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 フローネルの子供が生まれて、約1か月。クラ―ネルが正式に結婚する事になった。式は教会で挙げるが、その後の披露宴が問題だ。

 レンツェル子爵家が儲けているのは下級貴族の間では知られている。新築になった家に興味を持っている者も多いらしい。僕はレンツェル子爵と協議して、招待客を慎重に選んだ。将来、レンツェル子爵家にとってプラスになる家をメインに選んだ。

 レンツェル子爵家の規模から言えば、多くても60家位しか呼べないので、色々と調整に時間が掛かった。料理人は我が家から呼んだ。そんな苦労も知らずに、新郎新婦は終始笑顔だった。僕は家に帰ってドッと疲れた。

 これでクラ―ネルも一人前だ、あとは子供が出来れば、完璧だな。

 ところで、クラ―ネルは毎週のように帝国に行っている。僕やフローネルの事が噂になって居ないか聞いてみたが、どうやらかん口令が敷かれて居る様で、噂にはなって居ないらしい。

 僕とフローネルが子供が生まれる前に居なくなったのは知っているはずだ、産婆たちも子供の性別は知らない。果たして、皇帝はこの失踪をどう捉えているのだろうか?

 さて、この1か月まともに仕事をしていない。気分転換に狩りに行ったり、領地経営の事務処理位はしたが、自主的に稼ぐと言う事はしていない。だが、僕のストレージには救済の箱舟から奪った大量の白金貨が入っている。

 が、それも使わずに、家は普通に回っている。あれ?僕って必要無いのかな?

 フローネルは順調に回復し、激しい運動をしなければ問題無い程度までになっている。セリーとアリアナに頼んで買い物にでも連れて行って貰おうと考えている。このままこっちで暮らすのであれば、日用品とか必要になる物があるだろう。また、王都の生活にも慣れて貰う必要がある。

 あ、そう言えば我が家に6人の家庭教師がやってきた。セリーが何処かから連れて来たのだが、皆若い。どうやら、貴族学院の卒業生らしい。貴族学院は16歳で卒業だ。通常は15歳から18歳位の間に婚約をするので、卒業時に結婚が決まって居ない卒業生は、貴族の次女以降になる。

 なるほど、貴族の次女と言うのは家庭教師をしながら縁談を待つ物なのだなと変に納得してしまった。住み込みならば家賃も掛からないしそれなりのお金が稼げる。貴族学院を出るまでは親が面倒を見るが、卒業後は自分で稼いで生活しろと言う事なのだろう。

 流石に若い女性が6人も増えると賑やかになる。メイドたちも年齢が近いのでJKが増えた感じだ。

 どう言う基準でセリーが連れて来たのかは判らないが、一番年上のリアーナでさえまだ3歳になって居ない。一番下のザクラスは生まれて1か月だぞ。家庭教師が必要なのだろうか?

 まあ、家庭教師側から見れば、侯爵家の家庭教師をしていたと言うのは後々ステータスになるらしいが。

 おそらく、将来自分が子供を産んだ時の為の練習なのだろうと勝手に納得して置く。

 さて、使用人も増えた事だし、真面目に仕事をしないとな。しかし、大森林の仕事をクラ―ネルに譲ったから、実質出来る仕事が冒険者しか無いぞ。

 どうなんだ?定期的に狩りには行ってるからギルドには魔物を卸しているしな。これ以上持って行っても買い取りに限度と言う物もあるはずだ。

 困ったぞ。18歳にしてニートは不味いだろう?何か僕に出来る仕事を探してみるか?

