上 下
301 / 308

301

しおりを挟む
 結局答えが出ないまま1日が終わってしまった。メイドが風呂の時間だと呼びに来た。おそらくパズルのピースが幾つか足りない状態なのだろう。だから正解にたどり着けない。

 足りないピースは誰が持っているのだろう?

 風呂から上がって応接室で紅茶を飲んでいたら、セリーが帰って来た。何故かビアンカも一緒だ。

「あれ?なんでビアンカも帰って来てるの?」

「まだ暫くは公爵様のお仕事が残って居るので、それまではこちらでお世話になろうとクラ―ネル様と相談して決めました。」

 婚約したら普通はその日から一緒に暮らすのがルールじゃ無いのか?断る事が出来るなんて僕は聞いて無いぞ。

「セリー。こう言う場合世間体はどうなんだ?」

「ビアンカさんは実家に居る訳では無いので、世間体は気にする必要は無いと思います。それに、家格的にはこちらが上ですので文句を言う人は居ないと思いますよ。」

「そう言う物なのか?」

 まあ、別に僕は拘らないから良いのだが、婚約したら一緒に住むのがルールだと聞いていたから、この世界の常識を崩すのはどうなのかと思っただけだ。

 ん?この世界の常識?あれ、なんか今少しだけ引っ掛かりを覚えたのはなんだろう?

 翌日、クラ―ネルと少し話をしたが、救済の箱舟は全く動いていない様だ。完全に地上での行動を破棄し、地下に潜って居るらしい。これは、まだ暫くはXデーが来る事は無いと言う事になるだろう。

 つかの間の平和と言う事になるが、僕としては時間的猶予が出来るのはありがたい。

 そう言えば、トゥーファルへ向かった、元公爵の配下はどうなったんだろう?

 その後、ビアンカと今後の事について協議した。

「暫くは救済の箱舟は動かないと見て良いだろう。動いた時は何らかの災害に要注意と言う事になる。」

「動かない間は救済の箱舟の調査は難しい。しかし動いた時には、時すでに遅しですか?これって、今の内に救済の箱舟を探さなきゃいけないって事ですよね?」

「僕もそう思って居たんだが、この際、救済の箱舟は無視する事にした。」

「え?無視ですか?」

「ああ、動かないのなら無理に突いて刺激する事は無いだろう?それよりも僕らにはやるべき事があるんじゃないか?」

 ビアンカが、僕の言葉を反芻する様に考え込んでいる。

「よく考えたら、私達も救済の箱舟も目的は一緒って事になるのでしょうか?」

「まあ、表向きはな。奴らが裏で何を考えているかはこの際どうでも良い。」

「どうでも良いのですか?」

「ああ、何を企んでいようが力で捻じ伏せる。」

「珍しいですね。何時も慎重な公爵様がそう言う事を言うのは。」

「実はな、この事件が終わったら、隠居しようと思ってな。」

「隠居ですか?まだ若いですよね?」

「別にお爺さんみたいに日向ぼっこして暮らそうって訳じゃない。公爵の仕事を辞めて、自由に冒険者でもやろうと思っている。」

「なるほど、そう言う事ですか。政治の世界から隠居するって事ですね?」

「そうなるな。幸いこの家の者が一生食べて行くだけの蓄えはあるから、稼ぐ必要も無いし、のんびり好きに狩りをしようと思っている。」

「公爵家の一生分の蓄えって、どれだけ稼いでるんですか?」

「驚く事は無いと思うが?クラ―ネルもそれくらい稼いでるぞ。」

「え?クラ―ネル様もですか?」

「聞いて無いのか?婚約したんだろう?大丈夫か?」

「大丈夫です!どうしてもクラ―ネル様と話をすると救済の箱舟関係の話になってしまいますので。」

「何時までも様付けはどうかと思うぞ。婚約したんだから『あなた』とかどうだ?」

「それはちょっといきなりハードルが高いです。」

「そうか?婚約したら何をするかは知って居るんだろう?」

「一応貴族の娘ですので、知ってはいます。」

 ビアンカの顔が真っ赤だ。これ以上からかったら頭から湯気が出そうなので止めて置こう。

「まあ、その話は置いておいて。災害が本当に起こるのか、起こるとしたらどの位の規模で何時何処で起きるのかを調査して貰いたい。クラ―ネルにも話して置いたから、クラ―ネルを自由に使って構わない。なるべく早く情報を掴んでくれ。」

