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「どうする?続けるか?気を失ったがダメージは無いはずだ。」

「頼む。色々と試してみたい。」

「解った。次はまた違うモデルを用意するぞ。初見で相手を見極める術を身に着けろ。」

 新しく現れた仮想敵はさっきより若干大柄な男だ。パワーファイターかな?

 パワーファイターだとしても剣術の腕は向こうが上だ。スピードもフェイントも多分、付いて来るだろう。僕の武器を全て封じて来たな。さあ、どう戦う?

 待てよ、大柄と言う事は剣を当てやすいと言う事にはならないのか?

 とりあえず瞬動で特攻だ。普通ならここで転移を使って軌道を変えるのだが、あえて真っ向から打ち合ってみる。こちらの攻撃は全て受け流される。これだけ体が大きいのに隙が無い。

 見えているのに、そこを攻撃する余裕が無い。常に攻撃を仕掛けている時か受けている時に隙が見える。これはわざと誘っているのか?いや、僕の剣が見切られているのか?

「駄目だな。剣の根本が解っていない。」

 ブラスマイヤーが試合を止めた。

「どう言う事だ?」

「委縮してしまって、動きが鈍ってるぞ。さっきの方が自由に動けていた。」

 気絶させられた後遺症か?

「これから達人同士の試合を見せる。剣の根本をそこで掴め。」

 最初の男とさっきの男が視界に現れ対峙した。良く出来たVRだ。

 達人同士の試合は、見切りと読みの応酬だ。どうやったらあの高みに辿り着けるのだろう?

「良く見ろ、筋肉の動き、足の運び、そして視線。全てが相手の動きを見切るヒントだ。特に初見の相手では、先に見切った方が勝つ確率が高くなる。」

 なるほど、こうして客観的な視点で見ると相手が何をしているのかがはっきり見えるな。特に最初に戦った相手は剣に独特のリズムがある。見切りも凄いが誘いが上手いな。

 2番目の男ははやりパワーファイターだ。だが見切りは流石、更にパワーで崩すのがこの男の戦法らしい。

 しかし、最初の男は崩されても動じない。崩される事も織り込んだ戦法を取っているのだろう。崩されても、何時の間にか先手を取っている。この辺の上手さが僕には真似できない所だろう。

「剣術は1日や2日で上手くなるものでは無い。しかし、見切りに関してはそうではない。コツさえ掴めば急激に上手くなるぞ。」

 なるほど、見切りか。確かに弱い相手なら完全に見切れるから負ける事は無い。つまり、初見である程度見切りが出来れば勝てないまでも負けない事は可能と言う事か?

 僕は視線を動かし、2人の達人の戦いを間近でじっくりと見続けた。男たちの戦いはおよそ40分程続き、最初の男が勝った。

「どうだ?参考になったか?」

「ああ、かなり面白い試合だった。少し一人で練習してみるよ。」

 それから1時間程体を動かし稽古を終わりにした。

 稽古後は聖水を作る。今日も800本作った。これは王城へ持って行こう。

 その後ルシルとの壮絶な戦いに敗れ、眠りに就くのであった。

 翌日から、朝起きてルシルとの稽古、一休みして、ブラスマイヤーの出す幻影との勝負、聖水作りとこなし、なんとか午後に少しの時間を捻出した。

 およそ2時間。この時間を使って悪魔退治をしようと思う。

「ブラスマイヤーは悪魔の場所が解るんだよな?下級か中級かは分かるのか?」

「下級と中級は解るぞ、だが、上級は解らん。気を消されたら居場所もロストする。」

「今はそれでいい。中級悪魔に会いたい。連れてってくれ。」

「いきなり中級で良いのか?」

「構わん。頼むぞ。」

 そう言うと頭の中に映像が流れ込んで来る、どこかの街角だ。画像が鮮明になった所で転移する。

「どいつだ?」

「あそこに座って酒を飲んでいる男が居るだろう?あいつがそうだ。」

「聖水で姿を現すんだよな?」

「うむ。」

 この辺りは人通りが少ない。ただ、ゼロでは無い。人通りが途切れるのを待って。聖水の瓶の蓋を取る。

 通りすがるふりをして聖水を男に振りかける。途端男が苦しみだし。悪魔が正体を現す。まるで服を破くように人間の皮を破きながら悪魔は顕現した。思った以上に大きい。2メートルは超えているだろう。黒い肌に赤い目が特徴らしい。異形では無いし羽根も生えていないが、ああ、これは悪魔なんだと一発でわかる。首筋がピリピリとする危険信号だ。

 こいつは危険だ。だが何が危険かが解らない。存在その物が危険としか言いようが無い。

 勝てるか?と思った刹那、悪魔が消えた。いや背後を取られた。だが、そこには先読みして剣を置いて置いた。しかし、悪魔を切った感触は伝わってこない。

 動きはルシル並みだな。攻撃力はどうだ?一度態勢を立て直して、今度は瞬動でこちらから仕掛ける。大きく右回りをして蹴りに行く。ガードした瞬間転移で逆に飛ぶ、ここからの回し蹴りは躱せないだろう。しかし、吹っ飛ぶはずの悪魔の体に蹴りを吸収された。

 どう言う体をしてるんだ?物理防御が高すぎる。魔法も聞かないって言ってたよな?

