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 30分程魔法制御の練習をしてから、皆に名前を聞いた。

「今更だが、名前を聞いてなかったな、自己紹介を頼む。」

 何時も一番最初に僕と対応する子がベルリネッサ。通称ベル。赤毛の活発な子だ。次に、知的そうな眼鏡の子が、アンジェリカ。通称アン。金髪で胸の大きな子がクリストファー。通称クリス。最後に銀髪で一番地味だが、クールな子がサマンサ。通称サムだ。

「ん?皆、名前から行くと貴族の子か?」

「そうです。皆、男爵家の娘で、幼馴染になります。」

 後ろの方で子供たちが貴族と聞いて騒いでいる。

「幼馴染か、そう言う関係も良いな。」

「先生は幼馴染とか居ないんですか?」

「僕はかなり田舎の出身でね、同年代の子が居なかったんだ。」

「そうなんですか?侯爵家ゆかりの人だと思ってました。」

「一応子爵位は持っているけどね。侯爵家とは関係は無いよ。」

「では将来リリルアーナ様と結婚とか無いんですか?」

「無いけど?」

 ん?クリスさんなんでガッツポーズ?

「ところで魔法制御の感覚は掴めたかい?」

「最初は難しいですが、一度曲がれば後は自然と曲がる様になりますね。」

 アンが答える。

「曲がる様になれば、後は自分で自由に動かせるように練習するだけだ。これが出来るとの出来ないのでは狩りの時に大きく差が出る。」

 僕はストレージから弓と矢を取り出す。

「例えば冒険者パーティーで弓師が居たとするよね。この撃った矢を自由にコントロール出来たらどうだろう?」

 そう言って弓を引き矢を撃ち、上空でクルクルと円を描いて見せる。

「100発100中、獲物狩り放題。」

 サムがポツリと呟く。

「そうだ、補助魔法はこう言う所でも役に立つし、魔法も必ず当たるなら戦略が変わって来ると思わないか?」

「そうですね、当たる前提で話が進められるなら戦略的にも大きく変わりますね。」

 ベルが納得している。

「って事で暫くは魔法制御と補助魔法の稽古をするぞ。」

 4人が頷いている、ちゃんと重要である事を理解すれば真面目に訓練するのは賢い証拠では無いだろうか?何故彼女らが落ちこぼれ?学院側に問題がある様な気がする。

 さて、今日の授業はこの位にして。一度子爵邸に行く。久しぶりにリアンに会ってお茶を飲みながら報告を聞いたり王国の様子を教えたりと情報交換をする。

 その後王国に帰り風呂タイム。

 僕の予想では魔法制御と補助魔法で半月から1か月掛かるはずだったのだが、彼女たちは努力して10日程でマスターしてしまった。

 さて、次は何を教えようか?そろそろ実戦を体験させた方が良いかな?リリの時もそうだったが、実戦を経験すると大きく伸びる。彼女たちは、あの時のリリより年齢は上だが実戦経験はあるのだろうか?

 毎朝9時半に道場に来るのが癖になってしまった。30分程子供達に魔法を教えてる。今では、それなりに魔法が使える様になってきている。子供たちと遊んでいると4人の生徒が現れる。

 って言うか、そろそろ他の生徒が来ても良いんじゃ無いか?かなり宣伝してるはずなのだが。

「先生!今日は何をするんですか?」

 こう言う時真っ先に発言するのはベルだ。

「今日から実戦訓練をしようと思う。学院では実戦訓練はしてないのか?」

「学院では成績上位者だけが実戦訓練を受けられます。それ以外は危険と言う理由で受けさせて貰えません。」

 ふむ、解らないでも無いが、実戦から学ぶ事は多い。それではますます差が広がってしまうだろう。

「じゃあ、誰も実戦を経験した事が無いのか?」

「そうなりますね。」

 道場の場所からだと南西が近い。皆普段着でまず西門に向かう。西門を出て南に向かう。この辺はハンターが定期討伐をしているので魔物が少ない。

「さて、初めての実戦だが、注意事項は1つだけ。魔物が出たら補助魔法を使え。必ず補助魔法を使って魔物を止めてから、じっくりと攻撃魔法で止めを刺す事。これさえ守って居れば、この辺の魔物にやられる事は無い。新しい課題は攻撃魔法のバリエーションを増やす事。毎回色々な攻撃魔法を試して苦手を無くせ。以上だ。」

「解りました!」

 僕を先頭に草原を進んで行く。基本草原に強い魔物は出ない。暫く歩くと野犬の魔物が2匹出る。

「4人で分担して対処しろ!」

 返事の代わりに素早く2手に別れ、それぞれの魔物に補助魔法を掛けている。補助魔法はベルとサムが上手い。見事に魔物を抑え込んでいる。そこにアンとクリスが攻撃魔法で止めを刺す。

「良い感じだ。次は役割を逆にしてみろ。」

 次に出たのは兎の魔物だ、4匹居る。これはスピードが速い分野犬より厄介だ。しかも数が多い。どう対処するか見ものだな。

 1人1匹と言う選択肢もあるが、4人はあくまでも2人1組の体制で挑むらしい。それは個人の作戦なので僕はとやかく言わない。4人は2匹ずつ丁寧に退治して行く。まあ、フォレストラビットは強い魔物では無いので各個撃破も可能だが、自分たちのスタイルに拘るのも悪い事では無い。

 4人はどうやらベルがリーダー、サムが軍師、アンとクリスが補助と言う形が出来ている様だ。これならもう少し強い魔物も行けるかな?

