上 下
17 / 34

第16話 リーシャの両親

しおりを挟む
 年中無休である冒険者ギルドは、休日の今日も朝から混雑していた。
 壁には様々な依頼が貼られ、冒険者たちが熱心にそれらを眺めている。
 カウンターでは職員たちが忙しそうに仕事をこなし、部屋の隅では冒険者たちが武器の手入れをしている。
 この独特の雰囲気に、私は子供の頃から慣れ親しんでいたのだ。

「あれ?リーシャ、帰ってくるのは夏季休暇じゃなかったのかい?」

 お母さんが私に気づき、手にしていた書類を置いて声をかけてきた。

「しかも友達を沢山連れて来て、遊ぶなら別の場所にしなさい」

 お父さんも私に気づき、依頼人との話を中断して顔を出してきた。

 2人とも私と同じ黒髪で、40歳だけど少し若く見える。
 ちなみに、職場結婚で私を産んでいるのだ。

 ふむふむ、朝から忙しそう。
 さて今日は、みんなに冒険者ギルドが何たるかを見てもらおっかな?

 イワン以外の、みんなの驚いた表情を見て、私は少し誇らしく感じた。
 普段は貴族として振る舞う彼らが、ギルドの活気に圧倒されている様子が面白かった。
 特に、ソフィアが目を輝かせて見回す姿は新鮮だった。

 冒険者ギルドは、依頼人から様々な依頼を受け、それを冒険者たちに斡旋するのが主な仕事だ。

 護衛業に薬草の採取、食材となる動物や魚の調達。
 他には魔獣と呼ばれる存在が、人の住むエリアに迷い込んで来た場合への対処。
 他にも土木工事や飲食店へのお仕事斡旋など、幅広く活動しているのだ。

 そんでもって適正な依頼料や報酬を算出するという、頭脳もいるお仕事なのだ。

 というのをみんなに説明していると。
 
 ギルドにいる冒険者たちは、私とイワンの姿にヒソヒソ声。

 あ~、イワンって王立学校に入る前に謎の凄腕冒険者やってたもんね~。
 今は学業に専念してるみたいだけど。

 私については、幼い頃からギルドに出入りしてたし、当然顔見知りが多いのだ。
 王立学校に行ってるってマジだったのかと、私の制服姿を見て驚いてるようだった。

「リーシャちゃん、魔獣の森を闊歩していたように、貴族どもを蹂躙してるってマジだったのか……」
「俺が聞いた話だと、すでに王宮をも陥落させたらしい。
 卒業したらレフレリア王国滅亡で、リーシャちゃんの新王国が始まるんだとさ」

 んん?

「ちょっとちょっと、おっちゃんたち、何を変な噂してるのさ。
 私は卒業したら、ギルドの職員になるんだからね!」

 そんな私の本音に、ギルドだけではなくて、イワンたちも驚きの声をあげる。

「そ、それって結婚してもかい?」
「何言ってんのイワン。お母さんだって結婚してもずっとここで働いているし」

「そうですわ!我がグラナーク公爵家で買い取り、運営しましょう。
 安心してくださいませ。
 受付から事務処理まで、全て爺やに不眠不休でやらせますわ。
 リーシャさんにはのんびりギルドマスターをやってもらいますわ!」
「いやいやソフィア。
 公爵家が、民間の独立機関買い取ったらマズいでしょ」

「俺は反対しないぜ!
 ここに住んで、俺が王宮まで毎日走ればいいんだからな!」
「ボリス、家は普通に違うところだぞ?
 まあ、距離的には似たような感じかな?」

「ギルドの職員になるのですか?
 ふむ……冒険者ギルド運営の書籍を読み込まなければなりませんね」
「ん~、フェリクス、ジャンルとしてニッチすぎて、そんな本なさそうじゃないかな?」

