上 下
126 / 308

126

しおりを挟む
 ベルたち4人を扱いて、そろそろ王国へ帰ろうかなと思った時に、その男は現れた。

 見た目は何処にでも居そうなおじさんだが、雰囲気が違う。気を隠している所からそれなりの力を持っているのも判る。男の後ろには2人の男が従っているが、こちらもそれなりに強そうだ。まあ警戒するほどでは無いが。

「うちの者が迷惑をかけたようだな。引き取りに来た。」

 10人以上転がってますが、3人で持って帰れるかな?中には目が覚めている者も居るが、痺れて動けない様だ。

「堂々とうちの者って言ってますが、これで圧力を掛けるのを止めて頂けますか?」

「圧力?なるほど、侯爵の仕業ですかな?」

「あれ?貴方は知らないのですか?」

「ふむ、私は道場を預かっているだけで経営には参加しておりません。この度の襲撃に関しても知らされていませんでした。どうやら雇い主にあまり信頼されて居ない様だ。」

「知った今、どうします?」

「ふむ、1勝負行きますか?私は剣しか使えませんが。」

「では、こちらも剣でお相手しますよ。」

「ほう?剣も使うのか?」

 ベルたちが下りた武舞台に上がる。木刀を用意させ、準備をする。

「木刀を常備している魔法道場か、面白い。」

 おじさんが静かに剣を構える。うん、綺麗な形だ。僕も剣を構えて対峙する。

 特に強い殺気は感じないが、動作で判る。この男は強い。僕はごく軽く殺気を飛ばしてみた。

 全く動じない。さて、どうする?一撃で仕留めたら、他の2人が納得しないだろうな。じゃあ、相手に攻めさせるか?

 僕は木刀をぶらりと下げた。瞬間間を詰められるが、想定内だ。鋭い撃ち込みを躱す。思った以上に強い。僕が今までに会った剣士の中では一番強いかもしれない。

「やりますね、避けられるとは思いませんでした。」

 一旦仕切りなおして、今度は僕から仕掛けて行く。まだ様子見なので木刀をターゲットに剣を振るう。振り下ろしから切り上げと一連の動作で流れる様に剣を動かすが木刀には当たらなかった。

 それどころか、僕の空振りを読んでいたかのようにおじさんの剣が首に飛んで来た。剣技だけならSランクだな。こんな人材がまだ居たのか。まあ薄皮一枚掠らせないけどね。徐々にスピードを上げながら木刀で打ち合う。

 知らない間に武舞台の周りが見学者で一杯だ。

 さて、模擬戦とは言え、真剣勝負だ。正直常人なら5分が限度だろう。それ以上は体力も精神力も切れて来る。

 現在30%位の力で戦っている。何時でも勝負は決められるが、さて、どのタイミングが良いだろう?

 あまり速いと魔法を使ったと思われるかもしれないしな。

 不自然にならない様にカウンターを決める感じでおじさんの手首を跳ね上げた。木刀が舞台に転がる。

「参りました。」 

「って事で侯爵によろしく!」

「今の勝負、まだ余力を残していたように見えたのだが?」

「ああ、その辺はあまり深く考えずに。」

「不思議な御仁だ。圧力の件は私が何とかしよう。」

「それは助かる。あと、そこのゴミは適当に持って行ってくれて構わない。もしかしたら何人か死んでるかもしれないが。」

「うちの道場も質が落ちた物だ。」

 そうぽつりとつぶやきおじさんは2人の従者を従えて、倒れている男たちを荷馬車に運んでいた。なるほど、そう言う手があったか。

 翌日から嘘の様に入門希望者が増えた。師範志望者も見つかったらしく、面接をして2人ばかり雇った。これで僕の自由な時間が増えるぞ。

 こうなるとタイムテーブルも見直さないとイケない。道場の時間を朝10時から夕方5時までに延ばした。更に僕の出勤時間を朝10時から2時までの4時間にした。まあ、実際には9時半には来て子供達に教えているんだけどね。

 それから、週に1日は休みを貰う事にした。これでアスアスラに会いに行ける。

 ちなみに現状では師範とベルたち4人が同等の強さだ。しかし、師範にはもう少し頑張って貰い。リリと対等に戦える位にはなって貰うつもりだ。

 と言う事で最近は門下生より師範を鍛えている。なんか順番逆じゃね?

