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 面接をした2日後にはビアンカが我が家に引っ越して来た。荷物はあまり大きくないバッグ1つだ。

「随分と荷物が少ないが、それで大丈夫なのか?」

「はい、着替えだけあれば問題ありません。」

 貴族の子女だよな?洋服だけでも馬車一杯位ありそうなものだが。

「仕事は明日からだ、今日は部屋の片づけに1日掛かると思って時間を取ってある。何か必要な物があったらメイドに言ってくれ。」

 僕は翻訳した帝国の歴史本をビアンカに渡す。

「これは?」

「暇だったら読んで置け、色々と役に立つぞ。」

「あ、支度金が金貨9枚余ったのですが、返した方が良いですか?」

「いや、それは返す必要の無いお金だ。小遣いにしても良いし、実家に仕送りしても良いぞ。」

 ビアンカは少し悩んでから口を開く。

「実は欲しい本があるのですが、使っても宜しいでしょうか?」

「もちろん構わない。ちなみに欲しい本って何だ?」

「えっと、科学の本です。結構前に出た本なんですけど高くて買えなかったんですよね。」

 ん?それって僕が公爵経由で販売した活版印刷の本だよね?

「もしかしてこれかな?欲しいならあげるぞ。」

「良いんですか?これ、金貨3枚はしますよ。」

 羊皮紙の手書きの本なら白金貨10枚位する、活版印刷だから金貨3枚にまで下げられたのだが、それでも高いのか?

「実を言うとこの本は僕が書いた本だ。羊皮紙の本は難しいが、紙の本なら無料で提供出来る。欲しい本があったら買う前に相談してくれ。」

「え?公爵様って本も書くんですか?多才なんですね。凄いです。」

「聞いて良いのか判らないが、ビアンカの家って男爵家だよな?国から支援金が出ている上に男爵は仕事をしているはずだ。それなのに金貨3枚の本が買えないのか?」

「そうですね。私の家は男爵家としてはそれなりの収入がある方です。これは兄が既に成人して働いているからです。父の給料に併せて兄の給料があるので、裕福とは言えませんが私が貴族学院へ行けるくらいのお金はあります。ですが、私には弟が居てやはり貴族学院に通って居ます。ちなみに姉もまだ嫁に行ってません。そうなると生活するだけでギリギリと言った感じになってしまいます。」

 男爵家は貧乏が多いと聞くが思ったより深刻なんだな。

「なるほど、ちなみにビアンカが家を出て働き、仕送りをする様になるとどうなる?」

「多少は生活が楽になるでしょうね。仕送りの額にも寄りますが、収入が増えれば姉も結婚出来るかもしれません。それに私が家を出て食費が浮くのも大きいと思います。」

「ちなみにビアンカの家の月の収入ってどの位なんだ?」

「そうですね。だいたい金貨30枚程度でしょうか。父が20枚、兄が10枚と言った所です。」

 ふむ、貴族とは言え男爵家ならそんな感じかな。一般市民が贅沢しなければ家族4人で月に金貨1枚程度で生活できると聞いた事がある。男爵家なら使用人は15人から20人程度だ、金貨30枚+国からの援助金があればなんとかやって行ける金額と言う事だな。

「解った。ビアンカの給料は月に金貨30枚出す。家にどの位仕送りするかは自分で判断してくれ。」

「え?え~~~!!」

 翌日、朝の稽古を終えた後、魔法の稽古を1時間程やってから母屋に戻る。時間を止める魔法はなんとかマスターしたが、そこから先の応用がなかなか成功しない。理論的には止める時間を徐々に長くして行き、転移魔法の要領で時間短縮する事で時間を進める事が出来るはずだ。これを反転してやれば時間は戻るはず。だが、理論は解っても魔法が発動しない。イメージが明確に掴めていないのかもしれない。

