上 下
175 / 308

175

しおりを挟む
 魔物の数が兎に角多いので索敵をアデルに任せて、僕も攻撃に加わる。数は多いが魔物自体のランクはそこまで高くない。前衛2人は問題無く捌いている。僕は、遊撃として、魔法を使い、前衛の負担を減らす様に魔物の動きを止めたり、麻痺させたりしている。

 アデルが若干焦り気味なので、落ち着くようにアドバイスをして、怪我をしない様に物理防御を張って置く。

 およそ30分程の戦闘で魔物の大軍を壊滅させた。僕は、周囲を警戒しながら魔物の死体をストレージに放り込んで行く。

 僕のサーチにはまだ、若干の魔物の気配が引っかかっているが、こちらに向かってくる様子は無い。

「本当に有能な魔法使いなんですね。もし、エイジさんが居なかったら、かなり危険な戦闘になっていたと思いますよ。」

 アデルが感心した様子で声を掛けて来た。

「アデルが魔法を覚えれば、今位の活躍は難しく無いですよ。どうです?本格的に魔法を覚えてみませんか?」

「じゃあ、明日はお休みですから、魔法を教えて貰えますか?」

「構いませんよ。」

 アデル魔法使い化計画第1弾は成功の様だ。

「なあ、新人。まだアイテムボックスには余裕があるのか?」

 レモーネが話しかけて来る。

「まだ、余裕ですよ。」

「そうか、ならもう少し奥へ進んでみよう。この、浅い位置でこれだけの魔物が出るのは珍しい、相当増えているみたいだ。なるべく減らして置きたい。」

 どうやら定期討伐が入る直前の様だ。魔物がこれだけ濃ければ、儲けもかなり期待できる。時間もまだ早いし、ここで帰るのは勿体ない。

 少し進むと、魔物の種類が変わる。サーチの反応の大きさからレッドボアじゃないかと思う。

「前方50メートル位先に、レッドボアと思われる反応が複数あります。イケますか?」

「問題無い。が、戦っている間に邪魔が入らない様にして貰えると助かる。」

「解りました。戦い易い様に魔物をコントロールしますので、任せて下さい。」

 30メートル程進むと、相手もこちらを察知する。こちらに向かって来る個体が4体居る。2体を魔法で抑え込み、レモーネとバレッタが1対ずつ退治できる様にする。

 レモーネとバレッタはレッドボアをほぼ瞬殺だ、これなら抑えるのも楽だ。タイミングを見計らって、抑えて居た2体を放つ。この繰り返しで10体のレッドボアを倒した。中には逃げた者も居るが、追う必要は無いだろう。

 更に奥へと進んで行くと、なにやら戦っている他のパーティーの反応がある。

「右手30メートル。戦っているパーティーが居ます。避けて左へ進みますか?」

「いや、苦戦している事も予想される、確認してから移動しよう。」

 と言う事で、右手に向かう。しかし、それが間違いだったとすぐに気づく事になる。

 戦って居たのは『迅雷の牙』だった。剣聖のパーティーだ。当然の事ながらマルコスも居る。

「引き返しましょう。」

 僕が言うと、レモーネが怪訝そうな顔をする。

「Sランクパーティーです。僕らが居ては邪魔になるだけですよ。」

「ほう?Sランクパーティーの戦いを見る機会など滅多に無い。見物させて貰おうじゃ無いか。」

 トラブルの予感しかしないぞ。

 『迅雷の牙』は5人パーティーだ。Sランクが2人とAランクが3人。一人が斥候で他の4人は剣士だ。

 戦闘はあっという間に終わった。まあ相手の魔物がBランクだったと言うのもあるが、流石はSランクパーティーと言った所だろう。

 問題は戦闘中からマルコスと剣聖が、僕の存在に気付いていたと言う事だ。

「珍しい所で珍しい者に会ったな。」

 剣聖が声を掛けて来た。

「お久しぶりです。お互いハンターをしているのですから狩場で会う事もあるでしょう。」

「ここまで来れると言う事は、お主のパーティーもかなりの実力と見受ける。」

 ここで謙遜するのはレモーネとバレッタに悪い気がするが、謙遜しないのもおかしい気がする。正解はどっちだ?

