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「しかし、ベヒモスですか。この大陸ではドラゴンより目撃例の少ない魔物です。更に言えば、ドラゴンと対等に戦える数少ない魔物ですね。そんなのが、こんなに帝都から近い場所に出現するなんて、やはり何かおかしいですね。」

 フローネルがまくし立てる様に言った。

「僕はベヒモスって言う存在も知らなかったよ。まあ、帝都から近いとは言っても王国の領土内だからな。ベヒモスの行動範囲がどの位なのかにも寄るだろう。ドラゴンの様に飛ぶ訳では無いんだろう?」

「そうですね。確かに飛ぶと言う話は聞いた事がありません。」

「だとすると、ドラゴンより行動範囲が狭いだけで、数は結構居るのかもしれないな。」

「でも、私が知る限り、ベヒモスの討伐事例はここ数十年無かったはずですよ。」

「まあ、災害級の魔物がそうポンポンと現れても困るがな。」

「そうですね。で、ベヒモスは強いんですか?」

「んー、おそらくだが、フローネルならギリギリ無傷で勝てる位かな。魔法に耐性があるので、力押しになるが、剣が通らない程固い訳でも無い。時間を掛ければ倒せない相手ではない。」

 って言うか、戦って見たかったのかな?

「で、そっちの成果は?」

「あ、反乱軍のリーダーですが、没落貴族の息子らしいです。歳は30歳前後と言った所で、カリスマ性はある様ですが、武の才は無いとの事です。」

「ほう?武の才が無いのは朗報だ。悪霊が取り憑いても大して強くないって事になるな。」

 でも、だからこそ、強い魔物を求めているんだろうな。まあ、流石にベヒモスは制御できそうにないが、ヒュドラを制御した所を見ると、かなりの力は持っていると考えて置いた方が良さそうだ。

 まあ、天災級でも竜王の爺さんより強く無ければ、何とか出来るだろうけど。

 最悪、竜王の爺さんを連れて来るのもアリかな?

「基本的な調査は、こんな所で良いだろう。後は、悪霊の出方次第になるな。」

「相手が動くのを待つんですか?」

「それも、一案だが、突いてみるのもおもしろそうだ。」

「突くんですか?どうやって?」

「色々と方法はあるけど、反乱軍を100人捕縛したらどう動くだろうか?」

「なるほど、でも、そこまでするなら、リーダーも捕縛した方が良いのでは?」

 あれ?そうだよな。わざわざ悪霊を刺激する必要は無いんだよね。普通にリーダーを見つけて捕縛して、火魔法でも撃てば悪霊が出て来る。そこを退治すれば、問題ないじゃん。

 僕は勘違いをしていた様だ。無意識に悪霊と戦うのを楽しみにしていたのかな?

「フローネル。お手柄だ。反乱軍のリーダーを捕らえよう。それで、この事件は終わりだ。」

 今日はこれで終わりにしよう。明日は反乱軍のリーダーを捕らえて、事件を終わりにする。問題は、どうやって反乱軍のリーダーを探すかだな。

 宿屋に帰りじっくりと考えよう。

 少し早いが宿屋に帰る。夕食まで時間があるので、部屋で皮鎧を外し寛ぐ。フローネル嬢もベッドに腰かけて寛いでいる。

 2人の体にクリーンを掛けて、明日の相談をする。

「方針は決まった。反乱軍のリーダーを捕らえて、悪霊を倒す。やる事は単純明快だ。だが、反乱軍のリーダーをどう探すかが問題になって来る。まさか、普通に町を歩いていたりはしないだろう。」

「悪霊が取り憑いている訳ですから、探知魔法で探す事は出来ないのですか?」

「探知魔法では悪霊は魔物と同じ反応になる。区別は難しいな。」

「でも、街中に魔物は居ませんよ?」

 ん?僕は王国に来て浮かれていたのかな?てっきりフローネル嬢の方が浮かれていると思っていたが、どうやらフローネル嬢は冷静な様だ。

 そうだよな。街中でサーチを使って魔物が引っかかればそれが悪霊の可能性が非常に高い。なんで、こんな簡単な事に気が付かなかったのだろう?

 どうやら、僕は一人で空回りしていた様だ。事は単純だ。王都でサーチを掛け悪霊が取り憑いている人間を見つけ、悪霊を分離させ退治するだけだ。

 そもそも、悪霊が魔物を使役するのをわざわざ待つ必要なんて無かったんだ。

 今なら多分、悪霊は分離せずに反乱軍のリーダーに取り憑いているだろう。2匹倒すより1匹の方が効率が良いのは当然だ。

 よくよく考えれば、これって、僕一人で1日で終わる話じゃないか?

