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 翌日からブラスマイヤーの地獄の特訓が始まった。1日46時間生活の始まりだ。

 昨日帰って来たばかりなんだから、1日位休みにしても良くない?って言うか本気で邪竜と僕を戦わせるつもりなんだね。

 まあ強くなるのは良いんだけどね。努力と根性って僕には向いてない様な。

 修業は1日2時間なので、残りの22時間でスローライフを満喫してやるぞ。気力が残っていたらだけど。

 今日はプレイースに赴き、ルキナとマークに指示を与える。まあ、あの2人なら指示が無くても、それなりに動けるのだが、明確な指示を出すと期待以上の成果を上げてくれるので頼もしい。

 そう言えば冒険者とマジックバッグを使った輸送実験が好調なので、マジックバッグの数を50個に増やした。この冒険者輸送便は汎用性が高く塩や鮮魚以外にも使いたいと言う商会からの問い合わせが多いそうだ。冒険者にとっては良い小遣い稼ぎになるし、商会は助かると良い事尽くめだ。なんで他の領地では使わないんだろう?

 ちなみにマジックバッグは冒険者個人に預けるのではなく、冒険者ギルドに管理を任せている。これはマジックバッグが高価なものと言う事もあるが、冒険者ギルドにも多少の儲けを与える為である。

 商会からギルドへとお金が流れる仕組みを作ったのだ。これによって、冒険者ギルドは輸送会社の側面も持つ事になり、収入が安定する。そこに雇用も生まれるだろうと言う考えだ。

 こうなると割を食うのが馬車を扱っていた業者だ。今までの輸送の仕事が減り、収入が減る事になる。そこで、王都への乗合馬車の定期便を増やした。これで、王都とプレイースへの人の移動が増えてくれればプレイースの発展にも繋がるし、馬車を持っている業者も失業しなくて済む。

 ルキナとマークとの会談の後、王都へ戻り、商店街に赴く。実はここに3軒ほど店を開いている。鮮魚の店だ。店主は王都の人間、職人はプレイースから連れて来ている。各店舗には氷を自動で作る魔道具を設置してある。

 ここで、鮮魚を売るのだが、王都の人間は鮮魚の扱いに慣れていない。そこで職人の出番だ。お客さんの言う通りに魚を捌いたり、調理の仕方を教えたりしている。

 最初は物珍しさから、今では魚の味を覚えた客たちが、結構な数押し寄せる。更に、喫茶店の屋台も2店舗ほど経営させている。今では甘いカフェオレを飲むのが庶民のちょっとした贅沢として定着しつつある。

 店舗は僕が自分で経営している訳では無いのだが、気になるのでたまに見に来ている。ここで儲けても意味が無い。僕が儲けるのは大元の部分だ。プレイースが豊かになれば、自然と僕は儲かる。なので、細かい部分は他人に任せれば良いのだ。

 さて、これで明日から1週間位は自由な時間が使える。スローライフ開始だ。何をしようかな?

 やっぱスローライフと言うと真っ先に浮かぶのが農業なんだけど、農業はプレイースでやってるんだよなぁ。どうすっかな?家庭菜園でも作ってハーブや香辛料でも育てるか?セリー達は甘味って言うだろうし。いざやろうとすると悩むな。

 まあ、悩むのもスローライフの内と考えれば、これはこれで楽しいかも。

 とにかく、お金の心配をしないで好きに時間を使えるって贅沢だよね?王都の近郊を開拓して畑を作るのも楽しそうだな。3日位農業をして、1日冒険者って言うのも悪く無さそうだ。で、定時に家に帰る。ある程度開拓したら家も建てて、1週間に1回位そこに泊まるってのもありかも。

 おお~夢が膨らむぜ。

 何を育てようかな?そう考えながら家路につく。

 家に着くと、風呂の準備が出来ていると言うので入る。夕食まで少し時間があるので、部屋でコーヒーを飲んでまったりとする。相変わらずセリー達は3人で仲良く風呂に入っている様だ。

 って言うか、これはこれでスローライフなんじゃね?

 いやいや僕は農業に生きるのだ。そう決意し食堂へ向かう。

 今日の夕食はハンバーグステーキだ。これは前に見習い君に教えた奴だな。ソースはパスタ用のトマトソースを更に煮込んで濃厚にした物だ。これはこれで合うのだがハンバーグにはデミグラスソースが欲しい所だな。

 この世界には出汁と言う概念が無いのでフォン・ド・ヴォーが無い。更に言えば肉と言えば魔物の肉なので、骨は使えない。骨が無ければフォン・ド・ヴォーを作るのは難しい。似た様な物は作れない事も無いが、骨から出る出汁を使わないと美味いデミグラスソースは作れない。

 そう言えば鶏は居るんだよな。まあ、日本の鶏とは種類が違う様だが、その骨を使えば出汁は取れるかもしれない今度試してみよう。

 鶏出汁と言えばラーメンが食いたいな。確かかん水って重曹やニガリで代用出来るはずだ、研究してみよう。

 食後に部屋で、ラーメンが先か農業が先か考えていたらアリアナがやって来た。昨日セリーだったから今日はアリアナか、最近アリアナも色々覚えて来たらしく、要求が多いので、思いっきり激しく攻め立てて撃沈させてやった。

 翌朝、ルシルと軽く一勝負して体を解してから、ブラスマイヤーの修行に入る。24時間、死ぬ寸前まで肉体を追い込んで訓練をするが、これで本当に強くなるの?