「丁度良い。ここなら見てる者は居ない。この間の続きをしないか?」

 マルコスが話に入って来た。

 この間の続きって、あんた、思いっきり負けてたじゃん。

「私闘はギルドから禁止されていますので、それは受けられません。」

「では、仕方ない、お嬢さん方に少し痛い目にあって貰おうか?」

 とことん落ちたな。完全に悪役のセリフだぞ。

「こいつら私たちに喧嘩を売っているって言う認識で良いのか?」

 レモーネが聞いて来る。

「相手はSランクですよ。完全な脅迫ですよ。」

「マルコス止めないか。それではうちのパーティーの品性を疑われる。」

「師匠は黙っていて下さい。これは俺とこいつの問題です。」

 ほう?剣聖はマルコスの味方と言う訳でも無いんだな。

「僕は戦う気はありませんよ。」

「仲間を傷つけられても同じセリフが言えるかな?」

 それをやったらギルドカード剥奪は間違いないと思うのだが、馬鹿なのか?

「レモーネさん帰りましょう。これ以上は無駄です。」

「その様だな。」

 僕とレモーネは少し離れた場所に居る、バレッタとアデルの所へ向かう。

 待て!と言う言葉と共に切りかかって来るマルコス。その行動は想定内だ。

 マルコスをパラライズで麻痺させる。

「弟子はちゃんと躾けて下さいね。」

 剣聖に向かってそう言い放ち、再び歩き始める。

「どう言う事か後でちゃんと説明して貰えるんだろうな?」

 レモーネにそう言われた。

 面倒事に巻き込む事になるが、話さない訳には行かないよね。

 帰り道もそこそこ魔物を倒して、ギルドへ辿り着く。換金は僕が行う。3人は拠点に戻っている。

 拠点で皆と合流して、レモーネに今日の収入を渡す。報酬の分配が終わった後、皆に、これまでのマルコスとの経緯を話す。

「なるほど、話は分かったが、君がSランクと言うのは初めて聞いたぞ?」

「そう言えば言ってませんでしたね。まあ、聞かれなかったし。」

「そう言う問題では無いと思うが、君が有能な理由が判った気がするよ。」

「これからも、マルコスは仕掛けてくると思いますが、どうします?」

「どうもこうも、返り討ちにすれば良いのでは無いか?」

「僕が居れば可能なんですけど、例えばアデルが一人の時を狙われたら防ぎようがありません。」

 そうだ、あそこまで露骨に僕に敵対心を持っているマルコスの事だ、その位の事はするかもしれない。

「なるほどな、しかし、今更君をパーティーから追い出しても向こうは私たちを無関係とは思ってくれないだろうな。それに君が居た方が、安全な気もする。」

「まあ、今日みたいに偶然会う確率は低いと思いますが、そうなると、どう言う手に出るか解りませんよ?」

 レモーネ達3人は何やら考え込んでしまった。

「私たちが強くなれば良いのでは無いか?」

「まあ、それが理想ですが、マルコスはああ見えて、剣聖より強いらしいですよ。」

「君はその2人より強いのだろう?」

 あー、出来れば僕を基準に物事を考えない方が良いと思いますよ。

「しかし、君がSランクだと解って居れば、このパーティーもBランクパーティーで登録できたんだがな。」

 ん?そうなの?それは済みませんでした。

 結局答えが出ず、現状維持で行く事になった。

「話は変わるが、君がSランクと言う事はパーティーのフォーメーションや狙う獲物も変えた方が良いのかな?」

「いや、それは今まで通りで良いと思いますよ。徐々に変えて行った方が皆さんの負担も少ないですしね。」

「良いのか?報酬もかなり変わって来るぞ。」

「報酬は現状でも少しずつ上がってますよね?」

「それは、そうだが、Sランクと言うのは相当稼ぐと聞いているぞ。」

「そうなんですか?僕はSランクになって間も無いので、その辺は良く解らないんですよ。」

 よく考えたらSランクの稼ぎの相場は調べて居なかったな。

「あの?私とバレッタはDランクなんですけど、Sランクと同じ報酬を貰って良いのでしょうか?」

 アデルが遠慮がちに質問する。

「それは問題無いと思うよ。パーティーって言うのはそれぞれ役割がある訳だし、実際、アデルもバレッタもDランク以上の働きをしてるしね。」

 僕がそう言うとアデルがホッとした顔になる。

 まあ、元々3人のパーティーに僕が加入したんだから、今まで通りで良いと思うよ。

「私、頑張って魔法を覚えて、もっとお役に立ちます。」

 アデルが決意の表情で宣言した。 
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...