上 下
3 / 34

第2話 リーシャ・リンベル

しおりを挟む
 転生した私は、リーシャ・リンベルという、レフレリア王国の王都に住む平凡な一家の長女に産まれた。

 ……のはいいんだけど。

 はっ⁉私、この人生2度目……いや憶えてないけど3度目じゃん!

 って思いだしたのが、15歳の誕生日の日。

 ……うん。
 幸か不幸か、私に恋人いたことなかったぞ。
 私のファーストキスはまだだったのだ!

 ……悲しい。

 リーシャ・リンベルとしての半生と、岩下真帆だった人生の記憶を思いだす。

 うん、大丈夫だ。
 どっちも私、違和感はない。

 ていうか私、こっちの人生随分腕白に過ごしてたんだなあ。

 両親は冒険者ギルドの職員。
 その影響なのか、王都近郊にある魔獣の森と呼ばれる危険区域に、幼い私はちょくちょく勝手に行っていたのであった。

 ……いや、腕白過ぎだろ。

 ***

「はああああああああああああ」

 入学式を終えて、教室へと入った私。
 当然、イワン王子をノックアウトした私だ。
 誰も近寄って来ないよ~。

 教室は自由席で、奥の席に行くほど天井が近くなるタイプだ。

 目立ちたくない私は、一番奥に座ったんだけど……

 う~ん、ヒソヒソ話してて、私と目が合うとみんな避けるなあ。

 寂しい。

 教室には様々な家柄の生徒たちがいる。
 制服に紋章付けてる者、控えめな態度の者、傲慢な態度の者など、多々いるけど、それぞれが自分の立場を意識しているようだ。

 そんな中で、平民の私はまるで異質な存在のように感じられてそう。

「ねえ、ここいいかな?」 

 ん?隣から声が聞こえてきたぞ。

 おお!左隣に可愛い女の子が座ってりゅうううう。

「は、はい!どうぞ!お邪魔でしたら私は消えますので、遠慮なく座ってくださいませ!」
「あはは、何それ。リーシャって面白いのね。
 敬語はいいよ~、同い年だし。
 ていうか、王子様とフィアンセなら、私が敬語使わないといけないなかなあ」

「えっと、フィアンセはイワンが……イワン王子が勝手に言ってるだけなので気にしないでもらいたいです」
「そうなの?私だったら王子様にあんなこと言われたら、受け入れるのに~」

 まあ、そりゃそうだよね。
 私だって、私の前世を殺した奴かもしれないって疑惑がなければ、イワンに惚れてたとは思うぞ。

「ちょっと事情がありまして……それよりいいんですか?私と話してて。
 多分じゃなく、私はめっちゃ教室で浮いてると思うんですけど」
「いいっていいって~。私も男爵家で平民とあんまり変わんないからね~。
 カリーナ・オルロフ。カリーナでいいよ~」

 屈託のない笑顔を向けてくるカリーナは、栗色の長い髪に茶色い瞳。
 胸の大きさも私ぐらいで、接しやすい雰囲気を醸し出してくれていた。

「ありがとうカリーナ!
 私、絶対友達できないと思ってたから嬉しいよ!」

 ヒシっと両手でカリーナの右手を掴んでいく。

「うんうん、リーシャっていい子なんだねえ。
 手の温もりでわかるよお。
 ……王妃になったら、私を出世させろよお」
「って、それが狙いかい!」
「しまったバレたか」

 ビシッとツッコむ私だが、すぐにカリーナと2人で笑い声を出していく。

 はっ⁉殺気!

「どうしたの?リーシャ」
「ね、ねえカリーナ。一番前に座って、いっぱい女の子の取り巻きがいる、薄いピンク色の髪のめっちゃ美人さんって誰?
 なんか私を睨んでたんだけど⁉」

 そう、私が感じた殺気は二箇所から。
 一つは私を王子暴行罪で捕らえようとした、赤青緑に銀髪の男子生徒4人組。
 そしてもう一つが、薄いピンク髪の女の子を中心とした女子グループからだった。

「ああ、ソフィア・グラナーク様だね。
 公爵家の御令嬢様で、イワン王子と近々婚約が発表されるって噂があった御方だよ~」

 おふう……それ絶対、私を恨んでるじゃん!
 しかも王族の次に権力持ってそうな公爵家で、取り巻きいっぱいって!
 陰湿なイジメのターゲットになる予感がしてきたぞ。

「ついでに聞くけど、あっちの赤青緑に銀はどんな人?」
「赤青緑に銀?ああ、髪色か~。
 ……リーシャ。その一括りみたいに呼ぶのは不味いって。
 あの人たち、みんなお偉いさんの息子だよ」

 声を潜めるカリーナ。
 ああ、あいつらも貴族の上の方なんだな~。
 まあそうだとは思ったよ~。

「赤髪の、いかにも脳筋って人はボリス・グローマン。
 元帥様の息子だよ~」

 元帥?たしか将軍の上のランクだっけ?

