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 戻って来るドラゴン。今、こいつを取り戻される訳には行かない。神聖魔法がドラゴンゾンビを浄化し終わるまで、あとちょっとなんだ。

 もう一匹のドラゴンが僕らの真上に到着した途端、消えた。

 え?何が起こった?と、同時に覚えのある気を感じる。

「竜王の爺さんか?」

「坊主、相変わらず面倒事に首を突っ込んでいる様じゃな。」

「なんで、爺さんがここに?」

「なに、そいつの気を感じてな。追いかけて来たのよ。」

「ドラゴンゾンビも管轄なんですか?」

「そ奴がゾンビになったのは1か月程前の事じゃ。気にはしておったのじゃが、動く気配が無かったので放って置いた。しかし、突然飛び出したので追いかけて何をするのか確認するつもりじゃった。」

「何処から飛んで来たんですか?」

「獣人の国と魔族の国の間にある森林地帯だ。あの辺はドラゴンが多い。」

 そう言われても地理が解らない。

 そんな会話をしている間に、ドラゴンゾンビが沈黙した。ストレージに入ったので問題は解決だ。これで、200万人分のゾンビパウダーは僕のストレージの中と言う事になる。

 んー、使い道あるかなぁ?

 ドラゴンゾンビも処分したいけど、素材としては売れないよね?ストレージは実質無限だから問題無いけどね。

 ちなみにストレージの容量は今まで色々と使って来たが、未だ3%を超えた事が無い。どれだけ入るのだろう?この星位入るのかな?

「ところで、何があったのか説明しては貰えんじゃろうか?」

 まあ、竜王としては気になる所だよな。

 僕は侯爵家に招待して、詳細をことこまかに説明した。

「なるほど、ネクロマンサーとは、また珍しい。」

「とりあえず、事件は解決したと思います。まさか、ドラゴンにまで被害が出るとは思いませんでしたが。」

「ふむ、まあ、あ奴は前から監視していたんじゃよ。何やら闇落ちしそうな気配があったのでな、そこを突かれたのかもしれん。」

「闇落ちですか?邪竜になるところだったんですか?」

「まあ、あ奴はそこまでの力は無い。闇落ちしたら即退治する予定じゃった。今回もお主が倒してくれて手間が省けたわい。」

 確かに、竜王と言えど、ドラゴンゾンビを退治するにはそれ相当の力を使わなければならない。もし、奴の体に傷が付いたらゾンビパウダーが王都に降り注いでいたかもしれない。

「まあ、今回は人間側が一方的に悪い訳ですから。僕が人間を代表して頭を下げさせて頂きます。」

 そう言って頭を下げると、爺さんは笑った。

「相変わらず律義な奴じゃのぉ。儂はそんな細かい事には拘らんて。しかし、気になる事が一つだけあるぞ。」

「なんですか?」

「お主、弱くなっていないか?」

「やはり、解りますか?」

 僕は神との邂逅の話を爺さんにした。

「ふむ、確かにお主の力は人間が持つには大きすぎるが、取り上げるとは思わなかったな。神も意外に器が小さいな。」

 お、流石は竜王の爺さん。神をも恐れぬ言動。

「でも、まあ、おかげで人間を止めずに済んでいるので僕的には良かったと思っています。」

「お主も大概お人良しじゃな。そう言えば訓練は続けていると言ったが、何か目標があるのか?」

「目標と言う程大したものでは無いのですが、純粋に人間として鍛えて何処まで強くなれるのかが知りたくてやっています。それにブラスマイヤーが別れ際に止めるなよとも言って居たので気になって。」

