上 下
245 / 308

245

しおりを挟む
 ここのところクラ―ネルが自主的に動いてくれるので、僕は結構楽が出来ている。別に手を抜いている訳では無い。毎朝の訓練は欠かさずやっているし、困った事が起こればアドバイスはしている。

 一緒に行動する事が減っただけで弟子と言う立場は変わりが無い。むしろクラ―ネルの成長が早いので次々と課題を考えるのに苦労している。

 そう言えばクラ―ネルは異常に欠損を治す事に執着しているが、叔父さんの事が原因なのだろうか?帝国でも医学に興味を示していたが果たして結論は出たのだろうか?

 あれから結構経つが詳しい話は聞いていない。帝国での商売は上手く行っていると言って居たので、万能薬の販売も含まれているのだと思うが。

 まあ、僕に相談に来ないと言う時点で、トラブルは起こって居ないと言う事だろう。

 そう言えば、うちの改装工事が終わった。もっと時間が掛かる物だと思っていたのだが、実質10日程で済んでしまった。

 この改装部分、元は家人の寝室だった場所は、家庭教師や使用人の個室になる。使用人の個室は、シンプルな物なので、それ程手間がかからないらしい。その分改装の手間が省け、時間短縮につながった様だ。

 クラ―ネルの家の改築はまだ数週間かかる様だ。

「そう言えば、家庭教師は何時から来るんだ?」

「改装工事が思ったより早く終わったので、来週になると思います。」

 セリーが答えた。

「来週か。上の子達はともかく、下の子達は何を教わるんだ?」

「基本は礼儀作法ですね。それから生活魔法も教えてくれますよ。」

 生活魔法って事はあれか、トイレトレーニングだよな?家庭教師と言うよりベビーシッターだな。メイドでも良いんじゃ無いか?そう思わないでも無いが、セリーには言わない方が良いよね?

「そう言えば、あなた。マリーカさんが帝国に遊びに行くような事を言ってましたが、あなたが連れて行くんですか?」

「いや、現在帝国での商売はクラ―ネルに任せているから、クラ―ネルの判断じゃないかな?」

 って言うか、マリーカ嬢を連れて行くとはクラ―ネルも余裕があるな。あれ?でも何でそれをセリーが知っているんだ?

「マリーカ嬢に会ったのか?」

「見合いをした時から毎月1回はマリーカさんは家に来てくれてますよ。知らなかったんですか?」

 え?マリーカ嬢が毎月?何をしに来てるんだ?レンツェル子爵の差し金か?

「マリーカ嬢とはどんな話をしてるんだ?」

「基本はクラ―ネルさんの話になりますね。最近特にクラ―ネルさんがあなたに似て来たと言う話で盛り上がりました。」

「クラ―ネルが僕に似て来た?僕には判らないけど、そんなに似て来たか?」

「外見はともかく、行動や思考が似てきましたね。」

 僕の様になりたいと言う願望が態度に出て来たのかな?

「で、マリーカ嬢は帝国に遊びに行くと言って居たのか?仕事ではなく?」

「仕事と言う感じではありませんでしたね。それにマリーカさんは帝国語を話せないですよね?」

 確かに言葉は話せないが、クラ―ネルのサポート位は出来ると思うのだが。

「で、セリーはマリーカ嬢が羨まいしと?」

「まあ、ありていに言うとそう言う事になります。結婚してからは2人だけで出かける事は滅多にありませんからね。」

「子供も居るしな。そう簡単には2人で遊びには行けないと言うのは解る。まあ、帝国ぐらいなら連れて行っても構わないが、言葉が通じないのは結構苦痛だぞ?」

 18歳になったセリーが、15歳になったばかりのマリーカ嬢に嫉妬するのもどうなんだ?とは思いつつ。まあ彼女も15歳ですぐに結婚して、子供を産んだから、そう言う普通に憧れる気持ちも解らないでは無い。

「言葉がどうのではなく、あなたと2人切りと言うのが良いのではありませんか。」

 と言う事で、なんとなく帝国行きが決まってしまった。後になって不味かったかなとも思ったが、屋敷に近寄らなければ大丈夫だろうと高を括っていた自分が居る。

 そして1週間後、僕とセリーは王都に立っていた。

「で、何処に行きたいんだ?商店街でも見て回るか?」

「そうですね。まずは、あなたのおすすめコースで行って見ましょう。」

 おすすめコースと言う訳では無いが、クラ―ネルにも紹介したコースを回る。王都と帝都の違いが判るコースだ。

 最後に軽食屋に入ってコーヒーとお菓子を頼む。

「やはり、帝国は色々な意味で進んでいますね。マリーカさんがはしゃいていたのが解ります。」

「あれ?マリーカ嬢は、もう帝都を堪能したのか?」

「クラ―ネルさんから聞きましたよ。なんでもお土産もあるそうなので、マリーカさん用のお土産も用意しないと行けませんね。マリーカさんが絶対知らない物を選んで貰えますか?」

