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少年を治療した翌日から、少しずつだが患者が来るようになった。やはり信用の問題だった様だ。
まあ、大した病人も怪我人も居ない。腰が痛いとか肩が痛いとかその程度の患者だ。大抵はヒールで間に合う。正直、金を取れる客では無い。患者側も解って居る様で食料品を治療代に置いて行く者が多い。
僕としては慈善事業をやるつもりは無い、やるからには稼ぐつもりだ。この場所を選んだのは、果たして貧民街で有名になったら、向こうから貴族はやって来るのか?それを知りたかったのだ。
欠損でも治して有名になれば、大量の患者が集まるだろうが、そんな事はしない。クラ―ネルならやりそうだが、僕はあくまでも腕の良い治療師と言うレベルで止めている。
王都の医学は帝都に比べて遅れている。それをこの場所から変えて行こうと言うのが本来の趣旨だ。
なので、ただ治療をするだけではなく、知識も広めて行こうと考えている。
問題は、貧民街なので治療院にさえ来るお金が無い者が多いと言う事だろうか。
まあ、もう少し馴染んだら、噂を聞いてこちらから病人の元へ訪れようと考えている。
そして可能なら弟子を一人か二人育てたい。医学知識を持った回復魔法使いだ。これからの王都には必ず必要になる存在だと思っている。
クラ―ネルにもその素養はあるが、あいつはちょっと戦闘に特化しすぎている、できれば、純粋な回復魔法使いを育てたい。
とりあえず、この治療院を有名にしないとね。
実を言うと帝都の医学書は1年以上前から王国でも販売されている。しかし、王国には医師と言う仕事が無いので、読むのは研究者だけと言うのが実情だ。折角の知識も現場で使われなければ意味が無い。
僕は以前から、この状況を憂いていた。医学と回復魔法の相性は良い。回復魔法師が医学を勉強すれば、世界の文明の発展にも繋がるだろう。
なので、僕は1滴の水を落として波紋を広げたいと考えて、この治療院を始めたのだ。
1週間もすると1日に平均15人位の患者が来るようになった。まあ、金にならない患者が多いが、それはそれで構わない。
僕は彼らに治療をしながら話を聞く。治療院へ来たいけど、動けなくて来れない患者は居ないかと。
すると、一人の男性の名前が上がった。カイルと言う元冒険者らしいが、ここ1年程寝たきり状態らしい。何処が悪いのか聞くと、どうやら胸の病だとか、発作的に咳が出るらしい。
喘息か結核辺りかな?僕はカイルと言う男性の家を聞いてメモして置く。
5時間の診療時間を終え、治療院を閉める。そして、メモして置いた、カイルと言う男性の家に向かった。
時間的にはまだ昼の3時だ、長屋の様な家の一つにその男性は居た。
元冒険者と言う割に痩せこけている。これは結核かな?
