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 翌朝、稽古の後、アスアスラの所へ飛んだ。

 アスアスラの家は2DKと言った所だ。大人1人と子供1人なら狭くはないだろう。それに冒険者はあまり家に物を置かない。

「どんな様子だ?」

「そうですね、非常に賢く、我慢強い子供ですね。恐らく父親が亡くなっている事は理解しているのでしょう。多分、冒険者である父親は普段から、そう言う事をあの子に話して聞かせていたのでは無いでしょうか。それを受け入れてなお、泣き顔を見せません。」

「単純に受け入れられてないだけかもしれないぞ。」

 そんな話をしていると奥からルーラが出て来る。

「あ、パパだ!」

 ん?なんで僕を指さしてパパ?

 アスアスラの方を見ると顔を逸らした。

「どうしたの?ママ?」

 アスアスラがママらしい。どう言う事か説明が聞きたいな。

「あー、子供に複雑な事情を説明するのは難しいですので、こう言う場合育ての母をママ、育ての父をパパと呼ばせます、これはエルフの国では当たり前の事でして特に深い意味はありません。」

「僕はアスアスラがお姉さんになってくれると話したんだが?アスアスラってまだ18歳だよな?13歳の時の子供ってのは無理が無いか?」

「それはそうなのですが、そうするとエイジさんの事を説明するのが凄く大変な事になるので、なんとなくこうなりました。」

「まあ、それは良いとして。仕事はどうするんだ?」

「数か月なら働かなくても問題無いのですが、やはりベビーシッターは必要ですね。」

「そうだな、あまり仕事を休むと腕も落ちるぞ。それから出来ればルーラに読み書き計算を教えたい。そう言う人材を探してくれ。」

「解りました。なるべく早く探します。」

 こうして、アスアスラは1週間ほどでベビーシッター兼家庭教師を雇い、週に2回来てもらう事になった。週に2回はギルドの依頼を受ける。アスアスラの腕なら週に2回、月に8回も依頼を受ければ、白金貨10枚位にはなる。ベビーシッターの料金は1日銀貨1枚、月に銀貨8枚だ。それ以外の日はルーラに魔法を教えている様だ。

 ルーラの魔法の才脳は並程度だが、今から教えて置けば、将来魔法使いとして生計を立てられる位にはなるだろうと言うのがアスアスラの考えだ。

 僕もたまに来るとルーラに魔法を教えたりお菓子を一緒に食べたりしている。

 家庭教師をやっているとリリを思い出すな。

「ねぇパパ。一緒にお風呂入ろう!」

 ん?風呂?この家風呂なんかあったか?

 アスアスラの方を見ると顔を真っ赤にしている。

「お風呂と言っても魔法で作った簡易的な物です。」

「どんな風に作るのか見せて貰っても構わない?」

 アスアスラは庭の片隅に土魔法で穴を掘り、3方をアースウォールで囲う。その後掘った穴を硬化の魔法でコンクリートの様にして、そこにお湯を溜める。

「これで完成ですね。」

「へぇ、器用なもんだな。だいぶ土魔法にも慣れた様だ。だがこれだと外からは目隠しになるが、裏側から丸見えだな。」

「普段は私とルーラだけですから、問題はありません。あくまでも簡易的な物で月に数回入る程度すし。」

「折角だからルーラと一緒に入れて貰うよ。構わないだろ?」

「良いのですか?」

「ルーラの誘いだからな。断れないだろう?」

「ママも一緒に入る?」

「いや、流石にこの広さに3人は無理だろう?」

「広さは調節できますよ?」

 おいおい、アスアスラさん一緒に入る気ですか?

「私はエイジさんと契約しましたから、一緒にお風呂に入るくらい大丈夫ですよ。」

 いや、僕は嫁に知られたら殺されそうです。

「わーい、3人でお風呂~」

 ルーラが無邪気に喜んでいる。どうする?これは断れない状況になってないか?

 そう考えている間にもお風呂の拡張工事は進んでいる。

「出来ました。これなら3人でも十分な広さがあるはずです。」

 確かに風呂は出来たけどさぁ。脱衣所が無いぞ、僕は即席で魔法を使い脱衣所を作った。もう、どうにでもなれだ。服を脱いでさっさと風呂に浸かる。ルーラもすぐにやって来る。

 アスアスラがルーラの後を追うようにやってきた。真っ白い肌に見とれていると。

「おかしいですか?」

 そう聞かれた。

「いや、アスアスラは大胆なんだと感心していただけだ。」

「誰とでも一緒に入る訳じゃありませんよ、契約した人とだけですから。」

 どうやらエルフにとって契約と言うのはかなり重い様だ。

「エルフの契約って言うのは随分重要な物なんだな。」

「それはそうですよ、人間で言えば結婚に相当します。エルフは1生のうちに3度位、契約をしますが、それ以外のエルフとは体を交える事を禁止されています。なので、誰と交わって子を成すか、エルフにとっては非常に重要な事なんです。」

 ん?今、さらっと重要な事を言わなかったか?

