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 今日はクラ―ネルとビアンカの婚約の日だ。第二夫人な上に男爵家の次女なので大々的なパーティーは開かれない。

 基本、身内だけの小さなパーティーなので、僕も最初の乾杯だけ出席して、後はセリーに任せた。

 クラ―ネルは伯爵なので、縁を結びたい商人等が挨拶にやって来る。僕はそう言うのは苦手なので逃げ出した訳だ。

 さて、家に帰ったは良いが、弟子も居ないし暇だ。狩りに出るには少し時間が遅い様だ。

 まあ、良い機会なので自分の身に何が起こって居るのかを把握して置こうと思う。

 救済の箱舟と関わってから、僕の感がことごとく裏目に出ている気がする。更に言えば、思考が徐々に周りと合わなくなっている気もする。

 これが武術なら、竜王の爺さんにでも頼んで1週間位1対1の稽古をすれば感が戻るのだが、精神的な物はどうすれば良いのか解らない。

 結局ベッドに横たわりうだうだしている。

 考えても答えは出ないのに考えてしまう。こう言うのは僕の事を良く知っている者に客観的に判断して貰うのが早いのだが、僕の事を良く知っている人物って居たかな?

 セリーならある程度は知っているが、僕が神だと言う事を知っている者は居ない。いや、一人だけ居るな。天界に。

 ブラスマイヤーに聞いてみるか?

 精神を統一してブラスマイヤーに語り掛けてみる。だが、返事がない。あれ?どう言う事だ?神界と地上では流れる時間が違うと言って居たが、寝ている?

 いや、神界で何かが起きているのか?

 今、僕が神界に行くのは不味いだろう。戻って来られない可能性が高い。調べようにも調べる方法が無いぞ?竜王の爺さんに行って貰うか?でも、何も無かったら無駄足だし。万が一何かあったら、神が勝てない相手と爺さん一人で戦う事になってしまう。

 困ったな。

 まあ、ブラスマイヤーがそう簡単にどうにかなるとは思えないし。たまたま声を掛けたタイミングが悪かっただけかもしれない。もう少し時間を空けて再度試してみよう。

 そう思った時、突然前世の記憶がフラッシュバックの様に脳裏を掠めた。

 なんだ?僕が住んでいたワンルームマンションの映像が何で今?

 やはり僕の精神がおかしいのか?それとも記憶領域がおかしいのだろうか?

 転生してこの世界に来て、もうすぐ4年になる。前世の記憶は残っているが、前世の事を思い出す事はかなり減って来ている。

 まあ、この世界での生活が濃密だったと言うのもあるだろう。

 しかし、未だに解明されない謎がある。僕は何時何処でどうして死んだのだろうと言う謎だ。前世の記憶はコンビニに自転車で向かった所で途切れている。

 何を買いに行ったのかも覚えていないし、事故にあった記憶もない。

 気が付いた時にはこの世界に居た。ブラスマイヤーは言っていた。僕の転生は他の人間とは違う。そして、それには何か意味があるんじゃないかと。

 今の所僕が何かを成すのか解って居ない。時期が来れば解るのだろうか?

 その瞬間またしても脳裏に前世の記憶が走る。今度は僕の住んでいた街の風景だ。壊れたテレビの様にノイズ交じりの映像だ。

 僕の記憶領域が情報の詰め過ぎで脳が記憶の整理をしているのだろうか?普通、こう言うのは夢と言う形で寝ている間にするのでは無かったかな?

