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 朝の稽古は熾烈を極めている。爺さんだけでも厄介なのに、ルシルが開眼し、1段強くなっている。僕とベルクロスはついて行くのに精いっぱいだ。ルシルを1日で強くするとは流石竜王と言うべきか、老練さと言うのは実に厄介だと戦ってみると解る。酷く戦いにくいのだ、いや、そう言う方向へ持って行かれてしまうのだ。

 訓練を終えて外へ出る。あれ?僕だけ?他のメンバーはまだ残るらしい。僕は1時間ばかり仮眠を取った。スローライフよいずこへ?

 目覚めてもまだ他のメンバーは出て来ない。応接室でチョコレートをパキパキ食べながら紅茶を飲む。

 さて、やる事をやって置かないとな。執事のルーメンを呼んで、男爵邸を1軒借りる様に指示する。それから執事も雇ってもらう。これはルキナの物だ。

 ロンダールはルキナに任せっきりだからな、この位はしてあげないとね。

 午後になり帝国へ転移したら今度は僕の男爵の話が進んでいた。先に帝国城へ行き、宰相より男爵位の巻物を貰った。これで終わりらしい。貴族の証とか無い様だ。

 帝国城を辞した後侯爵に聞いてみた。

「意外と簡単なんですね。そう言えば家名とかどうするんですか?」

「ああ、そう言うのはその巻物に書いてあるよ。後は家だね。その辺は商業ギルドに行くと丁寧に教えてくれるよ。」

 と、言う事で馬車はわざわざ遠回りして商業ギルドで卸してくれた。

 まず、巻物を広げて家名を確認しよう。ってこれ紙で出来ているんだな。

 エイジ・フォン・フェリクス男爵。なんだろう、誰それ?って感じがするな。

 商業ギルドに入り、男爵に叙されたので家を借りたい旨を話す。すると担当と言う胡散臭い男がやって来た。

「男爵邸となりますと貴族街の南になります。使用人は10人~15人雇うのが普通ですね。」

「ちなみに賃貸料は?」

「相場は金貨7枚前後ですね。それから執事を雇うなら早めに募集を掛けた方が良いですよ。」

「解った。任せるから進めてくれ。家は3件ピックアップしてくれ。良さそうな所を選ぶ。」

 担当者は一度引っ込んでから数分で戻って来た。3枚の図面と、地図を用意して来た様だ。

 地図に1、2、3と番号を振って行く、どれも近い。立地的には何処を選んでも一緒って事だな。

 次に図面を見せてくれる。どこも似た様な物だ。土地が狭いと言うのもあるのだろう、王国の男爵邸の方がもっとゆったりと作られている。ただ、どの家にも風呂が付いているのは流石帝国だ。

「お勧めは何処だ?」

「2番目ですかね。」

「理由は?」

「築年数が一番新しい。ハッキリ言って男爵邸は何処も大して変わりはありませんよ。」

「じゃあ、そこにするよ。」

「初月だけ2か月分頂きます。金貨14枚です。来月からは金貨7枚になります。」

「執事の募集の金額は?」

「人材募集にお金は掛かりません。」

 僕はストレージから金貨14枚出して支払いを済ませた。

 商業ギルドを出てすぐに借りた家に急ぐ、歩くと30分位あるので、屋根の上を短い転移を繰り返して目的地に飛ぶ。

 家は3階建てのアパートの様だ。1階に応接室とホール、キッチンや風呂、トイレがある。2階は僕の部屋と家族の部屋、風呂とトイレ。そして残りの半分が使用人の部屋だ。3階は完全に使用人の部屋だけになって居る。3階だけでも10人は住めるだろう。とりあえず埃っぽいのでクリーンの魔法を掛ける。見た所、あまり前の住人が出て行ってから時間が経って無いのか、空き家特有の痛みは少ない。荷物も置きっぱなしなので、少しいじれば住めるだろう。まあ、その辺は執事に任せよう。

