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 2階の一角に他と離れた集団を見つけた。集団と言っても5人程度だが、戦闘に加わる意思が無いのは解る。フォーン子爵の家族だろうか?

 それとも、ネロフ男爵か?実際に行かないと判断は難しいな。だが、他にネロフ男爵と思われる反応が無いんだよね。あの男爵が自ら戦闘に加わるとは思えないし。あいつは何時だって陰から人を操るのみ。

 ん?操る?操るのに全体の戦況を見る必要は無いのか?ただ、侵入者を殺せと命令すればそれで操作出来てしまうのか?

 今回の夜襲は完全に相手の裏を突いたはずだ。現にクラ―ネルがドアを蹴破った後に慌てて駆けつけて来た。と、言う事は命令した人間が何処かに居るはずだ。

 何処で誰に命令した?指揮系統があるのか?僕は素早く家中をサーチで探るが、乱戦になっているせいか、系統だった動きは見られない。

 とてもじゃ無いが、元公爵の精鋭の戦い方じゃ無いな。指揮官が素人って事になる。つまりネロフ男爵だ。

 クラ―ネルは既に200人近く倒している。僕もリカバリーで100人以上は戦闘不能にした。現在、こちらに向かって来ている敵は300人程度だ。なのに何故ネロフ男爵の反応がサーチに掛からない?

 探知魔法に掛からない魔法でもあるのか?隠密の魔法は知っているが、あれは探知魔法には引っ掛かるはずだ。またしても僕の知らない魔法?

 とりあえず全員を戦闘不能にすれば何か判るだろう。

 僕は吹き抜けをフライで飛び上がり2階の敵にリカバリーを掛けまくる。

 5分程で全ての敵が沈黙する。残るは奥の部屋の5人だけだ。

 念の為にクラ―ネルを玄関ホールに待機させる。サーチに掛からなくても、クラ―ネルなら気配を察知する事が出来る。

 僕は、ゆっくりと5人が居る部屋に向かう。

 ドアには鍵は掛かって居ない。と言うか鍵のある部屋は珍しい。

 ドアを開けると共にエリアリカバリーを部屋全体に掛ける。4人が倒れて1人が残った。

「あなたがネロフ男爵ですね?初めましてと言うべきかな?」

「まさか、そんな簡単な魔法で追い詰められるとは思って居なかったよ。」

 ネロフ男爵はこの場に及んでも笑顔を崩さない。どう見ても優しい老紳士だ。

「あ、僕には洗脳は効きませんよ。出来れば大人しく捕まって貰えると助かるんですが?」

「そうだな。私も戦闘は苦手なので、君と戦う様な愚かな真似はせんよ。」

 ん?諦めたのか?だが、油断ならない相手だ慎重に行こう。

 僕はスリープの魔法を掛けて男爵を眠らせた。

 クラ―ネルに合図を送ると、クラ―ネルが外へ出てファイヤーボールを空に打ち上げる。ファイヤーボールは上空200メートル地点で爆裂した。これは事前に作って置いた花火の魔法だ。攻撃力は無い。

 何処に潜んでいたのか、元公爵の部下が、すぐに駆け付けた。およそ30名程だ。少し遅れて、元公爵も姿を現す。

「作戦は成功した様だな。」

「ネロフ男爵は捕縛しました。」

 そう言って元公爵の部下の一人にネロフ男爵を引き渡す。

「今はスリープで眠って居ますが、洗脳は厄介な魔法ですくれぐれも気を付けて下さい。」

「ああ、身を持って経験しているよ。任せたまえ。」

「残る長老は3人ですね。暫くは動かないと思いますが、追うんですか?」

「ネロフ男爵次第かな。彼が重要な情報を持っていれば良いのだがな。」

 あれ?そう言えば、男爵に洗脳されたおよそ6万人の王都民はどうなるんだろう?

 ふと、そんな疑問が頭をよぎったが、ネロフ男爵が捕縛された今、後は元公爵に任せれば問題無いだろう。

 それから暫くは平穏な日々が続いた。治療院も通常営業に戻し、皆が日常に戻りつつあった。ネロフ男爵も特に悪足掻きをする様子も無く、元公爵と普通に会話しているそうだ。

 だが、救済の箱舟の情報は出て来ない。ネロフ男爵が嘘をついていると言う感じは無いのだが、肝心な情報を聞き出そうとしても、男爵がそれを知らなかったりする。救済の箱舟と言う組織は、どう言う風に運営されて居たのだろう。

 もう一つ気になる点がある。元公爵邸から攫われた者は1000人を超える。しかし、フォーン子爵邸に居たのはおよそ600名。残りの400人は何処へ消えたのだろうか?

