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 この町の商店街は大きい。王都より大きいだろう。王都の商店街は市民向けだ。貴族はあまり商店街には行かずに商会で買い物をする。対して、このトゥーファルは住民の殆どが庶民だ。なので、商店街が経済の中心になっている。

「凄い人ですね。それに活気もあります。」

「ああ、ここで聞き込みをするのは骨が折れるかもしれないぞ。」

 トゥーファルには貴族が殆ど居ない。貴族街も無いし、貴族家で働く使用人も少ない。その為一般市民が活き活きとしている感じがある。

 人ごみに流される様に歩いていると、本屋が見えた。識字率の問題だろうか、暇そうに見えた。

「おやじさん。本を買うので少し話を聞かせて貰っても良いかな?」

「買ってくれるなら客だ。何でも聞いてくれ。」

 余程売れないのか店主は上機嫌だ。

「ボーマット辺境伯ってのはどう言った人なんだ?外から来たので良く知らなくて。」

「辺境伯か、一言で言うなら変人だな。だが、悪い人では無い国と市民が対立したら市民の味方になってくれるお人だ。」

 なんとも微妙な返事が返って来たな。しかも自分の町の領主を変人呼ばわりとか大丈夫なのか?

「変人って言うのが良く解らないんだけど、具体的なエピソードとか無いの?」

「辺境伯は剣も魔法もからっきしだ。だが、非常に頭が良い。頭が良すぎて何を考えているのか良く解らない。だが、辺境伯が考えた事は今まで一度も間違っていた事が無いらしい。」

 なるほど、知識が常人を凌駕しているから変人に見えるって事だな。ある意味天才なのかもしれない。まあ、辺境伯って言う位だから治世の才能もあるだろうし、町の発展具合からしても辺境伯の知識が入っているのかもしれない。

 もしかして、真似をしたのは王都の方だったりして?考え過ぎかな?

 僕はビアンカに2冊本を選ばせて購入した。両方羊皮紙の本だったので白金貨が4枚飛んだ。

 恐らく古本だと思うのだが、新品なら倍の値段はするだろう。しかし、商店街に古本屋があること自体が凄いと思う。

「なぁ、ビアンカ。辺境伯の事、どう考える?」

「かなりの頭脳派みたいですね。エイジさんとは話が合うんじゃ無いですか?」

「それは、遠回しに僕も変人だと言って無いか?」

「違うと否定できますか?」

 そうずばりと言われるとぐうの音も出ないぞ。

 それから2時間程聞き込みを続けたが、悪い噂は出て来ない。市民にとっては良い領主の様だ。

 歩き回って喉が渇いたので喫茶店に入りお茶と甘い物を頂く。

「結局、悪い噂は出て来なかったな。」

「まあ、あんまり変な事を言うと不敬罪で首が飛びますからね。」

「でもさ、王都の貴族とは違う印象を受けたぞ。もっとこう身近な存在に感じている様だ。」

「それはありますね。おそらく、他に貴族が居ないので辺境伯も気軽に街中を出歩いているのでは無いでしょうか?」

「なるほど、そう言う暮らしも悪く無いな。」

「いやいや、エイジさんは王都でも気軽に出歩いてるじゃ無いですか。」

 ん?そう言われればそうだな。

「で、辺境伯には会う価値があると思うか?」

「そうですね。会うべきだと思います。貴族で、自分の領地の事をキッチリ把握している人物は少ないです。それにエイジさんに似てるって言いましたよね?あれは誉め言葉です。きっと他の人の知らない情報を持っていますよ。」

「解った。ギルマスに会ったら、次は辺境伯に会いに行こう。」

 ビアンカがだいぶ参謀っぽくなって来た。良い傾向だな。まあ、こうやって何かにつけて意見を聞くようにしているのが、ようやく効果を出し始めたのかもしれない。

 再び冒険者ギルドに着いたのが12時半を回った頃だ。そろそろ大丈夫だよな?

