前世と前前世で私を殺した犯人はこの中にいます!~今世で犯人にファーストキスを奪われちゃったら、今回も死亡エンド確定なのです~

ハムえっぐ

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第10話 爺や

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 不思議な感覚に包まれる。
 寝ていて見た夢だけど、しっかり地に足を付けていた感覚が、私に残っていた。

 私を2回殺した勇者は、林間学校のグループの中にいる……か。

 女子グループのテントで、カリーナとソフィアの眠る顔を見ながら、ふと、ある考えが浮かんだ。

「爺やさん、いますか?」
「お呼びですか?リーシャ・リンベル殿」

 うわ!ホントに出た!

 以前に戦った時に、得体のしれない感覚を与えてきた爺やさん。
 ソフィアの命令ですぐさま出てきたから、ひょっとしたら近くに潜んでいるかもとは思ってたんだけど……

 こんな早く出てくるなんて、心臓に悪いぞ。

 叫びそうになる口を押さえ、爺やさんの手を引っ張りテントの外へと出ていく。

 ふう、まだ誰も起きてないっぽい。

「ソフィアお嬢様に呼ばれたらすぐに行かねばなりませぬゆえ、遠出はできかねます。
 ですので、お話があるのでしたら手短にお願いします」

 白髪に白い口髭、黒いタキシードを着込んだ老齢の紳士。

 グラナーク公爵家令嬢ソフィアに仕える、凄腕の執事だ。

「いや、女子が寝てるテントにずっといたんですか?」
「ハハハ、まさか。ちゃんと、外にて待機してました」

 う~ん、その辺をツッコむと、長くなりそうだからやめておくか。

「私がソフィアに拉致された時、私は爺やさんと戦ったじゃないですか」
「覚えております。
 私が敗北したのは、何十年振りでございます」
「……単刀直入に聞くけど、手を抜いてましたよね?」

 そう、あの時に本気を出した爺やさんと戦ってたら、グラナーク公爵邸は倒壊していたはずだ。
 
「はて、どうでしょうなあ」
「ま、それも本題じゃないですので、答えたくないならいいです。
 ……聞きたいんですけど、私たち林間学校のグループの中に、ヤバい人を感じたりしてませんか?」

 私が低い声でそう問うと、爺やさんの目がクワッと瞳孔を開いた。

「ソフィアお嬢様はヤバいのではありません!
 超ヤバいのです!
 この前もリーシャ殿と会話して1ヶ月記念日で渡すプレゼントの服を、私に試着させてきたのです!
 全部買い取りですぞ?
 しかも、私が試着した服にソフィアお嬢様がこう仰られたのです!
『爺やが着たのですから、爺やの給金から差っ引きますわ』
 ……無念でございます」

 おわあ……そりゃあ超ヤバいわあ。

「いや、そういうヤバいじゃなくってですね!
 強さとしてヤバいって意味です!」
「はあ、何故そのような事を?」

 話すか?私の事情を。
 年齢的に、爺やさんは勇者の転生体とは無縁だろう。

 まあ輪廻転生って思想は、過去と現在と未来の時間軸を無視してるって前世で聞いた記憶があるけど。

 ただ、理解されるとは思えないよねえ。

「私と、私の周りの人たちが幸せになるためです」

 一応、探りを入れて無難に回答しておくか。

「ふむ、立派ですな。
 ……リーシャ殿、こんな話をご存知ですかな?」

 しまった!老人って、たとえ話とか昔語りが大好きだった!

「昔々、この大地は魔王に支配されました。
 魔王に支配され、我々人類は虐げられました。
 虐げられ、踏み躙られ、尊厳を汚され、魔王に支配された数十年間は、悲劇の時代と呼ばれております。
 ですが、その数十年間で人口は爆発的に増えたのです」

 へえ?

 爺やさんの話を聞いて、私は自分の過去、そして魔王としての存在に対して複雑な思いを抱いていく。
 虐げていたはずの人類の人口が爆発的に増えたという事実。
 これは私の知らない真実なのだろうか。
 自分の記憶を取り戻すことへの不安と期待が入り混じった気分だ。

 人口が爆発的に増えたということは、私の支配下で人々は安全に暮らせていたということなのかな?
 それとも、別の理由があるのかな?
 例えば、産めよ増やせよ奴隷を作れよ計画を実行してたとか?

 魔王としての私は、本当に人々を虐げていたのだろうか?

「リーシャ殿。歴史は捻じ曲げられるのが世の常。
 真実は己の目で見抜かなければなりません」

 そう言って、良いこと言ったぞって感じで去っていく爺やさん。

 う~ん、老人って、どうしてこう意味深なセリフ好きなのかねえ。

 爺やさんの言葉には、一応長い年月を生きてきた者の特有の重みはあった。
 彼は遥か昔の魔王時代を知る者なのだろうか。
 それとも、何か特別な情報源を持っているのだろうか。

 真実は己の目で、ねえ。
 でも、今のって魔王だった私の時代のことを言ってたんだよね?

 遠い過去の出来事。
 私は前前世の魔王だった記憶を思い出す日が、いつか来るのだろうか?

 ただ良かった良かった。爺やさんが勇者の転生体じゃなくって。
 この人が私のファーストキスをガチで狙ってきたら、避けきるのが難しい強者なのはたしかなので。
 いざ勇者と戦う時に、味方にならずとも、敵にならないようになってくれればそれでいい。
 爺やさんの主のソフィアが勇者でないことを祈るのみだよ。

 私はその場で立ちすくんだまま、爺やさんの言葉から何か手がかりを得ようとしていた。
 勇者の正体、そして私を取り巻く人々の本当の目的。
 これらを知ることが、私の生存、そして幸せな未来への鍵になるはずだから。

「おっと、そうでしたリーシャ殿」
「おわっ!ビックリした!
 前に去っていったのに、背後から現れないでくださいよ!」
「最近女装にハマりまして。
 良ければ今度、ソフィアお嬢様とご一緒に私をコーディネートしてくださいませ」

 右手を胸にして一礼して、とんでもない発言してまた去る爺やさん。

 こんな底知れない強さを持っていて、真面目に生きてましたって感じの人が、今更女装にハマるって……

 なんてことしてくれたんだよ、ソフィア……

 ……ああもう。
 頭が痛くなってきた。
 寝よ……

 でも、ソフィアが選んでくれたっていう私へのプレゼントの服はちょっと楽しみかも。

 私は爺やさんを警戒しつつ、テントへと戻るのであった。

 ***

『爺や

 年齢 71歳 
 容姿 白髪に白い口髭 ダンディな紳士 
 身分 グラナーク公爵家令嬢ソフィアの専任執事?
 能力 あらゆる武の頂点に立つ腕前
 性格 誰にでも公平に接しますですぞ
 人生 ソフィアお嬢様に仕えるまでは順調だった
 目的 女装を極めること(本当かは不明)』 
 
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