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 試験に合格して『鈍色の刃』に入った。パーティーに入れば、目立たなくなるだろうと言う思惑だが、どうやら、そう上手くは行かない様だ。

 パーティーに入る事ばかり考えていて意識していなかったが、『鈍色の刃』は美女ばかり3人のパーティーだ。当然周囲の男性ハンターの注目度も高い。

 僕は知らなかったのだが『鈍色の刃』は、かなり注目のパーティーだった様だ。しかも、そこに男性が入ったと言うニュースはあっという間に広まった。

 『鈍色の刃』がパーティーメンバーを募集している事は有名だった。男性ハンター達は、当然のごとく4人目のメンバーも女性だと思っていたらしい。そこへ突然の男性メンバー加入のニュース。なにやらファンクラブもどきもあるらしく、かなり大騒ぎになって居るらしい。

 目立たない為にパーティーに入ったのに目立ってるって、どうなん?

 幸いな事にメンバー揃ってギルドに行く事が無いので、僕の存在はまだ知られて居ない。だが、知られる日も近いだろう。話題のパーティーの新人が、話題のSランカーだと、知られたら噂は加速する事間違いなしだな。

 こうなったら何か対策を取らないとイケないのでは無いだろうか?

 そうメンバーに相談したら。気にしないのが1番だと言われた。いや、そう言う事では無いと思う。

 ところで、現在拠点の食堂の隅に居るのだが、何やらあちこちから好奇の視線を感じるのだが、他の3人は気にする様子も無い。どうやら慣れている様だ。

 慣れてない僕は居た堪れない気持ちで席に座っている。

 レモーネが今日の報酬を分配する。一人頭、金貨152枚だ。これは普段より多いそうだ。人数が増えたのに分け前が増えると言うのは、アイテムボックスのお陰で持ち帰れる素材が増えたからだと説明された。

 ちなみにマジックバッグは持たないのか聞いてみたら。マジックバッグは高いからなと言われた。あれ?マジックバッグを安く普及させたつもりなのだが、低ランクのハンターが気軽に買える程では無かった様だ。

 まあ、お役に立てたのならば良かった。次回の狩りは明後日だそうだ。明日は休みらしいが、皆は休みの日をどう過ごしているんだ?

 報酬を分配した後は、エールで乾杯し、なし崩しに食事となる。初めてこの食堂で食事をしたが、思ってたよりずっと美味い。この味で値段が安いとなれば、それなりに繁盛しているのだろう。なのに何故、外観を直さないのだろう?

 翌日は休みなのだが、暇なので一人でギルドにやって来た。パーティーに加入したので、依頼を取り下げないとイケない。募集掲示板で自分の依頼書を探し、それを持って、窓口に並ぶ。

 朝の窓口は依頼を受けるハンターで長蛇の列だ。30分程待ってようやく順番が回って来た。依頼書を見せ取り下げの申請をする。数秒で受理された。依頼した時は1時間かかったのに、取り下げは数秒なんだな。

 後ろに並んでいるハンターにぶつからない様に横にずれて窓口を離れる。する事が無くなってしまったので、依頼の掲示板を見に行く。

 まだ、時間的に早いのか、依頼の掲示板には依頼書が結構な数残っている。

 特に面白そうな依頼は無いが、一通り見ていると、依頼の傾向が判る。今の時期は食肉の確保の依頼が多い様だ。そう言えば、マジックバッグを持っているパーティーって、あんまり見かけないな。ハンターには普及して居ないのだろうか?

 いや、『エドワード魔道具店』では、かなりの数のマジックバッグが売れていた、ハンターにも好評だったと聞いている。

 だとすると、上位のハンターがマジックバッグを独占している状態なのかな?下位のハンターにはマジックバッグは少し値段が高かったのかもしれない。ハンターギルド全体からすれば、下位のハンターが過半数を占めている。

 上位のハンターは高く売れる魔物を狙う。もし、マジックバッグを上位ハンターが独占しているとすれば、安価な食肉用の魔物を狙う下位ハンターは、狩った得物を運ぶ手段が人力しかない。となると、魔石だけを狙った方が稼げると言う図式になり、安価な食肉用の魔物が不足すると言う事になる。

 もしかしたらこれって、意外に重要な問題なんじゃ無いか?

