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 アデルが攫われた?マルコスに先を越されたか?

「詳しい状況を頼む。それとレモーネは?」

「私とレモーネが庭で稽古中に、アデルは買い物に出かけた。少しして、ハンター風の男が尋ねて来て、アデルを預かっていると告げて、エイジに一人で西の草原に来る様伝えろと言った。エイジが一人で来ない場合はアデルの命の保証は無いとも言っていた。それを聞いて、レモーネは男を叩きのめし捕縛した。現在ハンターギルドに連行中だ。私は君を探し回っていた。」

「その男は迅雷の牙の人間では無いのですね?」

「ああ、見た事の無い男だった。」

 マルコスに雇われた、不良ハンターかな?これは、一人で西の草原に行くしか無いよな?

「西の草原ですね。ちょっと行ってアデルを連れて帰ります。」

「一人で行く気か?」

「僕一人で行かないとアデルが危険なんでしょ?」

「相手が一人とは限らない。罠の可能性が極めて高い。何か対策を練った方が良いのでは無いか?」

 バレッタは意外に理論派なのかな?

「時間が勿体ないですよ。僕一人なら何とでもなりますので、やはり行って来ます。」

「そうか、そこまで言うなら止めはしない。だが、少し時間をずらして後を追わせて貰う。アデルは大事な仲間だからな。」

 ふむ、バレッタが追い付くまでにアデルを確保してしまえば問題は無いな。

 僕は転移で、その場から西の草原の手前に飛ぶ。サーチを掛けて相手の動向を探ってみる。

 西の草原のほぼ中央にアデルらしき反応を見つけた。周りに5人程の人の気配がある。その内の一つがかなり大きい、多分マルコスだろう。

 しかし、マルコスも学習しないな。5人程度の人間で僕に勝てると思ったのだろうか?それとも何か対策でも思いついたのかな?

 今の所アデルに命の危険は無さそうだ。だが、あまり時間を掛けると何をされるか解らない。急いだ方が良さそうだ。

 罠の危険性もあるが、時間を優先させ、マルコスの手前10メートルの位置に転移する。

 突然現れた僕にマルコスは驚かなかったが周りの男たちが、驚き敵意をむき出しにする。

「本当に一人で来るとは感心だな。」

 何時も思うがマルコスは何故こんなに自信満々なのだろうか?

「約束通り一人で来たんだからアデルを放せ。」

「アデル?誰だ、それは?」

 ん?周りの男たちの一人に捕まっている女性の顔を確認して驚く。アデルじゃ無い?

「どう言う事だ?」

「さあ、何の事だか分らんなぁ。」

 この女性は一体?そしてアデルは何処に居るんだ?

「なんの茶番だ?アデルが居ないのなら帰らせて貰う。」

「おっと、そう簡単に帰れると思うなよ。それにこの女を見殺しにするのか?」

 いや、見殺しも何も、知らない女性だし、もしかしたらそっちの仲間の可能性だってあるでしょ?

「その女性が誰かは解らんが、僕の目の前で何かしたら、それなりの罰は受けて貰う。それからアデルは何処に居るんだ?」

「俺がその質問に答えると思うか?」

 ああ、こいつはこう言う奴だったな。さっさと黙らせてアデルを探しに行かないと。

 無詠唱でパラライズを発動して麻痺を狙ったが、レジストされた。流石に学習したらしい。

「同じ手を二度も喰らう程愚かでは無い。」

 いや、十分愚かだと思うけど、まあ言っても無駄だから言わないけどね。

 Sランカーなら魔法が来ると解って居ればレジスト出来て当然だ。前回それが出来なかった事が不思議な位なんだが。

 まあ、魔法が駄目なら剣で行くだけだ。今回は木刀では無く真剣だ、最低怪我は覚悟してるんだろうな?最悪死んでも恨むなよ。

 瞬動で距離を詰める。驚いた顔をするが、キッチリ反応はする。なるほど腐ってもSランクって訳だな。

 そのまま数戟打ち合うが、なんか手ごたえが無い。これが現役最強のSランカーってマジですか?

