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 翌日帝国へ行き、購入した空き地を見る。思ったよりは酷い状況ではない。これなら王国の荒れ地の方が開墾が大変だ。

 とりあえず土魔法で整地をする。地図と見比べながら境界線に杭を打つ。道を確認して入り口を決めてから、岩で塀を作る。門は作って居ないが、前に行った剣術道場を参考に幅を決めた。流石に建物は大工に頼まないと色々と問題が起きそうなので場所だけ決めて、武舞台を作る。これは入って左手に作った。大きさは15メートル×15メートルにしておいた。残りの右半面は壁際に的を作って射的場のように区切ってみた。

 だいたいこんなもんで良いだろう。あとは建物と看板だな。

 商業ギルドで大工を手配して貰い、道場を作って貰う。剣術道場と同じ作りで構わないと言って置いた。

 さて、問題は看板だな。なんて言う名前にしよう?

 まあ、建物が出来上がるのに2か月くらい掛かるそうなので焦る必要は無い。

 王国に戻り、久しぶりにロンダールへ飛んだ。

 領主邸に行くとルキナが忙しそうに部下に指示を出している。暫くルキナの仕事ぶりを観察する。

「済みませんねぇ。侯爵様を待たせてしまって。」

「構わないよ。本来なら僕の仕事だしね。」

「ところで今日は何の用です?」

「あー、この後食事をする時間位は取れるか?」

「大丈夫ですよ。うちは6時には全ての職員が仕事を止めて食事にしますので。」

「ほう?それはルキナが決めたのか?」

「いや、補佐官のルルーズが決めました。だらだらと長時間仕事をするより時間を決めて忙しく動いた方が効率が良いんだそうです。」

「それは正しい選択だな。良い補佐官を雇ったな。」

「いや、元代官ですからね、処遇に困っていたんですよ、なら私の目の届く場所に置いておくのが良いかと。」

「良い判断だ。」

「侯爵様にそう言われると照れますね。」

「そろそろ6時だな。行こうか?」

「え?ここで食事をするんじゃ無いんですか?」

 そう言うルキナの肩に手をポンと置いて転移する。

「ここは?」

「ビクトーリア男爵邸だよ。」

「え?」

「ルキナの家だよ。もっと寛いで。」

 その後執事とメイド長が挨拶をし、食事になる。

「まだ1回もルキナが訪れてないって聞いてね。まあ、忙しいってのも判るから、こう言う形でお披露目してみたんだがどうだ?」

「なんか、こう。貴族になったんだなぁって実感が湧きますね。」

「ところで結婚相手は決まったのか?」

「はい。同じ男爵家の令嬢なんですが、ロンダールの領主邸で一緒に生活しても良いと言ってくれたので決めました。」

「ほう?既に婚約はしたのか?」

「はい。婚約して1か月になります。あと1週間程で王都からロンダールに到着する予定です。」

「そうか、おめでとう。結婚式には呼べよ。一応僕が派閥の長になるんだからな。」

「その辺は心得ています。ところでマークはどうしてます?」

「ああ、子供が生まれて忙しい所じゃないかな?」

「そう言う事では無く。私が貴族になって、マークは代官のままでしょ?」

「その辺はあまり気にして居ない様だぞ。貴族は面倒が多いから嫌だとか言ってたし。」

「なら良かった。嫉妬されてるんじゃないかと気にしていたんですよ。」

「見た目とは逆でルキナの方が繊細なんだな。」

「それって褒めてます?貶してます?」

「人は外見では判断できないって話だ。」

 その後竜泉酒等も出し、大いに盛り上がってから。ルキナをロンダールへ送り返してから家に帰る。

 セリーとアリアナから、こんな遅くまで何してたんですかと問い詰められた。

「ルキナの結婚祝いだよ。ようやく結婚が決まったらしい。それで、王都の屋敷にまだ1回も行った事が無いって言う事なんで。さっきまでルキナの家で騒いでいた。」

「ルキナさん結婚決まったんですね。」

「ああ、婚約も済ませて、来週からロンダールで一緒に暮らすらしいぞ。」

「ルキナさんも遂に年貢の納め時ですか。」

「ところでライザは何をしている?」

「ライザさんは食事の後部屋に籠って何かしてますよ。」

 ふむ、どうやらライザはこの家から出て行く気は無さそうだ。まあ、それは良い。しかし、他の人達とコミュニケーションを取らないのは困る。

「ライザさんがどうかしたんですか?」

