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 ハンターギルドに入るとかなり混雑している。時間的な物か、それとも帝都だからか?流石に窓口で聞くのは躊躇われる。

 どうしようかなと考えていたら声を掛けられた。

「新人か?帝都のギルドの賑やかさに驚いた顔をしてるな。」

 いかついおっさんだが、人の好さそうな笑顔でこっちを見ている。きっと面倒見の良い性格なのだろう。

「ちょっと聞きたい事があったのですが、この人数では迷惑になりそうです。出直して来ようと思います。」

「聞きたい事?俺で解るなら教えてやるぞ。」

「あー、ハンターから騎士になる道があると聞いたのですが。知ってますか?」

「ああ、なるほどな。騎士になるには2つの道がある。一つは騎士学院を卒業して騎士団の試験を受ける事。もう一つはハンターランクをAにする事だ。Aランクハンターには騎士団の試験を受ける資格が与えられる。」

 なるほど、あくまでも試験を受ける資格が貰えるだけで、Aランクになったから騎士になれると言う訳では無いんだな。と言う事は騎士団と言うのはかなりのエリート集団なのだろう。

「坊主は騎士団志望なのか?」

「いや、Aランクになるのに何年かかるか。」

「ははは、確かにそうだな、坊主の歳なら騎士学院に入った方が早いかもな。」

 おっさんに礼を言ってギルドを出る。さて王国に帰ろう。リリの課題も考えないとな。

 家に帰り、エルとリアーナの顔を見て癒される。夕食の時アリアナが17歳になったと報告して来た。そう言えば半年ほど年上なんだよなと今更思う。

 あ、そう言えば帝国に行ったのにお土産買って来るの忘れた。明日買って来よう。何が良いかな?

 翌朝稽古の後大森林に向かう。魔物の間引きは順調だ、1週間もすれば終わるだろう。

 午後には帝国の侯爵家に転移する。リリに王国の魔法書を翻訳した物をプレゼントした。帝国の魔導書は間違いが多すぎるからな。

 イメージし易い様に中級魔法を色々と撃って見せる。見せてから理論を教える。まずはここからだな。最初はとにかく魔法を沢山使う事が重要だ。発動速度も上がるしね。

「私が読んだ本に書いてあった事と先生の理論は随分と違う様に思うのですが?」

「リリが読んだ本は魔法使いが書いた本じゃ無いと思うよ。間違ってる部分も多いし、多分、魔法使いに取材して、他の人が書いた本じゃ無いかな?」

「え?それって普通じゃ無いんですか?」

「魔導書ってのは普通魔法使いが書く物なんだよ。さっき君にプレゼントした本は本物の魔法書だから参考になると思うよ。」

「魔導書と魔法書って違うんですか?」

「魔導書ってのは魔法を人に教える本だね。魔法書ってのは自分の為に魔法を記録して置く本の事だ。君は既に魔法を使えるわけだから、読むなら魔法書をお勧めするよ。」

 魔法はイメージだ、イメージは人それぞれ違う物だ。だから全く同じ理論でも使える者と使えない者が出て来る。更に帝国の魔導書は間違いが多い、これでは魔法使いが育たないのも頷ける。

「魔法ってのは発動すれば良い。その為の理論は何だろうと構わない。自分の使い易い様にイメージを変えても構わない。だから、君が読んだ本と僕の理論が違うのは当たり前なんだよ。リリもそのうち自分だけの理論ってのを覚えるはずだ。そうなったら一人前の魔法使いだね。」

「解りました、先生。自分の一番使いやすいイメージを見つけろって事ですよね?」

「そう言う事だ。その為には兎に角魔法を使いまくれ。体が魔法を覚えれば発動速度も上がるぞ。」

「発動速度って大事なんですか?」

「実戦では大事だな。単純な話発動速度が早ければ敵より早く攻撃が仕掛けられる。攻撃を避けながら魔法を撃つのは難しいだろ?」

「確かにそうですね。魔法で戦うなんて今まで考えた事無かったので気付きませんでした。」

 本来なら実践の中で魔法を教えたいところだが、侯爵の令嬢を危険にさらす訳には行かない。

 だが、1週間もすると事情が一変する。リリの飲み込みの速さと王国の魔法書の効果が現れ、リリの魔法の腕前がグンと上がったのだ。その辺のハンターよりずっと強くなってしまったのだ。

 今では中級魔法も難なく扱える程度まで成長している。発動速度も問題無い。

 あれ?これって、僕はそろそろお役御免なのでは無いだろうか?2~3か月の予定が1週間で終わってしまったが、約束の条件は満たしたはずだ。なのに何故、家庭教師は続いているのだろうか?

