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 ビアンカのお陰で色々と考え方が変わった。やはり第三者の意見と言うのは大事だと痛感した。軍師と言う存在はありがたいものである。

 僕は何となく、前世の知識や常識が、この世界でも通じるのだと何も考えずに思い込んでいた節がある。

 よく考えればこの国は王国で、貴族制を採っているのにも関わらずにだ。貴族になってからも身分制度がある事にあまり拘って居なかった気がする。

 多分、この世界に来て初めて会ったのが神だったと言う所に原因がありそうだ。あそこで何かが吹っ切れたと言うか、感覚が麻痺したのかもしれない。

「ところで公爵様。救済の箱舟が用意していた模型は本物の箱舟になるんですよね?」 

「ああ、使い方を知っている魔法使いが居ると言う前提でな。」

「外洋を航行する船はこの王国では未だ一隻も成功していません。救済の箱舟の技術力はどこから来た物なのでしょうか?」

 確かにそうだ。これは王国に限った事では無く、帝国も一緒だ。つまり、この世界の技術では無い事になる。古代文明の技術かな?

「古代文明の話はしたよな?その時代には外洋を航行する船があったそうだぞ。」

「救済の箱舟は古代文明の時代からある組織だと?」

「それは、なんとも言えないな。」

「まあ、それは良いです。問題は、外洋に出ると言う事は他の大陸に行くのが目的だと思われます。何故、何の為に他の大陸に行くのか、それが重要です。」

「ビアンカはどう推察するんだ?」

「この大陸が沈むのを前提に、新天地を目指すのでは無いかと思っています。」

 大胆な推察だな。だが、地球の箱舟伝説もそんな感じだったと思う。この大陸が沈むと言う何かを掴んでいるのか?

 だが、もし救済の箱舟が天変地異を予測していて、人々を助ける為に箱舟を準備しているとしたら、それは悪とは断定できない。

 ただ、助ける人間を一部の人間に限定している部分には賛成できないがな。

 救済の箱舟が王都に固執しているのは何故だろう?単純に人が多いから?それとも天災の中心地が王都だからだろうか?

「もし、この大陸が何らかの理由で人が住めない土地になった場合。船で新天地を探すのは一つの案として有効だ。だが、この王国に何人の人が居ると思う?」

「正確な数字は解りませんが、確か200万人は超えて居たと思います。」

「ふむ、その人数が、住める土地が簡単に見つかると思うか?」

「思いませんね。だいたい、この世界にどれだけの大陸があり、どれだけの生物が住んでいるのか、知って居る物は恐らく居ないと思われます。」

「もし、見つけた土地に亜人が住んでいたら、戦争をして、その土地を奪うのか?」

「友好を結んで共存と言う方法もありますよ?」

「こちらの数は200万人以上だぞ。それだけの人数が住める土地が空いていると思うか?」

「難しい問題だと思います。」

「恐らく、救済の箱舟が選ばれた人間だけを箱舟に乗せて救出すると言うのも、その辺に理由があるんじゃないかな?」

「では、公爵様ならどうなさいます?」

「僕だったら、その天災が起こるのを食い止める方法を模索するだろうな。」

 そう、ここが救済の箱舟と僕が相容れない理由だろう。まあ、彼等にはそれだけの力が無いというのもあるが。

「そんな事が可能なんですか?」

「どんな天災が何時起こるのか解って居れば可能だな。」

「では、救済の箱舟と協力するのですか?」

 救済の箱舟と協力?その発想は無かったな、だが、救済の箱舟が完全に天災を予知していたのなら、もっと違う方法を取っていたはずだ。あくまでも僕の予想だが救済の箱舟はそこまで正確な予測は立てられていないと思う。