「ふ~ん。辺境伯は誰かに譲って、俺も職員になるのも悪くねえな」
「ユリウスは冒険者のほうがよくね?
 って!貴族は捨てなくていいからね!」

「ギルドの職員か~。私の適職な気がしてきたよ~」
「カリーナならそつなくこなせそう。
 いつでもウエルカムだよ~」

「現実的な問題として、ギルドがリーシャ嬢を採用するかどうか……
 いえ、リーシャ嬢ですので要らぬ心配ですね」
「ちょっ⁉ニコライ、それってどういうこと⁉」

「それは俺から説明しよう」

 そう言って、私たちを大きなテーブル席に誘導するお父さん。
 お母さんもやってきて席に着いた。

「それで!私がギルドに採用されないって何?
 お母さんもお父さんも知ってたの?」
「まあ落ち着けリーシャ。
 冒険者ギルドは王国から独立した機関なのだ。
 王立学校に通った経歴は、ギルドからすれば王国からのスパイと勘ぐってしまうのだ」

 なんと……
 お父さんの説明に絶句する私。

 冒険者ギルドで忙しく働く両親の姿を見て、私もこの場所で働きたいと強く思っていたのに!

 キッと、私を王立学校に無理矢理入れたイワンを睨む。

「し、知らなかったんだ。
 ごめん、リーシャ。僕を詰ってくれて構わない。
 王家として、全力でギルドの独立は護られると説明して、リーシャが職員になれるよう尽力を約束するよ」

 それって逆効果なんじゃ……と思わなくもないけど、王立学校が居心地良くて居着いてる私だ。

 イワンは自分のせいで私がギルドに就職できないと、自責の念に苛まれているようだった。
 しかも、彼は私を救おうと努力しようとしているんだし。

 イワンを責めるのはお門違いだろう。

「でもねリーシャ。ギルドの職員よりも、もっと沢山の選択肢ができたのよ。
 リーシャは本当にギルドの職員になりたいの?」
「いや、まあ、お父さんもお母さんも働いてるし、私もそうなりたいなあって感じだけど」

 え?突然始まる私の将来問題?
 そりゃ私の前前世が魔王とか、勇者に命狙われてる問題があって、ギルドにいたほうがいいかなあ……なんて思惑もあったけど。
 でもこれは口にできないしな~。

 今日ここへ来たのは、みんなにギルド職員の大変さを教えようというプランだったのに~。

「その程度の軽い気持ちなんだろ?なら……」
「お父さん!軽くなんてないよ!
 見てて!やってやるから」

 うおおおおおおおっと気合い入れて、知人である現ギルドマスターのおっさんを脅して……もといお願いして本日1日アルバイトするのであった。

 へいらっしゃい!と受付で依頼受注したり、冒険者が持ってきた素材や薬草を適正価格で買い取ったり、書類を作成したりと全力でやっていったのであった。 

 両親の表情には、誇らしさと心配が入り混じっていた。
 私が一生懸命働く姿を見て嬉しそうだったが、同時に何か言いたげな様子も感じられた。
 彼らの複雑な思いが、私にも伝わってくる。

「リーシャは御両親を慕っているのですね」
「輝いてますわリーシャさん♪」
「へえ、大変なんだな、ギルドって」
「意外と肉体労働なんですね」
「さっきの酔っ払い冒険者を倒したリーシャは凄かったな!」
「いえ、あれは職員の仕事ではないような?」
「あはは~、リーシャらしいわ~」

 そんなみんなの感想に、両親は嘆息したのであった。

 私の両親は、私がギルドの職員になることを望んでいないようだった。
 両親は私に、様々な可能性を与えたいと考えているようだ。
 しかし、私にもリーシャ・リンベルとしての生きる道がある。
 両親にはそれを理解してほしいもんだよ。

 ふ~、疲れた1日になってしまった。
 でもまあ、私が働いたおかげで両親は休めたからいいかな?

 結局、私の休日にみんなを連れて遊びに出かけるプランは、見事に失敗したのであった。

 けど、何故か私の好感度は上がったっぽい。
 お母さんもお父さんも、みんなに変なこと吹き込んでないだろうな?

 ***

『リーシャの両親

 年齢 どっちも40歳
 容姿 どっちも黒髪で中肉中背
 身分 レフレリア王国王都冒険者ギルドの職員
 能力 事務能力高め
 性格 働き者
 人生 順調に消化中
 目的 リーシャが幸せになってもらうこと』
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。 「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」 ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。 本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...