 ギルドに入るとサブギルドマスターが待っていた。

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」

 そう言って2階のギルマスの部屋に案内された。

「おお、すまんな待たせてしまって。」

「いえいえ、トラブルだそうで。ギルマスも大変ですね。」

 かなりフランクなギルドマスターだ。やはり冒険者上がりなのだろう。

「いや、トラブルと言う程大げさな話では無いのだがな。昇級試験で、Fランカーが試験官のSランク冒険者を倒してしまってな。どうするか協議しておったのだ。」

 あれ?何処かで聞いた事がある様な話だな。

「この町にはSランク冒険者が結構いるのですか?」

「一応常駐しているのが5人だな。君の様に依頼で来る者も時々居る。」

「この町の規模から言うと5人は少なく無いですか?」

「そうだな、確かにSランク冒険者は少ない。だが、Sランク相当の腕を持つ者は結構居るぞ。要は王都に行って試験を受けるかどうかの違いだけだからな。」

 そう言う事か、Sランクの実力があっても王都に行かないと言う選択肢を取る者も多いと言う事か。ここから王都に行くには時間もお金も掛かるからな。

「ところで、君は何の依頼でこの町に来たんだ?」

「実は国王陛下の使いでこの町を含む王国の東を調べています。」

「ほう?陛下の使いとな。」

「ええ、王都で異変があったのはご存じですよね?東では何か異変はありませんでしたか?」

「王都での異変は聞いている。それと同じ事がここでも起きると?」

「いや、それが解らないから調査をしているのです。奴らが何処にどんな風に潜伏しているか解りませんからね。」

「そう言う事か。だが、この町に狙われる様な者はおらんからなぁ。」

「辺境伯はどうですか?」

「こう言ってはなんだが、辺境伯が亡くなったら新しい辺境伯が来るだけだ。違うか?」

 確かにそうだ。貴族なんて所詮はすげ替えの効く存在なのだ。一時の混乱は期待出来るが、それ以上の意味は無い。

「それなんですが、目的がこの町の占拠だとしたらどうですか?」

「なるほど、それならば合点は行くな。だが、この町には騎士団があるぞ?そう簡単には落ちないと思うが?」

「王都にも騎士団はありますし、魔法師団もあります。それでも前陛下は崩御されましたよ。」

「ふむ、しかし、俺が知る限り、そう言った兆候も異変も感じないな。」
 
 やはりそうか、しかし、王国の東半分に全く手を出していないと言うのもおかしな話だ。救済の箱舟程の組織ならば、必ず地方にも何らかの影響を与えているはずだ。それが見えないと言うのは逆に不気味だ。

「ギルマスに一つお願いがあるのですが、領主である辺境伯に会える様に手はずを整えて貰えませんか?」

「ふむ、国王陛下の使いなら問題あるまい。推薦状を書いてやろう明日には会えるだろう。」

 明日かぁ、また明日も来ないと行けないのか。冒険者の仕事ならここに泊まるんだけどな。

 20分程待って、推薦状を貰った。ギルドを出るとまだ、14時だ。帰るのには早いが、調べる事は特に無いんだよね。

「ビアンカ、どうする?する事が無くなってしまったぞ。」

「そうですね。辺境伯に会うまではこの町の調査は終わりませんから、次の町に行く事も出来ませんね。」

「仕方ない。今日は早いが終わりにしよう。買った本でも読んだらどうだ?」

 僕らは人気のない場所を探し、公爵邸に転移した。

 久しぶりに暇な時間が出来たので子供達と戯れる事にする。一番上のリアーナはもうすぐ3歳だ。だいぶやんちゃに育ってるなぁ。家庭教師はその辺は教えないのかな?

 そう言えば、子供達は神の欠片が大きい。そろそろ何らかの兆候が出始めるのでは無いだろうか?少し不安だ。

 その後風呂でまったりとする。ここの所、風呂にゆっくり浸かる時間が無かったので元日本人としては至福の時間だ。

 話は変わるが、時間を戻す魔法が完成しない。毎朝1時間訓練しているのだが、理論は何とか理解した。だが、実際に発動しようとしても発動しない。イメージも出来ているはずだ。

 やはり、人間の扱える魔法では無いのだろうか?でも、時間を止める魔法は30分位なら止めて置けるようになった。これが出来るなら時間を戻す事も出来そうな物なんだがな。

 待てよ、人間の扱える魔法じゃ無いのなら、神ならば可能って事かな?そう言えば腕輪を外して試した事は無かったな。

 明日の朝はそれを試してみるかな。 
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