 これについてもネロフ男爵は知らないと言う。嘘をついている訳では無い。1000人を拉致したのは認めている。だが、知らない内に600人に減って居たのだそうだ。もしかしたら、他の長老が何かをしたのかもしれない。

 と、そんな感じで10日経ったある日。ネロフ男爵が牢の中で死んでいた。元公爵の話では自殺か他殺か判らないそうだ。

 死因は毒、だが、牢に入る時男爵はそんな物は持っていなかったそうだ。しかし、外部からの侵入者と言うのも考え辛い。牢は常に見張りが数人いて、見張りは誰も見ていないし、何もされて居ないと言う。

 話を聞いたクラ―ネルが見張りにリカバリーを掛けたが、何も起こらなかった。洗脳はされて居ないと言う事だ。

 毒を作る魔法と言うのは聞いた事が無い。でも状態異常にする事が出来るのであれば状態を毒にする魔法があるのかもしれない。

 なんだろう?ここへ来て僕の知らない魔法が次々と出て来る。

 まあ、そうと決まった訳では無いのでネロフ男爵の死は自殺か他殺か今の所保留になる。

 しかし、何故今になってネロフ男爵は死んだんだ?重要な情報を持っているなら他殺にしろ自殺にしろ早ければ早い方が良い。

 何故、今、このタイミングなんだ?

 その答えはすぐに判った。

 洗脳をされていると思われる6万人が中央広場に集結していると情報が入った。中央広場と言うのは文字通り王都の中央にある広場で、中心にこの王国の初代国王の銅像がある。

 広場は、朝市が開かれたり。催し物に使われたりする。有事には地方からの兵を受け入れる場所としても使われるそうだ。

 僕は、情報を聞きすぐに中央広場に飛んだ。クラ―ネルと合流して話を聞く。

 どうやらただ集まっているだけで何かをする訳では無いそうだ。

 そうこうしている間にも目が虚ろで、まるでゾンビの様な市民達が、歩いて集まって来る。

 これはエリアリカバリーで洗脳を解除してエリアヒールで意識を取り戻させれば良いのかな?しかし、この人数だとかなりの時間が掛かるぞ。

 やはりトリガーはネロフ男爵の死なのか?しかし、目的が判らない。ただ集まって何がどうなる?

 これが王城なら話は別だ。大勢の人間が押しかけ混乱している間に国王を暗殺すると言うのは容易に予想できる。

「なぁ、クラ―ネル。集まるだけで意味がある事って何かあるか?」

「そうですね。魔法は掛けやすくなるんじゃないですか?例えば洗脳とか。」

「確かにそうだが、その洗脳を掛ける魔法使いが既に死んでいるぞ。しかも男爵の死がトリガーになって集まっている。順番が逆じゃ無いか?」

「では、洗脳を使える魔法使いがもう一人いるとか?」

 なるほど、その線は考えていなかったな。だが、こんな平らな場所に集めてどうする?僕なら飛べるから良いが、普通の人間では平面で多人数に効果のある魔法を撃つのは難しく無いか?

 そんな事を考えていたら突如地響きの様な轟音が聞こえた。そして、初代国王の像が大爆発を起こす。

 爆発の規模はかなり大きい、上空から見ていた僕らの所にまで爆風は届いている。おそらく半径数百メートルは吹き飛んだだろう。

 地上は地獄絵図だ。

 僕はまだ生きている者達に向かってエリアハイヒールを連発するが間に合わない。死者は4万人を超えて居るだろう。

 どうやら目的はこれらしいな。半分では無く全員の洗脳を解いて置くべきだったと後悔する。

 でも、これって誰の仕業だ?残った3長老?それとも洗脳されて行方不明の400人?

 更に言えば目的も良く解らない。王都転覆にしては規模が小さすぎる。もしかしたら、僕が半分の洗脳を解いた事を知らない人物の仕業?だとすると、ネロフ男爵と他の長老達は繋がりが薄いのか?でも、ネロフ男爵が死ぬとここに人が集まる事は知って居たんだよな?

 なんか、色々とおかしく無いか?
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