「治療院から来ました。」
「払う金は無いぞ。」
「構いませんよ。気が向いたら払ってくれれば構いません。」
会話をしている最中にも咳をしている。結核なら伝染する可能性がある。早く治した方が良い。
鑑定を掛けると、結核でも喘息でも無かった。何やら毒を吸い込んだらしく肺が焼けているのが原因らしい。火事で肺を火傷したのと同じ現象だ。
僕はリカバリーで肺を治し。ハイヒールを掛けて体力を回復させる。
「これで楽になると思いますが、暫くはゆっくり静養して下さいね。」
「胸が、あんなに苦しかった胸が楽になって居る。あんた神様かい?」
いや、間違ってはいないんだが肯定すると問題が生じそうだ。
「一介の治療師ですよ。」
そう応えて、男の家を後にした。
死ぬのを待つだけに見えたカイルが回復したのは、かなりの衝撃だったらしく、治療院の評判は一気に上がった。
2週間もすると診療時間が5時間では足りず、1時間延長する様になった。
貧民街に腕の良い治療師が居ると言う噂が立つようになったが、今の段階では貧民街の中だけだ、外にまで広まるには、もう一つくらい何か欲しい所だ。
この世界、基本的に交通機関は歩きか馬車だ。稀に馬を使う者も居るが、馬は賢いので人を跳ねたりはしない。現代日本の様に警察機構は整っていない。衛兵が警察官に相当するが、交通整理をする訳では無い。
基本、道路は無法地帯だ。馬車と人間の接触事故は意外に多い。
それでも、人が死ぬほどの大きな事故は数か月に1回程度と、頻度は低い。
以前、クラ―ネルが商会の娘を救った事があるが、ああ言った事故は滅多に起きない。
その代わりと言っては変だが、馬車の車輪に踏まれて足の指を欠損すると言う事故は割とありがちだ。
また、機械類の仕組みを知らずに使用する者が多い為か、指の欠損を持つ者もかなりの数居る。
現代日本では医学の進歩や、情報の拡散と言った事から、手足の指の欠損と言うのは案外少ない。しかし、この世界では、5人に1人は何らかの欠損を持っていると言う程、欠損の率が高い。
これに対して、欠損を治す方法は少ない。エリクサーの作成技法は失われている。また、エクストラヒールを使える回復魔法使いは存在しないと言われている。
唯一の希望は万能薬だが、これは高価な上に、欠損が生じてからあまり時間が経つと効果が無いと言われている。
ある程度裕福な貴族や商人で無いと購入するのは難しいだろう。最低でも白金貨2枚はする。そして、万能薬が効かない場合は上級万能薬が必要になる。こちらはエリクサーにも匹敵すると言われている現状手に入る最上位の薬で、白金貨5枚以上はする。
どちらにせよ誰もが手軽に使える薬では無い。よって欠損の治療例は非常に少ない。
これに対して、僕やクラ―ネルが使うリカバリーは欠損と非常に相性が良く、かなり時間が経過した欠損にも効果がある。
ヒール系の回復魔法と違って、状態回復魔法の上位魔法なので、習得も比較的簡単だ。できれば、これを広めて行きたい。
ある程度欠損を治せる回復魔法使いが増えれば、僕らが使っても目立たなくなる。
また、状態回復魔法なので、医学の知識があれば、病気に対しても効果が高い。現状、教会等では、病気の治療にハイヒールを使用している。これはヒールの上級魔法で基本は体力の回復だ。体力を回復させて免疫力を高め、病気を治すと言ったメカニズムになっている。
当然、このメカニズムでは治せない病気も多い。対してリカバリーは、病気になる前の状態に戻す魔法なので病気の根本を失くすことが出来る。
そう言う意味でも、リカバリーの普及は王国の医学界に一石を投じるだろう。
さて、僕の名声がもう少し上がってくれば、何処かの商会なり貴族が、お金を出して来るだろうと予想している。
そうなれば、後継者を育てると言う名目で、弟子が取れる。さて、僕のプラン通りに事は動くのだろうか?
今日も朝10時に治療院を開けて、16時まで40人程の患者を診た。そう言えば、カイルがここの所毎日やって来る。別に治療を受けに来ている訳では無い。何やら体調が良くなって日雇いの仕事を始めたとかで、少しずつだが、治療費を払って行く。僕は、まとまってから払ってくれても良いよと言うのだが、あると使ってしまうからと言って律義に置いて行く。