 家を見たら侯爵邸に飛ぶ、家庭教師をしないとリリが拗ねるからな。

 侯爵家に着いたら庭でリリがショート転移の練習をしていた。

「もう、マスターしたのか?」

「あ、先生。お家はどうでしたか?」

「まあまあ、かな?まだ執事とか決まって無いから住めないけどね。」

 すると娘の練習を見ていたのか侯爵が近寄って来た。

「家名は決まったかね?」

「エイジ・フォン・フェリクス男爵です、なんだか慣れませんね。」

「フェリクス卿か。爵位と家が決まったら次は嫁だな。」

「嫁ですか?」

「君は幾つだね?」

「来月17になります。」

「ふむ、なら婚約者の一人くらいいてもおかしくない年齢だ。」

「私、先生のお嫁さんならなっても良いよ。」

 リリが可愛い事を言ってくれる。

「それは、難しいな。リリルアーナは一人娘だからな。フェリクス卿が婿に来るなら考えるのだが。」

 む?この侯爵冗談か本気か解らんぞ。

「ところで、帝国貴族と言うのは派閥とかあるんですか?」

「いや、帝国にはいわゆる派閥と言うのは無い。皇帝が絶対的な権力を持っているので派閥を作っても意味がないとも言えるかな。」

 なるほど、こう言う所も王国とはだいぶ違う様だ。

「話は変わるのだが、先程からリリルアーナが練習しているのは伝説の転移魔法では無いのか?」

「伝説かどうかは解りませんが、転移魔法ですよ。」

 侯爵が突然頭を抱え出した。

「あのなぁ、転移魔法と言うのは理論上可能かどうか、魔法学者が何十年にも渡り議論しているテーマだぞ。」

「そうなんですか?僕は普通に毎日使ってますけど?」

「リリルアーナが奴らに捕まって解剖されたらどう責任を取ってくれる?」

「責任ですか?蘇生魔法で生き返らせれば良いのでは?」

「蘇生魔法って、君はそんな物まで使えるのか?」

「それ以前に転移魔法を使える人間を捕まえられると思いますか?」

「ん?確かに言われてみれば、これ程安全な魔法も無いとも言えるな。」

 と会話している2人の前にリリが転移して来た。

「何を話し込んでるんですか?今日の授業は?」

「ああ、今日はちょっとお父さんと大事な話があるんで、自主練しててね。」

「えー、つまんない~」

 と言いつつも転移を繰り返している。僕はリリの真横に転移して、

「見える範囲って言ったろう?ほら、あそこの教会の屋根も見えるだろう?」

 そう言って200メートル位先の教会を指さす。

「見える範囲ってそう言う意味?」

「確実に帰って来られるなら見える所全部が見える範囲だ。」

 リリが教会の屋根の上に転移するのが見えた。だいぶ使いこなせている様だ。この分なら行った事がある場所なら何処へでも飛べるだろう。

「しかし、君は不思議だな。それ程の才を持っているなら。もっと金儲けに力を注ぐことも可能では無いのか?」

「ん~、正直、お金は結構持ってるんですよ。」

「そうなのか?」

「はい、なのでお金よりも、面白い物に興味がありましてね。」

「面白い物?例えば?」

「侯爵はお酒はイケる口ですか?」

「ああ、酒は好きだが?」

「じゃあ、これ、あげますよ。」

 そう言ってストレージから竜泉酒を樽ごと出す。

「飲んでみて下さい。」

 そう言ってグラスを渡す。

 一口飲んだ侯爵は驚いた顔をする。

「これは、何という美味い酒だ。」

「これは竜泉酒と言ってドラゴンが作った酒ですよ。」

「もしや、この間のドラゴン?」

「そうです。ちょっと仲良くなりましてね。」

「ドラゴンと仲良くなると言うのも不思議な話だが、更に酒まで貰うとは何とも規格外な男だな君は。」

「そうですか?考えようによってはこの酒だって商売になります。でもそれをしないのが、贅沢って物ですよ。」

「君は将来大物になるかもしれんな。リリルアーナの事本気で考えてみないか?」

「え?それは侯爵家の婿になるって事ですか?」

 妻が3人、子供が2人居ますって言えないよな?

「今はまだ子供だが、あと3~4年すればあの子は美しくなると思うぞ。」

「あと3~4年したら僕は20歳超えますよ。」

「まあ、今すぐの話では無いじっくり考えてみてくれ。」

「解りました。」

 その後家に帰りセリーに相談した。

「と言う訳で、帝国で男爵位を貰いました。問題は爵位を貰うと嫁を貰えと言う声が出て来るわけで、何か良いアイデアは無いでしょうか?」

「一番良いのは3人の中から誰かを帝国に連れて行く事でしょうね。」

「それも考えたんだけどね、帝国の言葉を喋れる者が居ないんだよね。」

「となると誰か、帝国の言葉を喋れる様にしたて上げて偽の嫁にしますか?」

「そうなると帝国で人を雇った方が手っ取り早く無いか?」

「それは駄目です。私がその方と意思疎通出来ないと意味がありません。」

 ああ、そう言う事ね。

「ちなみに何時まで帝国に居るつもりですか?」

「帝国の技術を一通り王国に持ち込むまでかな?」

「では、それまでは嫁を取らずに引き延ばせませんか?」

「ふむ、やはりそれしか方法は無いかな?」

「問題は、貴方が更に出世した場合ですね。その時は改めて考えないと行けませんね。」

 しかし、意外だったなもっと怒られると覚悟してたんだが、やはり子供が出来たのが大きかったのかな?
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