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さて、ケルビンの西治療院が開業して1週間程経つが、思ったより中央治療院への影響はない。開業して数日は若干患者数が減ったがすぐに元に戻った。
これは西治療院の患者に冒険者が多い事に起因する。冒険者に普段から接している者は平気だが、そうで無い者は冒険者を避ける傾向にある。
別に冒険者が荒くれ者の集団と言う訳では無いが、どうも彼らが発する威圧感が苦手な者が結構な数居る様だ。冒険者が悪い訳では無い。魔物と毎日対峙しているうちに自然と身についてしまうのだ。
また、救済の箱舟のテロも影響している。小規模なテロだが、小まめに起こるので、テロが起きる度に、その近くの治療院は対応に追われる。そうなると1日に診られる患者数が減る事になる。
どうしてもその治療院で診てもらいたいと言う患者以外は急患が入ると、他の治療院へ移動する事もある。中には空いている治療院を好んで利用する患者も居るので、結果、5つの治療院が患者を取り合う事態にはならずに済んでいる。
まあ、他の商会の治療院が出来れば、また勢力図は変わるかもしれないが。
そんなある日、僕の北治療院へ急患が運ばれて来た。しかも一般人が多数。普段、ここに運ばれて来る急患は貴族が多い。しかし、今日に限って、普段来ない様な身なりの患者が多数運ばれて来た。
運んで来た者達の話を総合すると、どうやら同時多発テロが発生したらしい。つまり、他の治療院も急患で一杯と言う事だ。他の治療院で受け入れられない患者がこちらに回って来たのだろう。
同時多発テロって、やはり救済の箱舟の仕業だよな?しかし、目的はなんだ?僕は運ばれて来る患者達にエリアハイヒールを掛けながら考える。
見た所重症の患者は少ない。恐らく、他の治療院が重症患者を診ているのだろう。ここへ回って来るのは多少でも動ける患者だ。ならばエリアハイヒールで十分対応できる。
一度に10人単位で患者を治せるので、軽症患者はどんどんこちらへ回せと患者を運んで来る者達に告げる。
同時多発テロがどの程度の規模なのかは判らないが、少しでも他の治療院の負担を減らせれば、それだけ助かる者が増えるだろう。
ん?ちょっと待てよ。この状態が狙いだとしたら、どうなる?治療院の機能を麻痺させるのが相手の狙いなら、テロは成功した事にならないか?
そして、治療院の麻痺の次の一手は要人の暗殺と相場は決まっている。この場合の要人と言えば、元公爵か国王陛下のいずれかだろう。
今すぐにでも転移で王城に向かいたいが、それは出来ない。患者をこちらに回す様に指示してしまった。
頼みの綱はクラ―ネルだが、この事態を冷静に判断出来ているだろうか?
しかし、弱体化させたはずの救済の箱舟が、この時期にここまで大掛かりな陰謀を企てられるとは思っても居なかった。僕も元公爵も判断が甘かったと言う事か?
救済の箱舟の長老がどんな手を使って来たのかは判らないが、常識的に考えて、王城に昼間から手を出すのは無謀だ。だとすれば、狙いは元公爵の可能性が高い。
おそらく、元公爵はこの混乱を治める為に街へ出ている事だろう。治療院の麻痺、あるいは僕の足止めに成功し、元公爵を外におびき出したのだ。完全にしてやられた。後は元公爵が踏ん張ってくれるのを祈るだけだ。
僕は次々と運ばれて来る患者を治しながら、待つ事しか出来ない。焦りを感じるが、どうする事も出来ない。早く元公爵の無事な姿を見たいが、患者は途切れる事無くやって来る。
ようやく最後の患者を診終わって、治療院を閉めようとした時、クラ―ネルが現れた。
「エイジさん。元公爵が刺客に襲われ怪我をしました。」
「容態は?」
「大丈夫です。命に別状はありません。僕は元公爵の指示で事態の鎮圧の手伝いをして居ました。近くに居たので、なんとか間に合いました。近くに居たのは正解でしたね。」
「そうか、良くやった。お前のお陰で助かったよ。」
「いえ、そんな大した事はしてませんよ。それより元公爵の様態を診てもらえませんか?エクストラヒールを掛けたのですが、なんか感触がおかしく感じました。」
ああ、元公爵は若返りの秘薬を使用しているからなぁ。見た目の生命力と実際の生命力が違うのかもしれないな。
「解った。今、治療院を閉めるから。連れてってくれ。」
元公爵は意外にも王城に居た。ん?どう言う事?