「ほう?あ奴にも何か思惑があるのかのぉ?」

「正直ブラスマイヤーが何を考えてそう言ったのかは理解出来ていません。ただ、意味の無い事を言う奴では無いとも考えて居ます。」

「ふむ、ならば以前の強さに戻るまで付き合ってやろう。」

「それは、ありがたいですが、良いんですか?」

「まあ、普段は暇じゃからのぉ。100年位なら付き合うぞ。」

 この申し出は正直ありがたい。ルシルと2人では稽古に行き詰っていた所だ、それになによりルシルが喜ぶ。あと、竜泉酒が飲めるのが嬉しい。

 こうして、竜王の爺さんが戻って来て、侯爵家は更に賑やかになった。子供達も日々成長して、皆やんちゃ盛りだ。セリー達も大変だが、メイドたちも忙しそうだ。

 何とか最終手段の時間逆行の魔法を使わずに済んだ。これで明日は帝国に行けるぞ。

 話は帝国サイドに移る。

 昨日は無断で休んでしまった。レモーネ達に適当な言い訳をして謝ったら、意外にすんなり許してくれた。

「まあ、ハンターなんて仕事は稼げれば良いんだ。1日位無断で休んでも誰も咎めないさ。」

「そんなもんなんですか?」

「君が稼げないハンターだったら、怒る所なんだろうが、このパーティーで一番稼ぐのは君だからね。」

 レモーネが仕方ないと言った顔で言う。

「もしかして、女性ですか?」

 アデルが遠慮がちに鋭い突っ込みを入れる。

「いや、そう言うのじゃ無いからね。」

「アデルはエイジに気があるのか?」

 バレッタがアデルに真面目に聞いている。アデルは真っ赤になりながら否定しているが、なんと言うか解り易過ぎるぞ。

「パーティー内恋愛は禁止だよ。」

 レモーネが手をパンパンと叩いてから言った。

「今日は狩りに出るんですか?」

「そうだな、本来は昨日狩りに出る予定で、今日は訓練の日なのだが、今月の稼ぎに影響が出るのは不味いだろう。」

「解りました。今日は狩りに出ましょう。あと、レモーネさんとバレッタさんはランクを上げて置いた方が良いですよ。稼ぐ様になってくると妬む奴が必ず出ますからね、そう言った奴に限ってランクが高い相手には弱いんですよ。」

「ふむ、考えて置こう。バレッタは出来ればAランクまで上げて欲しいがな。」

「えー、面倒。」

「いやいや、Dランクより弱いBランクの身になってくれ。」

 レモーネは未だにバレッタより弱いと思い込んでいる様だ。

「僕が見る所、お二人ともSランク試験に受かると思いますよ。アデルはもう少し魔法の運用を覚えればAランクに行けます。総合的にこのパーティーはSランクの強さがあると思います。」

「それは、私とバレッタの強さが同等だと言って居るのか?」

「レモーネさんはバレッタさんに苦手意識を持ちすぎなんですよ。現在の実力は同等と見て間違いないと思います。」

 そう言うとレモーネさんが何やら考え込んでしまった。

「さて、話は後だ、狩りに出るぞ。アデル、今日の獲物は?」

 バレッタがレモーネの代わりにそう言った。

「あ、はい。北に何やらボア系の魔物が増えている様です。レッドボアやイービルボアの目撃例もあります。」

「イービルボアか、Sランクだな。だとするとまだ狩られて居ない可能性が高い。行く価値はあると思うが、レモーネはどうだ?」

「本当にうちのパーティーがSランクの実力があるのなら、格好の獲物だな。試してみたいな。」

「では、決まりだな。アデル案内を頼む。」

「はい。」

 あれ?僕の意見は?まあ、皆が生き生きしているから良いか。

 その日は北の森に狩りに出た。アデルが先導して、魔物に導く。レッドボアを4匹程倒した所で、イービルボアが出た。

「こうして、実際に対峙してみても、怖いと言う感じはしないな。バレッタはどうだ?」

「うむ、確かに怖いと言う感じは無い。しかも、隙が見える。」

 2人はイービルボアを5分程かけて倒した。僕はストレージにボアを仕舞う。

「どうやら、強くなったと言うのは事実の様だな。」

「私の眼から見てもレモーネの動きは以前とは違って見える。」

「Sランクか、本気で狙ってみるかな?」

「レモーネがそう言うならしょうがない。付き合おう。」

 こうして、2人は昇級試験を受ける気になった。アデルも魔法を頑張ると僕にだけ聞こえる声で囁いた。宣言するのは恥ずかしいのかな?

 そして、翌日には『鈍色の刃』の3人はそれぞれ、A、C、Cとランクを一つ上げていた。ここにSランクの僕が入るから、最低でもAランクの依頼は受けられる様になった。

 まあ、基本依頼は受けずに討伐ばかりやってるんだけどね。
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