 僕の体は神の体だ、病気になると言う事は考えられない。だとすれば精神的な異常か、呪いの類だろう。だが、僕に気付かれずに呪いを掛けると言うのはほぼ不可能に近い。

 結論としては、精神的な異常あるいは何かの干渉であろう。

 恐らく神界に上り全知全能を身に着ければ解消されるはずだ。神の体に人間の頭脳と言うアンバランスが招いた異常では無いかと思う。

 放って置くのは不味い。僕が僕でなくなったら、この世界を壊してしまう可能性だってある。しかし、治療の術が思い当たらない。

 ブラスマイヤーに相談出来れば、何かしらのヒントが貰えると思ったのだが。

 自分自身に不安を抱きながら、これからの活動を続けるのはどうかとも思う。僕は一歩引いて、クラ―ネル辺りに指揮権を委ねると言う事も考えている。

 ゼルマキア公爵家はセリーとビアンカが居れば問題は無いだろう。

 19歳で隠居と言うのは早い気がするが、僕がこれ以上何らかの影響をこの世界に与えるのはあまり良い事では無い気がする。

 竜王の爺さんみたいに気楽に暮らして行ければ良いのだが、この精神の異変を抑える方法を探すのが先かな。

 そんな事を考えながらごろごろしていると、ふと左手首の封印の腕輪に目が行った。

 これが、何か悪さをしているって事は無いよな?

 作ったのは神であるローレシアだし、ブラスマイヤーも普段は付けて置いた方が良いと言って居た。

 まあ、外しても特に何かが変わる訳では無いのだが、リミッターになって居るらしく、ある一定以上の力を出そうとすると、自動的に力をセーブしている感じだ。

 神の力を使うには外す必要があるが、そんな機会は滅多に無いので着けたままでもあまり不自由は感じた事が無い。

 ん?ちょっと待てよ。外すと神の力が使えるって事は、知能も神の能力が使えるのだろうか?

 少し試してみるか?

 僕は封印の腕輪をストレージに仕舞った。

 これで、現状の僕の状態を調べれば、何かが判るかもしれない。

 そう思った瞬間。前世の僕の記憶がもの凄い勢いで脳裏を流れる。今度は先程と違ってクリアな映像だ。

 僕が生まれてから、この世界に来るまでの映像がダイジェストで走馬灯の様に流れて行く。なんなんだこれ?

 あれ?死ぬシーンが無いのに何で生まれる瞬間の映像があるんだ?

 何かがおかしいぞ、この記憶って本物か?

 でも、僕がこの世界に来た時、この記憶しか無かった。もし、植え付けられた記憶だとするなら、向こうの世界、つまり地球から僕は来たわけじゃないと言う事にならないか?

 僕は、この世界の住人で、何らかの理由で神に転生した。その時に植え付けられた記憶を持っていた?

 んー、少し無理がある気もするが、そもそも異世界転生と言う事態よりは納得が出来ると言うか可能性が高そうだ。

 しかし、何故僕にそんな事を?誰が?やはり神の仕業か?

 あの時僕はブラスマイヤーの体に転生した。犯人は別の神?あの時の反応からするとローレシアと言う線も無さそうだ。

 ブラスマイヤーをどうにかする為に僕を利用したのか?それとも僕に何かをさせたかったのか?

 その辺がどうも理解出来ないな。

 そもそも前提が間違っている可能性もある。

 僕がこの世界の住人で、何らかの理由で死亡し転生したのなら、神の管轄下にあると言う事だ。

 当然ながら記憶も消されていて、赤ん坊からやり直す事になる。それが普通だ。

 だが、僕はブラスマイヤーに転生した。この時点で僕に記憶が無いのはおかしいと言う事になるのだろう。だから偽りの記憶を植え付けられた。それが別世界の記憶と言う事か?

 そうなると地球がある、あの世界は本当は実在しない世界なのだろうか?それとも別世界から誰かの記憶を持って来る事が神には可能なのだろうか?

 向こうの世界の記憶で僕は色々と助かった事がある。となると別世界は存在すると言う可能性が強い。

 この世界より進んだ世界、記憶が持って来られるなら行く事も出来るのでは無いだろうか?

 別世界に行けるのなら神は何故、この世界に固執する?

 いや、どちらの世界も神が作ったのなら、向こうとこちらを行き来している可能性もある。だが、僕はそれを知らされていない。

 そうだ、違和感だ。僕は神の記憶を得る事を拒否した。その為、他の神が持っている情報を一切知らない。だが、ブラスマイヤーは色々と教えてくれた。

 何故だ?僕はブラスマイヤーにとっては敵では無いが、邪魔者ではあったはずだ。そんな僕を何故助けてくれた?もう一度神界に戻る為に利用しただけとも考えられるが、ローレシアの策略から助けれくれた事もあった。

 何かがおかしい。何処か重要な情報が抜けている感じだ。

 それは一体なんだ?思い出せ!!
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