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「そうだな、ヒールを初級ポーションに例えるならば、エクストラヒールは万能薬に相当する魔法と考えると解り易いかもしれない。ハイヒールの上位魔法に当たるのだが、リカバリーの要素も含む。」

「それってかなり凄い魔法なんじゃありませんか?何故今まで教えてくれなかったんですか?」

「魔法はイメージだ。イメージ出来なければ発動しない。この中で万能薬の効果をイメージ出来る奴は居るか?」

 6人共黙ったままだ。

「そう言う事だ。かなり有用な魔法だが習得が難しい。それに、ハイヒールとリカバリーがあれば必要が無いとも思っていた。予想以上にお前らが優秀なので、特別教える事に決めたんだ。だがな、この魔法は覚えても使える事を人に話すなよ。ある意味伝説級の魔法だ、王都でも使える者は少ない。知られたら利用しようと考える輩が必ず出て来る。」

「なんか怖いですね。そんなに凄い魔法なんですか?」

「万能薬が幾らするか知ってるだろう?それが無制限に使えるとなったらどうなるか、想像すれば解るだろう?」

「なるほど、軍隊等は放っておかないでしょうね。」

 流石は商人、ケルビンが真っ先に答える。

「まあ、他にも色々考えられるが、要はバレなきゃ良いって事だ。覚える気はあるか?」

「「「あります!」」」

 と言う事で、皆にエクストラヒールを教える事になった、流石に一朝一夕で覚えられる程簡単な魔法では無い。ただ、ハイヒールとリカバリーが使える上に治療院で実際に治療をして来た実績がある6人なら他の何も知らない者に教えるよりも遥かに短期間で習得出来るはずだ。

 およそ2週間、真っ先に習得したのはマリオンだった。僕は、皆が魔法を練習している間に、東治療院の準備を進めて置いた。

 やはりと言うか、新人組は苦戦している。まだ、リカバリーを覚えて間もないし治療の実績も少ないので仕方ないと言えば仕方ない。まあ、マリオンが教える側に回ってくれたので僕の手間が少し省ける。

 次に覚えたのはケルビンだった。ケルビンも新人教育に回ってくれる。

 そして、次にマスターしたのは意外にもユナだった。マリオンは教える才能もある様だ。

 まだ、全員がエクストラヒールをマスターした訳では無いが、東治療院の稼業準備が整った。

 出来れば、エクストラヒールを実験したいのだが、リカバリーと違って欠損を治す様な解り易い目に見えた効果を試す方法が無い。

 こればかりは実際の治療の中で試して行くしか無いだろう。

 翌日東治療院を開業させた。暫くはマリオンとユナを常駐させる。受付も一人雇った。北は僕が一人で受け持つ。中央と南は2人ずつ配置したが、場合に寄っては3、1になるかもしれない。

 遅れる事1週間、全員がエクストラヒールをマスターした。ここからの勉強会はエクストラヒールの実際の使用方法や、リカバリーの応用、エクストラヒールとリカバリーの連携などを教えて行く。

 4つの治療院を回しながらの勉強会だが、皆頑張って付いて来る。脱落者が居ないのが不思議な位のハードスケジュールなのだが、マリオン等は家に帰ってから自分で新しい治療法の研究までしているそうだ。

 北と南では無いが、中央と東では極稀に救えない患者が出る事がある。自分たちで診きれない患者は僕に回す様に言ってあるのだが、時間的な問題で救えない患者はどうしようもない。

 誰にも責められるような事では無いのだが、治療師にとっては無力感に苛まれるのは仕方ない事だろう。

 流石に蘇生魔法は教えられない。あれは人間が使って良い魔法では無いと僕は考えている。

 東治療院が安定して回る様になると、中央治療院の混雑もだいぶ緩和された。このタイミングで、また、3つの治療院を2人ずつでローテーションで回す形に戻した。時には新人同士が組む事もあるが、既に新人とは言えない十分な働きをしてくれる。