「もしかして、契約した僕らは夫婦って事?」

「そうなりますね。」

「えっと、子を成して1人前に育てるまでは契約は切れないと?」

「はい。」

「ルーラを1人前に育てればOK?」

「いえ、ちゃんと自分で産まないと駄目ですよ。基本子供を産んだ事の無いエルフは里親にはなれません。」

「って事は?」

「あの、する時は事前に言って下さいね。ルーラにスリープの魔法を掛けますので。」

 しまった、やらかしちまったぜ。こんな所に罠が仕掛けられているとは。

「確認するが、結婚では無いんだよな?」

「はい、エルフは結婚と言う概念はありません。あくまでも契約です。」

 どうなんだ?セーフか?セリーならアウト判定だと言うだろうな。

 甘く見てたな、契約と言う言葉に騙された。湯冷めする前に風呂を出て、ルーラとひとしきり遊び、その後、アスアスラの作った夕食を食べる。

「今日は泊って行きますか?」

 今日は確か休みの日だよな?

「ああ、次何時来れるか解らないからな。」

「じゃあ、ベッドの用意して置きますね。」

 アスアスラは嬉しそうに何時もは使われていない部屋に向かった。

 スリープの魔法は上手く発動した様だ。アスアスラの白い肌は吸いつくように滑らかだったとだけ言って置こう。

 翌朝5時に目が覚めた、寝たの早かったしね。

 アスアスラを起こして、家に帰る。自室に転移した。朝起こしに来るメイドに何気ない顔で挨拶をして、朝食を取る。そして、稽古だ。

 稽古後、珍しく何処にも出かけず、家の皆の様子を聞く。ルシルは大人しくしている様だ。子供達もすくすく育っている。セリーとアリアナは子育てに忙しい様だ。エルとリアーナはかなりやんちゃらしい。そう言えば神の欠片が大きいとか何とか言ってたな。まだ、その片鱗は見えて居ない様だ。

 午後は久しぶりに帝国へ飛んだ。侯爵家を訪ねると、リリが無事学院に合格したと報告してくれた。マルチタスクも4つまでは同時に使える様になったらしい。もっと色々な魔法を教えて欲しいと言われたが、それはお父さんと相談して決めてねと言って置いた。

 その後仕事関係の仕入れをして、王都へ引き返し、公爵家へ品物を納入する。

 家に帰り風呂を満喫する。風呂に入るとアスアスラの裸身が浮かんで来るのはなぜだろう?

 その後夕食を取って、自分の部屋へ。今日はアリアナが来た。アリアナは持久力が無いのでダウンするのが早い。僕は横で眠っているアリアナを片手で抱きしめながら明日は何をしようか思案する。

 そう言えば最近スローライフが全然出来て無いよな。でもどうなんだ?これ以上農業改革をするのは影響が大きすぎないだろうか?って言うか農業だけがスローライフじゃ無いよね?

 もともとスローライフには厳密な定義が無い。ファーストフードに対するスローフードから派生した比較的新しい言葉で、昔ながらののんびりとした生活様式を指す事が多い。要は時間に捉われずゆったりと暮らせば、それはスローライフだ。

 今の僕はどうだろう?この世界自体がスローライフの様な物じゃないか?スマホもネットも無く、時間に縛られる事は殆ど無い。朝の稽古は仕方ないとして、それ以外はスローライフしてると思うんだけどな?

 滅多に働かず、好きな時に好きな事をして、添加物の入っていない食事をする。まさにスローライフの極みだな。

 なのになぜ、こんなに僕は焦っているのだろう?スローライフを送らなければと言う強迫観念に襲われている。

 よくよく周りを見れば、皆、普通に暮らしているが、スローライフだ。現代日本とは比べ物にならない、のんびりとした暮らしをしている。その中に溶け込んでいる僕も周りから見ればスローライフを実践しているはずだ。なのに自分ではスローライフはこうあるべきだと言う変な固定観念に捉われてしまっている。

 そもそも異世界=スローライフって誰が決めたんだ?

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