 まあ、なんとか道場は軌道に乗った。これで帝国の魔法使いの底上げになれば良いのだが、結果はすぐには出ない。

 今度は魔道具でも売ってみるか?最初は王国の利益を考えていたのだが、最近では帝国の再建を考えている。僕の行動は合っているのか?

 自由時間が増えたので家族との触れ合いを増やした。嫁たちは今の所安定している。子供達も元気だ。いや、元気過ぎる。現在ルシルが7か月。アリアナが5か月、セリーが3か月だ。自然と子供たちの面倒はメイドか僕が見る事が増える。子供ってなんであんなにパワーがあるんでしょうか?

 休みの日、久しぶりにアスアスラの家を訪ねた。

 アスアスラに今までの経緯を話し、これからは週に1日位は来れると伝えると嬉しそうにしていた。

 そう言えばルーラの姿が見えない。

「あれ?ルーラは?」

「今日は教会に行ってます。」

「教会?」

「同年代の友達が居ないのはどうかと思いまして。教会に行くとあの子と同じくらいの子たちが30人位集まるんですよ。」

「なるほど友達か、それは考えなかったな。」

 そう言えばエルやリアーナはどうするんだろう?貴族には貴族の友達が必要なのかな?後でセリーに聞くか?

「あと30分位で帰ってきますよ。」

「教会って何をするんだ?」

「教会の掃除とか勉強ですね。なんでもおやつが出るそうで、皆、それが目当ての様です。」

 なるほど、保育園の様な役割なのかな?子供たちが居ない間に親が用事を出来るもんな。

「ところでSランク試験には受かったのか?」

「いえ、ここの所受けて居ません。」

「ん?Sランクが目標だったのだろう?」

「色々と状況が変わり目標も変わりました。今は家族が暮らして行けるだけ稼げれば満足ですね。」

「じゃあ、今の目標は?」

「2人の子供を育て上げる事ですね。」

 ん?2人?1人はルーラだよな?もう一人は、僕との子か?

「一つ問題があります。私はエルフです。子供たちが居なくなっても私は生き続けるでしょう。」

「それなんだがな、これは秘密にしておいて欲しいのだが、僕も長命種なんだよ。もしかしたらエルフの君より長く生きるかもしれない。」

「人間なのに長命種?良く解りませんが?」

「ああ、事情があって話せないのだが、僕は人間より神に近い存在らしいぞ。」

「ん~。やっぱり良く解りません。」

「まあ、今のまま行くとルーラが一番早く死ぬって事だ。」

「70年位先の話ですね。考えない様にはしているのですが。」

「幸い、ドラゴンの素材があれば若返りの秘薬が作れる。僕にはその知識もある。」

「ルーラは長生きが出来ると言う事ですか?」

「本人が望めばだがな。全ての人間が長生きを望む訳では無い。」

「そうですね。それに寿命とは関係ない死に方をする場合もあります。エルフでも若くして命を落とす者が居ます。」

「まあ、そう言う事は直面してから考えれば良いんじゃないかな?」

 そこへルーラが帰って来る。

「ただいまなのだ!」

 ああ、なるほど、教会の誰かがその喋り方をするのを覚えたんだな。

「お帰り。ルーラ。」

「あ、パパ―!!」

 幼女の弾丸が僕に襲い掛かった。

「さて、今日は久しぶりに皆で買い物に行きましょうか?」

 アスアスラさん、なんでスルー?

「じゃあ、商店街に行くか?2人の洋服でも買おうか?」

「良いんですか?」

「ああ、王国の縫製技術の進歩も見たいしな。」

 3人で仲良く手を繋いで商店街まで歩く。最初に洋服屋に寄って、30分程色々と見て、2人に2着ずつ服を買った。やはりミシンが導入されて、縫製がしっかりとして来ている。更に値段も若干だが下がっている。

 その後夕食の買い物をして、家に帰る。購入した物はアスアスラのマジックバッグに入っている。綺麗に使ってくれている様で嬉しい。

 夕食はルーラのリクエストでハンバーグになった。やっぱ子供はハンバーグ好きだよな。

 その後部屋の中でルーラと遊んでいたら、だんだん稽古っぽくなって来てアスアスラに怒られたりしながら、団らんを楽しむ。

 喉が渇いたのでアイスティーを飲む。ルーラにはホットミルクに少し砂糖を入れた物を渡した。

 やがてルーラの目がとろんとして来たので寝かしつけスリープをかける。その後は大人の時間だ。
しおりを挟む
感想 299

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...