「青髪の、いかにもインテリってメガネの人はフェリクス・セルゲイ。
 宰相様の息子だよ~」

 宰相は知ってる。総理大臣ってやつだよね。

「緑髪の、いかにも出世欲に燃えてる人はユリウス・コートリル。
 大辺境伯の息子だよ~」

 辺境伯?辺境の伯爵家だっけ?

「銀髪の、いかにも正義執行マシーンって人はニコライ・ベーレンス。
 大司祭様の息子だよ~」

 大司祭?教会でなんか祈ってる人だっけ?

「ありがとうカリーナ。
 また聞きたいことあったらいっぱい尋ねるからよろしくね」
「お安い御用だよ~」

 ふう、とりあえず友人ゲットだ!

 そんでもって今の立ち位置を整理しよう。

 私はリーシャ・リンベル。
 前前世が魔王で、前世が岩下真帆という名の女子高生。
 私の前世を殺した奴は、私のファーストキスを狙っている。

 要するに、私に好意を持って近づいてきた奴が犯人の可能性が高いのだ。
 そしてそんな人物は、イワン・レフレリアという、この国の王子しか存在しないのだ。

 これもう確定じゃね?

 イワンが私の唇を狙っているのは、私を魔王として覚醒して始末しようとしてるからじゃね?

 他にいないしなあ。私の唇を狙ってる人なんて。

 ただ、それなら強引に奪ってこないのもおかしいって言えるんだよなあ。
 何せ、前世の私を無言で背中から刺したのだ!
 しかも満員電車の中で!

 そんな奴が、私の唇を強引に奪ってこないのも変だよなあ。
 さっきの入学式以前に、チャンスなんていくらでもあったのに。

 イワンが犯人だとしたら、なぜこんなに優しくしてくれるんだろう。
 でも、他に怪しい人なんていないしなあ。
 うん、わからん。

 ま、それはともかく、え~と、私を嫌ってそうなのが、女子は公爵家の令嬢のソフィア。
 男子はボリス、フェリクス、ユリウス、ニコライ。
 この5人は、別の意味で警戒しなくてはいけないかな。

「ところでリーシャ、イワン殿下に無理やり連れてこられたって言ってたけど、何があったの?」

「あ、うん。それは……」

 カリーナに説明しようとすると教室の戸が開いて、イワンともう一人、教師っぽい人が入ってくる。

「静粛に、授業を始めます」

 教師の人の声に静まり返る教室。
 狸に似てる……この教師のあだ名は狸にしよう。
 そんでもって、イワンが私の右横に座ってくる。

「やあリーシャ」
「授業が始まってるんだから静かにして」

 にこやかスマイルのイワンに、私はぶっきらぼうに対応する。

 王子様なのになんでタメ口⁉やっぱもうデキてるの?って顔してくるカリーナ。

 う~ん、説明すんのは簡単だけど、さてどう説明すればわかりやすいか次の休み時間までに考えないと。

 教師の人のレフレリア王国建国からの、ざっくりとした貴族の使命とやらの話を耳に流しつつ、私はイワンとの出逢いを思い出していく。

 っていうか、こいつ、私の15歳の誕生日前からの知り合いなんだよなあ。
 無論、王子だって知らずに接していたけど。

 イワンとだけ名乗る謎の冒険者。

 こっちの世界の私の両親が、冒険者ギルドの事務員をしている関係で、私もちょくちょくギルドに顔を出していたのだ。

 冒険者ギルドで誰も対処できない高難易度のクエストを、たった1人でクリアしても偉ぶらない。
 しかも、目立たないように活動して、報酬は孤児院に寄付するという巷で話題の謎のヒーロー。

 まあ、私の両親やギルドの上の人たちはイワンが王子様だって知ってたみたい。
 だけど、子供の私が知ってるはずもなく、凄い人がいるなあって認識だった。

 そんなある日、あれは15歳の誕生日の少し前の話だ。
 まだ前世を思い出さず、時々、不思議な既視感に襲われた時。
 でも、それが何なのかはっきりとは思い出せない日々の頃。
 私はイワンと仲良くなったのであった。

 ***

『リーシャ・リンベル

 前世で殺人事件の被害者
 
 年齢 16歳 王立学校1年生
 容姿 黒髪 貧乳 身長普通
 身分 平民
 能力 ?
 性格 真面目だが考えなしに行動する癖がある
 人生 3度目
 目的 前世を殺した勇者を探している』
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...