「彼女、あまり人とコミュニケーションを取らないだろう?それがちょっと心配でな。」

「確かにそうですね。では私が少し外に連れ出してみましょうか?」

「頼めるか?セリー。」

「やってみます。」

 翌日は稽古の後、家でまったりとしていた。道場はすぐには建たないし、これと言って急ぎの用事は無い。

 そこへセリーが慌てて駈け込んで来た。

「大変です。ライザさんが迷子になってしまいました。」

「え?何処で?」

「商店街を案内していたのですが、ちょっと目を離したすきに。」

「解った僕が探しに行く。セリーは家で待機していてくれ、自力で帰ってくるかもしれないから。」

「済みません。」

「謝る事じゃ無いよ。」

 僕は商店街に転移する。目立たない様に変装もして置こう。屋根の上からサーチを掛けるが、ライザの場所が見つからない。

 サーチは敵意の無い物には反応しにくいんだよね。

 って言うかライザは人間でも魔物でも無い。独自の反応を示すはずだ。しまったな、一度ライザの反応を記憶しておくんだった。

 屋根の上を転移しながらサーチをかけまくるがそれらしき反応が無い。

 どうする?そう思った時それは起こった。女性の悲鳴と何かが吹き飛ぶ音。

 騒ぎは100メートル位離れた場所で起こっている。一番近い屋根の上に転移する。冒険者風の男が剣を抜いている。その後ろには仲間らしき人間が5人。対するは若い女性とその父親と見られる男、そしてライザだ。

 どういう状況?

 どうやら父親らしき男性は冒険者に突き飛ばされて屋台に体をぶつけた様だ。起き上がろうとしているが力が入らない様だ。

 若い女性は父親をかばって冒険者の前に立っている。

 ここまでは何となくわかる。冒険者が屋台に何かいちゃもんを付けたのだろう。だが、なぜそこにライザが??

 ぼうっと見ていたら冒険者が若い女性に切りかかった。しまった!

 その瞬間ライザの右手に冒険者の剣が握られていた。しかも刃の部分だ。

「てめえ。何しやがった?」

 男の意識がライザに向かう。ライザはごみでも捨てる様に剣を後ろに投げた。

 その行為に男は逆上する。僕はとっさに仮面を付けて、男とライザの中間に飛び降りる。

「何だ、貴様。おい、やっちまえ!」

 後ろにいた男たちが一斉に動き出す。僕の周りを囲む感じだ。

 幾ら気を隠しているからと言って、力量の差を確認しない時点で雑魚だな。僕は瞬時に6人の男たちに当身を喰らわせ、行動不能にする。

 そして、ライザに近寄る。

「何してるんだ?こんな所で。」

「この世界の文化のサンプル収集です。」

「それが何でトラブルに巻き込まれてるんだ?」

「トラブルですか?先程の男達なら私一人で対処可能でしたよ?」

「それはそれで目立つだろう?目だったら既にトラブルだよ。」

「なるほど、そう言う考え方もありますね。」

「今更の質問だが、ライザって強い?」

「強いと言うのは比較対象が必要ですが、私はあなたと戦って勝てるかどうか判断が難しい所です。」

 いやいや、僕と比較して、勝てるかもしれないって滅茶苦茶強いじゃん。

「あー、今度模擬戦でもしてみるか?」

「模擬戦とは?」

「真剣勝負では無く、あくまでも腕比べって言う意味だ。」

「面白いですね。やってみましょう。」

「じゃあ、明日の朝誘いに行くよ。」

「楽しみにしています。」

 ここにも一人バトルジャンキーが居たよ。

 翌朝、ライザの部屋を訪れるとまだ寝ていた。ちゃんと人間の格好で寝てるのは良い。だが何故全裸?

「ライザ!時間だ。さっさと着替えろ。」

「ほへ?夜這いですか?」

「馬鹿言ってないで服を着ろ。稽古だ。って言うかなんで裸なんだ?」

「済みません、服を着ると言う習慣が無かったもので。」

 その日の稽古にはライザが参加した。驚いた事に、ライザの戦闘能力はかなり高く、武器を持たない戦闘では竜王の爺さんに匹敵するほどだ。武器や魔法を使えば僕なら何とか対処できるが、純粋な武力では気を抜けばやられるかもしれない。

 こうして、ライザが稽古に参加する事になった。

 稽古に参加する様になったライザはコミュニケーション能力も少しずつあがっていくのであるが、それはまだ先の話。
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