 潜入捜査とか、ハンターになるとか、不必要な事ばかりしていた事になる。

 我ながら自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。

 僕はフローネル嬢に今、自分が考えていた事を吐露する。

「こういう機会でも無いと王国にはこれませんでしたからね。全くの無駄と言う事は無いと思いますよ。」

 まあ、僕的には醤油とかみりんとか収穫はあったが、フローネル嬢には余計な手間をかけさせたな。

「まあ、今回は僕のミスだ。フローネルが居なかったら、今頃必死で森の中を探索していただろう。」

「旦那様のお役に立てたのなら私は嬉しいですよ。」

 フローネル嬢の優しさが心に刺さる。

 さて、やる事は決まった。後はフローネル嬢を戦闘に連れて行くかどうかだな。まあ、フローネル嬢が戦闘で後れを取る事は無いだろうし、目が届く範囲に居てくれた方が守り易いと言うのはある。

「明日の戦闘、フローネルは参加するか?」

「宜しいのですか?」

「まあ、おそらく、それ程大した戦いにはならないと思うが、待っているのも退屈だろう?」

「是非。」

 そんな話をしていると、幼女の声が聞こえた。どうやら食事の時間らしい。

 食事を取り。明日の準備をして、早めにベッドに入る。やはり、帝国より若干寒い。

「多分、今日がここで寝る最後の日になるはずだ。明日には全てを終わらせる。」

「と言うか、今回の旦那様の勘違いは博士に原因があると思いますよ。」

「ん?博士?」

「ええ、博士との会話の中で、旦那様の中の悪霊に対するイメージが固定されてしまったのが原因だと思います。」

 なるほど、言われてみれば、博士との会話で、王国への潜入も思いついたんだったな。そうか、知らない内に博士の術中に嵌って居たのか。
 
 まあ、別に博士に悪気があった訳では無いので責める訳には行かないが、僕の勘違いは、あそこから始まって居たのかと得心した。

 翌日はゆっくりと余裕をもって起き。食事もしっかりと取る。

 部屋で着替え、荷物は全てストレージに仕舞う。ここへは多分もう戻らないだろう。

 そう言えば5日分宿代を払ったのだが、4日しか使わなかったな。

「じゃあ、出発するか?」

「はい。」

 2人で宿屋を出る。向かうは貴族街だ。

 相手は没落貴族、おそらくだが、何処かの貴族に匿われている可能性が高い。今回のクーデター騒ぎは宰相や、他の貴族も関わっているのではないかと言う節がある。でなければ100人程度の反乱軍がこうも長期間活動できるはずがない。

 まあ、国王は無能なのでこれに気が付いていない様だが、家臣が全員気が付かないとは思えない。気が付いていて黙っている理由は、関係者であると言う事になる。

 さて、反乱軍を潰したら、王国で何が起こるのだろうか?

 ところでフローネルさんや、さっきから何を見てるのかな?

「これは、商業ギルドで購入した、貴族街の地図です。各家の所有者の名前も書いてありますので、誰が反乱軍に協力しているか解りますね。」

 駄目だ、今回は完全にフローネル嬢の方が活躍している。僕の立場が危うい。せめて戦闘では頑張ろう。

 やがて、王城が見えて来る、ここを超えると貴族街だ。この辺りからサーチを起動する。

 当然の事ながら魔物の反応は無い。あるのは人間の反応だけだ。

 暫く歩き、貴族街へと踏み入れる。一番外側は男爵家が多い。まあ、これは何処の国も似た様な物だろう。

 そう言えば、戦闘は貴族街でも起こっていると聞いている。恐らくだが、国王派の貴族が狙われて居るんじゃないだろうか?

 そうやって、徐々にクーデターの成功に近づけているのだとしたら、黒幕はなかなかに狡賢い奴だと推測される。

 こうなると、反乱軍のリーダーは使い捨ての駒の可能性が高い。悪霊と言う切り札を持っている事をクーデターの首謀者は知らないのかもしれないな。

「なあ、もし、この王国でクーデターが成功した場合。帝国としてはどう動く事になるんだ?」

「おそらく新国王が和平を申し込んで来るでしょう。弱体化した国を立て直す時間を稼がねばならないでしょうから。」

「帝国はそれを受けるのか?」

「解りません。ただ、戦争を回避する方向には動くと思われます。」

 ふむ、現皇帝ならそうなるか。皇太子は王国を奪取するチャンスだと主張しそうだ。
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