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第28話 勇者の本音

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「この世界は太古の昔、絶望と憎悪のみが支配しておりました。
 そんな世界を憐れんだ神々の1人が降臨されらのが全ての始まりなのです。
 暴力で他者を支配することしか考えない者たちを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの日々。
 やがて暴力を振るう者はその者だけとなり、魔王と呼ばれるようになりました。
 そうして、世界は魔王に支配され、平和になったのです。
 人々は平和を謳歌し、人口は激増し、文明も文化レベルも上がっていったのです。
 めでたしめでたし、で終わる話でしたら良かったのですが、これを問題にする者が現れたのです」

 爺やさんの説明を、メイド部隊が用意した茶菓子を口にしながら聞いていく。

 みんなはすでにのんびりモードだ。

 他の者たちは老人の話を単なる昔話として聞いていたが、私とイワンだけは事情が異なっていた。

「問題にしたのが、勇者ですか?」

 私の問いに、爺やさんはコクリと頷いた。

「やがて神々の1人が世界に降臨しました。
 魔王に支配されている現状を人々に間違っていると説き、魔王を倒す空気へと一変させたのです。
 やがて魔王は勇者に倒され、世界は人間のものへと戻ったのです」

 そこで話を区切って、お茶を啜る爺やさん。
 
「う~ん、色々疑問がありますわね。
 爺や、まるで見たかのように説明しましたが事実ですの?」

 ソフィアが美味しそうにクッキーを頬張りながら疑問を呈する。

「ソフィアお嬢様、この爺や、嘘偽りなんて口にしておりませぬ。
 見たかのようにと仰られましたが、見たのです」

 平然と口にする爺やさんに、全員が驚いた。

「ちょっと先王様!勇者と魔王の話なんて何千年も前ですぜ!」

 と、ボリスが驚きの声をあげて。

「なるほど、先王様、ボケましたか」

 と、フェリクスがメガネをクイッとしながら呟き。

「あ~、これあれだな、老人が若者の興味を引くために話を盛ってるな」

 と、ユリウスが両手を組んで頭の後ろに回し。

「あ~、ありますね~。
 私の祖父もそんな感じです」

 と、カリーナは暢気に言い。

「先王様、僕たちは歴史でこう学んでいます。
 71年前に産まれた先王様は、15歳から55歳までの40年間を王として働き、レフレリア王国を豊かにしたと。
 その様子を知る者は未だ多くいます。
 何故、遥か昔の勇者と魔王の時代を知っているのか詳しく説明していただけますか?」

 と、ニコライは背筋をピンとさせながら呟いた。

「転生というやつです……か?」

 ボソッと、私が囁いた。

「あはは~、リーシャ~、それはないって~」

 カリーナが速攻で否定して。

「転生ですか?ですが何故爺やが?
 わたくしが転生前を覚えてないのに、爺やが覚えてるってズルいですわ!」

 ソフィアはムスッとする。

 いやいやソフィア、普通覚えてないからね。

「リーシャ殿、さすがですな。
 それがしの真の姿は神々の1人。
 魔王となった者と、勇者になった者の同僚ですな」

 なんと!

 この変態、どんだけ設定盛ってるんだよ!

「……嘘だな。
 お祖父様、あなたは何を狙っている」

 イワンが両肘をテーブルに付けながら、憎々しげに呟いた。

 嘘?
 一体何が?

「狙っている、か」

 爺やさんがパチンと指を鳴らした。

 刹那、メイド部隊が私たちを囲む⁉

 な⁉まさか、やっぱり1番ヤバいのはこの変態だった⁉

「リーシャ殿!
 この場でお決めください。
 誰とファーストキスをするかを‼」

 ……は?

 爺やさんが満面の笑みを浮かべながら、私たちの反応を窺っている。
 まるで予言者のように、この瞬間を待ち望んでいたかのように。

「ちょっと爺や!
 わたくしにするように誘導しないなんて、執事失格ですわよ!」

 ソフィアが立ち上がって、両手のひらでテーブルをバンと叩くがちょっと黙っててくれ。

 イワン以外の男子たちは絶句して、赤面して、モジモジしてるし……

「私は遠慮しとくよ~。
 でもまあ、リーシャがしたいって言うなら仕方なくしてきてもいいよ~」

 いや、この流れで冗談のようにカリーナにファーストキスしたら、場の収拾がつかなくなりそうだぞ。

「変態、あなたの目的は……」
「リーシャ殿、変態ではありません。
 今まで通り、爺やさんとお呼びくだされ」

 おっと、しまった。
 つい本音が漏れた。

「爺やさんの目的は、魔王の復活じゃないんですか?
 魔王を復活させて崇める、なんじゃないんですか?
 そのために勇者と魔王の転生者を探していた。
 ……でしょ?アンゼリカちゃん」

