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 ローレシアの次の言葉を待っていたら、ソファに腰かけた。

「立ち話もなんだし、時間もある。座ってゆっくりと話しましょう。」

 僕はテーブルを挟んだ反対側のソファに座る。お茶でも出しましょうかと言いかけて止めた。そう言う雰囲気じゃない。

「で、処遇と言うのは何か罰でも与えられるのでしょうか?」

「んー、そう言う話では無いので安心しなさい。と、その前に、その左腕の腕輪をこっちに渡して貰えるかしら?」

「ブラスマイヤーをどうする気ですか?」

「悪いようにはしないから、大人しく渡して頂戴。」

 僕は左上腕部に嵌っている腕輪を抜き取り、テーブルの上に置いた。そう言えば初めて外したな。これって何か影響があるのかな?

「ありがとうと言うべきかな。ブラスマイヤーには神界に帰って貰うわ。」

「え、でも、この肉体は?」

「本来なら、その肉体も返して貰いたいのだけど、既にその体はあなたの物になってしまったの。更に神格まで奪い取ってしまった。その結果、ブラスマイヤーは返る肉体が無くなり、神格も持たない為、消滅までの時間が短くなってしまったのよ。」

 ん?僕が神の体も神格も奪い取ったって事は。

「それって、僕は神になってしまったのですか?」

「厳密に言うと違うのだけれども、その認識でも構わないわ。」

 どう言う事だ??

「あなたには一緒に神界に来て欲しいの、そして、正式に神になって貰いたい。」

「僕が神にですか?それは決定事項なのでしょうか?」

「いえ、そう言う訳では無いわ。だからわざわざ私が地上に降りて来たのよ。決定事項なら、あなたを神界に引き上げるだけで済むでしょ?」

「そうですね。それにルシルやライザはどうなるのでしょうか?」

「では順番に処理して行きましょう。まず、あの異次元生命体ですが、あれはこの世界に存在して良い物ではありません。」

「まさか消滅させるんですか?」

「あの者には魂があります。なので、魂だけを取り出し、浄化し記憶を消去して転生して貰います。次はこの世界の普通の人間として生まれて来る事になるでしょう。」

「肉体は?」

「あの者に明確な肉体はありません。あの姿も人間をコピーした物に過ぎない。魂が無くなれば自然消滅するでしょう。」

 ふむ、ライザには悪いが、それが一番彼女の為にも良い気がする。

「次にあなたですが、2つの選択肢があります。1つは神になる事。もう1つは人間として地上で生きて行く事。しかし、後者を選んだ場合、神格を封印させて貰います。また、力を大きくセーブさせて頂きます。現在のあなたの力は強すぎるのです。」

「力をセーブすると言うのは具体的にはどの位抑えるんですか?」

「そうですね。現在の100分の1位でしょうか。人間の範疇に収まって貰います。」

「ルシルはどうなるのですか?」

「暗黒竜ですね。彼女にも2つの選択肢が用意されます。神界に昇り神竜になる道と今まで通りの生活をする道。これも後者を選んだ場合。力をセーブさせて頂きます。彼女は精霊ですから、精霊の範囲に抑えます。」

「僕は地上に残りたいと思います。」

「やはりそうですか。そう言うとブラスマイヤーも言って居ました。自ら神になる事を望まない者は神にはなれない。これは神界の不文律です。仕方ありませんね。神格を封印させて頂きます。左腕を出して下さい。」

