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 王城から家に帰り、セリーに宰相から言われた事を伝える。

「と言う事で、プレイースの東に領地を貰った。どうやらこれで他の侯爵と対抗しろって事らしい。」

「なるほど、ロンダールとロンジームを頂いた訳ですね。特にロンジームは鉱山がありますのでその価値は大きいですね。」

「ああ、まだ行って見て無いので何とも言えないが、2つ合わせて7万人規模と言うのは町としては大きい方だな。セリーの知恵と人脈が必要になるかもしれない。」

 妊婦のセリーにあまり負担を掛けるのは良くない。出来ればプレイースの時の様に人材を紹介して貰うのが一番ベストだ。

「ロンダールには領主邸があるはずです。そして、2つの町には代官も居るはずですので、まずは2人の代官に会い、人柄を見極める事が先決です。改革が必要ならルキナとマークを使いましょう。今のプレイースなら他の人を2人の後任に送っても問題無いはずですので。」

 ふむ、ルキナは問題無いが、マークは結婚したばかりで違う町の代官は可哀そうだな、出来ればもう一人か二人、人材が欲しい所だ。

「そう言えば公爵派と国王派の関係をもう少し密にしたいのだが、何か方法は無いかな?」

「そうですね、元々仲の良い派閥ですので、交流会でも開きましょうか?」

「交流会?」

「例えば、舞踏会とか。貴族の子女はそう言う場所で結婚相手を探します。2つの派閥が合同で舞踏会を開けば、チャンスも2倍になる訳です。」

「ふむ、面白いな。でもそれだけの人数が入れるパーティー会場があるのか?」

「王城があるでは無いですか。国王派なら使用できるでしょ?」

 なるほど、王城の大広間なら貴族が全員入れるだけの広さがある。あそこでパーティーをやったらかなりの人数が呼べるな。

「面白いな。早速企画を始めたい。まずはどうすれば良い?」

「そうですね、私が父と叔父様にお願いしてみます。多分、後は勝手に話が進むでしょう。」

「なるほど、セリーは頭が良いな。」

「と言う事で、こっちは私に任せて、貴方は領地の方を何とかして下さい。」

「解った。でも体には十分注意しろよ。」

「はい。」

 と言う事で、明日はロンダールとロンジームの視察に行くか。

 今日はアリアナの日だ。アリアナは既にお腹が目立ち始めている、セリーの様な無茶も言わない。ゆっくり眠れそうだ。しかし、何かが頭の片隅に引っ掛かっている。なんだろう?

 翌日、早朝からブラスマイヤーのしごきを受け。終わり次第、プレイースに飛んだ。ルキナとマークにロンダールとロンジームの状況を聞いてみた。

「あそこは今、大混乱ですね。領主の伯爵が反逆罪で捕まったとかで、多分、こちらに流れて来る人間も多いのでは無いでしょうか。」

「そうですね。向こうは税金が高いので領民の中で貧富の差が大きくなっている様です。このまま行けば10年は持たないと言われていたので、今回の領主の事件でどう変わるかによってはプレイースにも影響が出るかもしれませんね。」

「なるほど、2人としてはあまり良い感情を持っていないと?」

「そうなりますね。」

 こう言う時はルキナが先に答える。性格の問題だろうか?

「ちなみに、僕がロンダールとロンジームを治める事になった。税金は下げるぞ。」

「え?本当ですか?それは面白い事になりそうですね。」

「こらルキナ。言葉遣いが不遜だと何時も言ってるだろう。」

「あはは、構わないよ。マークには引き続きプレイースを頼みたい。ルキナには向こうを手伝って貰おうと考えている。それにしても人材が足りない。2人は誰か心当たりが無いか?」

 そう言うと2人は頭の中で色々と考えを巡らせている。

「えっと、私の妻の弟なのですが、貴族学院で内政を学んでいました。元々貧乏男爵家の次男なので現在は仕事が無い状況です。時々私の仕事を手伝って貰い小遣い程度のお金を渡しているのですが、本格的に雇っても良いでしょうか?」

「ほう?マークの義理の弟か、年齢は?」

「もうすぐ18歳ですね。」

「解った事務官として雇ってくれ。他にも有能な人材が居たら自分たちの裁量で雇っても構わないぞ。ルキナは昔の仲間で使えそうな奴とか居ないのか?」

「居ない事は無いですが、例のクーデターの時に職を失った者でも構いませんか?」

「構わないぞ。有能な人物なら履歴は問わない。」

「では、2人ばかり雇って下さい。自分がここに居るのを羨ましがっているので働くと思いますよ。」

「解った。連れて来い。ロンダールとロンジームの代官の座が空けばそこに収まる事も可能だ。それからロンダールには領主邸がある。僕はプレイースを使うので、そっちはルキナが使って良いぞ。」