「解りました。公爵様はどうなされるのですか?」

「僕はちょっと別口で調べなきゃいけない事があるので、暫くはそっちに掛かりきりになりそうだ。」

 戦うにしろなんにしろ、僕の精神状態をこのままにして置く訳には行かない。表舞台はクラ―ネルたちに任せて、僕は無くしたピースを探してみようと思っている。

 行く先に当てがある訳では無いが、とりあえず帝国に行って見ようと思っている。もう暫く帝国には行っていない。博士に会ってみるのも一つの手かなと思いついただけだ。

 それに帝国には1年以上住んでいた。あそこに何かがあってもおかしくはない。

 翌日、稽古の後、帝国に転移した。

 久しぶりの帝国はあまり変わった感じはしなかった。だが、僕の存在がバレるのは不味いんだよね。帝都は相変わらず賑やかだ。まあ、時々クラ―ネルから情報は得ているので現状帝都に異変は無い事は解って居る。

 ざっと、商店街を歩いて、久しぶりの帝都を満喫する。その後、マルケーノ博士の家に転移する。

 博士は大いに驚いていたが、歓迎してくれた。

「1年ぶり位かの?」

「そうですね。フローネルは元気ですよ。その子供もね。」

「そうか、それは良かった。心配していたのだよ。しかし、今は何処に?」

「話を聞いたら秘密に出来ますか?」

「そうじゃな、儂は今、皇帝と親交は無いから大丈夫だと思うぞ。」

 そう言えば博士は科学者としては既に引退しているんだったな。

「では、お話しますが、内密にお願いしますよ。」

 僕は大森林の向こうに国がある事、僕がそこで現在公爵の身分である事等を話し、その公爵邸でフローネルを夫人として迎えた事、生まれた子供が男児だった事等を詳細に話した。

「なるほど、大森林の向こうに大陸があり、そこに国があるとは俄かには信じられん話じゃが、お主が言うなら事実なのだろう。解った。この件は儂の胸の中に仕舞って置こう。」

「ありがとうございます。それで、一つ気になる事がありまして、質問させて貰いたいのですが、宜しいでしょうか?」

「儂に解る事なら構わんぞ。」

「博士は神について研究していましたよね?この帝国では神はどう言う扱いなのでしょうか?」

「この帝国に限らず、他の国もそうだが、神は唯一神だ。名前は無い。基本的には創造神と呼ばれておるな。」

 唯一神、確か王国でも同じだった気がする。だが、実際には神は複数いる。これは神が人間に干渉していなかったからなのかな?

「神が人間に何らかの神託や干渉をした事は無いのでしょうか?」

「ふむ、古い書物には神が下りて来たと言う記述もあるが、信ぴょう性は低いな。」

「では、何故唯一神信仰なのでしょうか?博士は人が神に至ると言う研究をして居たんですよね?神は基本死なない。人が神に至れば、神の数が増える事になりませんか?」

「これは私の理論なのだが、神は複数居るが、その思考は一つ。つまり複数の神が同時に存在しているが、神と言うのは肉体の名前ではなく思考の名前であると考えている。」

「それは、つまり、人を超えて神の領域に入ると神の一部になると言う考え方であっていますか?」

「まあ、雑に言えばそうじゃな。だから唯一神信仰と儂の考えは相反しない。」

「僕が知っている人間が住む国は全部で4つ。その全てが唯一神信仰なんですよね。ですが、実際に僕が神界に行った時には神は複数いてそれぞれ名前を持っていました。僕が行った神界は偽物なんでしょうか?」

「なんと?神界に行ったじゃと?そこで複数の神に会ったと?」

「ええ、僕が話した神は人間から神になったと言って居ました。確か2500年前の話だとか。」

「2500年前と言えば古代文明の頃の話じゃな。それが本当だとすると、歴史がひっくり返るな。教会もひっくり返るかもしれん。」

「博士だから話したので他言は無用でお願いしますよ。」

「しかし、おかしな点が一つあるな。」

「おかしな点ですか?」

「ああ、神が複数いるなら、この世界はどの神が作ったのじゃろう?そして、他の神は何故、自分の世界を作らないのかのぉ?」
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

処理中です...