 サーチを掛けてみる。少し離れているが、オークが居る。魔素を集めてオークを誘導してみる。2匹釣れた。

「よし、今度は少し強い魔物と戦って貰う。オークが2匹来る。どう対処するか2分で考えろ。」

「はい!」

 最悪危なくなったら僕が出る。だが、今の彼女達なら大丈夫だろう。オークは女性には危険な魔物だ、だが、落ち着いて対処すれば低ランクのハンターでも一人で狩れる魔物だ、今の4人なら合わせてDランク位のレベルがあるだろう。

 正確には3分掛かるのだが、2分でオークの姿が見える、なのでタイムリミットを2分に設定した。

「来るぞ!」

 4人は最初の野犬の魔物と同じ布陣で挑む様だ。その判断は正しい。野犬の魔物とオークの強さは似た様な物だ。違うのは2足歩行かどうかの違いだ。2足歩行していると人間と同じ強さと勘違いしがちなのだ。

 更に言うとオークは知能が低い、知能が低い魔物には補助魔法が効きやすい。

 ベルがパラライズ。サムがバインドで、オークを1体ずつ動きを止める。アンとクリスは最大火力が出せる火魔法を選択した。まあ、まだ中級魔法は教えて無いからな、ベストでは無いが悪く無い選択だ。

 オークはほぼ同時に倒れた。

「良くやった。と言いたい所だが、オークの素材は何だ?」

「肉ですね。」

 サムが答える。

「その通りだ。肉を焼いたら素材にならん。火魔法は外すべきだったな。おすすめは風魔法だ。」

 アンとクリスがしょぼんとする。

「まあ、だが、初めての実戦にしては上出来だ。今日の事を踏まえて明日からの訓練に生かすぞ。」

「はい!」

 翌日も朝から子供たちの相手だ。子供たちは何時の間にか増えていて、今では10人を超えている。

 下は7歳から上は10歳まで居るが、魔法に年齢はあまり関係ない。現に一番上手い子は8歳だ。最初に来た子だな。

 子供たちはウォーターボールだけをひたすら練習している。ウォーターボールだけなら、そこらの魔法が使える大人より上手い。的に向かいビシビシと当てている。

「良い感じだな。ウォーターボールが使えるならファイヤーボールも使えるぞ。水を火に変えるだけだ。イメージで火の玉が飛んで行くのを想像してみろ。」

 すると何人かがファイヤーボールを飛ばす事に成功する。

「上出来だ。今度は風の球や土の塊を想像すれば別の魔法になる。1つ覚えれば応用が利くって事だ。だから、出来なかった子はもっとウォーターボールを練習しろ。出来た子はファイヤーボールを練習。」

「「「はい!」」」

 そうこうしていると4人の学生がやって来る。

 しかし、本当に生徒が増えないな。まあ趣味だから良いんだけどね。

「昨日の実戦訓練はどうだった?」

「ドキドキしましたけど、楽しかったです。」

「そうか、また、その内行く予定だ。今日は中級魔法を教えようと思う。」

「本当ですか?学院でも2年生からのカリキュラムですよ?」

「初級しかしらないのと、中級を知っていて初級を使うのとではどっちが効率が良いか解るだろう?」

「ああ、そうですね。」

 やはり、この子たちは馬鹿では無い。おかしいのは学院だな。
  
「中級魔法は教えても、使う機会はそうそうあるもんじゃない。なら教えても害は無いと思うのだが、魔術学院の教師はそこまで頭が回らない物なのかな?」

「どうなんでしょう?魔術学院は基本成績至上主義です。なので成績優秀者にはどんどん先のカリキュラムを教えて行きます。しかし、成績の悪い物には初級魔法しか教えてくれません。」

「なるほど、魔術学院は生徒を育てる気は無い訳だ。だったら最初の試験で上位10人だけを入学させれば良いのにな。」

「学院も商売ですから、生徒が居なければ運営できないって事でしょう。」

「そのおかげで帝国の魔法レベルが下がって来ているのが問題だがな。」

「それも戦争のせいですか?」

「まあ、全部が全部戦争のせいとは言い切れないが、魔法学院の経営者も被害者なのかもしれない。だが、それに潰される生徒はたまったもんじゃないな。」
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