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 何かしっくりこない。だが、地上の惨事を見過ごすわけにも行かず、僕はエリアハイヒールを連発する。クラ―ネルは下に降りて重傷者にエクストラヒールを掛けている。

 軽症者は治療院へと運ばれる様だ。ようやく衛兵が動き出した。衛兵は基本4方の門に駐在している。つまり中央には衛兵が居ないのだ。恐らくそれを知って、この場所に人を集めたのだろう。

 まあ、6万人がここに集まり始めた時点である程度の衛兵が駆けつけては居たのだが、それだけでは怪我人を運ぶのに足りない。爆発後に駆け付けた衛兵は、この大惨事に、気おされ動きが鈍い。

 あちこちで声が上がり、ようやく怪我人の搬送が始まった所だ。全てが後手後手に回っている。

 みすみす4万人もの犠牲者を出してしまった。頭脳戦ではどうやら長老の方が一枚上手だった様だ。

 それにしても、この爆破は何だ?魔法?魔道具?いずれにしてもネロフ男爵の仕業では無い気がする。だとすると、最低でももう一人長老が動いている?

 救済の箱舟の目的は王都の転覆では無かったのか?何でこんな無駄な虐殺をしたのだろう?

 意図が読めない上に敵の姿が見えない事に不安を感じる。

 一通りエリアハイヒールを掛けた所で、僕も地上に降りて重傷者の治療に当たる。人目が多いので無詠唱でエクストラヒールを掛けて行く。

 怪我を負ったのは残りの2万人の半分程だ、その半数が軽症者。残りの重傷者もエリアハイヒールで8割は命に別状は無い状態に回復している。

 救援に来た衛兵はおよそ2000人程度、30分もすると事態の収拾の目途が立って来る。ようやく一息付けるな、そう思った時、またしても轟音が響き地面が揺れた。

 2度目の爆発。何処だ?

 音のした方に素早く振り向き、息を飲む。王城から煙が上がって居た。

 またしてもやられた。本当の狙いは王城だったんだ。となると、こっちの爆破は陽動と言う事になる。誰に対しての陽動だ?まさか、僕とクラ―ネルか?

 僕たちは急いで王城に転移する。王城は蜂の巣を突いた様な騒ぎになっている。

 門番に話を聞くが、情報が交錯していて状況が判らないとの事。陛下は無事だろうか?

 城の何処が爆破されたのか、どの程度の規模の爆破だったのか、それが問題だ。

 もう一度爆破がある可能性もある。城の内部からは人が我先にと逃げ出して来る。

 そう言えばクラ―ネルの義父であるレンツェル子爵も王城で働いていたはずだ。

「クラ―ネル。王城は広い、二手に分かれて行動しよう。僕は爆破の中心へ向かう。クラ―ネルは怪我人を優先してくれ。」

「解りました。」

 僕は、兵士に抱えられて運ばれている怪我人の横をすり抜け、爆破の中心部へ向かう。怪我人はクラ―ネルに任せて置けば大丈夫だろう。

 少し走った所で知った顔を見つけた。宰相だ。

「無事だったんですね。陛下は?」

「解らん。私は執務室で仕事をしていた。陛下はおそらく家族でお茶を楽しんでいたはずだ。」

 家族でお茶を?それって不味く無いか?王族が固まっていたって事じゃ無いか?

 僕は念の為ハイヒールを宰相に掛けてから、再び走り出す。

 徐々に爆破の影響が大きくなって来る。所々に人が倒れていて、中には瀕死の者も居る。僕は命の危険な者だけにエクストラヒールを掛け、そうで無い者は、駆け付けた兵士に任せる。

 悪い予感がする。陛下の執務室や応接室も爆破の影響で崩れている。爆心地はどうやらこの奥らしい。僕の記憶が確かなら、恐らく食堂が爆心地だ。

 食堂に向かうにしたがって生きている者が少なくなる。そして、食堂は無残な状態になっていた。死体が数体転がっているが、焼け焦げていて性別すら判断出来ない状態だ。

 ここに陛下が居た可能性が高い。もしかしたら陛下を中心に爆破したのかもしれない。だとすれば、陛下は完全に消滅してしまった可能性がある。

 遺体が残って居れば蘇生の魔法が使える。だが、遺体が無ければそれも不可能だ。

 陛下の家族は王妃と王太子、そしてその弟の4人だ。食堂でお茶をしていたのならば給仕やメイドも居ただろう。だが、死体と人数が合わない。この部屋に何人の人間が居たのかは正確には判らないが、死体は3つしかない。