 下位のパーティーにマジックバッグを貸し出すって言う手もあるが、僕がやるとまた目立ってしまいそうだ。ギルマスに相談するか?

 僕は再び長い列に並んだ。

 やがて順番が回って来て、ギルマスに会いたい旨を受付嬢に伝える。Sランクのカードを見せると、理由も聞かずに取り次いでくれた。

 2階に上がりギルマスの部屋に行くと、なんとギルマスが仕事をしていた。

「ギルマスって普段はちゃんと仕事してるんですね。」

「お前は、俺をなんだと思ってたんだ?」

「いや、ギルマスってギルド職員を見張っていれば良い物だと思ってました。」

「まあ、それも重要な仕事ではあるが、本業はこっちだ。ところで、用事はなんだ?」

 あ、あまりの事に用事を忘れていた。

「さっき、依頼掲示板を見て気が付いたのですが、安価な食肉用の魔物が不足しているみたいですが、これって慢性的な物ですか?」

「ああ、その通りだ。特にオークの肉が不足している。なので時々ギルドではオークの村落を落とす討伐隊を派遣している。」

「でも、全てのオークの素材は持って帰れませんよね?」

「うむ、一応ギルドから荷馬車を出しているのだが、一時しのぎにしかなって無いな。」

 やはり、そう言う事情か。

「提案なんですが、マジックバッグを下位のパーティーに貸し出すって言うのはどうでしょう?」

「マジックバッグは貴重品だ。それにギルドに余っているマジックバッグは無いな。」

「マジックバッグは僕が提供しますよ。現状オークを狩れる下位のパーティーってどの位居るんですか?」

「オークはEランク以上だな。DとEだけでも合わせて150パーティー位はあるぞ。」

「じゃあ、マジックバッグを100個提供します。オークを狩るパーティーに優先して貸し出して下さい。貸し出しの際にレンタル料を取っても良いですよ。」

「それは、美味しい話だが、お前にメリットはあるのか?」

「ギルマスが言ってたじゃ無いですか、Sランクになったのだから下の者を育てろって。その一環ですよ。下位ランクが稼げる様になればギルドもハンターも潤いますよね?下が稼げば中位のハンターも稼げる様に頑張るんじゃないかなと。」

「上手く行けば面白いかもしれんな。CやDランクで満足していた連中も下が稼ぎ出せば考えが変わるかもしれん。」

「もしかしたらポーターの仕事を奪ってしまうかもしれませんが、輸送手段が無くて捨てられる素材が減るのは良い事だと思いますよ。」

 食肉用の魔物が多く持ち込まれる様になれば、肉の値段も下がるかもしれない。経済に影響を与えてしまう可能性もあるが、金を回すのは貴族の義務でもある。

 明日までにマジックバッグ100個を提供すると言う事で話がまとまった。後はギルドに任せよう。僕の名前はくれぐれも出さない様にと念を押して置いた。

 早めに伯爵邸に帰り、マジックバッグをストレージで量産する。付与はあまり大き過ぎない、8メートル四方にして置いた。オークなら50体位は入るだろう。

 さて、翌日、ギルドに寄ってバッグを納入してから食堂でメンバーと合流する。どうでも良い事だが、食堂の名は『ゲルド食堂』と言うらしい。ゲルドってなんだ?と思ったら店主の名前らしい。少しは捻れよ。

 今日は南に向かうらしい。なんでもアデルが情報収集をして、現在魔物が沸いて増えている場所に向かうのだそうだ。ある意味定期討伐隊の様な物だな。

 今日は目的地に着くまでアデルに索敵魔法を教えながら歩く。元々アデルは気配察知が得意なので、索敵魔法のコツを教えれば、それなりには使えそうだ。

 索敵魔法を入り口に色々と覚えてくれると面白い。

 魔物が増えている場所と言うだけあって、街道でも魔物が出て来る。まあ、それ程強い魔物は出ないので、レモーネとバレッタが軽く捌いている。

 30分程歩くと目的地に着く。さあ、ここからが本番だ。サーチを掛けるとかなりの数の魔物が引っかかる。

 アデルの顔も引き締まる。
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