「生半可な攻撃は効かないぞ。相手の防御力を上回る攻撃で無いと倒せない。」

 ブラスマイヤーの助言が頭に響くが、僕はそれ程攻撃力無いんだけどな。

「この間読んだ魔術書を思い出せ。」

 ああ、効率の良い魔法が書かれてたやつか。確かあれに攻撃魔法も幾つか載ってたな。

「確か。ヘルファイアだったか?」

 左手から業火が伸び悪魔を焼く。半分位腕が吹き飛んだがすぐに再生した。

「再生まで持ってるのか?」

「再生する前に止めを刺せ。」

「どうやって?」

「頭を吹き飛ばすか心臓を抜き取れ。」

 無茶を言いますねぇ。こっちは攻撃を避けるので精一杯なんですけど?

「これならどうだ?ヘルファイア!」

 打つと同時に転移で背後を取り再びヘルファイアを浴びせる。

 倒れた所で頭にヘルファイア。ヘルファイア3連発だ、どうだ?

「もう一発行け!」

 ブラスマイヤーの声にもう一発ヘルファイを頭にお見舞いする。

 悪魔は泡の様に崩れて行きやがて消えた。

「倒したのか?」

「その様だ。しかし、ヘルファイアのみとは芸が無いな。」

「いや、他の魔法を覚えて無くて。家に帰ったら魔導書をじっくり読まないと。」

「呆れた奴だ。良くそれで準備が出来たと言えたものだ。」

「いや、最悪聖剣出せば何とかなるかなと。」

「聖剣が掠れば良いがな。」

 転移で家に帰る。今日は確か休みの日だよな?あとでじっくり本を読もう。

 しかし、中級1体であの強さ、2体同時には相手に出来ないな。中級はあと何体位居るのだろうか?そして上級は2体確認したと言ってるが、勝てるかどうか難しい所だな。その上デーモンロードか、もう上級以上は封印で良いんじゃね?

 久しぶりにゆったりとした気分で夕食を取った。食後のデザートでプリンが出たのが嬉しかった。甘い物食べたかったんだよねぇ。アリアナ嬢がなんですのこれ?と驚いていたのが面白かった。

 食後はベッドに横になりながら魔導書を読んだ。悪魔に効きそうな攻撃魔法を幾つか覚える。支援魔法も載っているが悪魔には使え無さそうだ。

 明日は悪魔退治にルシルを連れて行ってみよう。中級悪魔なら問題は無さそうだ。上級悪魔との戦いの為にも一度経験して置いた方が良いだろう。

 その日は疲れていたのかそのまま意識を手放していた。

 翌朝、ルシルとの稽古で剣術で覚えた見切りと先読みを使ってみた。ルシルが慌てていたところを見ると、どうやら僕とルシルの実力の差もだいぶ縮まって来た様だ。聖剣を持てばギリギリ勝てると言うのも嘘では無さそうなので、近い内に対等位には持って行けそうだ。

 その後、剣術の真剣勝負を1本だけ行う。これはかなり集中力を使うので1本が限度だ。

 剣術の稽古が終わると聖水作り。終わったら悪魔退治だ。

 今日はルシルと一緒に行く。ブラスマイヤーに案内して貰って、中級悪魔の元へ転移する。

 あたりを見回すが、それらしき人物はいない。

「どいつだ?」

「あそこの店のおばさんだ。」

 そこには人の良さそうなおばさんが一人花に水をやっている。

「マジで、普通に人に溶け込んでいるんだな。」

 ルシルに待機させ、近寄って聖水を掛ける。おばさんは苦しみだし悪魔の本性を現した。

 赤い目が僕を敵と認識した様だ。僕が気を引いている隙にルシルが瞬動で動き悪魔の横っ腹に鋭い蹴りを入れる。悪魔は一瞬顔を顰めた後今度はルシルをターゲットにする。どうやらルシルの攻撃でも殆どダメージが無いらしい。どんだけ固いんだ?

 今度は僕の番だな。転移で死角に回り込みヘルファイア2回、更に心臓にロックパイルを2発ぶち込む。

「ルシル!心臓が再生する前に掴みだしてくれ!」

 僕が攻撃している間に近づいて来たルシルに指示を出し。僕は悪魔の気を引く。この状態で起き上がりかけている。

 が、次の瞬間悪魔は泡となって溶けて行った。どうやらルシルは悪魔の倒し方を知ってる様だ。

「悪魔と戦った事があるのか?」

「うむ、ここまで強くは無かったが1000年以上前に戦った事があるぞ。首を引きちぎったが死ななかったので心臓をくり抜いてやった。」

「どうやらこいつより強いのが最低でも2匹居るらしい。力を貸してくれ。」

「良いだろう。強い者と戦うのは血が滾る。」

 ルシルとの共闘はまあ上手く行っただろう。これで上級悪魔への対策も完了だ。最悪は封印と言う手もあるしな。




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