 中級が1つでも使えれば良いって言ってましたよね?なんで上級魔法の話をしているんでしょうか?

「本来なら、ここで家庭教師は終わりと言いたい所なのだが、リリルアーナのたっての願いでな、入学試験までの4か月出来るだけ魔法の腕を上げてやってはくれないだろうか?正直お主の才能を見誤っていた様だ。これ程の才がある魔法使いとは思っていなかった。報酬は倍、いや3倍出そう。頼まれてはくれんか?」

「僕は構わないのですが、これ以上の訓練をするとなると、この庭では限度があります。実戦を経験しないとこれ以上上は望めません。そうなると危険を伴いますよ?それでも構わないのですか?」

「うむ、それも考えたのだが、学院へ入れば実戦も経験する事になる。ならば少しそれが早くなるだけの事だ。お主が付いていれば万が一もあるまい。それに今のリリルアーナならば、その辺のCランクハンターより余程強いのであろう?」

 結局侯爵に押し切られて承諾してしまった。スローライフが遠のいて行く。

 そう言えば、大森林の間引きは終了した。明日は王城へ報告に行かないとな。

 帰りに適当なお菓子屋さんで甘味を買って家に帰る。これはここ最近の習慣になって居る。

 嫁さんの分は仕方ない。なんでメイドの分まで買わなきゃイケないんだ?現在我が家では帝国のお菓子ブームになっている。帝国のお菓子は洗練されていて甘さがくどくない。また僕の知識では再現出来ないお菓子もあるので珍しさもあるのだろう。最初は嫁さんの分として適当に5個位買って行ったのだが、食べ切れない分はメイドに下げ渡される。当然食べたメイドは自慢する。食べられなかったメイドは羨ましがる。なので見かねた僕は全員分を買って帰る事になった。今日のお菓子はバームクーヘンに似ている。多分美味いだろう。

 帝国から家に転移し、セリーに家族分のお菓子を渡し、メイド長に使用人分のお菓子を渡す。中身には差を付けていない。貴族に寄っては差を付ける者も居る様だが我が家では全員同じ物を食べると言うのが習慣になって居る。

 翌朝、稽古の後、王城へ向かう。話が通っている様で、すぐに陛下と面会出来た。

「随分と早かったな。まだ1週間程度しか経って無いぞ。」

「大森林は人が居ないので魔法が使い放題です。僕には相性が良いみたいですね。」

「ふむ、して、本当にその先に別の国があるのか?」

「はい。ロードリーク帝国と言う国です。証拠になるかどうかは解りませんが、これはその国の本です。」

 そう言って、本屋で買った歴史書を陛下に献上した。

「これは、紙の本?しかも手書きでは無いな。どうやって書いたのだ?」

「活版印刷と言って蝋に紋章を押す原理を利用した技術です。一度に同じ本を大量に作る事が可能です。」

「ほう?その帝国とやらは我が国より技術が進んでいると言う事か?」

「そうなりますね。また頻繁に戦争を行っている様で兵士が戦争慣れしていると言う事もあり、軍が非常に力を持っています。」

「我が国にとっては脅威になりえるな。どうしたら良いと思う?」

「そうですね。何もしなければ数百年は平和が続くでしょう。今は手を出さない方が良いと思います。」

「今は?それはどう言う意味じゃ?」

「幸い向こうはこの国の事を知りません。しかし、こっちは向こうの国の事を知っています。これ以上は言わなくても分かりますよね?」

「なるほど、其方に命じよう。彼の国の技術を我が国にもたらせ。」

「畏まりました。」

 よしこれで公然と帝国の技術を輸入出来るぞ。ってあれ?当初と目的が変わってる気がするが、まあ良いか?

 王城を辞した後は帝国へ向かう。侯爵邸前に転移だ。
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