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「何をすれば良いのでしょうか?」

「グルニージア元公爵の暗殺だ。」

 ほう?目の付け所は悪く無いが、ちょっとタイミングが遅く無いか?

「解りました。おい!」

 僕はクラ―ネルを呼ぶ。

「これは私の弟です。見た目はアレですが、腕は立ちます。彼を子供に変装させ、元公爵に近づき、殺害すると言うのはどうでしょう?」

 僕が長老と思われる人物と会話をしていると、徐々に人が増え、5人の男たちがあれこれと屋敷に細工をしている。

 長老1人と幹部5人。人数的には合っているが、確証は持てない。

「ところで、私はあなた様の事を何と呼べば宜しいのでしょうか?」

「ふむ、私の事は長老とでも呼んでくれたまえ。」

 お?これは確定かな?

「ちょっと待て、その弟やらの風貌、情報にあったクラ―ネルとか言う小僧に似てるな。貴様本当にソーエン男爵か?」

「あら、意外に早くバレましたね。流石はおっさん、長老と呼ばれるだけの事はあるみたいだな。」

「私の事をおっさん呼ばわりとは怖い物知らずだな。」

「どうせ、若返りの秘薬で200年位生きてるんだろう?」

「貴様がゼルマキア侯爵か、会いたいと思って居たよ。」

「そんなに余裕で大丈夫なのか?圧倒的に不利なのはそちらだと思うが?」

 そう言うと長老がニヤリと笑った。

「私が、年を取っているだけで長老と呼ばれて居ると思って居たのか?」

 え?瞬間長老の姿が消え、次の瞬間、わき腹に鋭い痛みが走った。

 わき腹に短剣が刺さっている。僕は急いで抜いて、パーフェクトヒールを掛ける。幸い毒は塗って居なかった様だ。だが、どうやって刺したのかが判らない。

「クラ―ネル!」

「僕にも長老が一瞬消えたとしか見えませんでした。」

 何をしたんだ?とりあえず、先に幹部を始末しよう。僕はストレージから金属の杭を数本取り出す。これを転移で幹部達の体に飛ばす。絶対に外れない攻撃だ。

 5人に対し9本の杭を飛ばし、壁に貼り付ける。こちらも一瞬の事なので当の幹部達は何が起こったか解って居ないだろう。

 幹部を無力化したら、今度は長老だ。瞬動で近づいたら、またも長老の姿が消えた。これは、もしかしたら時間を止められている?

 時間を止める魔法か、厄介だな。だが、長時間止めて居られる訳でも無い様だ。

「クラ―ネル。少しだけ時間を稼いでくれ。」

「解りました。」

 クラ―ネルが仕掛ける、攻撃が当たる瞬間長老が消える。次の瞬間、長老は少し離れた位置に現れる。

 およそ1秒だな。1秒だけ時間を止められる能力か。厄介だが、攻略法が無い訳では無い。

 絶対に外れない攻撃を1秒の時間差で撃ってみる。1発目は外れたが2発目が刺さった。長老は肩を抑えてもんどりうっている。

「1秒と言うのは長い様で短いな。最初の1撃で僕を倒せなかったのが敗因だ。」

 両肩両足の4か所に杭を打って、床に長老を縫い付けた。

 しかし、他の4人の長老にも特殊能力があるとしたら、この作戦は失敗だったのでは無いだろうか?

 と、そこへ元公爵が現れる。何処かで見てたのか?

「よくやってくれた。今まで誰も成し遂げられなかった事だ。誇ってよいぞ。」

「しかし、長老はどうやら特殊能力持ちらしいですよ。4人も逃がしてしまって大丈夫ですか?」

「心配するな、ここから先は私がやる。君たちの仕事はこれで終わりだ。」

「大丈夫なんですか?」

「ああ、また表舞台に戻る事にした。救済の箱舟だけでなく、麻薬撲滅にも努めるつもりだ。」

 ほう?元公爵が表舞台に戻ると、王城はどうなるのかな?