まあ、実際こう言う患者は多い。僕は基本的に払えるだけ払ってくれれば良いと言うスタンスを取っているので、患者達は、体調が良くなってから少しずつ治療費を払ってくれる。
中には払わない人も居るし、食料等の現物を置いて行く者も居るが、何とか治療院として回り始めた感じだ。
ところで、こう言う場所でこう言う仕事をしていると、噂話が大量に入って来る。中には所詮噂話と言うレベルの物もあるが、中には有用な情報も紛れている。
他では一切出なかった救済の箱舟の情報とかね。どうやら、この貧民街にも麻薬の犠牲者は居る様だ。流石に麻薬中毒の患者はまだ診ていないが、来たなら来たで治療しなければならないだろう。
元公爵は頑張っている様で、徐々に勢力を強め、救済の箱舟を追い詰めているそうだ。
僕も頑張らないとな。
まあ、大した病人も怪我人も居ない。腰が痛いとか肩が痛いとかその程度の患者だ。大抵はヒールで間に合う。正直、金を取れる客では無い。患者側も解って居る様で食料品を治療代に置いて行く者が多い。
僕としては慈善事業をやるつもりは無い、やるからには稼ぐつもりだ。この場所を選んだのは、果たして貧民街で有名になったら、向こうから貴族はやって来るのか?それを知りたかったのだ。
欠損でも治して有名になれば、大量の患者が集まるだろうが、そんな事はしない。クラ―ネルならやりそうだが、僕はあくまでも腕の良い治療師と言うレベルで止めている。
王都の医学は帝都に比べて遅れている。それをこの場所から変えて行こうと言うのが本来の趣旨だ。
なので、ただ治療をするだけではなく、知識も広めて行こうと考えている。
問題は、貧民街なので治療院にさえ来るお金が無い者が多いと言う事だろうか。
まあ、もう少し馴染んだら、噂を聞いてこちらから病人の元へ訪れようと考えている。
そして可能なら弟子を一人か二人育てたい。医学知識を持った回復魔法使いだ。これからの王都には必ず必要になる存在だと思っている。
クラ―ネルにもその素養はあるが、あいつはちょっと戦闘に特化しすぎている、できれば、純粋な回復魔法使いを育てたい。
とりあえず、この治療院を有名にしないとね。
実を言うと帝都の医学書は1年以上前から王国でも販売されている。しかし、王国には医師と言う仕事が無いので、読むのは研究者だけと言うのが実情だ。折角の知識も現場で使われなければ意味が無い。
僕は以前から、この状況を憂いていた。医学と回復魔法の相性は良い。回復魔法師が医学を勉強すれば、世界の文明の発展にも繋がるだろう。
なので、僕は1滴の水を落として波紋を広げたいと考えて、この治療院を始めたのだ。
1週間もすると1日に平均15人位の患者が来るようになった。まあ、金にならない患者が多いが、それはそれで構わない。
僕は彼らに治療をしながら話を聞く。治療院へ来たいけど、動けなくて来れない患者は居ないかと。
すると、一人の男性の名前が上がった。カイルと言う元冒険者らしいが、ここ1年程寝たきり状態らしい。何処が悪いのか聞くと、どうやら胸の病だとか、発作的に咳が出るらしい。
喘息か結核辺りかな?僕はカイルと言う男性の家を聞いてメモして置く。
5時間の診療時間を終え、治療院を閉める。そして、メモして置いた、カイルと言う男性の家に向かった。
時間的にはまだ昼の3時だ、長屋の様な家の一つにその男性は居た。
元冒険者と言う割に痩せこけている。これは結核かな?
「治療院から来ました。」
「払う金は無いぞ。」
「構いませんよ。気が向いたら払ってくれれば構いません。」
会話をしている最中にも咳をしている。結核なら伝染する可能性がある。早く治した方が良い。
鑑定を掛けると、結核でも喘息でも無かった。何やら毒を吸い込んだらしく肺が焼けているのが原因らしい。火事で肺を火傷したのと同じ現象だ。
僕はリカバリーで肺を治し。ハイヒールを掛けて体力を回復させる。
「これで楽になると思いますが、暫くはゆっくり静養して下さいね。」
「胸が、あんなに苦しかった胸が楽になって居る。あんた神様かい?」
いや、間違ってはいないんだが肯定すると問題が生じそうだ。
「一介の治療師ですよ。」
そう応えて、男の家を後にした。
死ぬのを待つだけに見えたカイルが回復したのは、かなりの衝撃だったらしく、治療院の評判は一気に上がった。