 僕は言われた通りに左腕を差し出す。するとローレシアが何やらブレスレットの様な物を手首にはめた。

「これは神格を封印する為の魔道具です。私が作りました。不壊の魔法が掛かっているので破壊する事は出来ません。」

 僕は左手にはめられたブレスレットをまじまじと見つめた。幅2センチほどの、特に飾りも何もない普通のブレスレットに見える。

「次にあなたの力をセーブさせて頂きます。」

 そう言うとローレシアは僕に何やら魔法を掛けた。無詠唱なので何の魔法かは判らない。体から力が抜ける様な感覚だけがある。

「次に暗黒竜の処遇はどうしますか?」

「あー、ルシルの事を僕が決める訳には行きません。本人の意思を確認して下さい。」

「そうですか、ではその様に処理致します。」

「1つ質問しても良いですか?」

「構いませんよ。時間は無限です。疑問があるなら幾らでも質問して下さい。」

「ブラスマイヤーはこれからどうなるのですか?」

「ブラスマイヤーは神界へ戻り、新しい肉体に宿って貰います。元々神だったブラスマイヤーならすぐにでも神格を得られるでしょう。」

「新しい肉体ですか?」

「我々神は創造魔法と言う魔法を使う事が出来ます。その力を使えば神の肉体でさえ新たに作る事が可能なのです。」

「では、ブラスマイヤーはもう2度と地上には戻らないと言う事ですか?」

「そうなりますね。」

「解りました。質問は以上です。」

「そうですか、では暗黒竜の処遇を決めてから我々は帰ります。」

(エイジ。力は削がれたが、封印された訳では無い、修業は続けろよ。)

(ブラスマイヤー?それはどう言う事だ?)

(これからは自分で色々と判断する事が多くなるだろう。俺が言った言葉の真意も自分で考えろ。)

 修業を続けろ。真意。ブラスマイヤーの事だ、何か意味がある事を言っているはずだ。覚えて置こう。

 一瞬気を失っていた様だ。気が付いたら時間が動いている。神達は神界へ帰ったのだろう。ルシルは?僕は応接室を飛び出し、ルシルを探した。

 自分の部屋にルシルは居た。シルフィーヌは横で眠っている。

「神に会ったか?」

「会いました。」

「ここに居るって事は断ったんだな?」

「この子を立派に育てるまでは何処にも行くつもりはありません。」

「そうか、ルシルの出した結論に文句を言うつもりは無い。だが、明日からも稽古は続けるぞ。」

 僕がそう言うとルシルが吃驚した顔をしていた。

「俺たち弱くなったんだぞ。これじゃあ子供たちを守れないだろう?」

 ルシルはシルフィーヌの顔を見ながら、はいと返事をした。

 さて、僕は弱くなった。神格も封印されたらしい。それがどう言う影響を及ぼすのかまるで解らない。

 これは検証の余地があるな、そう言えば力をセーブしたと言って居たが、魔法は力なのだろうか?魔法は理論とイメージで発動する。リリが転移魔法を使えたと言う事は、転移魔法は人間の範疇と言う解釈が出来る。魔法が制限されて居ないのであれば、力がセーブされてもそれ程困らないぞ。

 翌朝、いつも通りの時間に稽古をする。僕とルシルだけだが、2人居れば模擬戦も出来る。1人で稽古するより効果的だ。

 結論、とんでもなく弱くなっているが、身に着いた技や戦闘スタイルは失われて居ない。多分、ステータス上の数値が低くなっているだけだろう。これなら1年も稽古を続ければある程度までは回復できそうだ。今でもその辺のドラゴン位なら問題無く倒せそうだ。

 ルシルは元々精霊なので、それなりに強い。一時は神を超えるまでの力を得たのに1からやり直しって感じだ。

 さて、稽古を終えてから、すぐに外へ出ずに魔法の検証だ。どうやら魔法の種類には制限が掛かって居ない様だが、威力が若干だが下がっている気がする。これは多分、ステータスが下がったせいだろう。

 だが、この世界の魔法には魔力切れと言う物が無い。実質無制限に魔法を使える。ならば、それなりに戦う事が出来ると言う事だ。恐らく、現在の僕とルシルの戦力は同等。人間や魔物相手ならば苦戦する事は無いだろう。

 問題は今回の様な邪竜や魔神等が現れた時にどうするかだ。そして、最大の問題はブラスマイヤーが居なくなった事だ。今まで、何度もブラスマイヤーの神の知識に助けられてきた。それが一切無くなる訳だ。

 言わば攻略本無しでRPGをプレイする様な物だ。ってあれ?僕って攻略本買った事無いな。って言うかそんなにゲームしないし。

 幸い、稽古の仕方は解って居る。早めに力を付けよう。後は、セリーとアリアナに僕の事を説明するのは一旦保留だ。僕自身が整理出来ていない。

 それから、ステータスを上げないと行けない。これは冒険者稼業復活かな?
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