 9時過ぎに執務室に行くとビアンカが既に来ていた。セリーと文官も書類と格闘中だ。ここでビアンカに講義をするのは迷惑だろう。書斎にビアンカを連れて行く。

 無駄に広い書斎には僕が帝国から持って来て翻訳した紙の本や古代の本を翻訳した物等が並んでいる。どれも珍しい本なのでビアンカは目をキラキラさせている。

「基本ここを使う者は居ないから、時間がある時は本を読んでも構わないぞ。」

「良いのですか?貴重な本ばかりではありませんか?」

「構わないと言ったろ?」

 原本はストレージの中なので何時でもコピー出来るしね。

「貴族学院にも図書室があるのですが、そこでは見た事が無い本ばかりが並んでいますね。」

「まあ、基本的には僕が出版させた本が中心だからね。そんな事より、今日は僕の話を聞いてくれ。重要な話をするので本は別の機会に。」

 ビアンカを椅子に座らせ、講義を始める。まあ講義と言っても学院の授業とは違う。この国が現在置かれている状況を詳しく説明して行く。

 当然話の流れとしては救済の箱舟の話がメインになってくる。

「救済の箱舟ですか?初めて聞きました。国王陛下の崩御にそんな裏があったとは全然知りませんでした。」

「まあ、表沙汰にするとパニックになりかねないからね。と言う訳で、この王都は現状戦争状態にあると言っても過言では無い。」

「参謀が必要なのはそう言う訳なんですね?でも、私にそれが務まるでしょうか?」

「今は無理だろうな。でも数か月後には何とかなると僕は思っている。」

「そんな短期間でですか?」

「クラ―ネルは半年掛からなかったぞ。」

「クラ―ネルさんと比べないで下さい。って言うか、クラ―ネルさんが凄いのはそう言う経験を積んでいるからなんですね?」

 ん?どうだろう?確かに実戦を積んでクラ―ネルは強くなった感はあるかな、だとすると、戦闘の出来ないビアンカはどうやって鍛えるのが良いのかな?

「まあ、心配するな。クラ―ネルの様に戦えと言って居る訳では無い。参謀として僕の手伝いをするだけだ。今の君は知識が無いだけで、必要な知識を得れば立派に参謀として役に立つだろう。」

「心配するなって言われても不安しか無いんですけど?だって、王都は戦争状態なんでしょ?」

「さっきも言ったが現在はお互いに体制を立て直している状態だ。暫くはこの状態が続くと考えている。その間に君を使える様にしたいと思っている。」

 クラ―ネルには戦い方は教えたが知識は殆ど教えていない。元々賢い子だったから、僕と一緒に行動するうちに自然と身についた知識だろう。

 では、最初から僕の前世の知識まで含めた知識を教え込んだら、どんな人材が育つだろう?流石に神の知識までは教えられないが、それでもクラ―ネルを超える存在になる可能性はある。

「あ、そうだ。君にこれをあげよう。」

 そう言って僕はストレージからポーチを取り出しビアンカに手渡す。

「ポーチですか?何に使うのでしょう?」

「それはマジックバッグになって居る。これから君に渡す知識やお金はそれに仕舞って置くと良いだろう。ギルドに所属していない君は貯金とか出来ないだろう?」

「マジックバッグですか?それって高いのでは?それに知識をどうやってバッグに入れるんですか?」

「そのバッグの中に白紙の本とペンが入っている。覚えた知識を書き込んで置くと良いだろう。本やペンが足りなくなったら言ってくれ。」

 この世界にノートと言う物は無い。紙はあるので学院生は紙に必要事項を書き込み綴じて行く。

 まあ、紙は貴重品だったので、貧乏貴族や庶民は、講義の内容を必死に記憶していたらしいが、数年前に現国王が公爵だった時に製紙工場を作ってくれたので今ではかなり値段が下がって来ている。

 それでも質の良い紙は10枚で大銅貨1枚位はする。まだ、庶民にまで広まるには時間が掛かりそうだ。紙の値段が高いので必然的に本の値段も高くなる。まあ、羊皮紙の本に比べれば格段に安いのだが。

 さて、ビアンカがどんな知識の本を作り上げるのか楽しみだ。もし、良い物が出来たらコピーさせて貰おう。そして加筆して次の参謀候補を育てるのに使うのも良いだろう。

 あれ?その頃には平和になって居るのか?
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