2週間もすると診療時間が5時間では足りず、1時間延長する様になった。
貧民街に腕の良い治療師が居ると言う噂が立つようになったが、今の段階では貧民街の中だけだ、外にまで広まるには、もう一つくらい何か欲しい所だ。
この世界、基本的に交通機関は歩きか馬車だ。稀に馬を使う者も居るが、馬は賢いので人を跳ねたりはしない。現代日本の様に警察機構は整っていない。衛兵が警察官に相当するが、交通整理をする訳では無い。
基本、道路は無法地帯だ。馬車と人間の接触事故は意外に多い。
それでも、人が死ぬほどの大きな事故は数か月に1回程度と、頻度は低い。
以前、クラ―ネルが商会の娘を救った事があるが、ああ言った事故は滅多に起きない。
その代わりと言っては変だが、馬車の車輪に踏まれて足の指を欠損すると言う事故は割とありがちだ。
また、機械類の仕組みを知らずに使用する者が多い為か、指の欠損を持つ者もかなりの数居る。
現代日本では医学の進歩や、情報の拡散と言った事から、手足の指の欠損と言うのは案外少ない。しかし、この世界では、5人に1人は何らかの欠損を持っていると言う程、欠損の率が高い。
これに対して、欠損を治す方法は少ない。エリクサーの作成技法は失われている。また、エクストラヒールを使える回復魔法使いは存在しないと言われている。
唯一の希望は万能薬だが、これは高価な上に、欠損が生じてからあまり時間が経つと効果が無いと言われている。
ある程度裕福な貴族や商人で無いと購入するのは難しいだろう。最低でも白金貨2枚はする。そして、万能薬が効かない場合は上級万能薬が必要になる。こちらはエリクサーにも匹敵すると言われている現状手に入る最上位の薬で、白金貨5枚以上はする。
どちらにせよ誰もが手軽に使える薬では無い。よって欠損の治療例は非常に少ない。
これに対して、僕やクラ―ネルが使うリカバリーは欠損と非常に相性が良く、かなり時間が経過した欠損にも効果がある。
ヒール系の回復魔法と違って、状態回復魔法の上位魔法なので、習得も比較的簡単だ。できれば、これを広めて行きたい。
ある程度欠損を治せる回復魔法使いが増えれば、僕らが使っても目立たなくなる。
また、状態回復魔法なので、医学の知識があれば、病気に対しても効果が高い。現状、教会等では、病気の治療にハイヒールを使用している。これはヒールの上級魔法で基本は体力の回復だ。体力を回復させて免疫力を高め、病気を治すと言ったメカニズムになっている。
当然、このメカニズムでは治せない病気も多い。対してリカバリーは、病気になる前の状態に戻す魔法なので病気の根本を失くすことが出来る。
そう言う意味でも、リカバリーの普及は王国の医学界に一石を投じるだろう。
さて、僕の名声がもう少し上がってくれば、何処かの商会なり貴族が、お金を出して来るだろうと予想している。
そうなれば、後継者を育てると言う名目で、弟子が取れる。さて、僕のプラン通りに事は動くのだろうか?
今日も朝10時に治療院を開けて、16時まで40人程の患者を診た。そう言えば、カイルがここの所毎日やって来る。別に治療を受けに来ている訳では無い。何やら体調が良くなって日雇いの仕事を始めたとかで、少しずつだが、治療費を払って行く。僕は、まとまってから払ってくれても良いよと言うのだが、あると使ってしまうからと言って律義に置いて行く。
まあ、実際こう言う患者は多い。僕は基本的に払えるだけ払ってくれれば良いと言うスタンスを取っているので、患者達は、体調が良くなってから少しずつ治療費を払ってくれる。
中には払わない人も居るし、食料等の現物を置いて行く者も居るが、何とか治療院として回り始めた感じだ。
ところで、こう言う場所でこう言う仕事をしていると、噂話が大量に入って来る。中には所詮噂話と言うレベルの物もあるが、中には有用な情報も紛れている。
他では一切出なかった救済の箱舟の情報とかね。どうやら、この貧民街にも麻薬の犠牲者は居る様だ。流石に麻薬中毒の患者はまだ診ていないが、来たなら来たで治療しなければならないだろう。
元公爵は頑張っている様で、徐々に勢力を強め、救済の箱舟を追い詰めているそうだ。
僕も頑張らないとな。
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