「ここが一番安全だと判断したので僕が連れて来ました。」
クラ―ネルが答えた。
元公爵は客間のベッドに寝かされていた。僕に気が付くと起き上がる。
「起きて大丈夫なんですか?」
「ああ、怪我はすっかり治っている。血を少し流したので安静にしろと坊主が言うので少し休ませて貰っている。」
実際には少し失血した位ならエクストラヒールで回復する。クラ―ネルが寝ていろと判断したと言う事はかなりの失血だったのだろう。
「少し診させて貰いますよ。これでも治療院の院長なので、怪我人を放っては置けません。」
僕は、時越えの魔法を-5年で掛ける。これで刺される前の状態に戻り更に5歳若返る。ついでにパーフェクトヒールもかけて置いた。
「ふむ、心なしか気分が楽になった気がするよ。」
いや、気のせいじゃ無いですよ。
「ところで、今回の同時多発テロは最初から元公爵の命を狙った物だった様ですね。治療院を麻痺させてから襲うとはかなり巧妙な手口です。今の救済の箱舟にそこまでの組織的な動きが可能なんですか?」
「正直私も驚いているよ。奴らの資金源は奪い潰した。手足ももぎ取ったのだが、何故か頭だけでも動いている。実は、今日のテロの実行犯をかなりの数捕縛したのだが、皆、洗脳されている様だった。」
「洗脳ですか?」
「ああ、金が無いから洗脳を使ったのかもしれんが、洗脳するには本人に会う必要がある。長老の一人にそう言う能力があったとして、長老自らが姿を現すと言うのはかなりのリスクだと思う。そこまでして、事を急いだ理由が判らん。」
確かにそうだ、洗脳するにしても一人か二人にして置いて、その者を幹部に育てた方が安全で確実だろう。なのにそれをしなかったのには理由があるはずだ。
資金も人材も居ないのに事を急いだ理由か、何が考えられる?僕や元公爵が邪魔なのは解って居るが、単純に復讐心と言うのは考えづらい。
それに、襲われたのが元公爵と言うのもなんか引っ掛かる。もしかしたら、元公爵が、何かを掴んだと勘違いしたのか?あるいは、相手を慌てさせる様な行動を取ったのかもしれない。
「最近、と言うかテロが始まる直前ですね。何か救済の箱舟に関する事で情報を掴んだり、行動を起こしたりしませんでしたか?」
「いや、特に思い当たる事は無いな。ここの所は麻薬の取り締まりを主にしていた位だ。救済の箱舟は暫く大人しくしていると思って居たのでな。」
んー、そうだよな。僕もそう思ってたし、救済の箱舟としてもここはじっとして置いた方が利があると思う。なのに何故動いた?