 完全に見切った。何時でも殺せるが、殺人はあまり好きでは無い。だが、あまり時間を掛けても居られない。

 ふと剣聖の言葉を思い出す。次の瞬間、マルコスの右腕が宙を舞っていた。

 丁度腕の付け根からすっぱりと腕が無い。切り口が鋭すぎるのか、血が噴き出すまで数秒掛かった。このままでは失血死してしまうので、血が止まる程度のヒールを掛けて置く。

 マルコスは、自分に何が起こったのか理解できず茫然としている。その様子を見ていた、周囲の男たちは慌てて逃げだした。女性も一緒に逃げている。どうやら仲間だった様だ。

 さて、マルコスに関わっている暇はない。アデルを探さないと。

 そう思って引き返そうとした時、バレッタが追い付いて来た。

「アデルは?」

「どうやら、ここには居ないらしい。」

「そんな。他に心当たりは無いのか?」

「うーん、剣聖に会ってみるか。」

「剣聖?それより、そこに転がっている奴を締め上げた方が良いのでは?」

「ああ、そいつは駄目だ。剣士生命を絶たれて、廃人同然になって居る。」

 マルコスは傷みに耐えられず失神している。おそらくもう剣士としては生きて行けないだろう。左手だけで剣を使うと言う方法もあるが、片腕を無くした今、体のバランスがとれなくて、まともに戦えないはずだ、克服できるまで生きて居られるかどうか解らない。

「殺しても良かったのでは無いか?」

「それも一瞬考えたんだけど、こっちの方が殺すより苦しいんじゃ無いかと思ってね。」

「意外に残酷なんだな。」

 なんだろう?こいつには情けを掛けちゃいけない気がしたんだよね。

 バレッタを連れて、剣聖の家の前に転移する。

 扉をノックすると剣聖が自ら現れた。

「来る頃だと思ったよ。」

 ん?どう言う事?

「君の仲間のお嬢さんは保護して置いたよ。」

「え?アデルがここに居るんですか?」

「ああ、ちゃんと無事に保護した。うちの者に探らせていると言ったろう?奴が動いたのを確認した後すぐに救出に向かった。」

「剣聖自ら動いてくれたんですか?」

「まあ、奴の相手を君に任せたからな。この位はさせて貰わないとな。」

 家の奥から、例の斥候に連れられてアデルが自分の足で歩いて、こちらに向かって来た。

「アデル!」

 バレッタが思わず叫んだ。その声に反応してアデルが顔を上げる。どうやら本当に無事の様だ。

「感謝します。」

「礼には及ばんよ。で、奴はどうなった?」

「右腕を切り落としました。恐らく剣士を続けるのは難しいでしょう。」

「そうか、面倒を掛けたな。」

「いえ、僕の問題でもありますから。」

「ふむ、何かあったら頼ってくれ。君には恩があるから、出来る事なら助けになろう。」

「ありがとうございます。」

 剣聖の家を後にして、アデルとバレッタを連れて、3人の家に転移する。

「アデルは少し休んでいろ。色々あって疲れたろう。バレッタはレモーネを探すのを手伝ってくれ。」

 てっきりレモーネは家に帰っていると思ったのだが、まだギルドに居るのだろうか?

「僕はちょっとギルドに行って見るよ。バレッタは食堂を覗いてみてくれ。」

 そう言ってギルドに転移する。

 ギルドに入ると何やら何時もより騒がしい。
 
「何かあったんですか?」

 近くのハンターを捕まえて聞いてみる。

「ああ、『鈍色の刃』の一人が攫われたらしい。」

「ギルドが動いているんですか?」

「何でも捜索隊が結成されるとかで参加者を募って居るぞ。」

 おいおい、なんか大事になって無いか?しかも遅いし。

 ギルド職員を捕まえて、ギルマスかレモーネに会いたいと伝える。

 タイミングよく、ギルマスとレモーネが連れ立って2階から降りて来た。

 ギルマスが何やら発表する前に止めた。

「なんだ?これから重要な発表があるのだが?」

「その発表ですが、アデルの件なら解決しましたよ。」

「何?本当か?」

 ギルマスより先にレモーネが反応した。

「はい、先程無事に家に送り届けました。」

「そうか。君には礼をしなければならんな。」

「いえ、今回の件は、僕が原因ですので逆に僕がお詫びをしないと。」

 そう話しているとギルマスが割って入る。

「パーティー間の話は後でしてくれ。事件が解決したなら捜索隊は必要ないな。エイジ、詳しい話を聞きたい。俺の部屋に来い。」

 ギルマスの部屋にレモーネと共に連れて行かれ。事の次第を話す。

「ふむ、やはりマルコスが絡んでいたか。Sランクが一人減るのは痛いが、ギルドの評判を落とす様な輩を置いておく訳にもいかん。奴は除名だな。」

「まあ、ハンターとしての生命は絶たれたので戻って来る事は無いと思いますよ。」

 それよりもマルコスに加担していたハンターに問題があると思うのだが。

 その後、ギルドを出て、レモーネを連れて2人が待つ家に転移した。
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