 アンゼリカという名に、イワン以外がキョトンとする中、私は続ける。

「爺やさんと記憶を共有してるって感じかな?
 魔法が使えるようになってわかったよ。
 魂から感じる雰囲気っていうのかな?
 爺やさんからは2つの魂が見える。
 1つは私の知っている少女の魂にそっくりなんだよね」

 そう、今ならはっきりわかる。

 この変態は、アンゼリカちゃんに協力している。
 その理由が、なんであろうとも、もう1つの魂から、本人の意思でとわかる。

「……ふう、そこまで魔力が戻りましたか?
 それで、記憶は蘇りましたか?
 と、アンゼリカ様はお尋ねです」

 肯定を意味するかのように、変態が呟く。

「残念ながら。
 爺やさんのほうに質問。
 アンゼリカちゃんに協力する意味は何?」

「ちょっとリーシャさん?
 よくわかりませんが、爺やが女装趣味に目覚めたのは、アンゼリカちゃんさんというかたからの影響ですの?」

 横から疑問を投げかけるソフィア。

 その質問の答えも興味ある。

 ジッとソフィアやみんなと一緒に答えを待った。

「いえ、それはそれがしの趣味でございます」

 あ、そう。
 なら、この変態を排除するのに問題ないかな。

「お祖父様、情けないですな。
 大昔の魔女に支配されていたとは」

 イワンが目を見据えながら口を開いた。

「情けない?イワンよ、そなたには言われたくないぞ。
 好きな女を口説けもしないとは情けない」

「あなたに何がわかる!
 僕の気持ちを何も知らない分際で!」

 イワンの激怒に、男子たちが何事かとなだめていくが、効果はなかった。

「振り向いてくれないで、誰にでも優しい人を手に入れる苦労を知りもしないで!
 欲もなく、自分の幸せより他人の身を優先させ、それでいて強引に自分の物にしようとすると攻撃してくる!
 しかも強い!さらに好意を向けられても信用しない!
 そんな人をどうやって口説けと言うのだ!」

 ……あ~、これ、私が糾弾されているんだよね?
 めっちゃグサリと刺さったぞ。

 イワンは、自分の思いを吐き出したことで少し心が軽くなったようだ。
 表情が落ち着いてきた。

「殿下!言い過ぎです!
 ですがリーシャ殿、殿下の気持ちは僕もわかります」

 グフッ!
 ニコライがイワン側に付いた。

「あ~、王子の本音、聞いていて嬉しくなったぜ。
 王子も人間だったんだな。
 完璧超人の主が恋のライバルかと思っていたけれど、人間味溢れる王子が恋のライバルで、なんか嬉しいぜ」

 男の友情って。
 ……ボリスもイワン側に付いた。

「そうですね。
 リーシャ・リンベルからは僕たちを大切に思ってる気持ちは伝わりますが、男として見てもらいたい。
 その熱意が殿下から伝わり、心を打たれました」

 メガネから涙を拭うって。
 ……フェリクスもイワン側に付いた。

「そうだなあ。
 答えは聞きてえなあ。
 でねえと、これからどう行動すればリーシャが喜ぶかわかんねえからよお」

 前向きすぎる発言だな!
 ……ユリウスもイワン側に付いた。

「フッ。男はこれだから駄目なのですわ!
 一生幸せにしていくと約束して裏切らなければそれでいいのですわよ!
 ですわよね!リーシャさん♪」

 おお!私の両手に両手が重なってくる!
 ソフィアは私に付いたああああああ。

「ですがリーシャさん♪
 わたくしも今の状況知りたいですわ♪」

 あ、ソフィアもイワンに寝返った。

「ん~。面白そうだから私もこっちね~」

 おいこら、そんな理由で決めるな。
 カリーナもイワンに付いた。

 なんじゃこりゃー。

 全員が私を見つめる。

 途中まで私が優勢だった気がしたのにどーゆーことだよー!

 イワンは激しい思いを吐露し、自分の弱さを吐露した。
 しかしその言葉には、私への純粋な想いが込められていた。
 みんな、その言葉に深く共感しているようだった。

 変態が私にファーストキスの相手を選ぶよう要求したことで、部屋は一気に緊張感に包まれていった。
 私の答えが運命を決める。
 そう感じ取ったみんなの視線が、私に集中する。

 こんな状況で、ファーストキスの相手を決められるかあああああああ! 

 頭の中をパニック状態にしながら、私はこの状況を打開すべく、思考を巡らしていくのであった。
 
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