「良いんですか?」

「ああ、領主補佐だからな。これくらい大きい領地なら補佐が居てもおかしく無いだろう?実質領主の仕事をしてもらう事になるだろうしな。」

「よっしゃ!テンション上がって来たぞ。」

 ルキナがガッツポーズを取っている。隣でマークが呆れ顔だ。

 そんな会話をした後、ロンダールに向かう。行った事が無いのでフライで飛ぶ。街道はかなり整備されていて、人通りも多い方だ。歩いて3日の距離なので所々に野営用の小屋が建てられている。馬車が通る為か、道幅も広い。こう言う所は王都とプレイースの間の街道に似ている。多分定期的に魔物を狩っているのであろう。冒険者の姿も時折見かける。

 視察がてらゆっくり飛んだので40分程かかった。ロンダールの入り口が見えたので地上に降りる。

 最初の印象は昔のプレイースの様だ。一見活気がある様に見えるが、貧しい者が目に見えない場所に居るだけだ。現状新領主待ちで、代官が町を管理しているらしいが、管理しきれていない様だ。

 まずは冒険者ギルドへ行って見る。ギルドは活気がある。

「あの、ここは初めてなんですが、随分活気があるんですね。」

 受付嬢に話しかけてみた。

「ああ、領主が交代するので、それまでの間税金がゼロなんですよ。なので皆、稼ぎ時だって張り切っているんです。」

「へぇ。それは代官の指示ですか?」

「そうです。」

 一時的な混乱を避ける為に税金をゼロにするとは思い切った手を打つな。その代官は意外と切れ者かもしれない。

「ちなみにロンジームの税金もゼロですか?」

「いや、向こうは代官が違うからね。税金は変わって無いよ。」

「ロンジームにもギルドはあるんですよね?皆こっちに来ちゃうんじゃありませんか?」

「そうですね。家を持たない冒険者はこっちに来ますね。向こうに家を持っているとこっちで稼いでも税金は向こうに払わないといけないので。」

「なるほど、そう言う分け方をしているんですね。」

 これは代官の能力の差がハッキリと出るな。面白い。

 その後商店街をぶらついてみる。税金がゼロなので買い物客でごった返している。何処の店もセールをやっている様だ。

 そう言えばこの町は布で有名なんだよな?そう思って商店街を見ると、布屋や服屋が多い。紡績工場とかあるのかな?

 適当な布屋に入って聞いてみると、糸は別の町から輸入して、布を織る作業だけをこの町ではやっているらしい。この世界で布を織るのは機織り機だ。多分、男衆は普通の仕事をして、女衆が家で機を織るのだろう。

 んー、ここで現代知識を持ち出したらブラスマイヤーにオーバーテクノロジーだって怒られるパターンだな。

 さて、この町は一通り見たので隣町のロンジームに行くか。歩いて半日の距離と聞いていたが、実際は3~4時間で着くらしい。この位の距離だとまず魔物は出ない。なのでかなり頻繁に人の往来がある。馬車も普通に走っている。護衛の冒険者は居ない。代わりに兵士が所々に立っている。

 この距離なら2つの町を1つにした方が色々と利点が多いと思うのだが、金の問題か?

 ロンジームに着くと。こちらもそれなりに活気がある。もっと活気が無いのを予想していたので肩透かしを食らった気分だ。

 ここでもまず冒険者ギルドに入ってみる。ギルドで情報を得るのは基本だよね。

「えっと、初めて来たんだが、この町はどんな感じだ?」

「東から来たのかい?ここは王都に近いから活気があるよ。冒険者の数も多い。依頼も多いから稼げるよ。」

 どうやら僕を東から来た冒険者と勘違いした様だ。ロンダールから来たならこの町の事は知ってるはずだからな。

「東から来る冒険者は多いのか?」

「ああ、なんでも最近イナゴの大群が発生したとかで幾つかの町が壊滅したらしいね。」

 イナゴ?忘れてた~~~~~~~~~~~~~~!!!!

 そうだよ、イナゴだ。ずっと何か引っかかっていたんだ。

「その話は知らないな。何処の町がやられたんだ?」

「私も詳しくは知りませんが、東で発生したイナゴの大群が町を4つか5つ飲み込んだらしい。その後自然消滅したらしいけど、この町は地図上では北西になります。北東だけでも15以上の町があるのでどの町が被害にあったかまでは解りませんね。」
 
「ちなみに何時の話だ?」

「1か月半ほど前の話になりますね。」

 どうやら通信技術が発達していないこの国では東端の出来事が王都の市民レベルに届くまで1か月はかかるらしい。しかし、町が5つか。飢饉が心配なレベルだな。

 問題は僕が手を出すべきか出さざるべきかだな。
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