「その麻薬の取り締まりと言うのは具体的にはどんな事をしたんですか?この国って麻薬は違法ではありませんよね?」
「ああ、違法では無いので使用しても捕まえる事は出来ない。なので麻薬が出回らない様に私の私財で大量の麻薬を買い取って廃棄した。後は、麻薬の出所と販売ルートを特定して、どの位の量の麻薬が何処へ流れているのか監視していた位かな。」
「んー、特に狙われる様なポイントはありませんね。そもそも、裏ギルドが潰れた時点で麻薬の金は救済の箱舟には流れなくなった訳ですから、麻薬関係では無さそうですね。他に心当たりはありませんか?」
「他には救済の箱舟関連では動いてないぞ。」
「救済の箱舟関連ではと言う事は他の事では動いてたんですか?」
「ああ、ここの所若返りの秘薬の値段が高騰しているのでな、誰かが買い占めているのでは無いかと、秘薬の動きを監視していた。」
「それだ!」
「ん?」
「若返りの秘薬を購入した事がバレては不味い者と言えば誰でしょう?救済の箱舟の長老達って、かなりの高齢なんでしょ?」
元公爵の顔が急に引き締まった。何か思い当たる事があったのだろう。
これは西治療院の患者に冒険者が多い事に起因する。冒険者に普段から接している者は平気だが、そうで無い者は冒険者を避ける傾向にある。
別に冒険者が荒くれ者の集団と言う訳では無いが、どうも彼らが発する威圧感が苦手な者が結構な数居る様だ。冒険者が悪い訳では無い。魔物と毎日対峙しているうちに自然と身についてしまうのだ。
また、救済の箱舟のテロも影響している。小規模なテロだが、小まめに起こるので、テロが起きる度に、その近くの治療院は対応に追われる。そうなると1日に診られる患者数が減る事になる。
どうしてもその治療院で診てもらいたいと言う患者以外は急患が入ると、他の治療院へ移動する事もある。中には空いている治療院を好んで利用する患者も居るので、結果、5つの治療院が患者を取り合う事態にはならずに済んでいる。
まあ、他の商会の治療院が出来れば、また勢力図は変わるかもしれないが。
そんなある日、僕の北治療院へ急患が運ばれて来た。しかも一般人が多数。普段、ここに運ばれて来る急患は貴族が多い。しかし、今日に限って、普段来ない様な身なりの患者が多数運ばれて来た。
運んで来た者達の話を総合すると、どうやら同時多発テロが発生したらしい。つまり、他の治療院も急患で一杯と言う事だ。他の治療院で受け入れられない患者がこちらに回って来たのだろう。
同時多発テロって、やはり救済の箱舟の仕業だよな?しかし、目的はなんだ?僕は運ばれて来る患者達にエリアハイヒールを掛けながら考える。
見た所重症の患者は少ない。恐らく、他の治療院が重症患者を診ているのだろう。ここへ回って来るのは多少でも動ける患者だ。ならばエリアハイヒールで十分対応できる。
一度に10人単位で患者を治せるので、軽症患者はどんどんこちらへ回せと患者を運んで来る者達に告げる。
同時多発テロがどの程度の規模なのかは判らないが、少しでも他の治療院の負担を減らせれば、それだけ助かる者が増えるだろう。
ん?ちょっと待てよ。この状態が狙いだとしたら、どうなる?治療院の機能を麻痺させるのが相手の狙いなら、テロは成功した事にならないか?
そして、治療院の麻痺の次の一手は要人の暗殺と相場は決まっている。この場合の要人と言えば、元公爵か国王陛下のいずれかだろう。
今すぐにでも転移で王城に向かいたいが、それは出来ない。患者をこちらに回す様に指示してしまった。
頼みの綱はクラ―ネルだが、この事態を冷静に判断出来ているだろうか?
しかし、弱体化させたはずの救済の箱舟が、この時期にここまで大掛かりな陰謀を企てられるとは思っても居なかった。僕も元公爵も判断が甘かったと言う事か?
救済の箱舟の長老がどんな手を使って来たのかは判らないが、常識的に考えて、王城に昼間から手を出すのは無謀だ。だとすれば、狙いは元公爵の可能性が高い。
おそらく、元公爵はこの混乱を治める為に街へ出ている事だろう。治療院の麻痺、あるいは僕の足止めに成功し、元公爵を外におびき出したのだ。完全にしてやられた。後は元公爵が踏ん張ってくれるのを祈るだけだ。
僕は次々と運ばれて来る患者を治しながら、待つ事しか出来ない。焦りを感じるが、どうする事も出来ない。早く元公爵の無事な姿を見たいが、患者は途切れる事無くやって来る。
ようやく最後の患者を診終わって、治療院を閉めようとした時、クラ―ネルが現れた。
「エイジさん。元公爵が刺客に襲われ怪我をしました。」
「容態は?」
「大丈夫です。命に別状はありません。僕は元公爵の指示で事態の鎮圧の手伝いをして居ました。近くに居たので、なんとか間に合いました。近くに居たのは正解でしたね。」
「そうか、良くやった。お前のお陰で助かったよ。」
「いえ、そんな大した事はしてませんよ。それより元公爵の様態を診てもらえませんか?エクストラヒールを掛けたのですが、なんか感触がおかしく感じました。」
ああ、元公爵は若返りの秘薬を使用しているからなぁ。見た目の生命力と実際の生命力が違うのかもしれないな。
「解った。今、治療院を閉めるから。連れてってくれ。」
元公爵は意外にも王城に居た。ん?どう言う事?