 そう言えば帝国にミリアと言う貧民相手の治療院をしている子が居たな。元気だろうか?じゃない、あれを真似たらどうだろう?正直お金には困って居ない。僕としては仕事が出来れば良いのだ。

 早速貧民街へ向かう。貧民街は王都の南、農地との境にある。帝都の貧民街はスラムの様な感じだったが、王都の貧民街は、それよりは若干マシと言った感じだ。古いが、一応は家の体を成している物件が多い。

 独特の匂いが充満している、恐らく衛生の概念が無いのだろう。僕は貧民街全体をカバーする規模の浄化魔法を掛けた。

 とりあえず、匂いが消えたので、何とかここで暮らせそうだ。

 僕は、適当な店を見つけて中に入り。空いている家は無いか聞いてみる。

「この町の家に所有権なんて物は無い。人が住んでいなければ空き家だ、空き家は誰でも好きに使って構わない。」

 どうやら商業ギルドもこの町ではお金が取れないと解って居るらしい。

 僕は一通り、町をぶらついて町の様子を確認しながら良さそうな物件を探す。なんと言うか、思ったより広い上に人口密度が高いな。

 街のほぼ中央に治療院があった。あら?先を越されたか?まあ、治療院があるのならそこで雇ってもらうのもアリかな?そう思い。中に入った。

 人が居ない。ん?治療院に客が居ないって事は、怪我人や病人が居ないって事か?

「その治療院は5年も前に潰れているよ。」

 振り向くとおばさんが居た。明かに僕に言ったんだよな?

「そうなんですか?では、現在は病人や怪我人はどうしているんですか?」

「神にでも祈るしかないね。」

 なるほど、そう言う事なら僕がやるしかないよね?

 埃臭い治療院の中を確認する。都度都度、クリーンの魔法を掛けて行く。石造りの家は思ったより、痛んではいない。だが、ドア等は直さないと駄目だろう。

 とりあえず、魔法で粗方の修理はしてしまう。ここに住む訳では無いので最低限で十分だ。

 1日に5~6時間治療院を開業する予定だ。

 貧民街とは言え、人々は生活をしている。必要最低限の店もあるし、ある程度のお金は動いている。まあ、儲けを期待しては居ないが、収入ゼロと言う事は無いだろう。

 翌朝、稽古の後、ストレージで木材を加工してドアを作る。寸法は昨日のうちに計って置いた。20分程で完成させ、貧民街の治療院へ転移。

 治療院にドアを設置して居たら、声を掛けられた。

「お兄さんが新しい治療院の治療士さんかい?」

「はい、今日から開業しますのでよろしくお願いします。」

 よく見ると看板には治療院としか書いていない、店名は無いのだろうか?

 まあ、治療院だと判れば良いのだから、店名をわざわざ書く必要は無いのかもしれない。

 朝10時から5時間程店を開けていたが、来たのは2人だった。しかも2人共世間話をして帰って行った。この町って治療院必要無いのかな?

 そんな感じで3日が過ぎた。正直暇だ。全然客は来ない。まあ治療院が暇なのは良い事なのかもしれないが、信用が足りないのかもしれない。

 5時間程過ぎ、そろそろ帰ろうかなと思った時、人が押し寄せて来た。

 何やら10人位の団体が、治療院を目指している。何が起こった?

 いち早く駆けて来た青年が言った。

「先生、怪我人だ。助けてくれ。」

 怪我人は10歳位の少年だ、男性陣が数人で平らにして、揺らさない様に運んでいる。その判断は正しい。

 治療院に迎え入れ、治療台に寝かせる。僕はまず無詠唱でクリーンを掛ける。怪我に雑菌は大敵だ。

 鑑定を掛けるが、骨折と打撲、切り傷位で、頭は打っていない様だ。

「何があったんですか?」

「この子の家が崩れた。家の下敷きになったんだ。」

 屈強そうな男が答えた。

「解りました、幸い頭を打って居ない様なので、怪我の治療だけで済みそうです。」

 ハイヒールで間に合うかなと思ったが、最初の患者なのでエクストラヒールをサービスして置いた。もちろん無詠唱だ。みるみる怪我が治って行く。骨折も完治して行く。

 見て居る者達から感嘆の声が上がる。

「この子の親は?」

「親は居ない。しいて言えばこの町の大人全員が親だ。」

 なるほど、孤児院にも行けない身の上なのかな?もしかしたら冒険者の子供で、ある日親が帰って来なかったって言うパターンかな?

「それにしても、あんた、その腕でなんでこんな所で治療院をしてるんだ?」

「ああ、貴族とか教会とかが嫌いで。」

「ほう?訳アリか?じゃあ、詳しく聞くのはルール違反だな。」

 どうやらこの町ではそう言うルールがあるらしい。

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