 まあ、能力的にはもう新人、先輩と分ける程大きな差は無い。マリオン一人が頭一つ抜けているが、他の5人はほぼ同等だろう。

 医学知識も既に帝国の医学者のレベルを超えて居るだろう。正直僕だってそこまで医学に詳しい訳では無いので教えられる事にも限界がある。

 ちなみに治療院が出来たからと言って、王都の平均寿命が長くなった訳では無い。これは、子供の出産時の死亡率の高さをどうにかしないと解決しない。

 王都では出産に関しては産婆システムが定着しており、治療師が立ち入る事は出来ない。また、妊婦が治療院に来る事も無いので、流産も多い。

 本来ならば、鑑定が使える魔法使いの方が妊婦の診察には向いている。胎児の状態で診察が可能なので先天的な異常にも対応しやすいし、妊婦の異常も発見しやすい。また出産についても魔法が使えた方がアベレージが高い。

 しかし、旧態依然とした産婆システムに寄って魔法使いの治療師が入り込む余地がない。僕はこの状態を改善したいと考えているのだが、王都では医学の概念があまり普及していない。その為出産も医学の分野だと言う認識が国民に根付いていないので、まずは意識改革から始めないと難しい。

 病気の妊婦でも来てくれると改革のきっかけになるかもしれない。その時はマリオンに出産に関する知識を叩き込んで第一人者になって貰うのも良いかもしれない。

 一方で老人については若返りの秘薬があるので、正確な死亡年齢が判らない者も多い。また戸籍も無いので、詳しいデータが取れないと言う問題もある。

 冒険者も平均寿命を引き下げている原因の一つになっている。自ら危険を冒して、収入を得る冒険者は一般市民よりも平均年齢が若く、死亡率も高い。この為、若年者の死亡率を上げて平均寿命を下げているのだ。

 王国の平均寿命は50歳前後と言われている。これは、若者が大量に死んでいるのにしては数値的には高い。つまり、若年層の死亡率を減らせばぐっと平均寿命が上がると言う事だ。

 特に0歳児から5歳児までの死亡率を減らす事が出来れば良いと僕は考えている。そうなれば15歳成人制度も変わるかもしれない。

 しかし、現状子供が治療院に来る事は少ない。保険が無いこの世界では子供も大人も治療費は変わらない。どうしても、子供は後回しにされてしまう。

 僕の治療院がもっと影響力を持つようになれば、その辺の事情も徐々に変えて行ける様になるかもしれない。

 子供の診察料は半額とか出来れば良いのだが、何歳までを子供とするのかの線引きが難しい。成人が15歳だから14歳までを半額にすれば良いのかな?でも未就学児と言う線引きだと11歳になる。学院へ行かない子も多いので難しい所だ。

 それに比べると貴族の子は恵まれている。僕が担当している北治療院の患者の半分は貴族だ。流石に欠損の治療は大人が多いが、病気の治療は子供も結構な数が来る。その内の30%位は生まれつきの病気だ。

 これまで、生まれつきの病気は不治の病と言う事で、大人になるまでは生きられないと、諦められて来た。中には居ない子として扱われる子供も多かったらしい。だが、僕が北治療院を始めてから、それが治る病気だと徐々に浸透して来たらしい。

 まあ、生まれつきの病気はリカバリーが効かないので弟子たちでは治せない。一部はエクストラヒールで対応できる場合もあるが、基本僕がパーフェクトヒールを使う事になる。パーフェクトヒールはエリクサーに匹敵する魔法だ。治すと言うより生まれ変わると言った方が正しい表現の様な気がする。

 今の時代、エリクサーの製造技術は失われている。僕は作り方を知っているが、教えたとしても、王国の人間には作れない。材料である一つ、世界樹の葉がこの王国には無いのだ。

 僕がエリクサーを作成して販売すると言う事も出来なくは無いが、失われた技術を蘇らせるのは果たして、この世界にとって良い事なのか悪い事なのか?

 まあ、僕が使ってる魔法も大概反則なんだけどね。
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