「ここが一番安全だと判断したので僕が連れて来ました。」
クラ―ネルが答えた。
元公爵は客間のベッドに寝かされていた。僕に気が付くと起き上がる。
「起きて大丈夫なんですか?」
「ああ、怪我はすっかり治っている。血を少し流したので安静にしろと坊主が言うので少し休ませて貰っている。」
実際には少し失血した位ならエクストラヒールで回復する。クラ―ネルが寝ていろと判断したと言う事はかなりの失血だったのだろう。
「少し診させて貰いますよ。これでも治療院の院長なので、怪我人を放っては置けません。」
僕は、時越えの魔法を-5年で掛ける。これで刺される前の状態に戻り更に5歳若返る。ついでにパーフェクトヒールもかけて置いた。
「ふむ、心なしか気分が楽になった気がするよ。」
いや、気のせいじゃ無いですよ。
「ところで、今回の同時多発テロは最初から元公爵の命を狙った物だった様ですね。治療院を麻痺させてから襲うとはかなり巧妙な手口です。今の救済の箱舟にそこまでの組織的な動きが可能なんですか?」
「正直私も驚いているよ。奴らの資金源は奪い潰した。手足ももぎ取ったのだが、何故か頭だけでも動いている。実は、今日のテロの実行犯をかなりの数捕縛したのだが、皆、洗脳されている様だった。」
「洗脳ですか?」
「ああ、金が無いから洗脳を使ったのかもしれんが、洗脳するには本人に会う必要がある。長老の一人にそう言う能力があったとして、長老自らが姿を現すと言うのはかなりのリスクだと思う。そこまでして、事を急いだ理由が判らん。」
確かにそうだ、洗脳するにしても一人か二人にして置いて、その者を幹部に育てた方が安全で確実だろう。なのにそれをしなかったのには理由があるはずだ。
資金も人材も居ないのに事を急いだ理由か、何が考えられる?僕や元公爵が邪魔なのは解って居るが、単純に復讐心と言うのは考えづらい。
それに、襲われたのが元公爵と言うのもなんか引っ掛かる。もしかしたら、元公爵が、何かを掴んだと勘違いしたのか?あるいは、相手を慌てさせる様な行動を取ったのかもしれない。
「最近、と言うかテロが始まる直前ですね。何か救済の箱舟に関する事で情報を掴んだり、行動を起こしたりしませんでしたか?」
「いや、特に思い当たる事は無いな。ここの所は麻薬の取り締まりを主にしていた位だ。救済の箱舟は暫く大人しくしていると思って居たのでな。」
んー、そうだよな。僕もそう思ってたし、救済の箱舟としてもここはじっとして置いた方が利があると思う。なのに何故動いた?
「その麻薬の取り締まりと言うのは具体的にはどんな事をしたんですか?この国って麻薬は違法ではありませんよね?」
「ああ、違法では無いので使用しても捕まえる事は出来ない。なので麻薬が出回らない様に私の私財で大量の麻薬を買い取って廃棄した。後は、麻薬の出所と販売ルートを特定して、どの位の量の麻薬が何処へ流れているのか監視していた位かな。」
「んー、特に狙われる様なポイントはありませんね。そもそも、裏ギルドが潰れた時点で麻薬の金は救済の箱舟には流れなくなった訳ですから、麻薬関係では無さそうですね。他に心当たりはありませんか?」
「他には救済の箱舟関連では動いてないぞ。」
「救済の箱舟関連ではと言う事は他の事では動いてたんですか?」
「ああ、ここの所若返りの秘薬の値段が高騰しているのでな、誰かが買い占めているのでは無いかと、秘薬の動きを監視していた。」
「それだ!」
「ん?」
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