「そう言う事なら下着を買うと喜ばれるぞ。これはクラ―ネルにも教えて無いが、帝都の縫製技術は進んでいる。洋服の出来も良いが、下着のレベルが王都とは段違いだぞ。」

「それは良い事を聞きました。家人の分だけでなく、使用人の分もまとめて買っておきましょう。」

 普段あまり買い物をしないセリーが、下着を大量購入していた。機嫌が良いって事で良いんだよな?

「さて、買い物もしたし、そろそろ戻るか?」

「あと一か所行きたい所があるのですが、駄目ですか?」

「いや、駄目って訳じゃ無いが、何処へ行きたいんだ?」

「侯爵家です。リアンにも久しぶりに会いたいですし。」

 え?それは不味いぞ。いや、リアンに会うのは大丈夫なのか?問題はフローネル嬢の方か?

 僕が慌てて頭の中で色々と計算していると、セリーがどうかしました?と言う顔で覗き込んで来た。

 どうする?ここで断るのは最悪の判断だ。だが、連れて行ってフローネル嬢と鉢合わせしたらどう誤魔化す?

 意を決して侯爵家に転移する。幸い、フローネル嬢は出かけている様だ。

 セリーはまるで我が家の様に、リアンを探している。大丈夫かな?

「奥様!」

 先に気が付いたのはリアンの方だった。

 え?話し合い?何を話すの?あ、僕も参加、え?駄目?何で?

 あたふたしている間にセリーとリアンが2人切りで部屋に閉じ籠ってしまった。

 何だろう?最悪の事態しか思い浮かばない。

 およそ40分程で2人が出て来た。

「あなた。リアンから全て聞きました。公爵ってどう言う事ですか?」

「いや、公爵ってのはあくまでも、産まれた子供が男児だった場合の話だ。」

「そう言う問題ではありません。その皇女様に会わせて頂けませんか?」

「あー、家に居ないみたいなんだが、リアン何か知ってるか?」

 セリーの剣幕に押されて、誤魔化す事を忘れている。

「皇女様ならお散歩です。もうそろそろ戻られるかと。」

 リアンの言葉にハッとする。セリーとフローネル嬢を会わせて大丈夫か?喧嘩とかならないよね?セリーさん瞬殺されますよ?

 と、そこにフローネル嬢が産婆さん軍団を引き連れて帰って来た。だいぶお腹が目立つ後2か月も経たずに生まれる所まで来ている。

 フローネル嬢はセリーの顔を見て、誰?と言う顔をしている。

「あなた、リアン、そして皇女様の4人で話がしたいんだけど?」

 セリーが王国語で話すのを使用人達が不思議な顔で見ている。

 僕はフローネル嬢に通訳して聞かせる。

「ところで彼女は誰?」

「王国での第一夫人って奴かな。」

「あれ?もしかして修羅場?」

「まあ、そんなもんだな。」

 と言う事で僕の部屋に4人で集まる。他の者は入らない様にときつく言って置いた。

「ご希望通り4人集めたけど、どうするの?」

「亡命しましょう。」

「亡命?何処に?」

「我が家に。」

「それは、リアンとフローネルを王国に連れて行くって事?」

「皇女様はフローネルと言うの?何かクラ―ネルさんと似てるわね。」

 セリーの口から自分の名前が出てフローネル嬢が吃驚している。

「問題は言葉だな。リアンは大丈夫だが、フローネルは王国語を話せないぞ。」

「言葉は何とでも出来るんでしょ?それより亡命に賛成かどうか聞いて下さい。」

「フローネル。セリーが王国に亡命しないかと誘っている。君はどうしたい?」

「亡命ですか?事実上存在しない国から国への亡命ですよね?私の立場は人質ではありませんよね?」

「ああ、そんな事になるなら亡命は勧めないよ。」

「でしたら旦那様に任せます。私は子供が居ればどこでも生きて行けます。」

 僕はセリーに向き直って話を続ける。

「セリー、OKが出たぞ。ただし、政治的な利用は許さないぞ。」

「これは女としての矜持の問題です。政治利用はしません。」

 セリーの言葉に頷き、4人で王国の侯爵家に転移する。
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...