 空間を出ると後は自由時間だ。今日は農業だ。何があろうが農業するぞ!

 勢い込んで東の未開拓地へ向かう。この辺りは自分で開墾した農家が多いので、解らない事は色々聞こうと思って居る。まず、適当な場所に杭を立てて自分の敷地を確保する。まずは100メートル×100メートルもあれば十分だろう。足りなくなったら増やせばよい。

 どうやらこの辺りは荒れ地の様で木が数本生えているだけで後は岩や石が大量に転がっている。まず、魔法で木を抜いてストレージに仕舞う。岩は砕いて砂にして行く。石は面倒なのでそのまま。土魔法で地下5メートル位の土をかき混ぜて石や砂を下に、泥を上に持って来る。

 次に森に転移し、腐葉土を大量に集めストレージに入れて戻る。この腐葉土を上に持って来た泥と混ぜ合わせれば畑の完成だ。

 これだけ栄養のある土なら大抵の作物は育つだろう。今回は根菜を作ろうと思う。厳密には違うのだが、大根、ニンジン、ゴボウ、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンニクの苗を植えて行く。実はタネを買いに行ったのだが、この世界の野菜は苗から作るのが定番らしい。それから畑の1画10メートル×20メートル位の場所にハーブや香辛料の苗を植える。こちらもタネは売って無かった。

 水魔法でシャワーの様に水をまき、畑に苗を馴染ませる。あれ?2時間位で終わってしまったぞ。スローライフってこんなんだったか?

 地面を盛り上げて椅子を作り座って一休みする。周りを見渡すと、様々な野菜が植わっているが、あまり元気が無いように見える。

 雑草をむしっているおじさんに声を掛けてみる。

「済みません。ここで育てているのは何ですか?」

「ああ、これは芋だよ。トーヤ芋と言ってね、冒険者の携帯食の材料になるんだ。」

「へぇ、八百屋とかでは売って無い芋なんですか?」

「そうだな、あまり一般家庭では食べる事は無い芋だね。」

「気のせいか、あまり元気が無いように見えるのですが?」

「それは、この辺りの土地が痩せてるからだよ。トーヤ芋ってのは痩せてる土地でも育つ野菜なんだよ。」

 そう言えばさっき作った畑も元は荒れ地だったな。

「肥料とかは使わないんですか?」

「肥料?それは何だい?」

「えっと、土に与える栄養です。」

「ほう?そんな物があるのかい?」

 この世界って肥料が無いのか?そう言えば古代の農地改革の本には肥料の事が載っていたぞ。あれ?って事は僕の畑だけ不味い事になるかもしれないぞ。

 そう言えばプレイースでは余った魚はどう処分しているんだろう?魚を肥料にして販売って事も考えられるな。まずはプレイースで実験してみるか。

 って、どんどんやる事が増えて結局スローライフにならないパターン?

 いや待てよ、僕が考えた事を代わりにやってくれる弟子みたいな人間を一人雇えば済む話か?誰かいないだろうか?そこそこ賢くて出来れば転移魔法が使えそうな奴。ん~、転移魔法は教え込むとしてもあまり賢いと僕が教えた事を盗まれそうだな。

 そんな都合の良い話は無いって事か?いや、諦めるのは早い。探すだけ探してみよう。

 家に帰り、読書でもして時間を潰そうと思ったら、セリーが慌てて帰って来た。

「どうした?随分と慌てて?」

「頼まれていた。見合い相手、女性の方は見つかりました。男爵の娘で24歳。長女で他の姉妹は既に嫁に行っています。男子の子供はいません。」

「それって、婿入りして家を継ぐパターンだよね?ジェレミーが貴族になれるかな?って言うか、その条件で何で売れ残ってるの?」

「年齢ですね。24歳で独身って言うのは貴族では完全な行き遅れになります。また、彼女はかなりの切れ者と言う評判もあり、周りから敬遠されているようですね。」

「え?切れ者って駄目なの?」

「こう言う場合、男性側は次男か3男を送り込んで男爵家の実権を握りたいと考える訳です。」

「ああ、そう言う事ね。しかし、ジェレミーのおっさんに24歳の娘はある種犯罪だな。」

「で、話は進めちゃって構いませんか?」

「うん、頼むよ。それって見合いをすれば確実って言う話だよね?」

「はい、そうなる様に進めます。」

 流石にセリーは優秀だ。この調子でホリーさんの方も見つけて欲しい物だ。

 しかし、24歳の娘に尻に敷かれるジェレミーのおっさん。見ものだな。

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