「救済の箱舟が正確な予測をしているなら協力も吝かではない。だが、恐らくそこまで正確な情報は掴んでいないと思う。」

「となると、今まで通り対立関係を続けるのですか?」

「ああ、その中で情報を少しずつ得るしか無いだろうな。」

「時間があれば良いですが、間に合わなかったらどうするんですか?」

 まあ、もっともな意見だな。だが、今の救済の箱舟の動きを見るに、それ程焦っている様には見えないんだよね。

「時間はあると踏んでいる。でなければ救済の箱舟はもっと積極的に動いているはずだ。」

「火山の噴火はその影響では無いとお考えですか?」

 ふむ、ビアンカは救済の箱舟の動きより、そっちを気にして居たのか。

「どうだろう?確かに影響の1つだと言う可能性はある。だが、王国に火山は無い。考えられるとすれば、地震か異常気象では無いかと推測しているんだが。」

「地震ですか?王都で地震と言うのはあまり聞いた事がありません。」

「現代の文明の前の文明。いわゆる古代文明の時代が滅んだのは大規模な地殻変動のせいだと歴史書には書かれている。およそ2000年前の事だ。それと同じ事が起こらないとは誰にも言いきれないだろう?」

「でも、その理論だと、王国だけではなく世界中が滅びてしまうのでは無いですか?」

「だろうな。大規模な地殻変動が起きれば地震も起こるし津波も起こる。正直、生き残るのは難しいだろう。救済の箱舟のプランでは人類は救えない可能性が高い。だが、僕ならそれを回避する事が可能だ。」

「公爵様は神か何かなのですか?」

 あら?ちょっと調子に乗り過ぎたかな。

「まあ、あくまでも推測だからな。必ず地殻変動が起きると言う訳では無い。他の災害かもしれないし。ひょっとしたら救済の箱舟がそう思い込んでいるだけと言う可能性だってある。」

「救済の箱舟が何を根拠に箱舟を準備しているのか、その辺を探る必要がありそうですね。」

 なんだか、ここ数日でビアンカが急に軍師として一段成長した気がする。

「そう言えば、落ちて来たドラゴンを止めた魔法使いの情報も全然出て来ないな。」

「探してどうするおつもりですか?仲間に引き入れますか?」

「仲間にするかどうかは解らないが、その時の状況を知りたいと思っている。」

 ドラゴンが落下すると言うのも、考えれば一種の異変だ。何かのヒントになるかもしれないので状況を把握して置きたい。

 そう言えばあの時、爆破と勘違いしたんだよな?爆破の長老は生きている事が判明した。なのに何故、あれから全く動かないんだろう?

 爆破の長老は恐らく女性だ。そして、トゥーファルの辺境伯も長老の1人と考えられる。残す長老は1人だが、その情報が一切出て来ない。
 
 あれ?箱舟の模型が仕掛けられたのって爆破の時だよね?だとすると、あれ以来救済の箱舟って動いて無いんじゃないか?

 なんだかんだ事件が起こるので救済の箱舟が暗躍していると考えていたが、思い返すと、そのどれもが現在の救済の箱舟の動きではない。

 実際には動いていない。とすれば、何をしている?何かを企んでいるのか、何かを待っているのか、それとも動けない事情があるのか?

 元公爵もクラ―ネルも動いては居るが、奴らの動きは掴めていない。

 何かおかしいぞ。救済の箱舟が王都から消えた?

 これが意味する物は、近い内に王都に何かが起こると言う事か?

 いや、よく考えろ。ここの所の僕の考えはことごとくズレている。何か僕をおかしくさせる原因があるはずだ。

「なぁ、ビアンカ。王都から救済の箱舟の気配が消えたとすると、何が予想される?」

「そうですねぇ。考えられるのは地方での工作ですかね?」

「でも、東の方は見て回ったがおかしな点は無かったぞ?」

「ならば、もっと近場じゃ無いですか?」

 近場と言うと王都周辺と言う事か?

 だが、北は僕の領地だし、南には元公爵の家臣が出向いているが、これと言った情報は入って来ていない。

 後考えられるのは東と西だが、どちらも小さな村はあるが、町は無い。

「王都周辺は調べさせて居るが、特に変わった様子は無いぞ?」

「んー、では、変わった様子が無い様に動いているんじゃ無いですか?」

「え?」

「わざわざ、不審な動きをする不審者って居ますか?」

 やっぱ、僕は何処かおかしいのか?

 当たり前の事が当たり前に考えられなくなっているぞ。 
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