 この状態ではこの3人に蘇生魔法を掛ける訳には行かない。爆心地が陛下なら、恐らく家族も巻き込まれて居るだろう。家族4人が消滅している可能性が高い。

 僕はサーチを使い、周りに生存者が居ないか探る。だが、食堂を中心に半径200メートル以内に生存者は居ない。

 一旦外へ転移し、宰相の居場所を探知する。宰相は怪我人が運ばれて来る広間で生存者の確認をしていた。

「ゼルマキア卿、陛下は?」

「確認出来ませんでした。しかし、爆心地が食堂だった事を考えると・・・」

 そう言って僕は首を横に振った。

 宰相はそうかと呟いた切り黙ってしまった。

 完全にやられた、これが救済の箱舟の狙いなら、僕らは見事に踊らされた事になる。だが、最初からこれを狙っていたとは考えにくい。

 これが奴らの当初からの計画ならば、ネロフ男爵は捨て駒と言う事になる。それはおかしい。ただでさえ少ない長老を犠牲にしてまで国王陛下のみを殺害すると言うやり方は救済の箱舟らしくない。

 爆破の魔法がピンポイントで使えるならば、陛下の殺害は何時でも出来たはずだ。それに、ネロフ男爵を捨て駒にするなら、最低でも国王陛下と元公爵を同時に殺害する位で無いと労力に見合わないのでは無いだろうか?

 更に言えば、僕とクラ―ネルも邪魔なはずだ。邪魔な人間3人を殺さずに何故陛下を殺したんだ?

 爆破の魔法に何か制限でもあるのだろうか?もし、制限があるとしたら、それは何だろう?距離か?

 魔法の制限で真っ先に浮かぶのは効果範囲だ。もしかしたら、中央広場の爆破の時、犯人は近くに居たのかもしれない。そう考えると、2回目の爆破までのタイムラグにも説明がつく。

 中央広場から王城まで歩いて40分程掛かる。馬車なら30分程度だ。1回目の爆破から2回目の爆破まで、1時間弱のタイムラグがあった。十分な時間だ。

 可能性は高い。これは長老の一人が動いたと言う事になる。救済の箱舟もそれだけ追い詰められていると考えて良いのだろうか?

 3日ほど、王城の捜索が行われた後。正式に国王陛下の崩御が発表された。跡継ぎの2人の息子も同時に亡くなった事も公表される。

 セリーには事前に伝えて置いたのだが、やはり正式に公表されると実感が湧いたのか、初めて涙を見せた。

 王位継承権の順番から、セリーの父親である公爵が玉座に付く事になる。

「私が、この玉座に座る日が来るとは思っても居なかったよ。」

 公爵いや新国王が寂しそうにそう言った。

 国王一家が亡き後は、セリーの父親であるミーレン公爵が国王に就任した。セリーの弟が王太子になる。

「で、僕は何故呼ばれたのでしょう?」

「君は私にとって義理の息子だ。セレスティアの子供にも当然王位継承権が与えられる。」

「ああ、そう言う事になりますね。」

「更に言えば、君は国王派の最上位でもある。私の派閥がこれからは国王派になる。だが、旧国王派が解体するのは避けたい。そこでだ、君には公爵になって貰おうと思っている。」

「え?僕が公爵ですか?」

「そうだ、旧国王派をまとめ上げ、ゼルマキア公爵派として、私に協力して欲しい。」

「しかし、僕は国王陛下を助ける事が出来ませんでした。そんな僕に旧国王派をまとめ上げる事が出来るでしょうか?」

「君の力は全ての貴族が認める所だ。まあ、何人かは派閥に入る事を拒否するかもしれんが、新しく君に付く者も現れるだろう。心配するな、君なら出来る。」

 派閥の長とかあまり面倒な事はやりたくないんだけどな。だけど、ミーレン公爵には世話になってるし、国王陛下を救えなかった負い目もある。やるしか無いよね。

 こうして、一連の騒動は終結したが、また何時爆破が起こるか判らない。僕は、王都の重要な場所に魔法障壁を張って回る事になる。

 救済の箱舟を潰すまでは気を抜く訳には行かないって事だ。
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