上 下
296 / 308

296

しおりを挟む
 翌日、稽古の後ビアンカを連れて登城した。宰相に理由を話し、陛下に会える様に計らって貰う。

 綺麗に直した応接室に通される。どうやらここも被害を受けた様だ。

「今日は違う娘を連れているのだな。冒険者の格好と言う事は新しい弟子か?」

「そうですね。弟子は弟子でもこのビアンカは軍師として育てるつもりです。」

「ほう?軍師とは面白いな。卿が育てた軍師と言うのは私も興味がある。」

「まだ育てている最中なので、どうなるかは判りませんよ?」

「それにしても軍師を育てるのに女性を選ぶとは君は変わっているな。」

 まあ、そうだろうな。この王城に女性の官僚は居ない。居るのはメイド位だろう。貴族にしても官僚にしてもなれるのは男性だけだ。この世界での女性の地位は低い。だからと言って女性が知能で男性に劣ると言う事は無い。

 実際、偉そうにしている貴族でさえ奥さんには頭が上がらないと言う例は山ほどある。まあ、僕もその一人なんだけどね。

「今日来たのは宝物庫についてです。単刀直入に聞きますが、あの中に救済の箱舟が欲しがりそうなアーティファクトとかありませんか?」

「ふむ、アーティファクトか。私も宝物庫の中身を全部把握している訳では無いので何とも言えんな。自分の目で確かめてみるか?」

 ん?それって僕が宝物庫に入っても良いって事?

「えっと、僕が入っても大丈夫なのでしょうか?」

「お主、自分の立場を忘れて無いか?公爵と言えば王族だ当然の事、宝物庫に入る資格がある。」

「僕も王族に含まれるんですか?血筋的には王族ではありませんよ?」

「それを言ったら私の妻、王妃も血筋的には王族では無くなってしまうぞ?」

 なるほど、姻戚関係なら王族扱いになるんだな。って事はビアンカは入れないって事になるな。

「僕は入れるとして、ビアンカの扱いはどうなるのでしょうか?」

「王族が従者も連れずに行動するのは、普通ではありえない。この部屋にも宰相と近衛兵が控えておるだろう?」

「なるほど、僕の従者と言う扱いなら入っても構わないんですね?」

「そう言う事だ。ただし、近衛兵を一人護衛として付けるぞ。意味は解るな?」

 つまり監視役って意味か。まあ僕がその気なら監視役なんて意味が無い事は陛下も解って居るだろう。おそらく形式的な物なんだろう。

 陛下に礼を言って、宝物庫へ向かう。宝物庫は地下にある。

 地下と言っても薄暗さや息苦しさは無い。恐らく採光や換気システムがあるのだろう。

 さて、入ったは良いが何を見れば良いんだ?鑑定で見た物は解るが、数が圧倒的だ。この中から目的の物を探すのは一苦労だな。しかも何が目的の物なのか解って居ないし。あまり時間を掛ける訳にも行かないよね。

 宝物庫はその名の通り宝の倉庫だ。飾られて居る物もあるが、大部分は箱に入れられ仕舞われている。部屋の広さは20畳程はあるだろうか、所狭しと物が置かれている。

 目的の物が解って居てもここから探し出すのはかなりの時間が掛かりそうだ。

 とりあえずサーチを掛けながら宝物庫を一周してみる。ビアンカは見る物全てが珍しい様で時々立ち止まっては何かに見入って居る。

 近衛兵は入り口で僕らの動きを眺めている。まあ、出口は一つだから、それが正解だろう。

 サーチには何も引っ掛からなかった。僕はもう一周、今度は見た目で使い道の解らなそうな物を探してみた。

「あ、これ。」

 入り口の反対側の壁面。つまり宝物庫の一番奥でビアンカが小さな声を上げた。静かなので、小さな声の割にハッキリと聞こえた。

「どうした?」

 僕はビアンカの方へ音を立てない様に歩いて行く。別に図書館では無いので静かにする必要は無いのだが、何となく音を立てるのを憚られる空気がある。

 ビアンカの視線の先を見ると1メートル位の船の模型があった。なんで、宝物庫に模型?

