 地面に倒れるローゼマリーの、小さな身体を見つめながらディルは呟いたのだった。

 こうしてローゼマリーはローゼと名を変え、魔女ディルから魔法を学び、10年の時が過ぎるのである。

 王宮では、現王夫婦に愛娘が同じ日に同じベッドで死亡という異常事態が、魔女ディルによる改竄魔法だと気づく者は誰一人としていなかった。

 アデルもまた同じで、彼が王宮に帰還し発動されたディルの魔法により、一連の出来事を全て忘却したのである。

 毒殺、暗殺等の様々な噂が流れた。

 だが、結局のところ真相は闇へと葬られることになったのだった。
 
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