「必要ならまた力を貸しますので声を掛けて下さいね。」

 なんか、すっきりしないが、元公爵が終わりだと言えば、続ける訳には行かない。

 僕はクラ―ネルを連れて王城へ飛ぶ、宰相に取り次いで貰い。今までの詳細を話す。

「救済の箱舟に麻薬か、これは、ある種、王都の闇の部分だな。」

「まあ、救済の箱舟は暫くは大人しいかもしれませんが、麻薬は必ずどこかの組織が出して来ますよ。資金源として美味しいですからね。」

「解った。陛下とも相談して、何らかの対策をしよう。」

 と、その時、大きな揺れと、轟音が響く。

「なんだ?」

「おそらく爆破ですね。」

 表に出ると、王城の4分の1ほどが崩れている。

「陛下は?」

「無事です。」

 近衛兵が答える。

 どうやら狙われたのは、王族の個室が並ぶ1画らしい。

「けが人は?」

「今の所確認されて居ません。軽症者は何人か居ますが、重傷者は居ない様です。」

 このタイミングで、この爆破、おそらく救済の箱舟の警告では無いかと思う。

 現在の救済の箱舟のメンバーは長老が4人、それでもこれだけの事が出来ると言うアピールも兼ねているのかもしれない。

 能力者と言うのは面倒だな。

 僕自身が能力者なので、他の能力者と戦う事は今まで無かった。今回初めて、僕以外の能力者と戦って、他人が僕と戦う時の気持ちが解った気がする。

 クラ―ネルやルシルもある種能力者だが、敵と味方ではこれ程の違いがあるのかと改めて思った。

 さて、怪我人が居ないのならば、僕らは居ても邪魔なだけだ、王城を後にして、帰る事にする。

 麻薬騒動に続き王城の爆破と街は大騒ぎだ。何かが起こっていると感じて居る者も多いだろうが、事態を正確に把握している者は少ないだろう。

 今回の麻薬騒動で、麻薬を資金源にしていた貴族達は一気に困窮するだろう。中には潰れる下級貴族もあるかもしれない。

 もし、国王陛下が麻薬を違法と認定すれば、貴族の勢力図も大きく変わるかもしれない。

 だが、文明が安定していない、この世界で麻薬を違法とするのは難しい事だと、元公爵は言っていた。そう言えば元の世界でも先進国程麻薬を規制していて、後進国は規制されて居ないと言う事実もある。

 現代日本人の感覚では麻薬=悪だが、この世界では違うのかもしれない。難しい問題だ。

 さて、家に帰ったら、セリーに捕まった。

「何かあったのか?」

「何じゃありません。皇女様がそろそろ出産をされます。暫くは外出を控えて下さい。」

「え?もう生まれるの?」

「あなたは、自分の嫁の体調も理解していないのですか?」

「いや、そう言う訳では無いが、もうちょっとかかるかなと思って居たもんで。」

「私の感では恐らく男児ですよ。男児が生まれたら公爵にされていた所ですよ?」

「公爵にされると何か不味いのか?」

「不味いですよ。帝国の為に利用されます、特に軍事的な意味で。」

「皇帝はそれが狙いだと?」

「皇女様の話を聞いた限りではそうですね。」

「でも、子供を作らないと言う選択肢もあるだろう?」

「実際作ってるじゃ無いですか?」

 まあ、そうなんだけどね。フローネル嬢の生い立ちとか知ってしまうと断れる感じじゃ無いんだよね。
 
「でも女児が生まれる可能性だってあるだろう?」

「子供を作った時点で男児が生まれる可能性は50%です。更に皇女様の家系は男系、分の悪い賭けだとは思いませんでしたか?」

「いや、正直、侯爵でも公爵でも似た様な物だと思って居たよ。」

「全然違います。もしこれで、あなたの子供が皇帝になったらどうするんですか?この国と帝国が敵対した時、あなたはどちらに付くつもりなんでしょう?」

「そこまでは考えていなかったな。」

「だから、私は皇女様を亡命させたのです。お分かりですか?」

 なんだろう年下なのにセリーに勝てる気がしない。

「フローネルは納得しているのか?」

「彼女は聡明です。自分の置かれた立場をきちんと理解しています。あなたに迷惑をかける事を心配していました。」

 そう言えば、フローネルは子供を作る事を諦めていた節があったな。そう言う事か?

「あなたの家はここです。あなたの国はこの王国です。あなたも自分の置かれた立場をキッチリと理解して下さい。」

「解りました。」

 何故か何時の間にか正座をしているのは日本人だからだろうか?
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