「これを見て下さい。」

 ビアンカが展示物の下にあるプレートを指さした。そこには展示物の名前であろう文字が書かれている。王国語で『救済の箱舟』と。

「これは、ビンゴかもしれないな。だが、これは何なんだ?ただの模型じゃ無いよな?」

「解りません。ですが、意味もなく宝物庫に、しかも展示されていると言う事は無いと思います。もしかしたら魔道具かもしれません。」

 魔道具か、魔力を流してみるのは不味いよな?これは一度陛下に相談してみる必要があるな。

 一旦宝物庫を出て、陛下に再び会いたい事を近衛兵に伝える。近衛兵は宰相に聞いて参りますので先程の応接室でお待ち下さいと、僕らを応接室に押し込んでから何処かへ走って行った。

 10分程で再び陛下と相まみえた。

「どうした?緊急の用件かな?」

「陛下は、宝物庫に飾られている、船の模型はご存じでしょうか?」

「船の模型?はて、その様な物があった記憶は無いが?」

「宝物庫の一番奥の中心、かなり目立つ場所に1メートル程の船の模型があるのですが、ご存じ無いと?」

 陛下は一瞬何かを考える素振りを見せる。

「宝物庫の一番奥は、確か初代国王の鎧が飾ってあったはずだが。」

「鎧ですか?その様な物はありませんでしたよ?船の模型が飾ってあり、プレートに『救済の箱舟』と明記されておりました。」

「何だと?それは本当か?」

 今度は陛下と宰相も一緒に宝物庫へ行く事になった。

 応接室から宝物庫へはそれ程遠くない。一旦下に降りるので階段があるが、それでも5分は掛からない。

 陛下も含め皆駆け足になって居る。宝物庫へ着くと頑丈な鍵を近衛兵が開ける。

「この一番奥です。」

 陛下と宰相が右から回ったので僕とビアンカは左から回る。ほぼ同時に目的地に着いた。

「これは、どう言う事だ?」

「それが知りたいのですが、これは元々ここにあった物では無いのですね?」

「ああ、ここには初代国王の鎧があった。私も最後に見たのはかなり前の事だが、こんな模型が無かった事は断言できる。」

「となると、ここに忍び込んだ物が居ると言う事になりますね。」

 あの爆破騒ぎの時だろうか?でも、そうなると爆破の能力を持った長老が生きている可能性が高くなる。

「この宝物庫の鍵は国王と宰相しか持つ事が許されない。誰がどうやって鎧と模型を入れ替えたんだ?」

「鍵は2本しか無いんですね?となると前国王の側近に犯人が居たと言う事になりますね。」

「兄上の側近が犯人だと?」

「ええ、そしてその者はかなりの確率で救済の箱舟の長老の1人だと思います。」

「救済の箱舟の長老が王城に居たと言うのか?」

「はい。前国王陛下の側近で身元が解らない遺体あるいは行方不明の者が居ましたらリストを作って貰えませんか?」

 宰相が頷いた。陛下はショックを隠し切れない様だ。

 僕とビアンカは一旦王城を辞する事にした。リストは後日届けてくれるそうだ。これで何かが解れば良いのだが。

 帰り道、ビアンカに聞かれた。

「公爵様、何故前国王陛下の側近で身元が解らない遺体あるいは行方不明の者のリストを要求したのですか?」

「その中に犯人が居るからだ。」

 するとビアンカは一瞬首を捻った。

「何で、生きている者の中には犯人が居ないと思うのでしょうか?」

 しまった。何で僕はそう思い込んでしまったのだろう?言われてみればそうだ。前国王の側近なら生きていようが行方不明だろうが一緒だ。僕らは正体を知らないのだから、生きている人間も容疑者に変わりは無い。

 勝手に長老は姿を隠しているとばかり思いこんでいた。更に言えば僕は長老の性別さえ知らない訳だ。メイドだって容疑者になる。

 長老と言う単語に誤魔化されて居たのかもしれない。幾ら若返りの秘薬を飲んでいるとは言え、ある程度の年配の紳士を想像していた。

 王城に潜り込むなら、若いメイドの方が正体がバレにくい。実際、家族団らんの場に居合わせるなら男性より女性の方が自然だ。

 まあ、執事と言う線もあるが、確か執事の遺体は見つかっているはずだ。

 固定概念と言う奴だな。もう一度一から調べなおす必要がある様だ。
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...